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リスク社会における「補完性の原理」

今日のお題は、リスク社会における「補完性の原理」について、検討します。

とりあげる理由は、地方分権の原理として取り上げられきた「補完性の原理」が、地方分権が制度化される中で、議論としては取り上げられなくなってきたこと、しかし、現在のCOVID-19、気候変動、GAFAなどの動きが活発化する中で自治のあり方の議論が必要になっているからです。

まず、「補完性の原理」とは、そもそも、wikiによれば;
補完性原理(ほかんせいげんり)とは、決定や自治などをできるかぎり小さい単位でおこない、できないことのみをより大きな単位の団体で補完していくという概念。補完性原則、あるいは英語から、サブシディアリティ(Subsidiarity)ともいう。

補完性の原理は、二つの原理で構成されています。
①自立・自己決定の原則(地域の自主性のあり方)
・狭域の単位・主体の自主性・自立性を尊重する。
・当該単位・主体においては対応が不可能なことがらについては、その同意をもって、より広域の単位・主体が補完する。
②補完・連携の原則(広域に対する自主性のあり方)
・広域の主体が一方的に統制・関与することに対する権力の抑制
・必要に応じて広域の主体が補完を図る権力を統合
・政府間および共同体間の重層的かつ的確な関係性を導く構成原理

補完性の原理については、代表的な議論として、このような言及がされています。

個々の人間が自らの努力と創意によって成し遂げられることを、彼らから奪い取って共同体に委託することが許されないと同様に、より小さく、より下位の諸共同体が実施、推億できることを、より大きい、より高次の社会に委譲するのは不正である。澤田昭夫「補完性原理The Principle of Subsidiarity:分権主義的原理か集権主義的原理か?」日本EC学会年報12号、1992。
「「住民・市民による」政治を実現するためには、単なるみせかけではない、それにふさわしい「公的な責務」が「実質的な能力」を伴って地方にゆだねられなければならない。このことを実現するために、はたして補完性の原理は有効に機能するのか。「主権原理」としての働きが問われることになる。」
中村征之. 「『補完性の原理』の理論と実像 サブシディアリティ」. 地域政策, 2002年8月

この公共哲学上の概念が、ここ20年前後で注目されたのは、2000年前後の地方分権改革の時になります。1999年 7 月に制定された地方分権一括法(平成 11 年法律第 87 号)によって改正された地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)には、地方公共団体の役割とそれに対する国の配慮に関する規定が設けられました。

 その意味で、日本における補完性原理は、国ー地方公共団体(地方自治体ではなく)間の役割分担の基準として理解されてきたと言えます。結果として、上位機関による規制を緩和し、上意下達の三層構造をとらえ直すために援用され、2000年前後から近接性原理と合わせて、より市民に身近な政府の自立性を高めていく基礎自治体優先論を基礎づけるものとして注目されてきたと言えます。

この議論は権力配分のバランスを変えるということに、結果として主眼に置かれてきたと言えると思います。結果として、地方分権が進んでも、行政計画上、解決ターゲットとしてきた地方コミュニティに関する様々な社会課題、例えば、少子高齢化の問題、雇用問題などは決して解決しなかったし、結果として、突発的な社会課題への対応力が高まったとは言い難い。KPI、数値目標などを立てたところで達成できないことの理由分析の事例はものすごく少ないかと。

ということは、考えられるのは、「補完性原理」を軸とした地方分権施策=権力再配分施策には何かしらの無理があったのではという問いです(続)。

ありがとうございます!