理想の腹はどんな腹? - 養生訣解説09

「腹の内をさぐる」「腹がたつ」「腹がすわる」など、心情を表す慣用句には「腹」という言葉がよく使われる。東洋医学においても腹は重要視されているが、今回の養生訣解説のテーマは腹と心身の安定について。

言葉の上でも関係の深い腹と心を、心の健康を重視する『養生訣』では、どのようにとらえているのだろうか。


理想の腹の状態

腹は全身と関係しており、その腹にも理想の状態がある。腹はお臍を境にして上下に分けられ、『養生訣』では下腹が充実し、上腹部は綿のように柔らかいのを良い腹とする。

このような良い腹を作っていくと、全身のめぐりがよくなり、心身が安定していくという。

逆に不摂生によって、下腹に力がなく、上腹部が緊張してしまうと、病が治りづらくなってしまったり、思考力が低下したり、欲に惑わされやすくなるとある。

では理想的な腹にするためには、どうすればよいだろうか。そのポイントは、丹田を意識した体の使い方と、呼吸にあるとする。

ではまず、丹田についての部分から読んでみよう。

【原文】
この臍輪(ほぞのぐるり※1)以下丹田の地(ところ)は、人身の正中にて、肢体(てあし)を運用(はたらかす)ところの枢紐(しんぎ※2)なり。上は鼻と相応じて、天地間の大気を鼻よりして吐納(ひきいれ)、その外気をこの丹田より周身へ普達(ゆきわたらせ)て、内外一貫になりて、生命を有(たもつ)ところの根本なればなり。
※1「ほぞ」とは臍のこと。 ※2 「しんぎ」は「心木」のことで、中心や軸という意味。

丹田の位置は、よく知られているように臍の下にあり、体の中心軸とされる。この丹田の働きは、呼吸によって取り入れられた大気を、全身へめぐらせることにある。つまり丹田は、身体の外と内の橋渡しとなる。

この丹田をきちんと機能させるためには、まずは丹田を意識して姿勢を正すことが重要だ。


体のバランスと丹田

上の図のように、物を持ち上げる際は、丹田を中心として、バランスを取ることが無意識のうちに行われる。ただ、日常生活においては、しっかりと意識しないと、姿勢はどんどん悪くなってしまうだろう。

ではどのように丹田を意識して、姿勢を整えるのだろうか。次のような説明がされる。

【原文】
すべて臍下丹田を身体の正中にして、左右前後平等に、必(かならず)天地の直線を外(はずる)ることなきようにする。

イメージとしては、大地から天に向かって、垂直の線をイメージし、その線上に丹田が収まっているようにする。

その際、丹田一点というよりも、下腹全体をぐるりと筒にみたてて、天地の直線に沿って、しっかりと立てることを意識するとよいだろう。そして、上半身の力は抜いておく。

このイメージだけでも、姿勢はだいぶよくなる。よい姿勢のキープは、長時間の作業時には特に重要で、疲れ方が全く変わってくる。


姿勢の悪さは時間をかけて直す

普段姿勢の悪い方は、姿勢を正すと、逆に身体に痛みを感じることがある。身体の歪みがクセになっていて、正常な状態に戻す方が、本人にとっては異常となってしまっているからだろう。

この場合は、あまり無理しない方がよい。急いで姿勢を矯正せず、じっくり時間をかけて癖を直すようにする。体を痛めないよう、短時間できる範囲で続けてみよう。そのうち姿勢が整うと、痛みを感じなくなっていく。


姿勢の維持は、意識しないとすぐ忘れてしまう

姿勢を正し、丹田を意識した呼吸をすることは、どこにいてもすぐに実行できる、最も手軽な養生法になる。ただ、手軽であるがゆえに、実行を忘れてしまいやすい。

また、一日中意識すると逆に疲れてしまう気もするので、毎日決まった時間に「正しい姿勢タイム」を設けてみてはどうだろう。タイマーをセットして、ほんの10分くらいでもよいので、腹式呼吸を意識して、正しい姿勢のまま仕事をしたり、家事をする。毎日続けていけば、全身の循環が良くなり、疲れにくくなるはずだ。スマホのリマインダーなどを活用するのもよい。

今回ご紹介した姿勢を正すことは、理想の腹を作るための第一歩となる。『養生訣』の下巻には、よい腹を作るための、丹田呼吸のユニークなやり方が紹介されているので、乞うご期待。


【原文の完全版はこちら】
家庭の東洋医学で随時更新中。

【今回読んだ部分】
巻上十四から巻上十八
底本:平野重誠『養生訣』(京都大学富士川文庫所蔵)
凡例:第1回目の解説最下部

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ミャーミャー
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養生訣解説

江戸時代の名医、平野重誠の『養生訣』の翻刻と、内容の解説をしていきます。
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