動くツボ - 家でお灸をする時に注意すべきこと -

灸点という、鍼灸師にとっては馴染みの言葉がある。ツボにつける目印のことで、この目印である点にお灸をすえていく。

私が普段鍼灸師として仕事をする中で、灸点をつけるシーンといえば、患者さんへ自宅でのお灸指導をする時になる。灸点があると、ツボの場所が正確にとれなくても家でお灸ができる。

この灸点について、鍼灸師だけでなく、家でお灸をすえる皆さまにとっても注意するとよいことがあるので、以下に紹介する。

姿勢によってツボの位置が変わる

まず鍼灸師の私が、灸点をつける際に注意しているのは、その姿勢である。実はツボの位置は、寝た状態と、座った状態で、場所が変わる。

ツボが動くのだ。

そのため、患者さんが家でどういった姿勢でお灸をすえるか想定して、灸点をおろさないといけない。

これは江戸時代の『広恵済急方』という、家庭での応急手当法の本にも次のように記載されている。

一凡(およそ)孔穴を点して灸するの法、其人立て点したるは立て灸し、坐して点したるは坐て灸すべし。臥て点したるも同じ。総(すべ)て人の皮膚筋骨ともに坐臥に隋ひ伸縮ある者なれば、坐臥に依(より)て体たがひ穴所も亦たがふゆへなり。

出典:多紀元悳『広恵済急方』(国立国会図書館所蔵、寛政2年(1790)版、翻刻は筆者による)

上の記載を参考に、なぜこ姿勢によってツボが動くのか考えてみよう。

寝た姿勢では関節は基本真っ直ぐに伸びた状態になる。逆に、座った時は、膝や腰の関節は曲がっている。

仮に寝た状態で灸点をつけて、座らせてからお灸をしようとすると、関節の屈曲につられて皮膚が伸縮し、灸点もそれにともなってズレてしまう。これがツボが動く理由だ。

『広恵済急法』に記載されているように、寝た状態で灸点をつけた場合は、寝たままお灸をしなければならず、座った状態でつけた灸点は、座った状態でしか本当の効果を出せない。

鍼灸院で灸点をつけてもらうときは、自分がどういった姿勢だったかを覚えておこう。


実際に測ってみると9mmズレていた

では実際にどれくらいズレるかを、自分の足三里で検証してみると、以下のような結果になった。足三里は膝の下方にあるツボだ。

この足三里に、最初は膝を伸ばした状態で印をつける。次に椅子に座って膝が屈曲した状態で再度灸点をつける。両者の距離を定規で測ると9mmであった。

つまり、膝を伸ばしてとった足三里は、膝を曲げると下に9mmズレるということだ。

普段私が使っている鍼の太さの直径は0.14mmのもので、最終的にその細い鍼先に合わせてツボを取るようにしている。9mmのズレは、プロの目からすると論外だ。

これでは温熱刺激による効果は得られるかもしれないが、ツボの特性をいかしたケアはできない。

印をつけてもらった姿勢でお灸をする

このように、ツボは姿勢によって位置が変わる。もし鍼灸院で灸点をおろしてもらった時は、どういった姿勢でその印をつけてもらったか覚えておいて、家ではその姿勢でお灸をした方がよい。

できれば印に頼らず、自分でツボが取れるように教えてもらうのもよいだろう。


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宮下宗三(鍼灸師)

成鍼堂の堂主、鍼灸師。著書『江戸の快眠法』(晶文社)など。家庭でできる東洋医学的な養生法を発信。イラストも描いてます。

家庭の東洋医学

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