満腹の害 - 養生訣解説07

1.満腹の害

「腹八分に医者いらず」という諺がある。なんとなくそれは正しいことなのだろうと、皆さんも認識しているだろう。ただ、八分目を守らないと一体どうなってしまうのか。そのあたりが曖昧だ。

今回の『養生訣』解説は、食について。八分目の利点と、それを守らないとどうなるのかが説かれる部分を読んでいく。

では早速、満腹の害からみてみよう。

(1)なにもかも面倒くさくなる

【原文】
身体(からだ)自(しぜんと)沈重(おもく)、起居(たちい)もわれしらず懶堕(ぶしょう)になり
(『養生訣』巻上九より)

食べ過ぎてしまうと、身体を重く感じたり、ちょっとした事が面倒くさくなってしまう。なんとなくやる気が出ない時は、もしかしたら食事の量を調整するとよいかもしれない。


(2)頭のはたらきが落ち、心も不安定に

【原文】
心志(こころ)も従(それにつれ)て昏闇(くらく)、道理(どうり)を弁別(わかつ)こと能(なら)ず。

食べ過ぎた後は、眠くなってしまったり、頭の回転が悪くなるというのは、よく経験することだ。頭を使うとお腹も減ってしまいがちだが、重要な仕事がある時ほど、食事の量には気をつけたい。また、思考力だけでなく、心の状態にも影響が出てしまう。


(3)風邪をひきやすくなる

【原文】
傷寒(しょうかん)時行病(はやりやまい)にもまた感冒(おかさ)れやすし。

風邪をひきやすくなるということは、現代的な考えに置き換えると、免疫力が低下するということだろう。たくさん食べないと元気がでないという事も言われるが、適量が大事ということで、以下のような説明もしている。

【原文】
世の人は、食を減せば元気乏弱(よわく)なり、膏粱(うまきもの)を喫(くわ)ねば、身体枯痩(かじけ)、寿命も促(ちぢむ)ようにおもうは、大愚昧(はなはだおろか)なることにて、もと実理(どうり)に疎(うとき)より、かかる妄慮(こころえちがい)も発(おこる)ことなり。


(4)飲食の不摂生による病

【原文】
所謂(いわゆる)、癥瘕(しやくき)、留飲(りういん)、癇疾(かんしやう)、脚気(かっけ)、痛痺(つうふう)、卒痱(そっちゅう)、緩痱(るいちう)、痿躄(いざり)、婦人子蔵諸病(おんなのちのかたのわずらい)、その他、癈痼不治(なおりかねたるところ)の病も、十が八九は、飲食の慾(よく)を恣(ほしいまま)にするより発(おこる)もの多く

あまり見慣れない病名も多いが、色々な病が関係しているようだ。慢性的な不調の多くは、飲食の欲を抑えられないことと関係しているという。


(5)回復が遅くなる

【原文】
故にまづその血液を再(ふたたび)純粋精微(すみきるよう)にして、転輸(からだをめぐる)に妨害(さしさわり)なからしめんと欲(おもう)には、その飲食を摂慎(つつしむ)にあらねば、効を成(なし)がたしとす。

病の療養中で、体重が減少し続けたり、食欲が落ちている場合はもちろん別として、治療の効果をあげるためには、食事量の節制が必要とのこと。

慢性的な疲労やストレスによって、過食傾向にある方は、食べ過ぎないことが疲労の回復のためにもよい。


2.なぜ八分目なのか?

八分目がなぜよいかについて、『養生訣』では「臼」をたとえ話として登場させる。臼といえば、餅つきの臼はお馴染みだ。穀物を挽くタイプの石臼なんていうと、昔話の世界で、実際に使用経験のある方は少ないだろう。

どちらも穀物をつぶしたり、粉にしたりする道具になる。もしこの臼の中へ、大量の穀物を、一気に放り込んだらどうなるだろう。詰まってしまい、細かくできないだろうし、少しずつ入れてひくよりも、逆に労力がかかるだろう。

臼はキッチン家電のミキサーにも似ている。ミキサーも食材を入れすぎると動作しないし、無理に動かせば故障してしまう。

胃も同じようなもので、お腹いっぱいまで食べると、しっかり消化されず、逆にちゃんと栄養にならない。少しずつ仕事を与えれば、完璧にこなせるのに、一気に大量の食べ物を処理させようとすると、やっつけ仕事しかしてもらえない。

胃を故障させないためにも、腹の容量は、常に微妙に空いているくらいがちょうどよい。


3.腹八分目の利点

最後に、以下のような腹八分の利点についての説明があり、今回読んだ食についての節が締めくくられる。

【原文】
故に日々の食事にかならず節度を定(さだめ)て過不足なく、すべて六七分を程限(かぎり)とすれば、腔内(はらのうち)常に余裕ありて、運化(こなす)の機転(ぐあい)に妨害(さわり)あることなく、心身自(しぜんと)平穏に、血液渾濁(にごる)ことなし。

腹八分目とずっと書いてきたけれど、六七分かぁ・・・。最後のこの一文は読まなかったことにしなくては。とにかく、食べ足りずに小腹が空いている時は、今とても体によいことをしているのだと、そう思い込んで我慢することにしよう。


【原文の完全版はこちら】
家庭の東洋医学で随時更新中。

【今回読んだ部分】
巻上九から巻上十一
底本:平野重誠『養生訣』(京都大学富士川文庫所蔵)
凡例:第1回目の解説最下部


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ミャーミャー
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養生訣解説

江戸時代の名医、平野重誠の『養生訣』の翻刻と、内容の解説をしていきます。
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