いわし

魚の食べ方 - 養生大意抄02

今回は魚について。食養生的に魚は常食してよいものなのか。刺身は身体を冷やすというのは本当か。どのような食べ方をすればよいかなど。

【原文】

魚肉は米穀等とひとしく脾胃を養う物なり。少々ずつまじえ食すれば大に胃の気を養う。然れども其質よく脾胃に滞り易し。且原(もと)水中に生じたる物なれば、性に湿熱を蓄えり[1]。此故につづけて食し、或はおおく食すれば、脾気を塞(ふさぎ)て、内にては敦阜(とんふ)の病を生じ[2]、外にては、癰疽(ようそ)等の病を発す[3]。晏食(ゆうはん)には食せざるをよしとす。大魚は味厚く脂多し。滞りやすし。食せざるをよしとす。

[1]湿熱:湿気と熱気。特に脾胃は湿に弱いと考えられている。
[2]敦阜の病:『素問』五常政大論篇では、土の大過を敦阜とし、不及を卑監と呼称している。土は五行論では脾に該当することから、ここでは単純に脾の病と訳した。
[3]癰疽:腫瘍の一種。

【意訳】

魚肉は米穀等と同じように脾胃を養う物である。少しずつまじえて食べれば、大いに胃の気を養う。しかしながら、その性質は脾胃に滞りやすい。なおかつ元々水中に生息する生き物なので、性に湿熱を蓄えている。こういうわけで、つづけて食べたり、沢山食べたりすると、脾気を塞いで体内では脾の病を生じ、体表では癰疽(ようそ)等の病を発症する。夕食には食べないほうがよい。大魚は味が厚く脂が多く、滞りやすい。食べないほうがよい。

【ひとこと】

「食べない方がよい」で締めくくられてしまっているせいか、魚がなにか悪いもののような印象を受けてしまう。基本として魚は滋養効果の高いものが多く、常食してよいものばかりになる。原文にあるように、脾胃を養う健康食材でもある。

また、魚は冷たい水中に生息するので、熱の性質を帯びているというのはわかりやすい(1)。実際に日常的に食卓に並ぶような魚類の多くは、本草学的に温性だ。

さて、食べ過ぎの害についてだが、特に注意すべきは、脂の多い魚になる。

例えばイワシについては、『本朝食鑑』という江戸中期の本草書には次のように記載される。

画像1

『本朝食鑑』(国立国会図書館所蔵)

陰気を滋養し、陽気を壮んにする。気血を潤す。筋骨を強める。臓腑を補い、経絡を通じる。(『本朝食鑑』巻八、鱗部、筆者による意訳)

イワシはかなり滋養作用が強いことがわかるが、過食すると次のような害があるという。

ただ過食すると、気血が有り余っているような者の場合は、火を動じ熱中になることがある。(『本朝食鑑』巻八、鱗部、筆者による意訳)

もともと血気盛んな人の場合は、補う性質が強く働きすぎ、体に熱がこもってしまうので、過食してはならないということだ。そのため、大人より体温の高い小児も多食に気をつけるべきだとしている。

また、刺身の方が温める作用が弱まるイメージだが、「生は則ち火を動じて熱中す。最も多く食らうべからざるなり。」とあり、逆に生食の方が体に熱を生じてしまう。

イワシに限らず、脂の多い魚の場合は、生食での多食はしないほうがよい。食養生的には、焼いたり干物にしたりして、脂を落としたものがよいとする。

気がつけば自分も多食の害を強調しすぎてしまった気がするので、最後にもう一度、再確認をしてから終わりたい。

魚は滋養作用にすぐれ、食養生的にもたいへん体によいものになる。食べ過ぎなければ、お刺身でも、焼いても煮て何でもよい。ちょっと元気がでないときに、旬の魚でも食べて弱った体を補ってみてはどうだろうか。

【注】
(1)全ての水中の生き物が温性というわけではなく、魚類ではないタコやウニやカニには冷やす性質がある。

快眠法だけでなく、基本的な養生の考え方や、季節ごとの旬の魚の本草学的効果もまとめられています。興味のある方はぜひお読みください。


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