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過度のPC作業で背中がどうしようもなく凝ってしまった時の対処法

過度のPC作業によって体調を崩した鍼灸師が、ツボの力を利用して回復していくまでの話。そのツボ刺激の方法をシェアいたします。

1.仕事の楽しさが過労の原因に

もの作りに没頭し、後からものすごい疲労感に苦しむ。皆さんもそんな経験はないだろうか?

最近私もウェブサイトのリニューアル作業に夢中になり、ひどく体調を崩した。

私は開業鍼灸師で、鍼灸院のサイトを自作している。サイトの作成はプロに頼む方が良いものができるし、時間の節約にもなる。総合的にみると外注する方が合理的だ。そんなことは承知の上で、いつも自分で作っている。私にとってサイトを作り上げていくのは、楽しい趣味のようなものなのだろう。

趣味のような仕事というと、幸せなことのように思えるが、この楽しさが体にとっては厄介だ。

なぜなら楽しさによって疲労感が麻痺するため、長時間連続で作業してしまったり、家に帰るのも遅めになったり、仕事時間外にもスマホで延々と情報を検索したりと、一日中そのことばかりになり、あっという間に過労状態になってしまう。


2.背中のこりによいツボを探す

そしは私は体調を崩してしまった。

めまいや頭痛に悩まされ、上半身のあちこちが凝る。特に背中がつらい。こんな時、鍼灸師は自分に鍼やお灸をして解決する。自分の手の届く場所であれば、鍼はどこへでもできるのだ。そう、手の届く範囲ならば・・・。

残念なことに最もつらい背中へは手が届かないではないか。ただ、こういう時にはツボや経絡といった、東洋医学独特の便利な身体観がある。ツボを応用すれば、離れた場所の刺激でなんとかできる。

では、手の届かない背中の凝りにはどう対処したのだろうか?

実は背中によいツボは、腋(わき)の下や鎖骨まわりにある。このエリアは解剖学的にみて、背中や胸まわりの神経が集まる場所だ。また、東洋医学的にみても、いくつもの経絡が交差している。つまり、効率よく広範囲へ影響が与えられるのだ。

と最もらしいことを言ってもいいが、本当のところは後づけの講釈。実際は背中に効くよいツボはないかと、胸、肘、手首、指先、足などのツボを、思いつく限り押したり揉んだりして導き出した、理屈のない答えである。

とにかく腋の下や鎖骨まわりをほぐせば、間接的に背中をほぐせる。一件落着。鍼灸師でよかった。

と思いきや、今回の疲労はそんなに甘いものではなかった。凝りの改善は一時的なものだった。やはり調子にのって再び無茶な作業をし続けると、今度は背中を中心とした全身の力が抜けるようなムズ痒い感覚と、強い疲労感に襲われるようになってしまった。


3.疲労感の正体は、目の酷使が全身の血脈に波及したため

やっぱり休まないと。

そう思って日曜日には、作業を続けたい気持ちを抑え、あえて何もしなようにした。が、休んだところで治まらず、背中を中心とした、ムズ痒い脱力感が一向にとれない。これは単純に局所的な疲労ではないと推測し、アレコレ考えた結果、昔読んだ古医書の説を思い出す。

その説は「久しく視(み)れば血を傷(やぶ)る。」というもの※1。

つまり、長時間の目の酷使が、全身に行き渡る「血」、もしくは「血脈」を損傷するということだ。この血脈と最も関係の深い臓腑は心臓になる。そして心臓の診断点であり治療点でもある「心兪」というツボは、肩甲骨の内側に存在し、心臓の不調があるとこのツボの周囲が緊張する。

きっと背中を中心とした疲労感の正体はこれだ。ということは心臓と関わるツボが効くに違いない。

そこで心臓と関係するツボを押してみる。さらに『医道日用綱目』という江戸時代の文献にあった、「心の臓」によいとされる導引術を思い出し、実践する。導引術とは昔の人の健康体操のようなものだ。


『医道日用綱目』にある導引術 ※2


すると、なかなか抜けなかった疲労感がやっと解消した。ツボ押しと導引術で疲れを取りながら、なんとかウェブサイトのリニューアル作業を切り抜けられた。

4.IT技術者の方々のすばらしい文化をみならう

今回サイト作成中に関心したことがある。IT技術者の方々には、苦労して書いたコードを惜しげもなく公開し、皆でシェアをするという文化があるようだ。鍼灸師の私もセルフケアの方法などの知識を、もっと困っている皆さまと共有しなくてはと刺激を受けた。

というわけで、今回自分でやってみた方法を以下にご紹介する。休めない状況の中でも、ちょっとしたケアを習慣づけるだけで疲れ方が全然違うので、ぜひお試しを。


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背中を中心とした疲労感のセルフケア法

はじめに読みましょう
当noteでご紹介している健康法は、検査で異常がなく、重い病気が原因でないものを対象としております。安全のため、何か症状がある場合は、必ず医師の診察を受けるようにしましょう。

1.基本姿勢と注意点

一、背筋を伸ばして座りましょう
全て椅子に座って行います。効果が半減したり、体を痛めてしまうことがありますので、猫背の状態でストレッチをしないように注意してください。

二、やり過ぎない
ツボ押しやストレッチは刺激が強いほど効くなんてことはありません。逆効果にならないように、ほどほどの刺激で行いましょう。また、症状が強い場合でも連続して行わず、1時間30分程度の間を空け、少しずつ凝りを取っていきましょう。

三、もみかえし的な反応が出やすい方は仕事後に
この方法は人に揉んでもらう並の刺激を与えられる反面、もみかえし的な反応が出ることがあります。マッサージの後などにだるくなりやすい体質の方は、業務に支障をきたさないように、仕事中は避けましょう。

もみかえし的な反応とは、体が温泉などに入った後のような、けだるい感覚のことです。強い緊張がほぐれ、血管が拡張して血の巡りがよくなり始める時に、違和感として出てきます。緊張がほぐれるにつれて、この反応が出なくなっていきます。


2.やり方

第一術

第一術では鎖骨の下にある3つのツボを刺激します。

(1)まず、猫の手のような感じで拳を軽く握ります。

(2)猫の手のまま、親指以外の第一関節のかど全体をツボに軽く押しあて、小さく左右にスライドさせるようにして揉みます。揉む場所は鎖骨の下の両端と中央にある、雲門、気戸、兪府というツボです。それぞれ10回ずつやさしく揉むようにしましょう。右側は左手で、左側は右手で揉むとやりやすいです。

第二術

第二術では、腋の下をほぐします。腋の下は心臓と関係する経絡や、背中につながる経絡が通る場所です。

(1)右肘を軽く曲げます。
(2)右腋の下に、左の拳を入れます。
(3)右肘を少し後ろに引いたり戻したりを10回行います。反対側も同様にしてください。

第三術

『医道日用綱目』にある心の臓によいとされる導引術です。肩甲骨の内側にある心兪というツボが刺激されます。

(1)肩甲骨を意識しながら、拳を前に突き出す動作を左右交互に合計12回行います。体をひねらず、上体を正面に向けたまま、ゆっくりと拳を伸ばすようにします。

第四術

神門は心臓の経絡と関係し、腕骨は肩甲骨回りを通る経絡のツボです。

(1)数秒圧迫してはなすという押し方で、神門と腕骨を10回ずつ指圧します。


3.徐々に凝りを削り取っていく、寝る前にやるのもよし

以上がセルフケアの方法でした。仕事の合間など、ちょっと疲れた時にお試しください。「これだけやればたったの一回で一気に凝りが取れる!」といった派手なものではないので、時間を空けて複数回行い、徐々に凝りを削り取っていくようなイメージで行いましょう。寝る前にやると、朝に疲れが残りづらくもなります。


4.印刷版はこちら

この記事にある第一術から第四術までの内容を、A4用紙1枚にまとめた印刷用pdfもございます。以下からどうぞ。


参考文献
※1.『黄帝内経霊枢』(日本内経医学会、明刊無名氏本)
※2.本郷正豊『医道日用綱目』(国立国会図書館所蔵、延享4年刊本)
ご紹介した導引術の部分は、『医道日用綱目』よりも古い、馬場幽閑『食物和解大成』にも見られる。





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