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江戸の養生書に学ぶ、夏バテ予防のための夏の食べ方

昔の人は、人体に害を与えるほどの暑さのことを、暑邪と呼んでいた。

暑邪に対処する身近な方法といえば、飲食によって体の熱をさますことが挙げられるだろう。ただ、やみくもに冷たいものばかりを取ると、かえって害になってしまう。

では、夏は冷たいものとどう付き合えばよいだろうか。今回は江戸時代の『養生大意抄』という養生書から、そのヒントを紹介しよう。

夏の飲食は冷たいものと温かいもののどちらがよいか?

『養生大意抄』

『養生大意抄』では、夏でも基本としては温かいものを食べるとよいとし、その理由が次のように記載されている。

【原文】
常に温暖なる物を食すべし。生冷(なまのひえ)たる物は多く食すべからず。凡人の脾胃の運行は陽気を本とす。故に胃中の陽気減ずれば、種々の病おこる。陽気盛んなればよく食物を克化(こな)し血気を生して一身を養ふ。夏月といへども温暖なる物を食すれば、害なくして益あり。

多紀元悳『養生大意抄』国立公文書館内閣文庫所蔵、天明八年(1788)刊本、翻刻は筆者による

【解説】
食養生の基本は、年間を通して温かいものを食べることだ。なぜかというと、胃は温性の気である陽気によって運行するからである。陽気が盛んであれば消化吸収がスムーズになり、血気が補われ、全身が滋養される。

逆に冷たいものをとりすぎると、温性の陽気を弱らせてしまい、胃腸の働きが低下し、全身的な不調につながる。


【原文】
盛夏の時には、陰気腹内に伏し在るに縁(より)て、食物の消化遅し。故によく食傷し易し。殊(こと)に生冷果(くたもの)瓜(ふり)を多く食すれば、軽は飡泄(そんせつ)重きは霍亂吐利をなす。戒むべし。故に夏月も温暖の物を食するによろし。

【解説】
夏は自然界の陽気が極まり、人の身体の陽気もそれにつられて盛んになる。そしてその陽気が盛んになる裏で、陽気と対極にある陰気は腹部に隠れる。これを伏陰と呼ぶ。

陽気が温性であれば、陰気は寒性だ。この伏陰は胃腸の陽気を弱らせ、その働きを低下させる。夏に胃腸の症状が出やすいのはこの伏陰の影響になる。

そこへさらに冷たい物をとりすぎると、消化器症状を主とした夏バテを引き起こす。そのため、夏でも基本的に温かいものを食べるのがよい。


暑邪を消すために冷やす性質のものを少し食べる

一方で、夏には夏野菜などの、冷やす性質の食べ物がよいということも言われるが、それについては次のように述べられている。

【原文】
凡時節に依りて同じ物にてもあしき時あり。又よろしき時あり。假令(たとえば)甜瓜(まくはうり)西瓜(すいくは)ば酷暑の節少しく食すれば、暑邪を消して頗(すこぶる)功あり。微(すこし)涼氣を催すに至て食すれば、大に害あるの類なり。

【解説】
食養生の基本は夏でも温かいものをとることだが、酷暑の際、体に熱をためすぎるのもよくない。暑邪に打ち勝つために、暑さの厳しい折には、冷やす性質の食べ物をとって調節する。

ただし、身体が冷えるのを実感できるまで食べ続けるのではなく、少量をとることが大切だという。

本草学的にみた体を冷やす食べ物については、以下にまとめてあるので参照されたい。


夏バテ予防に、梅雨の終わりあたりから食べ方を意識したい

夏の食べ方は、胃を守るために温かいものを飲み食いするのが基本になる。体の外側は暑くても、内側には冷えが隠れているからだ。ただ、酷暑の際は冷やす性質の食べ物を少量とって調整していく。

胃を守ることは夏バテ予防につながるので、気温の上がり始める梅雨の終盤ありから意識していきたい。


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