【第八話】セネクトメア 序章「始まりのナイトゲート」

【前回までのあらすじ】

クリエイターの職種に決めた主人公は、さっそく四人一組のチームに所属し、任務を命じられた。任務の内容は、とある施設の地下に囚われている、ある人を救出すること。現場に辿り着いたメンバーは、わきあいあいとしたピクニックのような雰囲気だが、初任務で何も分からない主人公は戸惑う。



スピカ「じゃあ、開けるよー!」

先頭にいるスピカが、古ぼけた家のドアを開けると、そこには外観と同じく、古ぼけた民家にふさわしい古ぼけた家具が並んでいた。
中央には大きなテーブルがあり、それを取り囲むように四つの椅子が並べられている。壁には食器棚があり、中には食器が置かれている。
前は誰かがここで生活していたようだが、現在の様子から、今は放置されているように見える。


サト「地下室はどこですか?」

アライ「左奥ですね。こっちです。」

アライが指さすと、スピカがそちらに向かって行く。俺達はフォーメーションを保ちながら、家の左奥に向かって行く。狭い通路はどうしても一列にならなきゃいけないけど、味方がすぐ近くにいるから不安はなかった。


左奥の部屋に到着すると、真ん中に不自然な扉があった。四角い太い柱のような形で、後ろの窓との距離が短いことから、ここが地下室への入り口であることは間違いなさそうだ。

スピカ「どんな獲物がいるかなー?楽しみ!」

スピカが、相変わらず嬉しそうな笑顔を見せている。敵が怖くないのか、好戦的な性格なのか、チームになったばかりだから、まだよく分からない。

サト「私が扉を開けます。敵が飛び出して来るかもしれないので、各々戦闘態勢を取っていて下さい。」

隊長がそう言うと、スピカは右脚のレッグホルスター(銃を脚に携帯する為の装備)から銃を抜き、扉に照準を合わせた。
アライはカメラを構えながら扉を見ている。俺はとりあえず、少し姿勢を低くしてみた。

隊長が、ゆっくりドアノブを回し、手首の回転が止まると、みんなの方を向いて小さくうなずいた。それがドアを開ける合図だと思うと、緊張が最高潮に高まった。

ガチャ、バンッ!!

隊長が勢いよく扉を引くと、地下から冷たい空気が流れ込んできた。中は暗くてよく見えないが、コンクリートの階段が地下へと続いている。

スピカ「敵の姿なし。」

サト「階段は狭いので、スピカ、アライ、俊輔、私の順で降りましょう。」

スピカ「でも暗くて先が見えないよー。どこかに照明のスイッチないかな?」

扉の外側と内側を見渡してみたけど、スイッチのようなものはどこにもなかった。

サト「照明はなさそうですね。ではアライ、お願いします。」

アライ「はい、どうぞ。」

アライがそう言うと、スピカに何かを手渡すしぐさをした。親指と人差し指で何かをつまんでいるような形にしているが、指の先には何もない。

そう思った次の瞬間、アライの指先に、突然一枚の写真が現れた。まるで手品を見ているようだ。写真には、ランプが映っている。

スピカ「ありがとう。」

スピカが写真を受け取ると、写真はランプに姿を変えた。眩しい光を放っている。

俊輔「これ、何の手品?」

相変わらず理解不能なことが続いているが、シンプルな質問を投げかけてみた。

アライ「これも、僕の能力の一つさ。あらかじめ撮影しておいた写真を、いつでもどこでも具現化できる。更にその写真の中にある物も具現化できる。どうだい?便利だろう。」

得意気に笑いながら、アライはそう教えてくれた。物理的な物を具現化するエンジニアらしい能力だ。「少しドラえもんみたいだな」と思った。一体何枚の写真をストックしているんだろう。今度ゆっくり聞いてみよう。


ランプを持ったスピカが、ゆっくり階段を降りていく。俺達はその後に続いた。サトが地下への扉を閉めると、地下室はより一層、闇を深くした。

階段を降りると、カビ臭い匂いと冷えた空気が、体にまとわりついてきた。ランプがあるけど、奥までは見えない。階段の先には通路が伸びており、その両側には、さび付いた鉄製の牢屋が並んでいる。

アライ「地下牢か。こんな普通の家の地下には似合わないな。」

サト「おそらく外観はカモフラージュでしょう。そもそも家は、この地下牢を隠す為だけに作られたのかもしれません。」

地下牢ってことは、罪人が閉じ込められているのだろうか。そもそも、俺達が救出する人物は、どんな人なんだろう?救出するのに、顔も名前も分からなくて大丈夫か?

サト「三メートル間隔で、ゆっくり前進。アライは、進みながら通路にランプを置いて行って下さい。」

アライ「了解。」

スピカを先頭にして、全員ゆっくり前進していく。アライは一定の距離ごとに写真を地面に置き、ランプが一つ、また一つと増えていった。その度に地下室は、少しずつ明るくなっていった。


すると、スピカの足が止まった。それに合わせて、俺達も歩みを止める。

前方を見ると、何かが動いている。ランプに照らされた影も、ゆらゆら動いている。複数の何かがいることは間違いない。

スピカはランプを足元に置くと、右手に持っていた銃を両手で握った。神経を研ぎ澄ませている。

複数の何かは、少しずつ近づいてきている。動物のような荒い息づかいが微かに聞こえる。

その姿が見えた瞬間、何かがスピカめがけて飛びかかってきた。驚く俺とは対照的に、スピカは冷静に引き金を引いた。

バンバンッ!!

銃声が二発鳴り響くと、何かが床に倒れ込んだ。恐る恐る見ると、大きな牙を持った虎のような動物が絶命している。見たことはないが、サーベルタイガーのようだ。恐すぎる。
スピカの放った銃弾は、サーベルタイガーの頭部を撃ち抜いていた。一瞬のできごとなのにこの命中率。スピカは、想像以上に優秀なソルジャーなのかもしれない。

スピカは無言のまま、またゆっくりと前進し出した。するとまた一匹、別のサーベルタイガーが、先ほどと同様に、頭部を撃ち抜かれて絶命している。
まさか、さっきの二発の銃声の内、一発はこいつに向かって撃ったのか?
こんな恐ろしい敵を相手にピクニック気分でいられる余裕は、その圧倒的な強さと自信からきているのかもしれない。


ゆっくりと前進しながら、サーベルタイガーが現れる度に、スピカは一匹一発ずつ片づけていく。命中率は100%。まるで機械のように正確な射撃だ。もう10匹以上も倒している。

アライは、ずっとランプを出現させながら置き続けている。地下室も、随分明るくなった。

サトは静かに最後尾から、みんなを見守っている。

俺は、ただ見て歩いてるだけ。楽勝すぎる状況に、出番はなさそうだ。


長く続いた地下牢の通路も、やっと終わりが見えてきた。通路の先には、両側にある牢屋とは違った雰囲気の牢屋がある。銀色で真新しい造りで、特別感をかもし出している。

スピカ「ラスト!」

スピカが最後のサーベルタイガーを倒すと、周囲は静けさを取り戻した。もう敵は潜んでいないようだ。

サト「オールクリア。お疲れ様でした。」

スピカ「手ごたえなかったなー!全然戦った気がしない!」

アライ「いつもながら、お見事だね。」

スピカ「えへへ。ありがとう。」

チームの雰囲気が、一気に穏やかになった。


銀色の牢屋の前に辿り着いて、中を覗き込むと、一人の男性が体育座りしていた。

スピカ「おーい!助けに来たよー!」

スピカがそう言うと、中にいる男性は顔をあげてこちらを見た。短髪の優しくておとなしそうな顔をしている。多分、俺と同い年くらいに見えた。返事はない。

銀色の牢屋の扉を見ると、頑丈な鍵がかけられている。鍵がないと開かなそうだ。

そう思っていると、サトが扉の前に来た。

サト「オープニン」

サトはそう言いながら、杖を鍵に近づけた。次の瞬間、施錠が外れた。

俊輔「今のは、鍵を開ける魔法?」

サト「そうです。大概の鍵は、この魔法で開錠できます。」

自然の理を操るマージ、いわゆる魔法使いは、魔法を使って色んな事ができる。そういえばここに来た時も、サトの魔法でワープして来た。他にも色んなことができるんだろうな。

何だかんだで、全職種が揃ってるこのチームは、結構強いんじゃないかな。俺は素人だから、実質的には三人チームだけど、十分すぎるくらい頼もしいメンバー達だ。


牢屋の中に入って、男性に話しかけてみる。

アライ「僕達はホープライツのメンバーで、あなたを救出しに来ました。一緒に僕達のアジトまで、ご同行願えますか。」

男性は、無言のままアライを見上げている。

スピカ「別に怖がらなくていいよ。悪いようにはしないからさ。」

スピカが優しく話しかけるが、またしても返事なし。

俊輔「まさか、喋れないのかな?」

スピカ「そうなの?」

男性は、無言のまま、俺達をゆっくり見回してるだけ。少し意味が分からない。

サト「救出するのが任務ですが、救出する理由を知らされていないので、説得もできませんね。とりあえず連れて行きましょうか。」

サトは、そう言うと、また何かの呪文を唱えだした。ここにワープして来た時と同様、紫色の光が周囲を包み込む。これで無事にアジトに戻れる。


こうして俺の初任務は、何事もなく、何もしないまま完了した。
でもいつかは、他のメンバーと同じように、何かしらの形で任務達成の為に能力を発揮することになる。そう思うと気が引き締まると同時に、現実世界にはない刺激とワクワクに、心を躍らせていた。


続く。

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