【第七話】セネクトメア 序章「始まりのナイトゲート」
【前回までのあらすじ】
現実世界で様々な変化や違和感を感じながらも、トラブルを一件落着させた主人公。だが神姫は、まだ問題が解決してないことを匂わせていた。一方、ホープライツのリーダーであるギブソンは、主人公が配属されるチームの準備を、着々と進めていた。
~セネクトメア・ホープライツのアジト~
ギブソン「俊輔、そういえば、職種は決めたのか?」
この世界に移動してから、ギブソンが開口一番、質問をしてきた。
正直、そんなことを考えてる余裕なんてなかったから、全く何も考えていなかった。
俊輔「いや、決めてない。でも別にゆっくり決めればいいんでしょ?」
ギブソン「そう思ってたが、お前を含めたチームを結成したから、早急に決めて欲しい。」
俊輔「チーム?」
チームって何だろう?ホープライツの小隊みたいなものだろうか。
ギブ「ホープライツは、四人一組のフォーマンセルで一つのチームを作り、行動するんだ。もうメンバーは決まってるし、担当してもらいたい任務もある。だから今ここで職種を決めるんだ。」
俊輔「戦闘に特化したソルジャー、自然の理を操るマージ、物理的な物の具現化と解析ができるエンジニア、抽象的なものの具現化と解析ができるクリエイター、だったよね。」
ギブ「そうだ。説明を聞いただけじゃよく分からないかもしれないが、直感で決めればいい。直感の九割は当たるっていうのが、俺の自論だ。」
ギブソンの自論は置いといて、何にしようかな。
戦闘に特化したソルジャーは、男として憧れる職種だ。自分の力で敵をなぎ倒していくなんて、爽快すぎる。
マージは、魔法使いみたいな存在だから、ハリーポッターみたいに、色んな事ができそう。魔法を使う職種も、ソルジャー同様、憧れの存在だ。
エンジニアは、それこそ直感的にはなしかな。物を作り出したり解析するのは、何となくダルそう。
クリエイターは、何となく難しそう。そもそも抽象的なものって何だろう?ユニコーンとか、ゴジラとか?自由度は高そうだ。
ギブ「決められないのなら、俺が決めるぞ。」
ギブソンがせかしてくる。
俊輔「ちなみに、ホープライツ的に欲しい職種はどれなの?」
ギブ「ホープライツに限らず、圧倒的に少ないのはクリエイターだな。難しいから、選ぶ奴が少ない。更に、能力を伸ばせる奴も少ない。でもだからこそ、大きな可能性を秘めてるとも言える。」
想像通りだ。個人的には、難しい挑戦ほど燃えるから、丁度良いかもしれない。
俊輔「じゃあ、クリエイターにするよ。」
ギブ「そうくると思ったぜ。ちなみに、お前のデータを解析したところ、最も適性が高いのはクリエイターだった。やっぱ直感は正しいな。」
ギブソンが、嬉しそうに笑い、あごをなでている。というか、適性が分かってたなら教えてほしかった。
ギブ「じゃあ、こっちに来い。」
ギブソンが、俺が初めてアジトに来た時に案内された、ガラス張りの部屋に向かって行く。どうやらあの部屋は、ミーティングルームらしい。
部屋の中には、三人の姿が見える。おそらく、彼らの所に向かってるんだろう。チームメイトかもしれない。
少し転校生になった気分で、ギブソン先生の後をついていく。
部屋に入ると、三人は話すのをやめて、こちらに視線を集めた。
ギブ「みんな、こいつが新人だ。色々教えてやってくれ。」
ギブソンが、俺の背中に手を回し、軽く押してきた。その勢いで一歩前に出た俺は、自然と自己紹介しなきゃいけない空気を感じ取った。
俊輔「初めまして。坂本俊輔です。リンカーになってまだ日は浅いし、ついさっき職種を決めたばかりなので素人ですが、よろしくお願いします。」
誰が聞いても当たり障りのない言葉を並べる。
「よろしくねー!」
「よろしくお願いします!」
「よろしく。」
それぞれが返事を返してくれた。
「じゃあ、こっちも自己紹介だね!」
三人の内の一人がそう言い、立ち上がった。
「私はスピカ!職種はソルジャーで、武器は銃火器系がメイン!よろしくね!」
元気で明るい笑顔でそう言い放った彼女は、ダメージの入った小さめの白いTシャツを着ていて、茶色のショートパンツをはいていた。長い黒髪をポニーテールでまとめていて、脚や腰や背中に武器を装備している。見るからにサバイバーといった感じだ。
俊輔「よろしくお願いします。」
俺はそう言うと、小さくおじぎをした。
その後、すぐにもう一人が立ち上がった。
「僕はアライ。職種はエンジニアだよ。よろしくね。」
スピカとは対照的に、少し落ち着いた雰囲気の男性だ。シャツをはおり、デニムをはいている。首にかけている大きめのカメラが印象的で、爽やかで大人びた表情をしている。
俊輔「よろしくお願いします。」
スピカの時と同様、小さくおじぎをした。
最後の一人が、静かに立ち上がった。
「私はサト。職種はマージ。この部隊の隊長を務めさせて頂いております。」
彼女は、全身に一繋ぎになったローブをまとい、綺麗な杖を持っている。見るからに僧侶といった感じ。少し悲しそうで、憂いを漂わせる雰囲気。他の二人とは違い、笑顔を見せない。その華奢な見た目から、隊長というのは意外だった。
俊輔「よろしくお願いします。」
他の二人の時と同様、プログラムされた機械のように、俺はまたおじぎをした。
ギブ「よし!自己紹介も終わったことだし、さっそく任務についてもらうぞ!」
そう言い放つと、ギブソンは、テーブルの中央に設置されたプロジェクターのスイッチを押した。部屋が少しずつ暗くなり、デジタル画像が浮かび上がる。
ギブ「今回は救出作戦だ。座標S1025,N255の地点の地下施設に、ある人間が捉えられている。そいつを連れ出して、ここへ戻って来るんだ。」
何だか本格的な任務だ。ワクワクする気持ちと緊張感が、心を駆け巡る。
スピカ「敵はいないの?」
ギブ「複数のギミックは確認済みだが、数などの詳細は分からない。だが恐らく、難易度E~D程度の任務だから、気楽にやってくれていい。」
ギミックって何だろう?任務にも難易度があるのか。
アライ「任務は今からですか?」
ギブ「そうだ。今すぐ向かってくれ。」
サト「では皆さん、向かいましょう。」
全員が一斉に立ち上がったので、俺も慌てて立ち上がる。ていうか、展開早いな。
サトが、杖をまっすぐ前に突き出すと、スピカとアライが杖に手を添えた。
スピカ「ほら、俊ちゃんも!」
スピカはそう言うと、添えてない左手で俺の左手首を掴み、杖に手を添えさせた。
サトは目を閉じて黙っている。そんな彼女を見ていると、唇が微かに動いた。
次の瞬間、周囲に紫色の光が俺達を包み込むように現れ、周囲はあっという間に紫一色になった。
何が起きたのかさっぱり分からないけど、エレベーターに乗った時のような、フワリとした感覚。少し不安がよぎるけど、我慢してそのままの体勢を保つ。
フワリとした感覚がなくなった瞬間、周囲を覆っていた紫色の光が飛び散った。
その時、目に映った景色は、アジトのミーティングルームではなく、古びたレンガ造りの家だった。
俊輔「え?どうゆうこと?」
現状を理解できず、質問が口から飛び出た。
スピカ「あっははー!最初はそうなるよね!よね!その表情サイコー!」
スピカが俺を指さして爆笑している。
パシャリ!
その横で、アライがカメラで俺を撮影していた。場違いだろうけど、サプライズで誕生日パーティーに招かれた気分だ。
スピカ「ねぇねぇ!記念すべき初任務なんだから、みんなで記念写真撮ろ!」
スピカがみんなの腕を掴み、自分に引き寄せる。
アライ「じゃあ、カメラセットするよー!」
アライもノリノリだ。サトは、無表情のまま抵抗せずに、スピカの隣にいる。
アライはカメラを覗きながら微調整をしている。三脚もないのに、どうやって撮影するんだろう?自分は入らないつもりかな?
アライ「撮るよー!」
そう言うとアライは、カメラから手を放してこちらに向かってくる。カメラは宙に浮いたままだ。この辺は、セネクトメアらしい現象かもしれない。三脚いらずとは便利なものだ。
アライ「さん、にー、いち!」
パシャリ!
フラッシュがたかれると、アライはカメラに向かって走って行く。そしてカメラを手に取った後、もう一度俺達の方へ戻ってきた。
アライ「良く撮れてるよー!ほら。」
嬉しそうな表情で、カメラの画面を見せてくる。そこには、古びた家を背景にした、明るい笑顔のスピカとアライ、無表情のサトと、ぎこちない作り笑いの俺が映っていた。
スピカ「いいねー!こういうのってさ、時間が経てば経つほど大切な思い出になるんだよねー!」
このはしゃぎっぷりだけ見てると、任務というより、まるでピクニックだ。任務ってこういうものなのか?
サト「そろそろ行きますよ。」
サトが静かに言い放つと、アライが家を撮影し出した。
パシャリ!パシャリ!
数枚撮り終えると、カメラの画面を覗き込んでいる。
アライ「家の中には誰もいないね。でも地下には、ギミックが10体潜んでいるよ。」
え?何でそんなこと分かるの?
どうやら、あのカメラは、普通のカメラじゃないっぽい。
俊輔「あの、ギミックって何ですか?」
申し訳なさそうに聞いてみる。
スピカ「ギミックっていうのは、誰かが作り出したもののことだよ。ロボットとか、モンスターとか、猛獣とか。」
俊輔「なるほど。」
スピカ「私達リンカーは、現実世界で眠ってる時しかセネクトメアにいれないから、ギミックを作り出して何かをしてもらうことがあるの。例えば、見張りとか、防衛とかね。」
俊輔「じゃあ、ここの地下にいるギミックは、俺達が救出しようとしてる人を見張ってたり、侵入者を排除する為にいるってこと?」
スピカ「多分ね。でも最悪の場合、自爆装置かもしれない。そしたら囚われてる人もろとも消し飛ぶかも。」
サラッと怖いこと言う。
アライ「ここのギミックは、防衛目的に設置されてると思う。だから普通に戦って排除すれば大丈夫だよ。」
俊輔「写真を撮ると、そんなことまで分かるんですか?」
アライ「うん。このカメラには色んな機能があって、さっきみたいに普通の写真を撮ることもできるし、レントゲン写真みたいに、障害物の向こう側を撮ることもできるんだよ。」
これが、エンジニア特有の「物理的な物の解析」ってやつか。頼もしい。
サト「今回は狭い地下での戦闘になるので、フォーメーションはロンバスで進みます。」
次から次へと知らない言葉が出てきて戸惑う。
アライ「フォーメーションは、チームメンバーの配置のことだよ。ロンバスっていうのは、ひし形状に四人がポジションを取ること。ロンバスの場合、フォワードが最前、レフトが左中盤、ライトが右中盤、バックが後方になるんだ。このメンバーだと、フォワードがソルジャーのスピカ、バックがマージのサト、レフトとライトは、僕と俊輔君だね。」
そんな難しいことを任務中に教わるのか。結構スパルタだな・・。そういえば、何をするのかも具体的には何も聞いていない。
サト「レフトはアライ、ライトは俊輔君でお願いします。」
アライ「了解。」
俊輔「了解です。」
アライのマネをしてみたけど、多分これが正しい返事。
スピカ「じゃあ、行くよー!」
スピカが元気に右手を上げて、笑顔で言い放つ。どこから見ても戦いに向かうとは思えない。
というか、戦いってことは、死ぬってこともありえるのか?何も聞かされてないから、何も分からない。
そもそも、俺の装備は何もない。どうやって攻撃するの?パンチ?
クリエイターは「抽象的なものの具現化と解析」が特徴だから、何かを登場させるのか?ユニコーンを具現化して戦わせるとか?
そうだとしても、どうやって?「ユニコーン!」とか叫べばいいのか?
分からないことだらけだけど、他のメンバーは慣れてるっぽいから、多分どうにかなる。現実世界での常識が通用しないから、実践で学んでいくしかないのかもしれない。
その考えは半分当たっていて、半分間違っていた。
なぜなら、クリエイターは稀少だからこそ、教えられる人も少ない。そして、能力が伸びにくいから、期待もされない。
だからこの時はまだ、みんなにとって俺は、いてもいなくても同じ存在だったと思う。いきなりサーフィンを教えるんじゃなくて、「まずは足首まで海に浸かってみようか」程度の扱いだったかもしれない。
でももし俺がクリエイターになっていなかったら、
もしこのチームに配属されず、この任務を担当してなかったら、
地下に囚われてる彼と出会ってなかったら、
セネクトメアは、消滅していたかもしれない。
そんな重大な分岐点に立っていて、未来を大きく変える選択と決断を繰り返していたことを、この時の俺達はまだ、気づいていなかった。
続く。
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