「AI(愛)は掌に」 第十一話

「井内さんに相談したら次元さんや庄司さんにメール見られちゃうじゃん…」

久楽はバイトを終えて、自室のベッドで横たわりながら井内へ、恋愛相談をしようとメールを打っていた。
そして、送信『直後』に気付いた。

千百合や井内に送ったメール、受け取ったメールは次元や庄司、もしかしたら尾上や他の人にも見られるかも知れない。少なくとも次元には見られている。普段の何気ない会話を見られるのは構わないが、ここまで赤裸々な話を見られるのは些か抵抗がある。

「気付くのがあと少し早かったら、井内さんにメールしなくてすんだのに…」

新たな悩みが増えた。

「…どうしよ…」

ぽつりと言葉を漏らす久楽。

『好きな人がいる。メールでしか関わりがないのだが、どうしたらいいですか?』

久楽の送ったメールは要約すると、このようなものだった。
この仕事で知り合ったこと等は伏せている。
井内がもし、察しのいい人間なら、この仕事で出会った人だろうと気付きそうではあるが。

「メールを消してもらえないかな…自分のと井内さんのとを消してしまえば次元さんたちにはバレないのでは…?」

そう考えて、追従してメールを送った。
その結果、しばらくした後に返信が来た。
相手はもちろん井内からである。

『メールを消去するのはルール違反だよ。』

怒られた。

「ですよねー…」

久楽は話が何一つ前進せず、深夜12時を過ぎていることに気付き、不貞寝に近い形で眠りにつこうとする。その時に新しいメールが来た。

「…誰?なんか、今日はこれ以上メールする気にはなれないんだけど…」

差出人が誰なのかだけ、確認してから返信をせずに眠りにつこうとしていた。が、その目に飛び込んできた差出人を見て、飛び起きた。

『もう寝てますか?』

「千百合さん!?」

久楽は急いでメールを返信する。

「起きていますよ。どうかしましたか?」
『なんだか、眠れなくて…つい。もし寝るところでしたら気になさらないでください。』
「いえ、僕も眠れなかったので、ちょうど良かったです。」
『そうでしたか。良かったです。』
「何を話しましょうか?」
『何を話しましょうか?そうですね、あ、これ見てください。』

見てください、のメールが来て、すぐ後のメールには画像が添付されていた。猫であった。真っ黒の。
しかし毛並みの良さが目立ち、いわゆる黒猫故の不気味さは微塵にも感じられなかった。

「可愛らしいですね。飼ってる猫ですか?」
『そうです。ミミちゃんです。』

久楽はネコの画像に暫し癒やされモードに入る。それと同時に気付いたことがあった。

画像送るのはルール違反じゃないのか?と

「そういえば、画像送るのって大丈夫なんですか?」
『え?駄目なんですか?』
「いや、僕もその辺は詳しくはわからないんですが…」
『え、どうしよ…もし、違反だったら…』
「明日、会社に行く予定なので、聞いてみますよ。」
『そんな、迷惑になりますし結構ですよ。私がしたことですし…』
「大丈夫です。もともと会社に行く予定でしたし。悪気があってした事じゃないから、きっと怒られませんよ。」
『…ありがとうございます。久楽さん。』
「いえいえ、大丈夫ですよ。気になさらないで。」

そんなメールを続けていると、時刻も1時をとうに過ぎていた。
キリの良いところでメールを終えると、スマホを閉じ、目を瞑る。

会社に行く予定と言うのは半分嘘で、半分本当である。
会社に行くのは、井内にルール違反を犯したことの報告をしに行くからである。
ただ、厳密に言えばすぐに会社に行く必要は無いと言えば無い。
毎回の給料日&メール確認日に報告をすればいいのだ。それは以前に次元から言われたことがあった。

しかし、健気な恋心なのか、何か千百合の為に動きたいという結果の言葉なのである。

そして、久楽は明日、大きな決断を決心を迫られる。

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