第12話『強がりな、友情』

学園戦記ムリョウ

第一二話『強がりな、友情』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)
統原瀬津名(スバル・セツナ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
成田ジロウ(ナリタ・ジロウ)

真守モモエ(サネモリ・モモエ)
守機漠(モリハタ・バク)

村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)
山本忠一(ヤマモト・タダカズ)

ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ソパル星人

真守モモエ・少女時代
少年

ユカリ
ミドリ

生徒達


○天網山・頂上
夜明け。
目覚める那由多。握手するハジメと那由多。(11話の回想)

NR「あの夜の出来事から、三日が過ぎた」

○御統中学・二年C組
午前中。陽の光が教室に差し込む。
筆記試験中の生徒達。山本は教壇で一同を見守っている。

NR「そして今は、期末試験。宇宙も地球もさて置いて、日頃の成果、いざ見せん——」

答案用紙に向かうハジメ。同様にアツシ、トシオ。ジロウはウンウンと難儀している。
サラサラと答案中のムリョウ。
そしてチャイム——

山本「はい、おわりー」
ジロウ「おわった....ッ!」

生徒達、安堵と悲鳴の混じった歓声。

山本「答案用紙を後ろから前に回して…コラ、答案用紙を集めるまではまだ試験中だぞ、静かにしろー」

用紙を前に回してほっとするハジメ。

NR「何はともあれ、試験は終了。差し当たっての行事はというと——」

○同・昇降口
放課後。笹を据え付けている八葉。
そこへやって来るムリョウとハジメ

ムリョウ「やあ、八葉さん」
八葉「(振り返って)君達か」
ハジメ「スゴイ笹ですね」
八葉「もうすぐ七夕だっていうんで先生方が山から切り出してくれたんだ。どうだい、君達も一つ——」
ハジメ「一つ?」
八葉「短冊だよ。願い事を書くと良いことがあるかもしれないよ」
ムリョウ「いいですねえ」
ハジメ「ははは」
八葉「よう、那由多」

那由多がやって来る。

八葉「お前もどうだい?願い事が叶うぞ」
那由多「……」

無言で行き過ぎる那由多。

ハジメ・八葉「?」

下駄箱で靴を履き替えている那由多、何処か暗い表情で終始無言。

八葉「どうしたんだ、あいつ?」

一同、那由多を見守る。
靴を履き終わった那由多、おもむろにハジメ達の方を向く。

八葉・ムリョウ「?」
ハジメ「や、やあ……」
那由多「……」

無表情に一同を見ている那由多。

那由多「……」

プイッと立ち去る那由多。

ハジメ・ムリョウ・八葉「???」

顔を見合わせる一同。

NR「静かなる波乱の、予感——」

○オープニング

○天網市・点景
昼下がりの街の情景。半ドンの中学生達の下校風景。

(サブタイトル『強がりな、友情』)

○村田家・外
夏の花が垣根越しにちらほらと。

○同・庭
ベリー各種が沢山植えられた一画。
キョウコ「♪ベリーベリーのラズベリー、ブラックベリーにブルーベリー♪」

ラズベリーを収穫中のキョウコ、上機嫌。手に持ったカゴには一杯の赤い実。

キョウコ「あら」

帰ってくるハジメに気が付いたキョウコ、柵越しに声を掛ける。

キョウコ「お帰り~」
ハジメ「ただいま」

柵をはさんで会話の二人。

キョウコ「どうだった?試験」
ハジメ「まあまあだね。へー、豊作だね」
キョウコ「お腹空いたでしょ……そうそう、さっきからフタバがお待ちかねよ」
ハジメ「え?」

○同・リビング
笹に短冊を付けているフタバ。そこへハジメ、入ってくる。

フタバ「おかえりー」
ハジメ「どうしたんだ?その笹」
フタバ「ミドリちゃん家のお爺ちゃんに貰ったの。いいでしょ」
ハジメ「フム。そうだな」
フタバ「庭に飾ろうよ、ねえねえ」
ハジメ「よーし」

カバンを置くハジメ、身支度。

ハジメ「軍手持ってきて」
フタバ「はーい♪」

大喜びのフタバ、用意のために奥の部屋へ。ハジメ、笑って見送る。

○同・庭
杭を打ち込むハジメ。

ハジメ「ほっ!とっ!」

   *   *   *

笹を立てるハジメとフタバ。

ハジメ・フタバ「よーいしょっと」

○同・台所
ラズベリーを洗っているキョウコ。庭からハジメとフタバの声が聞こえる。

ハジメ(声)「よーし、そのまま押さえてろ! ちょっと待ってろよー」

○同・庭
杭に笹を括りつけているハジメ。フタバは、笹が倒れないように必死に押さえている。

フタバ「う~、お兄ちゃん、風吹いてきたァ」
ハジメ「えーと……あれ?」

上手く結べないハジメ、必死に堪えるフタバ。

○同・台所
フタバ(声)「早く早くウ~」
ハジメ(声)「根性!」

思わずほくそ笑むキョウコ。

○同・庭
ハジメ・フタバ「フム!」

ハジメとフタバ、鼻息も荒くガッチリと握手。そのまま満足気に見上げる。
笹が風になびく。揺れる短冊。

テストがいい点取れてます!

ムリョウさんLOVE

フタバ「ホントにサラサラ鳴ってるね」
ハジメ「短冊の文字はともかく、正しい日本の七夕、って感じだな」
フタバ「何よ、それ!」

○同・台所
ハジメ・フタバ「ごちそーさまでした!」

昼食後の一同、お茶を一服。

フタバ「あー、チャーハンおいしかったー」
キョウコ「(おどけて)それはありがとうございます、お客様」
フタバ「ラズベリーもおいしかったよ……ねえねえ、ジャム作ろうよ!」
キョウコ「そうね、じゃあブラックベリーも摘みましょうか」
ハジメ「……」

二人の会話をよそに、帰りのことを思い出すハジメ。

   *   *   *

(回想)
昇降口。
プイッと立ち去る那由多。

   *   *   *

ハジメ「腹でも減ってたのかなぁ……」
キョウコ・フタバ「?」

○天網川・河川敷
昼下がり。
芝生ではサッカーをして遊ぶ子供達。
土手で会話中の漠とソパル星人。
二人、たこ焼きにお茶(ペットボトル) で遅い昼食、といった感じ。

漠「この間のサナドンの件以来、今後の行く末を話し合ってるんですがね、これがまたちっともまとまりゃしません」
ソパル星人「そのようですねえ」

   *   *   *

(回想)
大広間で論争中の当主達。

壌「とにかく、危機を乗り越えた今だからこそ、我ら天網の民の使命を、世界中に知らしめるべきです!」
十全「まだ早い」
壌「何故ですか?! 」

※二人のやり取りは字幕で処理。

   *   *   *

漠「かたや強硬派、かたや現状維持派って感じなんですけどね、双方歩み寄りの気配全くなしでして——」
ソパル星人「おたくはどうなんです?」

しばし沈黙の漠。ソパル星人も問い詰めることはせずに、たこ焼きをパクつく。やがてポツリと漠。

漠「……結局、一〇〇年かかったんですよね。世界各国の足並みを揃えるのに……一国の中での足並みを揃えつつも、アジア、ヨーロッパ、南北アメリカ…各地域の足並みを揃えて、そして全世界。様々なしがらみを乗り越え、政治の仕組みを整え、ようやくここまで来たわけです」

子供達、おぼつかないながらも楽しげにサッカーをしている。キックアンドラッシュ。ひたすらに走る。

漠「この先、一番簡単なのは、僕らが名乗り出て地球を本当に一つにすることです。シングウで地球を征服しちゃう、とか」
ソパル星人「そりゃスゴイ」
漠「そんな事したら大ひんしゅくですよ。守口の旦那は『シングウを国連直属の地球防衛軍に!』なんてことも言ってましたが、詰まるところ行き着くところ、人は僕らのことを『地球を支配する気だ』なんて言い掛かり付けて後ろ指差すに決まってます」
ソパル星人「人間、全ての人が横並びにってわけにはいきませんよ。で、あなたは……」

獏に微笑みかけるソパル星人。

ソパル星人「どうしたいんです、一体?」
漠「現状維持、さりとて変革。虫のイイ話しはないかいな、ってね」

シュートが決まり、大喜びの子供達。

ソパル星人「そういや、ヴェーやん…ジルトーシュの新居は決まったんですか?」
漠「ええ、色々こだわりのある方だったんですがね、ようやく決まりましたよ」
ソパル星人「へえー」

○ジルトーシュの家・外
天網市の南地区、防波堤そばの神社そばに立っている平屋建ての一軒家。
勘違いした西海岸風の外見は長年空き家だったために白ペンキも剥げかかっている。

ジルトーシュ「うんうん、どうだい。こうして手入れをすればずいぶんイケる感じじゃないの」

白ペンキで羽目板を塗りたくっているジルトーシュ。ウエンヌルは部屋の掃除、そしてムリョウも屋根の修理をしている。

ジルトーシュ「すまないなぁ、業者に頼んでもよかったんだけど——」
ムリョウ「構いませんよ。家じゃよくやってましたし」
ジルトーシュ「君ん家って何処だっけ?」
ムリョウ「フフ、秘密です」
ジルトーシュ「あ、そ。つれないなぁ」
ウエンヌル「そろそろ、お茶にしましょうか」
ジルトーシュ「あ、そうだねえ。いいタイミングだ」

○同・前庭
小さな前庭には、雑草がぼうぼうだが、ヒマワリが負けずに沢山生えている。
縁側に座ってお茶を飲むムリョウ達。

ムリョウ「うん、うまい」
ウエンヌル「比較的低温のお湯でじっくりと煎れてみました」
ジルトーシュ「お前さん、すっかりお茶に入れ込んでるねえ」
ウエンヌル「御茶屋の店主に指南していただきました」

そこにやって来るハジメとフタバ。フタバの手には小さな笹飾り。

ハジメ「こんにちは」
ムリョウ「やあ」
フタバ「こんにちはー!」
ジルトーシュ「いらっしゃい」
ウエンヌル「ああ、お茶を煎れましょう」

奥へ引っ込んでいくウエンヌル。
軒先にやってくるハジメ達。

ハジメ「(キョロキョロしながら)フム……」
フタバ「これ、七夕の笹です。どうぞ!」

ジルトーシュに笹を手渡すフタバ。

ジルトーシュ「おお、ありがとう」
ハジメ「で、僕らは何をやれば?」
ジルトーシュ「そうだねえ、そろそろ荷物が到着する頃だから、それの上げ下ろしを一つ、よろしく!」
ハジメ「あれ、荷物ってみんな火事で焼けちゃったんじゃないんですか?」
ジルトーシュ「ふふん、実はあまりに荷物がかさばるんでねえ、貴重な資料類はみんな知り合いに預けてあったんだよ」
ハジメ「知り合い?」

顔を見合わせるハジメとムリョウ。
そこへ通りよりクラクション。

ジルトーシュ「お、来た!」

○同・外
『銀河通運』と書かれた5トントラック去っていく。後に残されたのは膨大な段ボールの山(連邦のマーク入り)。
それを前に呆然のハジメとフタバ。苦笑いのジルトーシュ。

ジルトーシュ「いやあ、こんなに荷物って多かったかなあ」
ハジメ「これをひょっとして……家に運ぶんですよね」
ジルトーシュ「うん、そうだね。(苦笑い) いやあ、参ったなあ。荷物の据え付けまで業者の人に頼めばよかったよ」
ウエンヌル「見積もりでケチったのはあなたですが……」
ジルトーシュ「最近経費がなかなか下りなくてねえ。じゃ、やろうか」
ハジメ・フタバ「えーーッ?! 」

途方に暮れるハジメ達。ムリョウは感心して荷物の山を見ている。

○天網神社・境内
静寂。鬱蒼と茂る大樹の数々。
箒の音が聞こえる。
一人、石畳を箒で掃く那由多。
物思いの表情..――

那由多「……」

ため息を、一つ。
じっと地面を見る。
思い出されるハジメとムリョウの声。

   *   *   *

ハジメ「がんばれ守山君、がんばれ!」
ムリョウ「君は、何のためにここにいる!」

   *   *   *

那由多「……」
セツナ「わー、可愛い巫女さんだー」
那由多「?」

ふと通りの方を見るとセツナがニコニコと立っている。

那由多「……」

プイと顔背ける那由多、不機嫌な顔。

セツナ「そうだよね、お父さん神主なんだから、ナユちゃんも巫女さんやっててもおかしくないもんね」

歩み寄るセツナ、屈託無い。
無視して箒掃く那由多。

セツナ「も~スカシんぼ!」
那由多「……うわっ!」

セツナ、背後に回り込んで、那由多の耳元でささやく。大げさにのけぞる那由多。飛び退き首筋を押さえて赤面。

那由多「な、な、何てことするんですかっ! エッチ!」
セツナ「(もじもじと)だーってナユちゃん、冷たいんだもん……」
那由多「あなたがキライだからです!」
セツナ「その分、ムリョウが好きなんだ♪」
那由多「……」

背中向けて無言の那由多。

セツナ「あれ?」

木々の葉擦れの音。
ポツリとつぶやくように那由多。

那由多「……お姉さんは、あんなスゴイ弟さん持って、どう思ってるんですか?」
セツナ「どう、って?」
那由多「くやしいとか、かなわないとか……」

赤面してうつむく那由多。

那由多「でも……」

睨むように地面を見つめる。
しばしの静寂。

セツナ「そうだね……」

穏やかに微笑むセツナ。

セツナ「そういうことは先人に聞こう!」
那由多「え?」

思わず振り向く那由多。

セツナ「さあ、着替えて!一〇分以内ね」

ニコニコと笑うセツナ。
いつものあっけらかんな微笑み。

○アイキャッチ

○真守家・外
玄関口のセツナと那由多。

セツナ「ごめんくださ..い」

○同・廊下
モモエとセツナの笑い声が聞こえる。
庭木も夏の花がちらほらと咲き始めている。
陽の光が優しい。
開け放った障子の奥では談笑しているモモエとセツナ達。

○同・モモエの部屋
上座にはモモエ、下座には那由多とセツナ、並んで座っている。リラックスムードのモモエとセツナに対し、固い表情の那由多。
あらためてセツナと那由多を見比べてモモエ、微笑む。

モモエ「それにしても珍しい顔合わせねえ」
セツナ「そうですか?私達仲良しなのに」
那由多「違います!」
セツナ「またまたあ。実は聞いてやって下さいよ、この子の恋の悩み..」
那由多「(赤面して)そ、そんなんじゃありません!」
モモエ「あらあ、なかなか難しい相談ね」
那由多「だから、そんなんじゃないって……」

うろたえる那由多。

セツナ「さっきまでこの子スッゴイ深刻な顔をして大変だったんですよ。それで(固い表情の那由多の顔真似して)箒なんか掃いちゃったりして」
那由多「あー、やめてやめて!」
セツナ「(口真似で)……くやしいとか、かなわないとか!」
那由多「やめて下さいってば!」

何だかんだ言ってじゃれ合うセツナと那由多。見ているモモエ、微笑む。
頃合いと見たセツナ、口調も正してモモエにポツリ——

セツナ「昔話を、してあげて下さい」
那由多「?」

那由多、意外な話の振りにキョトン。

モモエ「昔話?」
セツナ「一〇〇年前——」
那由多「?」
セツナ「出会いと、約束」

モモエ、セツナの言葉を聞いて顔をほころばす。遠くを見るように見上げるとつぶやく。

モモエ「約束ねえ……」
セツナ「とりあえず、このわからんちんには為になる、イイ話だと思いますよ」
那由多「わからんちん?! 」
セツナ「あはははは、わからんちん♪」
那由多「もぉー、バカ姉(あね)ッ!」
セツナ「あはははは、かーわいい」

ギャーギャー騒ぐ那由多と軽くいなすセツナ。見ているモモエ、楽しそう。

○同・台所
ヤカンがレンジにかけられている。
お茶の支度をしているセツナ。

セツナ「フフフ、バカ姉か…」

思い出し笑いのセツナ、菓子器を取り出してハタと。

セツナ「あっ、お菓子が無い!」

○同・モモエの部屋
モモエと那由多、二人きり。

モモエ「…それにしても、安心したわ。こうやって何事もなくお話しできるんだから。体の方は本当に大丈夫?」
那由多「ありがとうございます。大丈夫、さすがに一日学校を休ませていただきましたが——」
モモエ「強いわね。私が空蝉を使ったときはその後、四日は寝込んでいたわ」
那由多「いえ、私は京一や八葉さんのチカラを借りていたから……おばあさまは孤立無援、一人で戦っていたと聞いています。私は……助けられてばっかりで……」

語っているうちにだんだんうつむく那由多、暗い表情。

モモエ「そんなにイヤなのかしら。みんなに助けられたことが」
那由多「いえ、そうじゃないんです。勝ったことは嬉しいし、一生懸命頑張った自分を誉めてあげたい気持ちもいっぱいあるんですけど……」
セツナ「やっぱりイヤなんじゃない、一人で戦えなかったのが」
那由多「うわっ!! 」

いつの間にか那由多の脇に寄り添っていたセツナ、耳元でささやく。びっくりして飛び退く那由多。

セツナ「何だかなあ、ホント大げさなんだから、ナユちゃんは」
那由多「な、な…」

お茶を持ってきていたセツナ(注・モモエには配り終わっている)、那由多の席の前にお茶を置く。那由多はドギマギしてただただ呆然。

セツナ「お茶受けに何か買ってきますので、ごゆっくり」
モモエ「あら、おせんべいとか……何もなかったかしら?」
セツナ「ええ、キレイなくらいに、何も」
モモエ「ごめんなさいね、最近会議が多いから——」
セツナ「いえいえ、ではでは」

立ち去るセツナ。モモエ、目を細めてこれを見送る。

モモエ「面白い人よねえ」
那由多「でも、失礼です!」

ブスッとした表情の那由多。

那由多「あそこの姉弟は、いつもそうなんです!人の気持ちにズカズカ入り込んで……」
モモエ「……(微笑んでいる)」
那由多「確かに、この間は……この間のことは感謝してるんだけど、でも……」
モモエ「聞きましたよ、ムリョウ君のこと。シングウを助けに、生身のままで宇宙を飛んだそうですね」

   *   *   *

(回想)
山道を走り、飛び上がるムリョウ。
大気圏を抜け、宇宙を飛ぶ。

   *   *   *

那由多「……」

うつむいて答えない那由多。

   *   *   *

(回想)
シングウに取り付き、叫ぶムリョウ。

ムリョウ「俺も見てる、村田君も見てる。君は、何のためにここにいる!」

   *   *   *

那由多「……」

握った手に力が入る。悔しそうな顔。

モモエ「わかっていても悔しい?」
那由多「!」
モモエ「自分の力不足がわかっていても……わかっているからこそ、悔しい?たとえ人には感謝しているとしても、それはそれ。悔しさは感謝すべき人になぜかぶつけてしまう。だから自己嫌悪……」
那由多「……」

びっくりしてモモエを見る那由多。

モモエ「当たり?」

いたずらっぽく微笑むモモエ。

那由多「……」

赤面してうつむく那由多。

モモエ「……大昔ね、チカラを自在に操る少女がいてね、やっぱりシングウになることが出来たから……自分こそは地球を守ってる! 自分は選ばれた人間だ!プライドが服を着て歩いてる、そんな感じの女の子だったわ」
那由多「……」

庭木をながめながらモモエ、語り始める。陽の光は優しく——

(以下回想・一〇〇年前)
○真守家・当主の間(現在のモモエの間)
セーラー服姿のモモエ、一四歳。
きりっとした太くて黒い眉。
正座をして、上座に向かって挨拶する。

モモエ(少女)「それでは行って参ります」

※当主の顔は見せない。

○天網市内・朝
登校風景。
肩で風切る感じのモモエ、歩く。
道行く他の生徒達、たじろぐ。

モモエ(声)「真守の一族で、シングウのチカラを持つ者は、今現在私だけ。だから戦う。一人で——そんな気負いが頑なにさせたのね」

○同・廊下
歩いているモモエ。遠巻きにして見ている下級生女子達。他の生徒達はチラチラ見るが、知らんぷり。

モモエ(声)「そんな私を、憧れ恐れる人はいたとしても……本当の意味での友人はいなかった」

○同・教室
教師「転入生だ」

教師に紹介されて入ってくる少年。歓声上がる。無表情に見ているモモエ。

少年「よろしく」

モモエに向かって微笑みかける少年。
※少年の顔は絶対に見えない。
何故かドキッとするモモエ。
窓からの陽の光優しく——

(ここから現実)
○真守家・モモエの部屋
セツナ「……」

そーっと廊下よりのぞきこむセツナ。
那由多、モモエの話を真剣に聞いている。それを見てそーっと立ち去るセツナ、手には『かるかん』の箱。

セツナ「おやつはもう少し後ね……」

何処か嬉しそうなセツナ。

   *   *   *

思わず身を乗り出す那由多。

那由多「それが、初恋、ですか?」
モモエ「さあ?(微笑んで)…そ…の時から少女の戦いは始まったの。少女は何かというと少年に突っかかっていったわ。いつもの冷静さはどこへやら、ただのうっかりさんに見えるくらいにムキになって……」
那由多「……」

聞いている那由多、身につまされて思わず赤面、うつむく。

モモエ「少年はチカラの持ち主だった」

(回想)
○天網海岸
夜。燃えている侵略ロボット。
悠然と見ている少年。ダメージを負ったモモエ、倒れ伏しながらその様子を見ている。

モモエ(声)「それも、少女なんか足下に及ばないくらいの、強力なチカラ……」

モモエに向き直り、手を差しのべる少年。一瞬、呆気にとられるも思わずはねのけるモモエ。

(現実)
○真守家・モモエの部屋
相対しているモモエと那由多。
那由多「くやしいですよね、自分の力が……実は大したことないっていうことを認めることは……でも、ここでハイそうですかって素直になっちゃうのも何か違うような気がして……でも、意外です。おばあさまにもそんな事があったなんて」
モモエ「だって私はあなたの先輩だもの。経験だけは色々あるわ」
那由多「だけだなんて、そんなァ」
モモエ「一〇〇年前の空蝉の儀式——」

(回想)
○宇宙空間“敵”と交戦中のシングウ。
両腕より重力波を繰り出すも、苦戦。
一方的に攻撃を受け、立ち往生。

シングウ「オオオオ……」
少年(声)「何をやっている、真守モモエ!」

(現実)
○真守家・モモエの部屋
那由多「え....ッ?! 」

思わず素っ頓狂な声を上げる那由多。

那由多「な、な、なんですか、そのシチュエーション、その展開?! 」

モモエ、ニコニコ笑って答えない。

(回想)
○天網海岸
燃えるような夕焼け。
向かい合っているモモエと少年。

少年「君が危なくなってもまた助けに来てやる。たとえ君が死んでも、その子のその子の代になってもだ」
モモエ「助けはいらない。頼る心はいらない。強き心強き技、私はこの星を守らねばならないから!」

目に涙を浮かべて叫ぶモモエ、くやしそうに、愛おしそうに。

少年「(微笑んで)僕が守るのは君の心、シングウの意志だ」

(現実)
○真守家・モモエの部屋
静かに微笑んでいるモモエ、那由多を見つめている。

那由多「それは…ひょっとしてムリョ……統原君の事ですか?」
セツナ(声)「まさかァ」

見ると廊下にセツナ、代わりのお茶と菓子器を載せた盆を持ち立っている。

セツナ「ま、似たような人間がどの時代にもいるものよ」
那由多「なんですか、それ?」

セツナ、盆を置きながら那由多とやり取り。モモエは二人を微笑みながらながめているが、ふと思い立つ。

モモエ「そうね……強がってみるのもいいかもしれませんね」
那由多「え?」
モモエ「確かにあなたは強くならなければいけない。あなたの意志はシングウの意志なのだから……」
那由多「はあ……」

セツナ、二人を見比べてニヤリ。

セツナ「さて、結論も出たところでよろしいでしょうか?今日のおやつは鹿児島名物“かるかん”でーす!軽い、羊羹の羹と書いて軽羹……」

外は夕方へとその景色を変えている。

那由多「どうでもいいですけど、お姉さん、いつも何処で地方の名産なお菓子、買ってくるんですか?」
セツナ「そりゃー、現地で買ってくるんだよ、ピューって」
那由多「ふざけないで下さい!」

○天網市・全景
夕焼け空。街並みが紅く染まっている。

○小学校前
翌朝。
登校するヘロヘロなハジメとフタバ、交差点で別れる。

フタバ「それじゃ、お兄ちゃん……」
ハジメ「じゃあな……」

歩いていくハジメ。見送るフタバと待ち合わせしたミドリとユカリ。

ミドリ「どうしたの、一体?」
フタバ「ちょっとね、辛いことがあったんだよ、昨日……」
ユカリ「(他人事)大変だね」
フタバ「(しみじみと)そう、大変……」

○陸橋
スタスタと歩いているムリョウ。

ハジメ「ムリョウくーん!」

背後から声を掛けるハジメ。

ムリョウ「やあ、村田君」
ハジメ「君は平気なの?」
ムリョウ「え?ああ、昨日のジルトーシュさん家の引っ越しかぁ。大変だったね」
ハジメ「やっぱり鍛えてる人は違うよなあ……夏休みはちょっと運動しよう」

二人並んで歩き出す。

○御統中学・アプローチ
裏門を通り抜ける二人。
セーラー服姿の那由多、仁王立ちで待っている。

ハジメ・ムリョウ「?」
那由多「統原無量!村田始!」
ハジメ「はい?」
ムリョウ「どうしたの?それ?」
那由多「この服は決意の証です。あんたには絶対負けない!! 」
生徒達「おーーッ!」

歓声を上げる野次馬の生徒達。

   *   *   *

その様子を屋上からながめているセツナとモモエ。

セツナ「あーあ、このままアツアツベタベタ路線まっしぐらかと思ったんだけどなァ」
モモエ「その一方でお揃い、って感じかも……セーラー服、貸した甲斐があったわねえ」
セツナ「(おどけて)戦うカップル、ですかな」

ほくそ笑む二人。下では野次馬が沢山取り巻きヤンヤの歓声。

那由多「行くぞーーー!」
生徒達「おーーッ!」

   *   *   *

プロレスのマイクアピールよろしく、声高らかに那由多。

那由多「——文化祭もドーンと来なさい!お祭りクラブ、いいでしょう!申請受理!おやりなさい!あなた方が何を企もうとも私は自主と自立の御統中学の精神に則り、公平な生徒会運営をいたします!」
生徒達「おーーッ!」

無責任な割れんばかりの拍手。鼻息も荒く那由多、ギロリとムリョウとハジメを睨み付ける。

ハジメ「はは……」

さすがに苦笑いのハジメとムリョウ。

NR「何が何だかわからないけど、守山君も元気になったし、文化祭の参加申請もいつの間にやらOKらしい。めでたいようなコワイような。あとは夏休みに向かって一直
線、というわけで……」

○同・昇降口
笹飾りに那由多の短冊。

絶負けない!

NR「……続きは次回」

         (第一二話・完)

☆二〇〇字詰七九枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)