第4話『動き出す、とき』

学園戦記ムリョウ

第四話『動き出す、とき』(第一稿)

2000・4・29

脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ)※ナレーション
統原瀬津名(スバル・セツナ)
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)

成田ジロウ(ナリタ・ジロウ)
川森アツシ(カワモリ・アツシ)
三上トシオ(ミカミ・トシオ)
真弓ツカサ(マユミ・ツカサ)
進藤アキミ(シンドウ・アキミ)

真守モモエ(サネモリ・モモエ)
山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)

ヴェルン星人
ザイグル星人

生徒A
柔道部長
剣道部長
週番委員
サッカー部長
野球部長
陸上部長
バレー部長
バスケット部長
テニス部長
体操部長
『こなや』店主
その妻
商工会長
世話人
二年A組体育祭実行委員
三年B組体育祭実行委員
他生徒達

○真守家・大広間
夜。行灯風の暗い照明。
向かい合って座る二つの影。
真守モモエと山本である。
ファイル状の情報端末を見るモモエ。
ウインドウに次々と表示されるハジメのパーソナルデータ。

山本「村田始、十三歳。通称ハッちゃん。私のクラスの学級委員です」

日々の学園生活が映し出される。
モモエ、にこやかにこれを眺める。

モモエ「その子の家は、外からの引っ越し組なのですね」
山本「五年前に東京から……父親は商社に勤めるサラリーマンで長期出張中。現在、母と妹との三人暮らしです」

ハジメがムリョウと京一の私闘に立ち会っていたり公園で那由多と接触しているところの写真がスライドショー。

モモエ「この子は……ハジメ君は本当に見てしまったのですか?」
山本「はい、見てしまいました」

シングウとシーカー2の戦い——
ハジメと一緒にいるムリョウの写真、次いでムリョウの写真が映る。

モモエ「はぁ、あの子が来てからどんどんどんどん、動いていきますね」
山本「ええ、そうですね」

何故か嬉しそうな表情の二人。

○同・ムリョウの離れ
部屋の真ん中で寝ているムリョウ。傍らにはセツナ、頬杖ついてその寝顔を眺めている。
優しい微笑み。

セツナ「よッ、色男。モテモテじゃん」

穏やかな寝顔のムリョウ。

○オープニング

○天網市内
登校風景。

(サブタイトル『動き出す、とき』)

ハジメ歩いている。
街の人々、さりげなくハジメを見ている。気になるハジメだが、ことさら気にすることなくマイペース。

NR「最近、道を歩くと人の目が気になる。何となくなので人には聞けないし、それより何より今は、眠い」

大あくびをするハジメ。

ムリョウ「おはよう、委員長!」

後ろからやって来るムリョウ。

ハジメ「やあ、おはよう」

大あくびのハジメ。

ムリョウ「どうしたの?」
ハジメ「いやー、何か眠れなかったんだよね」

     *   *   *

(三話の回想)裏山・高台
瞬「僕らの秘密、彼に見られちゃってるんですけど……」

立ちつくす一同。

     *   *   *

ハジメ「あのあと何ンにもなく無罪放免、って感じだったじゃない。また夜中に守山さんがお面付けてやって来るんじゃないかって気になって気になって……ふぁァ」

大あくびのハジメ。ムリョウはニヤニヤと。

那由多「誰がやって来るって?」

後ろに那由多立っていた。

ハジメ「うわっ、出たッ!」
那由多「失礼ねえ、安心なさい。私達があなたをどうこうするってことは、もうありません!」
ハジメ「え?」
那由多「もっと上のレベルの話になっちゃったから……そんなことより!」

急にムリョウの方を向く那由多。

那由多「ム、ムリョウ君!」

いきなり名前を呼ぶ那由多。かなり無理しているのか顔が赤い。

ムリョウ「はい?」
那由多「あなたの言葉、私……一晩じゅう何度も何度も何度も何度も胸の中で繰り返して考えました」
ムリョウ「どの言葉だい?」
那由多「と、とにかくっ!これだけは言っときます!統原無量ッ!! 」
ムリョウ「何?」
那由多「(一気呵成に)ありがとう御免なさいとっても勉強になりました。そしてっ!」
ムリョウ「そして?」

キッと顔をムリョウの鼻先に近づけて

那由多「大っ嫌い!あんたなんて嫌い嫌い嫌いのだーーーーいっきらいッ!」
生徒達「おおーーーっ!」

三人、やり取りをしながら学校のそばまでやって来ていた。彼達を取り囲む生徒達。

生徒A「よっ、朝から痴話喧嘩かァ?」
那由多「な…」
生徒B「ヒューヒュー」
瞬「副会長は転校生がお・す・き」
那由多「瞬!!」

追いかける那由多。逃げる瞬。
大笑いの一同。

ハジメ「ははは、守山さんって結構ひょうきんだねえ。生真面目ゆえの大ボケかな?」

そんなハジメに苦笑いのムリョウ。

ムリョウ「寝不足だけで済んでるんだからいいんじゃない?君はホントに大物だよ」

予鈴のチャイム鳴る。

NR「そう、事態は遙かに重大且つ深刻な状況下にあった……らしいのだけれど、そんな事フツーの中学二年生になどわかるわけは当然なく——」

○同・二年C組
授業風景。
ぼーっとしてるハジメ。

○天網市・城跡周辺
城跡にある御統中学を遠くから眺める人影が一つ——

ザイグル星人「……」
ヴェルン星人「君かい?ノコノコ出てきた田舎者ってえのは」不意に声をかける声。ザイグル星人振
り返ると一人の男——ヴェルン星人が立っている。
ザイグル星人は相変わらずのトレンチコート姿。対してヴェルン星人は短パンアロハシャツのサーファールック(髪も金髪) 。

ザイグル星人「ナニモノ?」
ヴェルン星人「それはこっちが聞きたいな。よし、ちょっと来たまえ、ごちそうしよう」

○甘味茶屋「こなや」
ひなびた感じの店内。
店主は奥の座敷で妻とTVを見ている。
客は餡蜜を食べる宇宙人二人組のみ。

ヴェルン星人「そうか、君はザイグル星人か……何でこの星に来たんだい?」
ザイグル星人「オマエは何者だ?ナゼ我々の星のことを知っている?」
ヴェルン星人「連邦に所属している星の情勢、歴史——大抵のことならことなら外交大使ならば知ってるのが常識なのさ」
ザイグル星人「大使?」
ヴェルン星人「忠告してあげよう。ここにはここのルールがある。即刻母星に帰り給え、地球人にやられる前に」
ザイグル星人「!! 」

奥座敷のTVでは仕込みのオバサン達の笑い声が響く。一緒に笑う店主達。
起こって立ち上がるザイグル星人。

ザイグル星人「我々が地球人に?! フザケルナ!我々は——」
ヴェルン星人「ザイグル星人だ、ってんだろ? 知ってるよ。君らの星を銀河連邦に推薦したのは僕の星だからね」
ザイグル星人「ナニ?! 」
ヴェルン星人「僕は、ヴェルン星人ジルトーシュ。銀河連邦お墨付きの第一級外交官だ」

差し上げた手のひらに浮かぶ銀河連邦のマーク。

○真守家・大広間
モモエが市のトップの人々と話している。
商工会長は市の商店街のまとめ役。
世話人は祭りのまとめ役。
若頭は祭りの実行委員的な役割。

モモエ「では……村田始なる少年の件は私に一任していただけますね」
商工会長「我らは構いませんが、他の四家の方々は……」
モモエ「大丈夫。私が何とかしましょう」
世話人「モモエ様、いつになく張り切っておられですな」

ニッコリ微笑むモモエ。

モモエ「ええ。何か昔を思い出しちゃったみたいです」

静かに笑い合う一同。

○同・廊下
セツナ、縁側に腰掛けている。
セツナ「あーあ、早く帰ってこないかなー」

○御統中学・全景
チャイムが鳴っている。

○同・二年C組
扉を勢いよく開けて那由多登場。

那由多「統原無量君、お願いします!」
ハジメ「?」
ムリョウ「何だ、また君か」

ズカズカと教室に入ってくる那由多、ムリョウの席の前に仁王立ち。

那由多「あなた、本気なの?」
ムリョウ「何が?」
那由多「さっき瞬をシメたついでに聞きました。体育祭文化祭の実行委員に立候補!体育祭の応援団長ってどういうこと?! 」
ムリョウ「どういうことって君が言った通りのことだけど」

バンと机に手をついて那由多。

那由多「あなた、生徒会活動をナメてるんじゃないの?! 」
ムリョウ「ナメてないけど」
那由多「そのシレッとした態度がナメてるっていうの!どういうつもり?」
ムリョウ「君とお近づきになりたくて、ってんじゃダメかなあ?」
那由多「な…」
ムリョウ「結構可愛いよね、君」

絶句する那由多、顔が真っ赤。すかさず盛り上がる教室内外。

クラス一同「おおおーーーっ!」
那由多「バ、バっかじゃないの?ふざけないでよ、ホントに!! 」

ハジメを中心に盛り上がる生徒達。

ツカサ「やっぱり朝の事は伏線だったのね」
ハジメ「そうなんじゃないかな」
アキミ「キャー、詳しく詳しく!」
那由多「こらーっ、そこっ!」

あらためてムリョウに向き直る那由多。

那由多「わかってるわよ、運動部の勧誘から逃げようとして我が生徒会を利用しようなんて…許しません!! 」
ムリョウ「だって君の仲間のアイディアだよ」
那由多「だーめ!」
ムリョウ「なんでさ」

自分の胸をポンと叩く那由多。

那由多「私は!私は両立させてます!」

突如教室に雪崩れ込む運動部会。

柔道部長「ムリョウ君!」
剣道部長「そうとも、文武両道さ!」

一斉にムリョウを取り囲む部長達。

ムリョウ「いやー、そう言われても」
サッカー部「ぜひウチに!」
野球部長「ウチに!」
陸上部長「ウチに!」
部長一同「ウチに!」
ムリョウ「うーん」
ハジメ「どれか一つの部、って言われても困っちゃうよねえ」

ハジメの助け船にニヤリと笑う那由多。

那由多「フ……じゃあ、こうしましょう。一つがダメなら全部。助っ人として全ての部のお役に立ちなさい!」
ムリョウ「げ。何だよそりゃ」

不意に机に飛び上がり、そのままジャンプ。廊下に飛び出し逃げるムリョウ。

一同「おおーーっ!」
柔道部「見たか、あの身のこなし!」
野球部長「追え、追えーっ!」

飛び出していく運動部会。
呆然と見送る二年C組一同。

ハジメ「……」

突然、ハジメの脳裏に響く声。

那由多(声)「屋上に……」

驚くハジメ、那由多の方を向く。

那由多(声)「屋上に来て」

口の前に人差し指を立て、出口前にさりげなく立つ那由多。先程と打って変わって厳しい表情。

○同・屋上
向かい合うハジメと那由多。

那由多「……」
ハジメ「何だよ。朝、もう僕らには構わない、って言ってたじゃない」
那由多「村田君、何も言わずこれを受けてちょうだい」

ポケットから金属棒を取り出す那由多。
金属棒、パラボラ状に展開する。

ハジメ「またそれ?あの宇宙人といい君といい、何なのそれは?」
那由多「銀河連邦公認のパラライザー…神経系を麻痺させたり脳神経に細工をしたり…」
ハジメ「え?」
那由多「あなたの記憶、消させてもらうわ」
ハジメ「ええっ?! 」
那由多「おととい……あの時やってしまえばよかった」

     *   *   *

(二話回想)
寝ているハジメを襲う黒装束の那由多。
逃げるハジメ。追いかける那由多。
那由多の手にはパラライザー。

     *   *   *

ハジメ「ちょ、ちょっと待ってよ、何だよやるって?僕の記憶ってどの記憶?」
那由多「私のチカラ、シングウの秘密、その他色々ここ数日のあなたの記憶!」

那由多、左手を前に突き出す。

ハジメ身動きが出来なくなり、棒立ち。

ハジメ「う…最近俺、こればっか……」

ハジメの口を押さえ、パラライザーを稼動させる那由多。

那由多「これもあなたのためよ、村田君」
ハジメ「むー、うーッ」

必死の形相の那由多。

那由多「ゴメン、村田君!」
ハジメ「むー、むーッ」

ブウンと音を立てるパラライザー。
恐怖するハジメ。

セツナ「うわー、エッチぃー」

間の抜けた女性の声、呑気に。

那由多「?! 」

ギョッとして辺りを見回す那由多。
押さえていたチカラが消え、その場に座り込むハジメ。

ハジメ「ふえ~~……」
セツナ「積極的な子はいいわねえ」

給水タンクの処に座っているセツナ。

セツナ「でも、トンチンカンは嫌われちゃうぞ、那由多ちゃん♪」
那由多「誰?」
ハジメ「セツナ……さん」
セツナ「ハジメ君、大丈夫ゥ?」
那由多「え?」

ひょいと飛び降りるセツナ、瞬間移動すると那由多の隣に。

那由多「!? 」

那由多の耳元に口を近づけるセツナ。

那由多「あ…」

さりげなくパラライザーを取り上げるセツナ、ささやいて。

セツナ「自分を追いつめないで。モモエおバアちゃんが会ってくれるそうよ、ハジメ君にね」
那由多「本家のお祖母ちゃんが?」
ハジメ「……え?え?」
セツナ「それにしても、不用心はいけないよ。ほい♪」

指を鳴らすセツナ。チカラの発動。途端に屋上の扉が開き、雪崩れ込んで倒れるクラスメート達。

一同「うわーーっ!」
那由多「な。」
ハジメ「何だよお前らッ?! 」
ジロウ「ヘヘヘ…なかなか開かなくてさ」
アツシ「このドア壊れてるよ!」
那由多「!」

ニコッと微笑むセツナ。

セツナ「そうそう、あの子におべんと持って来たのよね」

○同・二年C組
昼休み。
机を寄せ合って弁当を食べるハジメ達。
憮然とした表情のムリョウ。
机の上にはラブラブな趣向を凝らした弁当がちょこんと載っている。

ジロウ「おおー、うらやましー」
ムリョウ「食べるかい?」
ジロウ「うひょー、ラッキー」
ハジメ「バカ、やめろよ。悪いだろ」
ジロウ「ちぇっ、いい子ちゃんだなあ」
ハジメ「委員長だからいいんだよ」
ジロウ「おーーい、座布団持ってけ!」
アツシ「でもさ、守山と屋上で何してたの?」
ハジメ「きょーかつ並びに説得ってとこかな」
ジロウ「恐喝?」
ハジメ「(那由多の口まね)『統原無量を何とかしなさい!委員長でしょ!』ってね」
ムリョウ「ははは」
トシオ「何かスゴイね、このクラス」
ハジメ「何が?」
トシオ「ムリョウ君にハジメ君、何かフツーじゃない人間が二人もいるんだ。これはスゴイ事だよ」

うなずくジロウとアツシ。

ハジメ「何だよ、人を変わり者扱いして。統原君はとにかく、俺は普通の男の子だゾ」

弁当をかき込むハジメ。

ジロウ「普通じゃない普通な男の子」
ハジメ「てめーっ」

静かに微笑むムリョウ。

○同・屋上
給水タンクの上で焼きそばパンを食べている那由多。仏頂面。
脳裏をよぎるセツナの行動。

那由多「(ブツブツと)あの人は私の代わりに誰も屋上に入れないようにしていた。普段だったらしっかり者のこの私が、あの子達が絡むと大マヌケ連発のうっかりさんじゃない…未熟!未熟!未熟未熟未熟!! 」

立ち上がって叫ぶ那由多。

那由多「しっかりしろ!わたしーーッ!」

その下に解説者よろしく瞬、ポツリ。

瞬「どうでもいいけど独り言を大声で言うのはやめた方がいいよね」

上から紙パック牛乳が瞬の頭に命中。

瞬「てっ」

○アイキャッチ

○御統中学・点景
体育館前。
部活の準備をする生徒達。
下校する生徒達。

○同・生徒会室
瞬、京一、晴美が広報委員・稲垣ひかると生徒会新聞(壁新聞並びに配布版の原稿)の作成中。パソコンでDTP原稿を作成しているのはひかる。三人は床に広げた大きな紙に手書きで記事を書き込んでいる。

京一「何い?! 那由多とムリョウがアツアツだとぉ?! 」
瞬「朝から那由多がアタック、とかムリョウ君の熱愛宣言、とか学校中の噂になってるよ」
京一「学校中?俺は知らんぞ!」
ひかる「私、知ってまーす」
晴美「(うつむいて)私も……」

愕然とする京一。

京一「那由多は…あんなインチキ野郎に惚れたというのか……」
瞬「インチキって、実力は京一さんがよく知ってるじゃない。それにいいんじゃないの? 那由多みたいなじゃじゃ馬はああいう変わった人がお似合いだよ」
ひかる「どうでもいいけど、守機、あんた牛乳臭いよ」
瞬「じゃじゃ馬が悪いんだよ」
ひかる「牛乳は牛だよ」
京一「馬だ!」
瞬・ひかる「は?」
京一「真守の家を守る者が、そんな何処の馬の骨かもわからない男と付き合うとは、絶対に許せん!」

握っていたマジック、グニャと曲がる。それを複雑な表情で見る、晴美。

○同・会議室
黒板には『第一回体育祭実行委員会』。
二年C組はムリョウが出席。
司会は八葉。
那由多は体育祭の動議中。

那由多「(仏頂面で)えー、と、いうわけで二年C組の統原無量君が白組応援団長に立候補しました。従来、三年生の体育委員内の話し合いによる候補者選出並びに決定、というのが流れでしたが、今回はそれよりも先に、二年C組の委員長より統原君立候補の知らせを受けました……それで皆さんに」
ムリョウ「あの、すいません」

呑気そうに手を挙げるムリョウ。

那由多「!(ピクッと)」
八葉「何ですか、二年C組?」
ムリョウ「えー、立候補した者なんですけど、ダメなんですか?要するに?」
八葉「いや、それは…」

カッとなった那由多、机をバンと叩く。

那由多「まだ話が済んでません!最後まで聞きなさい!」
八葉「(那由多に)コラコラ…(ムリョウに) ダメじゃないですよ。ただ、三年諸君はどうなのかな、ということです。ぶっちゃけた話、どう?三年生?」

振られて三年B組手を挙げる。

八葉「B組」
三年B組「僕は別にいいと思います。さっき他の連中とも話したんだけど、やりたい人間がやるのが一番じゃないかと」

周りの三年の委員達もうなづく。

手を挙げる二年A組。

八葉「二年A組」
二年A組「でも…あ、別に二Cの人にいちゃもんつけるわけじゃないんですけど、他の三年……運動部の人達はどうなんですか?体育祭というとやっぱり運動部の人たちが活躍するんだから、いきなり転校生が団長というのは……」
那由多「(嬉しげに)そうです!つまりはここにいる人間だけでこの件を決定していいのかということです。ましてや二年C組の立候補者は転校して来てまだまもないのです。当然、我が校にも慣れてはいない、半分お客さんのようなものです。彼の熱意は認めますが、如何な(ものでしょう?)……」
柔道部長「待った!」

そこへ再び雪崩れ込む運動部会。

ムリョウ「わ、出た」
柔道部長「柔道部は、賛成だ!」
剣道部長「剣道部も、賛成だ!」
野球部長「野球部もそうだ!」
他の部長「以下同文!」
那由多「な……」
柔道部長「或る情報提供者のおかげで、我々運動部会は、生徒会の横暴を阻止するために馳せ参じた!」
八葉「横暴?」

○同・生徒会室
入り口に慌てた様子の週番委員がいる。
京一「何?! 運動部会が乱入?」
週番「ああ。どうやら運動部総出で統原無量を応援団長にするつもりらしい」
京一「すぅばるぅうう…」

怒りの京一、立ち上がるなり廊下に飛び出していく。

ひかる「守口ィ」

血相変えて駆け去る京一。
廊下に出て見送る一同。

ひかる「はあ~」
週番「これでいいのかい?」
瞬「ええ、サンキューです」
ひかる「あ、ひょっとして黒幕君?」
瞬「へへへ」
晴美「……」

かすかに微笑む晴美。

○同・会議室
野球部長「自主と自立の御統中学校を独占せしめんとする生徒会の横暴に我々は、断固抗議する!」
那由多「ちょ、ちょっと、言いがかりです!」
剣道部長「我々はァ、統原無量君の類い希なる運動能力を目の当たりにしてェ、そしてッ、感動した!」
柔道部長「彼は体育祭のために生まれてきた男だ!ほぼそうだ!」

目をパチクリとするムリョウ。

柔道部長「しかし、生徒会はァ、無量君のォ、応援団長の立候補の意志を無視し——」
那由多「無視してません!」

怖い顔の那由多。びびる柔道部長。

柔道部長「つ、つまり、我々を初めとした体育会の生徒達は全面的に統原無量君の応援団長就任を応援する、そういうわけだ!」
他の部長「その通り!」

拍手する部長達。ムリョウの周囲もつられて拍手。

八葉「本当に、いいのかい?」
柔道部長「勿論だ!」
八葉「えー、では……」
那由多「ちょっと待ってよ八葉さん!」

そこへ京一入って来る。

京一「待つ必要はないぞ、八葉!」
那由多「京一!あなた、自分の仕事の方は……」

中央まで歩み寄ると京一、ムリョウを指さして怖い顔。

京一「統原無量!お前が白組の団長なら、この俺が紅組の団長に立候補する!」
一同「おおーーっ!」
那由多「ちょ、ちょっと何なのそれ?」
京一「最後の騎馬戦でお前をぶっ潰す!」
一同「おおーーっ!」
八葉「ハイ、皆さん、ではそういうわけで……」
那由多「会長!」

見つめ合うムリョウと京一。
睨み付ける京一に対し、ムリョウは淡々。
その間、八葉は二人の名前を板書。

団長決定
白組 統原無量
紅組 守口京一

ひかると瞬、飛び込んでくる。

ひかる「お邪魔しまーす」

パチパチと写真撮るひかる。

ひかる「いいねえいいねえ、対決ムード満点よォ」

部長達にインタビューする瞬。

瞬「えーと、今年の体育祭について一言」
柔道部長「やっぱり白かな」
京一「赤に決まっている!」

周囲から祝福されるムリョウ。

「おめでとう統原君」
「おめでとう!」
ムリョウ「いやあ、ありがとう」

これらの様子を呆然と見ている那由多。

那由多「何なの、この展開……」
一人静かに微笑む八葉。

○同・職員室
窓から外を見ている山本。
部活をしている生徒達。
思い出し笑い。ニヤニヤしている山本。

○真守家・全景
午後。

○同・大広間
中央にぽつんと一人座っているハジメ。
どこか落ち着かない様子。

NR「学校では、まさに激動の会議が行われていたその時に、僕もまた激動の時を迎えていたわけで――」

上座には真守モモエと先程の世話人達。

モモエ「あなたが、村田ハジメ君?」
ハジメ「はい」

微笑むモモエ。

モモエ「シングウの秘密を見たとは本当?」
ハジメ「シングウ?」
モモエ「白い巨人」
ハジメ「ああ…秘密っていうと……」

     *   *   *

(三話回想)
シングウの一部となる那由多。

     *   *   *

ハジメ「やっぱり、守山さんがその、シングウってヤツに変身することでしょうか」

じっとハジメを見つめるモモエ。
モモエを見るハジメ、照れくさそう。

モモエ「どう、思った?」
ハジメ「どう思った、って?」
モモエ「那由多ちゃんが化け物になっちゃったのを見て、どう思ったか」
ハジメ「ああ、驚きました……だけど」
モモエ「だけど?」
ハジメ「何となく、ああ、あの子らしいなって思ったりして」
モモエ「あの子らしい?」
ハジメ「はい……何となく、なんですけど」
モモエ「京一君が使ったチカラを見てどう思ったの?」
ハジメ「何だ、こいつら……って。あ、ムリョウ君も使ってたんでこいつら、なんですけど。変ですよね、普通だったら大変だーってパニクっちゃうんでしょうけど……僕はそれより……」
モモエ「それよりも?」
ハジメ「僕はそれよりも、もっと知りたい。ムリョウ君のこと、守山さんのこと、この街のこと」
モモエ「なぜ?」
ハジメ「なぜ、って……」

少し考えるハジメ、顔を赤らめながら

ハジメ「みんな好きだから、でしょうか」

モモエ、軽くうなずいて

モモエ「それでは皆さん、この場は私に任せてください」
世話人達「仰せのままに!」

顔は平静に、一斉に頭を下げる四人。

ハジメ「!」

思わずペコリとお辞儀するハジメ。

○天網市内
ムリョウ、下校する。
その後に続く那由多。

ムリョウ「そんなに気になるわけ?ハジメが……それとも俺の方?」
那由多「あんたってホントに自意識過剰ね、大ッ嫌い!そうよ村田君よ。心配なの!」
ムリョウ「ふーん」
那由多「そういう意味じゃない!」

ムッとする那由多。
商店街を通る二人。さりげなく見送る街の人々、どこか探るような目。

○同・真守家前
門の前でセツナが二人を通せんぼしている。手を腰に当て仁王立ち。

セツナ「だーめ、ハジメ君には会わせられませーん」
那由多「何でです?」
ムリョウ「委員長が心配なんだって。確かに夜中に襲ったり屋上で襲ったり、悪いことばかりしてたからね」
那由多「あんた!」
セツナ「まあまあ。ハジメ君は今、大事なところだからね……あなたも小さいときに受けたおまじない」

ハッとなる那由多。

那由多「!で、でもあれは余所者には……」
ムリョウ「彼なら大丈夫だよ」

優しく那由多を見るムリョウ。

那由多「……」
セツナ「さあさあ。何はともあれ、離れでお茶でもいかが?おいしいお饅頭を買ってきたのよね」

招き入れるセツナ。

ムリョウ「どうでもいいけど何で昨日から姉ちゃんいるんだよ」
那由多「うそ!この人あんたのお姉さん?! 」

空はいつしか夕方のそれになっている。

○真守家・モモエの部屋
八畳間ほどの和室。
向かい合って座るハジメとモモエ。

モモエ「これは過去二千年もの長きにわたる我らの歴史に於いては初めての試みです」

神妙に聞いているハジメ。

モモエ「でも、この日がいつか来ることは、遠き先人が予言しておりました。人の進歩、人の住む世界の広がり……人が宇宙を近いものと認識すればこそ、人は更なる高みに昇るのです」
ハジメ「あ……」

モモエの手のしわが消えていく。
背筋が伸びてくる。
顔のしわが消えてくる。
落ちくぼんだ目がせり出してくる。
もとどりが外れ、長い黒髪が肩を覆う。

モモエ「伝えましょう、宇宙の歴史…銀河連邦国家の成立の歴史。そして我ら、天網の民の“監視者”としての成り立ちを——」

右手を上げるモモエ。その姿はもはや老婆ではなく、那由多と同じくらいの少女の姿。

ハジメ「……」
目を丸くして見つめているハジメ。
モモエの右の手のひらにはヴェルン星人と同様の銀河連邦のマークが——
少女モモエ、右手をハジメの目の前にゆっくりと突き出す。

○天網市・駅ビル屋上
夕景。宇宙人二人組がいるだけ。
金網越しに夕景を見るヴェルン星人。
ザイグル星人は無表情。

ヴェルン星人「ここ太陽系は、かつての我々の祖先にとって、未知の世界であり、新たなるスターロードを見つけるべく各惑星は競って探査船を走らせた。はるか昔の大昔の話さ——」

○真守家・モモエの部屋
モモエ(少女)「手を……合わせて」

おずおずとハジメ、右手をモモエの手に合わせる。見つめ合う二人。

ハジメ「何だか恥ずかしいです」
モモエ(少女)「目をつぶって……あなたの心、私に委ねて」

ゆっくりと目をつぶるハジメ。閉じたまぶたの裏に突如広がる光の奔流。
びっくりしたハジメ、目を開けるとそこは光の奔流の渦中。ハジメに向かって飛んでくる沢山の宇宙船。

ハジメ「うわーーっ」

絶叫する、ハジメ。

○村田家・食堂
テーブルには夕食の支度。
キョウコとフタバ座っている。

フタバ「お兄ちゃん、遅いね」
キョウコ「お友達の家に行ってるんだって。例の転校生♪」

○天網市・林
すでに夜。
木を相手に正拳突きの練習の京一。
怖い形相の京一。
物陰から見ている晴美。

○真守家・ムリョウの離れ
酔っぱらってるセツナ、執拗に那由多に絡んでいる。

セツナ「ねえねえ誰が好きなの?ムリョウ? ハジメちゃん?それともそれとも?」
那由多「あーもー酒くさーい!何とかしてよこの人、ねえ」
ムリョウ「はははは」

饅頭食べながら楽しそうなムリョウ。
外は綺麗な星空。

ハジメ「うわーーーーーーっ!」

相変わらず絶叫しているハジメ。

NR「様々な人がそれぞれの夜を送り、様々な明日を迎える。僕の明日はどんな明日なのか?この続きは次回——」

         (第四話・完)

☆二〇〇字詰七九枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)