高円寺酔生夢死 第06回

最近、女の事ばかり考えている。

──といっても、恋に焦がれているわけではない。今度の新番組のキャラクター達について考えている。詳細は省略するが、主人公は女子高生ながらに宇宙海賊の船長をやっているという、近年まれに見るスペースオペラな宇宙モノである。そして何より、今回の作品は女キャラクターが気持ちの良いくらいに多いのだ。主人公は女子校に通い、女だらけのカフェでアルバイトをしている。何より彼女が所属する宇宙ヨット部には様々な部員達が跋扈して…こうして書くと、いかにも可愛い美少女ばかりのキャッキャウフフの世界が展開されそうであるが、これが実に『漢』らしさ満載。宇宙では些細な事が命取りとなる。瞬間瞬間において決断し、どんどん前に向かって進んでいかなければならない。そんな世界の中で生きていく主人公は成長し、タフになっていく。

こうした場合、主人公の性格設定をボケキャラ気味に寄せておくのが最近の傾向だ。愛嬌があれば、多少脚本や演出でしくじっても、ボケの可愛さで逃げられる。しかし、それは日常メインのドラマの場合。アニメとはいえ、ある程度は宇宙の魅力を描いていくならば、同時に「厳しさ」も描かなければ説得力がなくなる。加えて、宇宙船の船長であるならば、その胆力によってクルー達からの信頼を勝ち得ていかなければならない。単なるお気楽おバカキャラだけど、彼女が「良い子」「いいひと」だからみんながついて行く、というのはコメディならばあり得るかもしれない(『機動船艦ナデシコ』は敢えてそうした)けれど、今回はその辺り、ちゃんとやりたいと思ってしまった。さて、主人公はどういう女の子にしたものか?

そんなこんなで悩みつつ、いつものように酒をカウンターで飲んでいると、後ろのテーブルでは男女が何やら話している。サトウが思わず「?」となったのは女性が言ったこのフレーズ。

「あたしって男前なんすよね」

どうやら、同級生や後輩の女子からモテている事を言っているらしい。しかし、そこはかとなく感じる違和感は何だろう。その疑問は、後日、カウンター仲間の女史がバッサリと斬りつつも解説してくれた。

「そういう子はね、自覚無自覚問わずアピールしてるのよ、言ってる男にね」

男前をアピールする事で、開けっぴろげで快活な性格だと男性に思われたい、そんな明け透けな思惑が端から感じられるから気持ち悪い、と彼女は言った。

「大体、男前をアピールする男前なんていないでしょ?そういう子は大抵、男に貢がせてるわよ。そういうの、少なくともあたしはキライ」

その時、全く関係のない飲み屋の会話から、新番組への閃きが生まれた。

「茉莉香(主人公の名前です)は真の男前な女子にしよう!」

今回の作品の主人公は、まずは同性である女子学生達に人気がある。だとしたら男に媚びた男前ではない、マコトの男前女子でなければならない。いや、男前という言い方は変えよう(今の流れだと何となくゲンが悪いし)。

「そうだ、ハンサムで行こう!」

 日々のヒントは酒場のカウンターにある。ハンサムについてはまた次回にでも。

(2010年7月1日公開分)

※後述

件の新番組とは2012年に放映された『モーレツ宇宙海賊』のことである。文芸作業は2009年の10月からなので、本来は『高円寺酔生夢死』を再開する前のネタである。この原稿を書いている時点では、既に第8話から第12話までを一気に書き上げようかというタイミングなのでヒロインについての迷いは全く無く、一気に後半戦へ向かおうという勢い。その辺りあらためて自分の思いを文章にしたかったのではないかと。或いは仕事でびっしりだったので余裕が無くてちょっと前のネタを引っ張り出した…のかもしれない。

いずれにしても「ハンサムな彼女で行こう!」というのは企画立ち上げの頃からのサトウの思いであったのは間違いない。

ちなみにこの頃、まだYOMBAN廃刊の予定に関しては知らされていない。したがって『ハンサム』についての続きは残念だが書く事はなかった。


読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)