第25話『虚人、めざめる』

学園戦記ムリョウ

第二五話『虚人、めざめる』(第一稿)

脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ)※ナレーション
統原瀬津名(スバル・セツナ)
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機 瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)

成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
三上利夫(ミカミ・トシオ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)
堀口正夫(ホリグチ・マサオ)

村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)
村田和夫(ムラタ・カズオ)

統原阿僧祇(スバル・アソウギ)
真守百恵(サネモリ・モモエ)
津守十全(ツモリ・ジュウゼン)
守山 載(モリヤマ・サイ)
守口 壌(モリグチ・ジョウ)
守機 漠(モリハタ・バク)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
妙見彼方(ミョウケン・カナタ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル

伊藤官房長官

部下A
生徒達

○那由多の心
光の奔流。
水泡がきらめき流れている。
その中を進む那由多。
声が聞こえる。

声(男)「ホシノチカラ、シングウノチカラ、躯は新たな依り代になる」
那由多「……」
声(女)「己であって己でなし。身を任せ、流れに乗れ。シングウになるときの、あの感触を思い出せ」

那由多の体、シルエットはそのままに粒子状になる。

声(男)「次なるときへ、お前は進む。躯を依り代へ、依り代をおのが体とするときへ」
那由多「クッ……」

粒子状の那由多、苦しそう。実体が保ち辛いのか何度も拡散しそうになる。

声(女)「そしてお前は気付くであろう。シングウのチカラの、本当の力。シングウのチカラの、本当の意味を――」
那由多「気付いていない、まだ何もわかっていないけど本当の力、今欲しい!」

分解しそうになる那由多。

那由多「本当の力!本当の意味!」

那由多の脳裏に次々と浮かぶ映像――
父母、そして天網市――
生徒会と学園生活――
ハジメとムリョウ――

那由多「みんなを守る、強い力!」

体内からみなぎる光。
那由多、はじける。

○天網海岸
ジルトーシュ「フフ……」
ウエンヌル「どうしました?」

砂浜に立っているのは磯崎を加えた宇宙人三人のみ。上空には宇宙船が浮かび、薄暗い。

ジルトーシュ「依り代は体になった」
ウエンヌル「?」
磯崎「……」

硬い顔の磯崎。

○真守家・大広間
穏やかに虚空を見る妙見にソパル星人。
じっと座るモモエ、厳しい表情。

○宇宙空間
月軌道より内側、細かい光が寄り集まってシングウになる。あたかも荒神のようなその形相。

シングウ「ウオオオオオオ……」

紅く光る瞳――

○オープニング

○御統中学・校庭
皆、一様に虚空を見つめている。
上空には宇宙船。

(サブタイトル『虚人、めざめる』)

ハジメ「……」

呆然と見上げるハジメ。

   *   *   *

(二四話回想)
校庭から数メートルの高さで静止しているシングウ、全身が光り出す。

那由多(声)「私、みんなを守る!大好きなみんなを!」
ハジメ「守山さん!」
八葉「那由多!」
晴美「那由多ちゃん!」
京一「なゆたぁぁぁッ!」

弾けて消えるシングウ、花びらが舞う。

ハジメ「守山さん!」

   *   *   *

不安げな生徒達。なかには泣いている女子生徒もいる。

NR「守山さんが、消えた。宇宙に向かってその身を散らして――」
京一「おい!何とかしろッ!」
ハジメ、その声に振り返ると、京一がムリョウに掴みかかっている。八葉が慌てて京一を引き離す。
八葉「落ち着け、京一!」
京一「お前は那由多を守るために来たんだろう! この間のように宇宙に飛べよ! 飛んで那由多を――え?」

言い終わらないうちに今度はハジメがムリョウに詰め寄る。

ハジメ「……」

ハジメ、ムリョウをじっと見つめる。

ムリョウ「……」

穏やかながらやはり真摯に見つめ返すムリョウ。息をのむ周囲。ポツリとつぶやく瞬。

瞬「それ以前に、那由多、宇宙に行って大丈夫なのかなぁ……」
ハジメ「?!」

思わず瞬を見る一同。

京一「何ッ?」
瞬「人は生身では宇宙に行けない。だから空蝉の秘儀があるのに……」

そこにハジメの携帯が鳴る。

ハジメ「え?」
京一「不謹慎だぞ! 切れ!」

取り出すとすかさず変形、ウインドウを投影する携帯。
宙に浮かぶ磯崎の画像。

磯崎「切らなくていいわ。銀河連邦のデータを転送します」
トシオ「磯崎先生!」
八葉「先生は銀河連邦の人なんだ」
アツシ「ええっ?!」

更に次々とウインドウが浮かぶ。
地球を中心とした宇宙の座標に様々なデータ、シングウの位置もモニターしている。

ハジメ「守山さん?」
磯崎「そう。彼女は無事に実体化したわ」

生徒達から安堵の声。

八葉「よかった……」
磯崎「でも、まもなく敵と遭遇するわ。あと六〇秒――」

そう言って消える磯崎のウインドウ。

ハジメ「え?」
京一「早すぎる!」
堀口「おい、動いてるぞ!」

その声に見上げるハジメ。上空の宇宙船が南下している。

○真守家・前庭
上空から消えていく宇宙船。

山本「……」
縁側でそれを見ている山本。その奥の大広間ではカズオが電話中。

カズオ「え、そうか。見えたか。そちらでも追っかけてるんだな?」

○種子島・宇宙開発センター
シングウをモニター中のセンター内。
忙しそうに立ち働く所員達。

部下A「ええ、勿論。巨人……シングウは実体化すると月軌道を越えて、敵とまもなく遭遇します」

メインスクリーンに映し出されているシングウとサナドン双方の位置。

○真守家・大広間
カズオ「よし、わかってるな?データは各国に……うん、それじゃ」

通話を終え、子機を漠に返すカズオ。

カズオ「すみません、どうも。携帯、息子にやっちまったもんですから、ハハハ」
モモエ「……」

静かに笑うモモエ。
一同の中央にはソパル星人が操作するウインドウ群が沢山浮いている。

シングウの位置、サナドンの位置
シングウの出力、サナドンの出力
銀河連邦の艦隊の位置、宇宙連盟の艦隊の位置――

様々なデータが表示されている。

ソパル星人「とりあえず、僕らの艦隊は戦闘の邪魔にならないように後退させました」
妙見「私たちの艦隊も同様です」
十全「そして、天網市上空の宇宙船も後退させたと?」
妙見「はい。最悪な場合を考えて」
載「最悪な場合とは?」
妙見「シングウがムゲンに変わるとき」
壌「ムゲン?何だそれは?」
妙見「シングウがかつて人であったときの名前です」
モモエ「!」

○御統中学・校庭
ハジメを中心に集まる生徒達。ハジメの携帯から投影されたウインドウ、シングウとサナドンの接触を知らせる。

ハジメ「接触?!」
ムリョウ「……」

食い入るように見る一同。

○宇宙空間
飛ぶシングウ。飛ぶサナドン。
交錯する一対四。
サナドンの一体が爆発四散する。

○種子島・宇宙開発センター
メインスクリーンに一体消滅の表示。

○御統中学・校庭
同じくウインドウに一体消滅の表示。

ジロウ「いっちょあがり!」
八葉「おお」
京一「よしっ!」
一同「おおおお!」

盛り上がる一同。

ハジメ「!」

ハジメ、顔をほころばせてムリョウを見る。しかし、ムリョウは一人、厳しい表情で空を見上げている。
ムリョウ「……」
ハジメ「?」
ジロウ「いけいけ!守山ッ!」

○天網海岸
ウインドウが磯崎の前に展開している。

磯崎「これを……」
ウエンヌル「は、はあ……」

磯崎、携帯をウエンヌルに手渡すとジルトーシュに向き直る。ジルトーシュは一人、空を見上げたまま。
沖合には二隻の宇宙船が待避中。
磯崎「……」
ジルトーシュ「シングウはエネルギーではな
い。エネルギーを用いる人間も含めてシングウ……よく突き止めたね。判定者の正体も合わせて、座布団五枚だ」
磯崎「……」

磯崎、ジルトーシュを睨み付ける。
意に介さないジルトーシュ、空を見上げたまま。固唾をのんで見守るウエンヌル。

ジルトーシュ「宇宙連盟との戦争……先の大戦の時に銀河連邦には三人の勇者がいた」

○宇宙空間
交錯し、離れるシングウとサナドン。

シングウ「ウオオオオオオ……」

シングウの目、凶暴な光。

○真守家・大広間
ウインドウを囲んで車座に座る一同。

妙見「対して宇宙連盟にも勇者が五人。連邦連盟双方の勇者のチカラは強大で、一人で敵の艦隊を撃破――」

○宇宙空間
シングウ「ウオオオオオオ……」

シングウ、なぎ払うように手を振り回す。その延長には長く連なるチカラの帯。一体のサナドン、叩き付けられるようにして粉砕、爆散。

○御統中学・校庭
ジロウ「ふたつめ!」
一同「おおおおっ!」

沸き返る生徒達。

○天網海岸
愕然のウエンヌル、叫ぶ。

ウエンヌル「まるで、神話だ! おとぎ話のようだ!」

見上げたままのジルトーシュ。

ジルトーシュ「しかし、シングウのチカラは君も見ただろう? そして今もこうして見ている。機械によって得られる力も、己が心によって得られるチカラも同じだよ」
ウエンヌル「こころ? 同じ?」
ジルトーシュ「……」

あらためて向き直るジルトーシュ。優しい表情ながら真摯な眼差し。

ウエンヌル「ウッ」

思わず後ずさるウエンヌル。磯崎、ジルトーシュを見据えたまま。

磯崎「……」

ジルトーシュ「戦争は当然、勇者同士のつぶし合いになってね、星がいくつも吹き飛んで、人が沢山死んだよ。そして――」
ウエンヌル「そして?」
ジルトーシュ「一人の勇者のチカラが限界を超え、その荒ぶる威力によって――」

○真守家・大広間
静かに語る妙見。

妙見「銀河が一つ消えた」

○同・台所
食器を洗うセツナ。その手を止める。

セツナ「……」

決意の表情。

○同・大広間
シンと聞き入る一同。しかし載、苛立たしさが隠せない。

載「昔話はいい!そんなことより今はシングウの! 那由多のことが大事ではないのか!」
妙見「大事ですよ」
載「ムッ」
妙見「だから話しているのです」

中央のウインドウ群はシングウの戦いを刻一刻、モニターしている。

妙見「ムッ」
一同「オオッ!」

同時に新たなウインドウが表示。そこには宇宙で戦うシングウの映像。

○真守家・大広間
同様にウインドウが出現。

一同「おおっ!」

○種子島・宇宙開発センター
ウインドウが出現。

部下A「これは?!」

○御統中学・放送室
ひかるの前に出現するウインドウ。

ひかる「?!」

○天網市・御輿坂
出現するウインドウ。

○同・商店街
出現するウインドウ。

○村田家・居間
出現するウインドウ。

フタバ「えっ?」
キョウコ「?!」

○御統中学・校庭
騒然となる生徒達。

ムリョウ「あの人か……」
ハジメ「え?」

○天網海岸
ウエンヌルと磯崎の目前にもウインドウ。驚いて見ている二人。

ウエンヌル「これは……」
ジルトーシュ「宇宙船経由でモニターするってのもじれったいでしょ。関係者の皆さんに、僕の情報を分けてあげるよ」
磯崎「貴方の? これは貴方の……」
ジルトーシュ「そう。僕の見ているものを皆さんに生中継、って感じだね」

○村田家・居間
何処からともなくジルトーシュの声。

ジルトーシュ(声)「ついでに実況音声もサービスしとこう!」
フタバ「アロハさん?」

キョロキョロ辺りを見回すフタバ、キョトンとしているキョウコ。

○天網海岸
青空。愕然とジルトーシュを見つめるウエンヌルと磯崎。

磯崎「宇宙を……ここから宇宙が見渡せるというの?大勢の人に声を送ることが出来るというの、あなたは?」
ジルトーシュ「簡単に言うと、そうだね」

ニヤリと笑うジルトーシュ。

ウエンヌル「うえるん……」

呆然とするウエンヌル。

ウエンヌル「貴方は、やはり神なのか……」
ジルトーシュ「いいや、判定者さ」

○アイキャッチ

○真守家・大広間
静まりかえる一同。
ソパル星人「ヴェーやん……」
山本「ジルトーシュが、判定者」

愕然の山本。
モモエ「……」

険しい表情のモモエ。
その間にもウインドウ群は戦闘状況を伝える。

○宇宙空間
二体のサナドン、シングウの攻撃を上手くかわして急接近。ものすごいスピードでシングウにぶつかる。

シングウ「ウオオオオオオ……」

その勢いに押され、月面に墜落、激突するシングウ。粉塵、高く舞い上がる。

○御統中学・校庭
ウインドウにシングウの軌跡映し出される。一直線に月面へ。

八葉「墜ちたのか?」
京一「那由多?!」
村田「!」

動揺する一同。

○月面
クレーター状の巨大な窪みの中央に大の字になっているシングウ。取り付いたサナドンが同化を開始する。

シングウ「ウオオオオオオ……」

サナドンに覆われていくシングウ。

○真守家・大広間
身を乗り出す一同。

壌「同化している?」
載「那由多ッ!」

○月面
もがくシングウ、起き上がるも全身はサナドンの紋様に覆われている。

シングウ「ウオオオオオオ……」

その顔も覆われ、硬直するシングウ。

○天網海岸
ウインドウを見て愕然のウエンヌル。

ウエンヌル「ジルトン号と同じだ!」

空を見上げてつぶやくジルトーシュ。

ジルトーシュ「このまま……」
磯崎「?!」

磯崎、ジルトーシュを見る。

○月面
巨大なオブジェと化していくシングウ。

シングウ「ウオオオオオオ……」

○御統中学・校庭
呆然とウインドウを見ている一同。

ジルトーシュ(声)「このままサナドンに取り込まれた方が、幸せな結果だ」

ポツリつぶやくムリョウ。

ムリョウ「地球にとってはね……」
ハジメ「!」
京一「うおおおおっ!」

ムリョウに殴りかかる京一。片手で受け止めるムリョウ。女子生徒の悲鳴が上がる。

八葉「やめろ、京一!」
瞬「京一さん!」

そのまま力を込めて叫ぶ京一。

京一「貴様もグルなのか?! 何が幸せだ!」
ムリョウ「……」

真摯なムリョウの眼差し。

京一「クッ」

こぶしを下ろす京一。ハジメ、ムリョウに向かい合う。

ハジメ「さっきの言葉、どういう意味なの?」
ムリョウ「シングウは……守山さんは負けないよ。問題はこの後だ」
ハジメ「問題っていったってシングウは……」
八葉「いや、見ろ、あれを!」

ウインドウを見る一同。

○月面
シングウ「ウオオオオオオ……」

オブジェと化したサナドンの中から二つの光。

○天網海岸
ウインドウに見入る磯崎とウエンヌル。

磯崎「これは?!」
ジルトーシュ「依り代のチカラを、自分のものにしたんだ」

ジルトーシュ、空を見上げたままつぶやく。少し悲しげな表情。

○月面
サナドンの中から腕が飛び出す。そしてもう一方の腕。こじ開けるようにして中からシングウが出てくる。

シングウ「ウオオオオオオ……」

従来は異なった外形。御幣の部分が体に紋様のように密着している。転がり出るシングウ。サナドン、シングウ同様の人型に変形しようとする。

○真守家・大広間
ウインドウのシングウを見て顔色を変えるモモエ。

モモエ「!」

厳しい表情の妙見。

妙見「……」

○御統中学・校庭
ウインドウを見ている一同。

京一「今だ、那由多!」

○月面
シングウ「ウオオオオオオ……」

シングウ、両腕よりチカラを発する。
爆散するサナドン。

○御統中学・校庭
沸き返る一同。

京一「よし!」
ジロウ「やったぁーッ!」
アツシ「うん!うん!」
ムリョウ「……」

一人ムリョウだけが硬い表情でウインドウを見つめている。尋ねるハジメも同様に硬い表情。

ハジメ「……この後?」
ムリョウ「うん」

静かにうなずくムリョウ。
ウインドウは月面にたたずむシングウを映している。

○真守家
月面にたたずむシングウを映すウインドウ。喜ぶ載や壌、商工会長をよそにモモエは厳しい表情。

モモエ「これから……何が起こるのですか?」
載「?」

喜んでいた人々、一様にキョトン。

山本「何が?」
十全「どういう、意味ですかな?」
モモエ「あれはシングウではありません」

息を飲む一同。

妙見「今、シングウの本来の姿が甦る」

○月面
たたずむシングウ。
亀裂が走る。

シングウ「!」

崩れ出すシングウ。

シングウ「ウオオオオオオ……」

中から別の姿が現れる。より人間に近いシルエット、輝く白さ。

○天網海岸
ウインドウを見ている磯崎、叫ぶ。

磯崎「シングウなの?!」
ジルトーシュ「確かに数分前まではシングウだった。今は違うよ」
磯崎「今は……何だっていうの?」
ジルトーシュ「かつての銀河連邦の勇者の成れの果て。己のチカラを操る術を失って多くの生命を殺戮した荒ぶるチカラ――」

右手を差し上げるジルトーシュ。

ジルトーシュ「ムゲン」

光と衝撃。ジルトーシュの右手より凄まじい威力の光線が発射される。

磯崎・ウエンヌル「?!」

○宇宙空間
地球から月に向かって走る光。

○月面
シングウの頭上から降り注ぐ光線。
命中。爆発。

○真守家・大広間
騒然となる一同。

カズオ「天網海岸から月に、光線?!」
載「い、一体何が?」

宇宙人達も硬い表情。

ソパル星人「ヴェーやン……」
妙見「彼は、本気だ」

○御統中学・校庭
再び悲鳴が上がる。息を飲む八葉達。

ハジメ「!」

キッとムリョウを見るハジメ。

ムリョウ「シングウはもはやシングウではない。元の姿に戻ろうとしている」
ハジメ「元の姿って、守山さんじゃないの?」

ムリョウ、ハジメを見る。穏やかだが力のこもった眼差し。

ムリョウ「助けよう」
ハジメ「で、でも今!」
ムリョウ「あれ位では、彼は倒せない」
ハジメ「彼?」
八葉「聞かせてくれないか?」

ハジメとムリョウの前に立つ八葉と京一と瞬。他の生徒達も注目している。

八葉「一体今、何が起こっているのか」

静かにうなずくムリョウ。

ジルトーシュ「それは僕が説明しよう」

突如、中空にジルトーシュの映像が出現する。驚く一同。

ハジメ「ジルトーシュさん!」
ムリョウ「……」
ジルトーシュ「(ムリョウに)君は大体勿体をつけすぎる。僕が、優しく分かり易く、コンパクトに説明してあげよう」

○真守家・大広間
同様にジルトーシュの映像。

ジルトーシュ「ソーさんも妙見も説明はまだなんだろう?」
ソパル星人「ああ」
妙見「よろしく」

ポカンとやり取りを見ている一同。カズオと官房長官、顔を見合わせ、お手上げな表情。

山本「お前さん……これじゃ本当に神様だな」

○天網海岸
ジルトーシュ、あたかも一人芝居のように振る舞い喋る。ポカーンと見ている磯崎とウエンヌル。

ジルトーシュ「そうだね。なるべく穏便に進めたかったんだけど、思ったより宇宙外交がトントン拍子に進んでるし、ここらで確かめておかないとヤバイでしょ」

ジルトーシュの周囲には真守家、御統中学の映像が浮いている。

モモエ「確かめるというのは那由多ちゃんのチカラですか?」
ジルトーシュ「そう!あの子はこの二千年の天網の民の中では一番シングウを上手く使う。経験値も急上昇!こんなに宇宙から敵が攻めてくることはなかったからね。シングウのチカラとの相性は、百年前の貴女以上のはずですよ」
モモエ「そうですね」
ジルトーシュ「でも、相性の良い分、チカラに飲み込まれる危険も高い。う~ん、もうちょっと頑張ってコントロールしてくれれば一発逆転、って感じで良かったんだけど」
京一「ふざけるな!」

御統中の映像では、京一が(カメラに向かって)食って掛かっている。

○御統中学・校庭
京一「お前、何様なんだ!大体お前ら宇宙人が地球にシングウのチカラなんか隠すからいけないんだ!」
ジルトーシュ「お前ら宇宙人が、っていっても、君達天網の民は、その宇宙人の子孫なんだよ」
京一「ウッ?!」

一瞬たじろぐ京一。しかし、負けずに。

京一「でも、俺達は地球人だ!」

○月面
巨大なクレーター。中心は赤く燃えている。その中から立ち上がるシングウ。

シングウ「ウオオオオオオ……」

吼えるシングウ。溶けて液状になっている体が再生を始める。

○真守家・大広間
ジルトーシュそっちのけでシングウの映像にかぶりつく壌や漠。

壌・漠「おおおおッ!?」
載「あれは……那由多なのか?」

愕然の載。

○天網海岸
ジルトーシュ「さすが、銀河連邦最強の勇者だね。エネルギーの固まりになっても強い強い♪」

背後の気配に風。さも当然のように振り返るジルトーシュ。

ジルトーシュ「よぉ、来たかい?」
セツナ「……」

セツナ、立っている。微笑んでいるが眼差しは真剣。

ウエンヌル「セツナさん!」
磯崎「……」

一瞬、複雑な表情を浮かべる磯崎。

ジルトーシュ「一万年前、僕は君のお兄さんをあんな姿にした――」
磯崎・ウエンヌル「!?」

○御統中学・校庭
同様にどよめく一同。

ハジメ「一万年?!」
瞬「お姉さん、何歳なの?!」
トシオ「一万二十歳、とか――」
京一「漫才かっ、馬鹿もん!」

宙に浮かぶ沢山のウインドウ。ハジメの携帯から投影されるデータウインドウ。ジルトーシュが発している各所の映像。映像の中のセツナ、ハジメと目が合うとニコッと微笑む。

ハジメ「!」

ドキッとするハジメ。ムリョウはじっと映像群を見つめている。

○天網海岸
向き合うセツナとジルトーシュ。

セツナ「私がここに来た目的は、わかってるわよね」
ジルトーシュ「僕を止めるためだろう」
セツナ「ご名答」

ふっと消えるセツナ。ジルトーシュはそのままの姿勢だが時折視線を走らせるとその度に、空間が歪み、次第に息の上がったセツナの声が聞こえる。

ウエンヌル「これは……」
磯崎「空間転移の連続攻撃?そんな事ができるの?」
ジルトーシュ「……」

目をつぶるジルトーシュ。突如、空間が割れて中から飛び出すセツナ。

セツナ「タァッ!」

手刀がジルトーシュの頭を捉える。しかし、フィールドに弾かれ、吹っ飛ぶセツナ。

セツナ「アアッ!」
ジルトーシュ「君には僕は倒せない」
セツナ「クッ」

起き上がるセツナ。髪は黒く変わり、風になびいて長く伸びる。その顔は那由多や若い頃のモモエに似ている。

磯崎「あなたは!」
ジルトーシュ「そう、彼女は天網の民の第一世代。オリジナルさ。そして……銀河連邦の勇者ムゲンの妹」
セツナ「……」

セツナ、ジルトーシュを睨み付ける。

○月面
シングウ、人型になる。咆吼。

シングウ「ウオオオオオオ……」

○真守家・大広間
山本「あの娘さん、ご先祖様だったのか」
モモエ「……」
官房長官「何歳なのかなぁ」
カズオ「一万二十歳、とか――」
壌「漫才かっ、馬鹿もん!」

○天網海岸
ジルトーシュ「君が地球の人間に希望を託すのは勝手だが、今を逃すとまた大勢の星々と生命が失われる」

右手を差し上げるジルトーシュ。

セツナ「やめて!」

微笑むジルトーシュ、光に包まれる。
光の人型、巨大に。

磯崎「ジルトーシュ……」

紅い巨人に変わるジルトーシュ。

○御統中学・裏門
晴美、ポツンと立っている。

晴美「あ……」

阿僧祇、やって来る。

阿僧祇「こんにちは。可愛いお嬢さん、一人で何をしているんですか?」
晴美「え? 一応、警護というか……何か御用でしょうか?」
阿僧祇「孫に会いに来ました」
晴美「お孫さん?」

突然のことに戸惑う晴美。ニコニコと微笑んでいる阿僧祇。

○天網海岸
空を見上げるジルトーシュ。その顔は能面のように冷たい。

○同・校庭
ウインドウに表示されるジルトーシュの巨体。思わず海の方を見たり、データ映像を見たりと混乱する一同。

ジロウ「会長!俺達どうすれば……」
八葉「うーん……」
ハジメ「助けましょう!」
八葉「え?」

ハジメ、ムリョウを見る。

ハジメ「僕を宇宙に、連れて行って」
ムリョウ「うん」

何が何だかわからず当惑する一同。

NR「全てが繋がったような、気がする。ムリョウ君が僕のクラスにやって来たあの日から起こった数々の出来事。色々な人達との出会い。守山さん、君を――」

○宇宙空間
月から離脱するシングウ。

○天網海岸
見上げるジルトーシュ。
青空――

NR「――続きは次回」

         (第二五話・完)

☆二〇〇字詰七八枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)