第10話『だから、明日のために』

学園戦記ムリョウ

第一〇話『だから、明日のために』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)

成田ジロウ(ナリタ・ジロウ)
川森アツシ(カワモリ・アツシ)
三上トシオ(ミカミ・トシオ)
真弓ツカサ(マユミ・ツカサ)
進藤アキミ(シンドウ・アキミ)
村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)

真守モモエ(サネモリ・モモエ)
津守十全(ツモリ・ジュウゼン)
守口壌(モリグチ・ジョウ)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ザイグル星人ヴェロッシュ(ジルトン号艦長)
商工会長

生徒達


○真守家・外
昼。小雨が降っている。

○同・大広間
上座にずらりと並んだ真守五家の当主達。左右には商工会長や世話役達が控え、下座には山本、ジルトーシュに磯崎が座っている。
座敷の中央には黒焦げた銀色の球体。
説明する磯崎。

磯崎「これが、土星付近で回収したザイグル星の緊急通信カプセルです。ヴェルン星との交流が二〇〇〇年程途絶えている現在、ザイグル星は以前に導入された銀河連邦の技術を分析し、独自に発展させて来ました。ロボットや宇宙船、そしてこのカプセルもそうです」

その間にウエンヌル、カプセルに自分の端末を接続して調整。

ジルトーシュ「はじまり、はじまり」

一人拍手するジルトーシュ。他は皆一様に真剣な表情。
カプセルより立体映像が投影される。

艦長「この映像を見ている方に、ザイグル帝国所属宇宙戦艦ジルコン号が遭遇した危機に関しての資料を送ります。私は艦長のヴェロッシュ大佐です」
ウエンヌル「……」
艦長「残念ながら我々は、現在直面している危機を切り抜けることができません。我々の生存確率は限りなく低い……しかしこの危機……この生命体は必ず次の標的を狙って行動を起こすものと推測されます。この資料が、カプセルを回収したあなた方のお役に立てば幸いです」

次々と投影されていくウインドウ。ジルコン号に接近する巨大な“手”のような物体。その外形上の三面図や各種データ——食い入るように見つめる真守の人々。その間にA4サイズの紙を数枚綴じたレジュメが配られる。表題は『ジルコン号遭難と今後の対策について』。モモエ、さりげなく指先よりデータを読みとっている。指先を走る光の粒。瞳の奥が粒子状に輝く。

磯崎「時間がないので結論から——地球は、再び襲われます」

息を飲む一同。厳しい表情のモモエ。

壌「誰が襲う?」
磯崎「サナトス星の知性体兵器です」

○オープニング

○御統中学・本館三階廊下
昼休み。天窓から見える曇り空。小雨がぱらつく。だらだらくつろぐ生徒達。

(サブタイトル『だから、明日のために』)

○同・二年C組
昼食も終え、それなりににぎやかな室内。ジロウ達はハジメの机の周りに集まっている。少々浮かない顔のハジメ、頬づえついてため息。

アツシ「で、どうするの?」
ハジメ「どうもこうも、放課後にまたいらっしゃいってさ。行くしかないだろう?」

   *   *   *

(回想)
朝の生徒会室(九話参照)。さんざん那由多にやりこめられるハジメ。

那由多「文化祭参加の理由。クラブ設立の目的……スットコドッコイな理由だったら、絶対にダメ!」

   *   *   *

ハジメ「ちゃんとした理由を聞かせてちょうだい、の一点張りなんだぜ。コントとかバンドとか他の連中の申込書は素通しなのにさァ。ヒドイと思わない?」
ジロウ「じゃ、やめちゃえよ。面倒くさ」
ハジメ「そういうわけにもいかないよ。ここまで来たらこっちも意地だし」
ジロウ「(芝居がかって)トシオ、お前も災難だなぁ。こんな意地っ張り連中のいざこざに巻き込まれてよォ」
トシオ「全然」
ジロウ「……つまんねえ奴」

そんなハジメ達を遠目に見ているツカサとアキミ達。

アキミ「守山さん、村田君に何でそこまでムキになるのかしら?」
ツカサ「気があるんでしょ、やっぱり」

○同・二年E組
自席で読書中の那由多、大きなくしゃみを一発。

那由多「ハーックション!! 」

○同・二年C組
一方、ムリョウは自分の席でコロッケパンを食べている。ハジメ達を横目でチラリ。

アツシ「でもさ、そもそも……何で『祭りクラブ』なんてやろうとしてるわけ?」
ジロウ「うん!そうだよ!何でだよ?」
ハジメ「…きっかけになればいいな、と思ってさ」
ジロウ「何それ?」
ハジメ「いろんな、きっかけ」
アツシ、ジロウ「?」

見ていたムリョウ、静かに微笑む。

○同・生徒会室
窓辺で七夕の短冊を作っている八葉。
そこへ晴美、入ってくる。

晴美「お呼びでしょうか?」
八葉「京一がさあ」
晴美「……」
八葉「昨日の晩、雨の中を絶叫しながら国道沿いを爆走してたって……まぁ、奴らしいんだけど」
晴美「すみません」
八葉「(苦笑いして)やっぱり君が原因か。今度は何だい?」
晴美「……」

うつむき、答えない晴美。

   *   *   *

(回想)
道場で激情を告白する京一。
うつむき答える晴美。
晴美「…御免なさい」

   *   *   *

ヤレヤレと肩をすくめる八葉。

八葉「まぁ、いいや。それよりもね、真守の家で今、緊急会議が行われている」
晴美「また……敵ですか?」
八葉「もしかしたら、シングウに例の奴を使うのかもしれない」
晴美「そんな?」
八葉「僕の予感はよく当たる。おそらく放課後はまる潰れになると思うんで、学校への予算表の提出はこの時間中によろしく」
晴美「……」

呆然と立ちつくす晴美。

○真守家・大広間
レジュメ片手に話し合う一同。

十全「目的はやはり、シングウのチカラか」
磯崎「不明です」
ジルトーシュ「サナトス星、ってのは銀河連邦に所属していないところでね、今、そこんとこどうなのよ、ってんで確認中だよ」
山本「(ウエンヌルに)しかし、お前さんの艦長は立派だったな」
ウエンヌル「(しみじみと)ヴェロッシュ艦長は、素晴らしい方です。自分の義務と責任を十二分に果たすことの出来る知力と勇気を兼ね備えていました。部下には……公平と友愛を持って接し、その優しさと厳しさに我々クルーは尊敬を持ってこれに応えようと常に努力しました。今回の結果は……誠に残念でした」

世話役に商工会長、そっともらい泣き。山本も軽く鼻を鳴らす。それを見ている磯崎、少々困り顔。ニヤニヤのジルトーシュ。

磯崎「誤解のあるようなので、紹介します」

襖が開けられると、そこには正座しているジルコン号のクルー達一同。

山本「あんた!? 」

ギョッとする山本達。ウエンヌルはポカーンとしている。

艦長「ジルコン号艦長ヴェロッシュです」
山本「死んだ筈じゃあ……」
艦長「誰も死んだとは言っていない」
磯崎「シャトルで漂流中の所を我々の仲間が救助しました」
商工会長「先生、そういうこと、先に教えといて下さいよ」
磯崎「議事の進行を優先したため、説明が遅れました」
ジルトーシュ「(ウエンヌルに)見ろ、君が思わせぶりに長々としゃべるから」
ウエンヌル「(怪訝な顔で)私は自分の正直な気持ちを表明しただけだが?それにしても、無事で何よりでした、艦長」
艦長「ありがとう、少尉」

冷静なやり取りの二人。
苦笑いの山本や商工会長。
モモエ、ニッコリ微笑んで宣言。

モモエ「それでは本題に戻りましょう」

○御統中学・廊下
生徒は誰もいない。授業中。
校内放送が響く。

山本(声)「生徒会役員は、小会議室に集合
の事。繰り返す。生徒会役員は小会議室に集合の事——」

○同・二年C組
放送を聞いているハジメ達。
一様に怪訝な表情。

ジロウ「ハジメーっ!何がどうしたんだ?」
ハジメ「そんな事わかんないよ」

黒板にはモニター表示されたまま。

【緊急】
五限目は緊急の職員会議のため自習
になります。

更に新しい画面が表示される。

【お知らせ】
午後の授業は中止になりました。
詳しいことはこの後のホームルーム
で担任の先生より説明があります。

ジロウ「おおぅ、やったぁ!」

男子数名浮かれ出す。苦笑いの女子。

ハジメ「あ」

廊下を急ぐ那由多、C組の前を通り過ぎる。緊迫した表情。ただただ見送るのみのハジメだが何かが閃く。

ハジメ「!」

思わず立ち上がりかけるハジメ、ムリョウを見る。
ムリョウ「……」

黙って微笑みかけるムリョウ。それを見てハジメ、落ち着いたのか席に着く。

ジロウ「おいおいどうした、ハジメ?」

ジロウの声も聞こえないハジメ。

NR「始まった。守山君達のもう一つの顔が必要な何かが——」

○同・小会議室
扉を開けて入ってくる那由多。

那由多「入ります!」

大机にはすでに着席している八葉、晴美、瞬。向かって正面の窓際には山本と磯崎、ジルトーシュが立っている。

ジルトーシュ「やあ」
那由多「あなたは……」
磯崎「知ってるの?彼は..」
ジルトーシュ「ヴェルン星人ジルトーシュ。銀河連邦お墨付きの第一級外交官。現在、真守さんとこに居候中」
山本「時間がないのでいきなり説明」

それを受けて磯崎、机の上に自分の携帯を置く。携帯に銀河連邦のマークが浮かび、ウインドウが投影される。モモエを始めとする当主達の顔が曼陀羅状に居並ぶ。

モモエ「いきなり授業をつぶしてしまって御免なさい。でもね、緊急の用件なの」
八葉「敵、ですか?」
モモエ「ええ。それもかなり強敵の」
京一「遅くなりました」

入ってくる京一、静かに晴美と向かい合った席に座る。

京一「……」
晴美「……」

思わずうつむく晴美。

山本「先程ザイグル星人…こないだまで戦ってた宇宙人だけど今は違うんだが……彼らの宇宙船を取り込んだ知性体兵器ってのがもうすぐここにやって来る、らしい」
瞬「知性体?兵器?」

瞬の問いに答えるように『知性体兵器』と書かれたパネル状のウインドウが出現、そしてその正体についての資料が次々と出現し、那由多達の前を飛び交う。手を差し出す那由多達。指先から読み込まれていく各種データ。

磯崎「誰が何の目的でこの兵器を地球に送り込もうとしているのかはまだ、調査中なの。でも、一つ言えることは……こいつを地球圏に入れては厄介よ」
ジルトーシュ「サナトス星の知性体兵器は入力された目的のためなら何でもする、考える兵器なんだ。自身の目的遂行のために様々なデータを収集し、尤も合理的な手段を行使して敵を倒す。周囲にあるモノを吸収したり、合体したりして厄介なんだよね」

ウインドウには知性体兵器のシュミレート。物体を吸収して別のモノに変形していく画像がアニメーションで展開。

瞬「うほ、わかりやすい」

那由多、黙りこくってデータを読み取っている。厳しい表情。

八葉「そいつの目的は、本当に地球なんですか?」
磯崎「わからないわ。でも、地球に向かってきていることは確かよ」

ジルコン号と遭遇したときの知性体兵器の進路方向がウインドウで示される。八〇%の確率で地球に向かっている。

モモエ「今回は、打って出ます」
八葉、那由多、瞬「!! 」
モモエ「どうやら、この星の秘密をかぎつけて組織的に攻めてくる宇宙人の方が増えてきたようです。今までのようには今回はい
かないみたい……だから……」
那由多「……」

覚悟の表情の那由多。

モモエ「“空蝉”を使います」
瞬「うつせみ?」

○真守家・大広間
中央に浮かぶ小会議室の面々の立体映像。それぞれの表情はウインドウがクローズアップでとらえている。モモエ、立体映像に語りかける。

モモエ「過去において、空蝉を使用したのはただの三度。千年前、百年前…そして十一年前の、あの悲劇…以来、心を飛ばす空蝉の秘儀を封じてしまうつもりでした」

睨むように畳を見つめる壌。

○御統中学・小会議室
そんな壌の様子をウインドウ越しに見つめる京一。

京一「おやじ……」
モモエ「ですが、あなたたちを信じます。心を宇宙へ——」

ウインドウ群消える。携帯をしまう磯崎、八葉達を見渡して

磯崎「残念だけど、銀河連邦は地球に対して表立った干渉はできないの。だから……」
那由多「だから私達がいるんです、先生」
山本「すまんな」
ジルトーシュ「銀河連邦は未開発惑星に対しての武力的文化的な干渉を避けねばならない。その惑星の正しい進化の道を妨げるからである!うんうん、そういう決まりだから仕方がない、と」
磯崎「!」

磯崎、キッと睨み付ける。

ジルトーシュ「未開発なのに持ってるシングウのチカラ、なのに未だに未開発……矛盾矛盾、矛盾だね」
八葉「だけど、僕たちは戦います」

静かにジルトーシュを見つめる八葉。それを見つめ返すジルトーシュ、優しい瞳。

ジルトーシュ「そうだね。戦わなくちゃ、勝たなくちゃ…自分の未来のために、大好きなもののために」
晴美「……」

俯いたままの晴美。それを見て見ぬ振りの京一。ヘラヘラしている瞬。

ジルトーシュ「僕もそこのレディ同様、直接的な援助は出来ない。ただ、これだけは……これだけはさせてほしい。僕の誠意だ」
八葉「これだけは?」
瞬「何ですか、一体?」
ジルトーシュ「敵の名前」
一同「?」
ジルトーシュ「“知性体兵器”ってんじゃあ呼びづらいしファイトも湧かないでしょ」

ポケットより紙を取り出し広げてみせるジルトーシュ。黒々とした筆文字で

サナドン

京一「さな……どん?」
那由多「サナトス星だから?」
ジルトーシュ「いいよね、何か強そうで」

○アイキャッチ

○御統中学・アプローチ
小雨降るなかの下校風景。

○同・生徒会室前
部屋の中を覗き込んでいるハジメ。
生徒会室の中には人影は無い。

八葉「村田君」

ビクッと振り向くハジメ。八葉とひかる並んで立っている。

ひかる「(おどけて)那由多ちゃん?」
ハジメ「あ、いや、鍵掛かってたもんで」
八葉「那由多なら帰ったよ」
ハジメ「え?そんなぁ」
ひかる「はは〜ん、例のアレ?八葉君の悪だくみの……」
八葉「人聞きの悪いこというなよ」
ハジメ「ホントに帰っちゃったんですか?」
八葉「HRで先生も言ってただろ?」

   *   *   *

(回想)
HR時間。教壇で語る山本。

山本「学校のシステムサーバーが不調のため緊急メンテナンスを行う。本日は申し訳ないが授業は中止。放課後の部活動も委員会活動もお休み。ま、希望者のみの自主トレって感じだな。しかし、試験前でよかったよ」

窓の外を眺めてジロウ。

ジロウ「これで天気が晴れならなァ」
山本「ジロウ、そりゃ、お前に勉強しろっていう神様の思し召しだよ」
ジロウ「ちぇっ」

大笑いの生徒達。

   *   *   *

ハジメ「でも、放課後に絶対来い!って言っといてヒドイなぁ。いろいろ物思ったりした僕の立場は一体——」
八葉「まぁまぁ。また明日来てよ」
ハジメ「はい」

立ち去っていくハジメを見やる八葉とひかる。ポツリつぶやくひかる。

ひかる「また明日、ね」
八葉「そう、また明日だ」
ひかる「じゃあ、その明日!」
八葉「ん?」
ひかる「明日の朝、一番にそのむっさい顔を出すんだぞ、放送室に。さすればもれなくひかるちゃん特製ブレンドのコーヒーを大サービス!」
八葉「はは、ムリョウ君が吹き出したアレか。あまり嬉しくないサービスだな」
ひかる「ふふん、今度のは自信あるのだよ」

一緒に歩き出す二人。

○同・昇降口
靴を履き替えるハジメ。

○同・アプローチ
門に向かって歩くハジメ。

NR「一体何が起きているのか?八葉さんに聞いてみればよかったのかもしれないが、何となく聞けなかった。何となく気後れ、何となく……」
ハジメ「あ」

門の前に立っている那由多。チラとハジメを見るも顔をそらす。

那由多「…」
ハジメ「やあ」

○だらだら坂
並んで歩くハジメと那由多。
しばし無言の二人。
那由多、思い詰めた顔。
横目でそれを見るハジメ。

○国道沿い
歩いているハジメと那由多。
車が行き交う。

NR「ちょっと前なら全く接点のなさそうな村田始と守山那由多……文化祭についての議論も無く、かと言って色っぽい展開があるわけでも無く、ただ僕たちは歩いた。守山さんが何を考えているのかははっきりとはわからないけれど、何となく、わかるような——僕は詩人でも小説家でもない。やっぱりわからないかも」

   *   *   *

ハジメの家の方に向かうT字路のある信号に差しかかる二人。

ハジメ「じゃ、僕はここで……」
那由多「あ、うん。それじゃあ——」
ハジメ「それじゃあ、また明日」
那由多「……」

ハッとしたような表情の那由多。しかし、珍しく微笑んで

那由多「うん。また明日!」

歩いていく那由多。見送るハジメ。

○村田家・玄関
ハジメ、ドアを開ける。

ハジメ「ただいまーっ!」

○同・リビング
フタバとキョウコ、七夕の短冊を作っている。そこへ入ってくるハジメ。

キョウコ「おかえり」
フタバ「りー」
ハジメ「お、何か気合い入ってない?」
キョウコ「ふーちゃん、何か切実みたいよ」
ハジメ「お前、七夕って来週だぞ」
フタバ「ふん、蟻とキリギリスの話を知らないの?期末テストの結果が出るのが丁度七夕辺りだし……こうして早めにお願いしておけば先々いいことあるんだから!」

フタバ、丁度書いていた短冊を差し上げる。書かれている文字は——

テストがいい点取れてます!

ハジメ「楽して神頼みって……どっちかって言うとキリギリスじゃないのか、それは?」
フタバ「何でよ!地道に一生懸命お願いするのが何でキリギリスなのよ!」

ふくれっ面のフタバ。

キョウコ「まあまあ」
ハジメ「ハハ。で、何だ?その短冊は?」

センターテーブルの上には原色いっぱいの派手な短冊が鎮座している。

ムリョウさんLOVE

フタバ「ふふん、お兄ちゃんのイ・ケ・ズ! わかってるくせにン」
ハジメ「切実なのはそっちの方か」
キョウコ「そう」

電話が鳴る。

ハジメ「(立とうとするキョウコを制して) あ、いいよ。(電話に出て)もしもし、村田です。ああ、ムリョウ君?」

顔を上げて目を輝かすフタバ。

○真守家・ムリョウの離れ
(セツナの)携帯で会話中のムリョウ。

ムリョウ「やあ、丁度家に帰った頃だと思ってさ」
ハジメ(声)「どうしたの?ムリョウ君が電話なんて珍しいね」
ムリョウ「はは。俺もそう思うよ」

そこに割り込んでくるフタバの声。

フタバ(声)「もしもし!ムリョウさん!」
ムリョウ「やあ、フタバちゃん」

○村田家・リビング
受話器を奪い取るようにしてフタバ、ムリョウの声に聞き入っている。

ムリョウ(声)「昨日の鍋、楽しかったね」
フタバ「ええ、本当。あの後のバカ兄のひっぱたきが無ければ人生最良の日でしたのに」
ハジメ「いきなり人生終わるなよ、お前」

○真守家・ムリョウの離れ
フタバ(声)「何よーッ!お兄ちゃんだってもう終わってるくせに!」
ハジメ(声)「ま・せ・ん!もぉフタバカ! あっち行ってろって!」
フタバ(声)「人権侵害!ボーリョク兄!」
キョウコ(声)「こら、ふーちゃん!」

携帯の向こうで大騒ぎの村田一家。思わず苦笑いのムリョウ。
ムリョウ「あの……後でかけようか?」

○村田家・廊下
——に出てくるハジメ。

ハジメ「ああいいよ、もう大丈夫。移動したから」

ドアから顔を出すフタバ。

フタバ「イーーだ!」
ハジメ「こらッ!」
ムリョウ(声)「今夜さ……」
ハジメ「え?」

○真守家・ムリョウの離れ
外は相変わらずの雨。

ムリョウ「今夜さ、雨が止んだら……」
ハジメ(声)「止んだら?」

微笑むムリョウ。

ムリョウ「…散歩するといいよ。きれいな満月が見えるから」

○村田家・廊下
ハジメ「え?満月?」
ムリョウ(声)「但し、家の人には知られないように、こっそりとね」
ハジメ「どういうこと?」
ムリョウ(声)「それじゃあ、また」
ハジメ「え、あ、ムリョウ君?」

切れる電話。

ハジメ「…(呆然)」
NR「友より、突然な謎のメッセージ……気分はロールプレイングゲームの主人公だ。僕はどちらかというと、アクションゲーム派なのだけれども——」

カメラ目線でポツリ。

ハジメ「雨、止むの?」

○同・外
勢いを増して降っている雨。

   *   *   *

徐々に小雨に、そして降り止む。

NR「あたかも台本通りのように雨は止み——」

   *   *   *

雲の切れ目から満月。星も瞬く。

○同・ハジメの部屋
窓から夜空を眺めているハジメ。

ハジメ「見事な満月」

時計を見ると午前0時三五分。

ハジメ「フム……」

やおら靴を履き出すハジメ。

○同・リビング
明かりは消えている。テーブルの上には完成した短冊が沢山。

○同・庭
二階より飛び降りるハジメ。つま先よりそっと着地してそのまま走り出す。

○天網市内
誰もいない通りを歩くハジメ。

NR「かくして冒険者は旅立った。ゲームのセオリーで言えばまずは情報を集めるわけだけど——」
セツナ「はあい♪」

角から姿を現すセツナ。後ろ手に袋を下げている。

ハジメ「セツナさん?」
セツナ「若き旅人よ、汝に情報を伝えよう」
ハジメ「ムリョウ君の電話……アレってセツナさんの差し金ですか?」
セツナ「へへへ」

○国道沿い
東に向かって歩くハジメとセツナ。

セツナ「久し振りだね、ハジメ君」
ハジメ「そうですね」
セツナ「ずるいなァ、鍋大会。お姉さんが来られない時に限って楽しそうなイベントするんだから」
ハジメ「そんなことないですよ。充分参加してるじゃないですか、イベント」
セツナ「ふん」

拗ねたふりをするセツナ。ハジメ、少々呆れた感じで尋ねる。

ハジメ「何やってたんですか?来られない時って一体?」
セツナ「ふふーん…野を越え山越え街を越え河を越え…色々大変なお・し・ご・と」
ハジメ「バイトですか?」
セツナ「さあ、着いた」

天網神社の入り口に立つ二人。
長い参道が奥に続いている。

セツナ「ここから先は君一人」
ハジメ「ここは……」
セツナ「天網神社。ナユちゃんのお家。そして、今回の作戦の中心になる場所」
ハジメ「作戦?」
セツナ「これは今まで渡せなかったお土産」

持っていた袋を手渡すセツナ。中には各地の名物のお菓子が色々と。

ハジメ「(袋を覗き込んで)どうでもいいけど、いつもいろんな所のお菓子持ってくるのはどうやって……あれ?」

顔を上げるとセツナの姿は無い。
キョロキョロ見回すハジメ。見上げると木々の繁みより声。

セツナ(声)「真っ直ぐ進んで。次なる案内人があなたをきっと……なんちゃって」

途方に暮れるハジメ。

ハジメ「……」

参道を歩き出すハジメ。
月明かりはあるものの、木が生い茂っているため奥の拝殿はよく見えない。

ハジメ「肝試しにはまだ早いよな」

不意に両脇に並ぶ石灯籠に灯りが点る。

ハジメ「?! 」

灯りは更に拝殿を抜け、奥の山道まで続く。灯りは炎ではなく、チカラの一種のような特殊な光。ハジメ、しばし見つめているが、観念して歩き出す。
通り過ぎた後、次々と消える石灯籠。

○天網神社・境内
古くて立派な造りの拝殿。
その背後の山道に入っていくハジメ。

○天網山・山道
坂道を登るハジメ。所々に灯る明かりはずっと続いている。

ハジメ「まさか、夜中にピクニックするとは思わなかったな」

登り切った先は下り坂。そこから先には明かりは無い。そこに立っている人影。提灯の明かりが点けられ、暗闇に顔が浮かぶ。

ハジメ「君は……」
晴美「お待ちしていました」

深々とお辞儀する晴美。

ハジメ「え、いや」

思わずお辞儀を返すハジメ。

   *   *   *

晴美に導かれ、山道を歩くハジメ。

ハジメ「峯尾さん。これから一体、何があるの?」
晴美「空蝉の儀式」
ハジメ「うつせみ?」
晴美「心を遠くへ飛ばす儀式」
ハジメ「……守山さんの?」
晴美「……」
ハジメ「君も、他の生徒会の人と同じ——」
晴美「私は違うの」

不意に立ち止まる晴美。

ハジメ「え?」
晴美「(背中を向けたまま)私はあの人達とは違うの。私はあの人達を守る役」
ハジメ「?」

晴美、山頂の方を見上げる。

晴美「始まったみたい。行きましょう」

再び歩き出す晴美。あわてて付いていくハジメ。

○同・山頂
標高一五〇メートルほどの頂上には小さな本殿。八葉、京一、瞬が本殿前の三方を守るように立っている。

八葉、下の山道を覗き見てポツリ。
八葉「晴美が彼を連れてくる。急ごう」
京一「八葉、本当にいいのか?あいつで」
八葉「モモエ様が言ったんだから間違いなかろう。大丈夫だ」
京一「しかし、奴は天網の民ではない!」
瞬「妬いてるの、京一さん?」
京一「茶化すな!」
八葉「カッカするな、京一……空蝉の大本になるのはお前なんだぞ。お前が乱れたら、俺達は……」
京一「……わかってる」

本殿の扉が開き、中から那由多が出てくる。白装束が美しく、月明かりに青白く輝く。いつになく荘厳な面持ちの那由多。

八葉「……いいのか?」
那由多「……」

黙って頷く那由多。

○真守家・次の間
車座に座るモモエ、ジルトーシュ、ウエンヌル、ヴェロッシュ。

モモエ「そろそろ、ですね」
ジルトーシュ「そうですね」
ウエンヌル「一体何が起こるんですか?」
ジルトーシュ「あの子達はね、宇宙を飛ぶんだ。サナドンを倒すためにね」
ウエンヌル「さなどん?」
ジルトーシュ「サナトス星の知性体兵器の事だよ。わかりやすくていいでしょが」
ヴェロッシュ「この地域には、恒星間飛行に適した機体が存在していない筈だが?これは我々の調査でも明らかになっている」
ジルトーシュ「心を、チカラに載せて運ぶのさ。物体であって物体ではない、シングウのチカラ…」
ウエンヌル「シングウのチカラ……」
ジルトーシュ「そう。君たちの国の老人達が欲しがっていた謎のチカラさ」
モモエ「……」

○天網山・頂上
篝火のようにチカラの炎が点る。
京一、八葉、瞬が那由多を取り囲む。
両手を胸の前で組む那由多。

那由多「シングウ!」

声高く叫ぶと体が白く輝く。

京一「チカラは体のみにはあらず。その心を載せてチカラは新たなるシングウとなり、空へ!」
八葉・瞬「空へ!」

那由多の目が光ると体内より光の球が飛び出す。京一の体内より光の柱が伸び、光の球を押し上げる。

○同・山道
その様子を遠目に見る晴美とハジメ。

ハジメ「?」
晴美「始まった……」
ハジメ「……守山…さん?」

○同・山頂
引き続き八葉と瞬の体より光の帯が飛び出し、光の柱に絡まりながら球へと伸びる。

京一「我は螺旋。チカラを天空へ、押し上げる螺旋!」

光の球、三つの光の絡まりを吸収すると物凄い早さで急上昇。星空に消える。

NR「あの光は守山さん……何故だかわからないけどそう思えた。あの光は……」

○同・山道
道を急ぐ晴美とハジメ。
NR「続きは次回——」

         (第一〇話・完)

☆二〇〇字詰八〇枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)