『教えて、ミーサ先生』

『モーレツ♡宇宙海賊』
ドラマ「教えて、ミーサ先生」(第一稿)
       (11/12/07)脚本・佐藤竜雄

登場人物
加藤茉莉香
ミーサ・グランドウッド
遠藤マミ
チアキ・クリハラ


一同「教えて、ミーサ先生!」

だるそうにミーサ、一人語り。

ミーサ「あー、茉莉香ちゃんの護衛目的で学校の保険医になったのはいいんだけど、結構面倒くさいわねえ、女子校って…何かって言うと生徒達が『先生』『先生』ってやって来るんだもん。ま、私の美貌は年下の少女達にも魅惑的なのかもしれないけど…あら?ってな事言ってる間にまた足音。今度は何かしら?」

保健室に入ってくるマミ、明るく。

マミ「こんこん。失礼しまーす。ガラリ」
ミーサ「何?ガラリって?」
マミ「何って、扉ですよ、扉」
ミーサ「この学校の扉、自動ドアでしょ」
マミ「あ、そうでしたね。やり直しやり直し…こんこん。失礼しまーす。ういーーん」
ミーサ「回りくどいわねえ…」
マミ「つかつかつか、立ち止まり。えーと、あのぉ先生、私悩んでるんです」
ミーサ「ふーん、そう。お大事にね」
マミ「あれ、聞かないんですか?『マミちゃん、何悩んでるの?』とか『そうかそうか遠藤、大変だったな。先生にその悩みとやらを言ってご覧なさい』とか」
ミーサ「聞くわけないでしょ。第一私、あなたの名前知らないんだもの。何?マミちゃんっていうの?」
マミ「はい、そうです。申し遅れました、わたくし一年雪組の遠藤マミと申します。以後、お見知りおきを。…ぺこり」

面倒くさそうにミーサ。

ミーサ「はいはいよろしくね。もういいでしょ。じゃ!」
マミ「もういいって、まだ何も言ってません」
ミーサ「自己紹介したでしょ。先生は忙しいんだからまた来てね」
マミ「えーー。忙しいって、何もしてない(じゃないですか)…あーーっ!机の上のこれ、ビールの缶じゃないですか!いいんですか、勤務中にお酒なんて飲んで?!」
ミーサ「(きっぱりと)いいのよ」
マミ「ええっ?!」
ミーサ「医者というのは24時間いつでも臨戦態勢。いつが日常でいつが勤務中なんて関係ないのよ。だから、いつでも、飲む!(ビールを飲み始める)んぐんぐんぐ…ああーーっ、最高!」
マミ「えーー、でもぉ。保健室に『先生お腹痛い』とか『先生、ここバッサリやっちゃって』なんて時に、ぷんぷんお酒くさいってのは──」
ミーサ「なあに、バッサリって?あなた文句言いに来たの?相談受けに来たんじゃないの?匂いとかプンプンとか関係ないでしょ?」
マミ「まぁ、そうなんですけど。噂通りの豪快先生だわ…これならイケるかも」
ミーサ「ん?」
マミ「先生実は私、悩んでるんです」
ミーサ「はいはい、振り出しに戻ったわね、OK。で?何の悩み?ま、座りなさい」
マミ「はーい、着席。あのぉ、友達のことなんですけど…最近、歴史に目覚めたらしくて、何だか色々調べてるんですよ」
ミーサ「ふーん、勉強熱心ね。いいんじゃない?」
マミ「まー、いいんですけどォ。時々ボーッとしてると言うか、考え込んでるというか。この間なんか、不意に叫ぶんですよ。『さあ、海賊の時間だ!』」
ミーサ「ふぅん」
マミ「それで我に返って、『やっぱり違うよなぁ』とか何とか…まぁ、私しか周りにいない時だからいいんですけど、そのうち教室で叫び出すんじゃないかなーと思うと心配で心配で」
ミーサ「…その子、お笑いか何か目指してるんじゃない?」
マミ「ええっ、茉莉香がお笑い?!それは思いつかなかったですぅ!」
ミーサ「きっとあなたの前でそんな素振りを見せるのは、試しているのね」
マミ「試す?何をです?」
ミーサ「あなたはその子のなあに?」
マミ「何って…友達ですけど」
ミーサ「親友、って感じ?」
マミ「ええ、まあ。ここの中等部に入学早々、一緒に迷子になっちゃって以来の縁というか。広いじゃないですか、この学校。私、特別教室にいこうとしたら迷っちゃって。そうしたら、向こう側から似たような子がやって来て…それが茉莉香だったんですよ!」
ミーサ「何だか長くなりそうだからもういいわ。どうせ授業ほっぽり出して、一日じゅう二人で学園探検でもしたんでしょ?」
マミ「うわ、よくわかりましたね。スゴい!さすが、私の見込んだ先生だけある!そうなんですよ〜、話せば長い──」
ミーサ「(制するように)だからいいわ!言ったでしょ。えーとどこまで言ったかしら…」
マミ「私と茉莉香は大親友で!」
ミーサ「はいはい、いつの間にか『大』親友になってるけど、その方が話が早いわ」
マミ「え?」
ミーサ「要するにね、お友達の最近の振る舞いは、あなたを試しているのよ」
マミ「試す?何をです?」
ミーサ「自分のネタが、身近な人間に通用するか。…言わばお笑い修行の初歩の初歩」
マミ「ええ〜〜、あれってお笑いのネタだったんだ。わからなかった〜〜」
ミーサ「おそらくノリツッコミ…他人にツッコミをさせない正に力技。それゆえにかなりお客を置いてけぼりにする危険がある」
マミ「そうかぁ、茉莉香ってば面白いことを言って私を笑わそうとしてたのか。ウフッ、可愛い♪」
ミーサ「(ピシャッと)甘やかしてはダメ」
マミ「え?」
ミーサ「お笑いの道は険しいのよ。面白くなかった時はキッパリ言う。これは仲の良いお友達だからこそ厳しく言えるの。あなたはその子からお笑いのネタを試されていると同時に、友人としての誠実さを試されているとも言えるわ。だから──」
マミ「(勢いよく)わかりました!そう、そうですよね!私てっきり茉莉香が海賊になりたいとかそんな訳の分からないこと考えてたらどうしようと思ってたんで…納得です!先生、ありがとうございました!ダメ出しはしっかりやります!それでは、失礼します!」
ミーサ「頑張ってね〜」
マミ「ずんずんずん。うい〜〜ん♪」
ミーサ「ああ、ドアが閉まったんだ。芸コマ。(気を取り直して)さてさて、もう一本ビールを開けちゃおうかなーっと…ぷしゅっ♡」

冷静にチアキ登場。

チアキ「ういーーん。失礼します」
ミーサ「あら、立て続けね。どこが悪いの?」
チアキ「つかつかつか…着席。先生、生きるって何でしょうね?」
ミーサ「唐突ねえ。何の相談?」
チアキ「人はパンのみで生きるにあらず…それはわかるのです。適度な娯楽、適度な教養…様々なものが人生を、社会を豊かにしていきます。とはいえ、度を過ぎてはいけない」
ミーサ「なあに、講演会の練習か何か?ダメ出しはお友達にでもしてもらいなさい。ぐびぐびぐび…ぷはーーーッ!ああ〜〜ン、ビールはイイわね。人生を豊かにするわァ♪」
チアキ「(声を荒げて)先生は気にならないのですか?!」
ミーサ「は?」
チアキ「ビールには一缶ご飯お茶碗一杯分のカロリーがあります。先生がビールを飲めば飲むほど、その体にはカロリーが蓄積されるのですよ。ましてやチョコパフェには…パフェには…」
ミーサ「?あなた、パフェ好き?」
チアキ「ぎくっ」
ミーサ「なあに、ダイエット相談?大丈夫よ、あなたくらいの歳は多少食べ過ぎても──」
チアキ「その甘さが宇宙では命取りになるのです!(ハッとなり)あ、いえ…」
ミーサ「あなた、自分を偽っている感じ?」
チアキ「いえ、決してそのような!」
ミーサ「(ニヤリとして)ふーん、そうなの?あなた、可愛いわね」
しどろもどろになるチアキ。
チアキ「可愛い?!いえ、その、自分はカッコイイのがいいんだと、クールで、クレバーで、その、あのォ!!」
ミーサ「…カッコよくありたい、それはあなたの生き方に対しての理想なわけね。だけど、あなたは…パフェが好き」
チアキ「うっ?!」
ミーサ「渋くキメたいのに、あなたはとってもパフェが好き。ひょっとして可愛いものも好きなんじゃない?テディベアとか、お人形さんとか?」
チアキ「い、いえ!パフェに比べればそこら辺は!!(ハッとなり)あ、いや…」
ミーサ「あなたはとっても可愛いわ。素敵よ」
チアキ「私は可愛くありません!」
ミーサ「可愛い子はクールじゃない?」
チアキ「え?」
ミーサ「大丈夫よ。あなた。カッコいい女はかくあるべしと思っているみたいだけど、カッコイイ女だって可愛いのよ。同じ女から見たってね…ぎゅっ」
チアキ「あ、何をするんですか?そんな、抱きつかないで!」
耳元でささやくようにミーサ。
ミーサ「男であれ、女であれ、しじゅうピカピカ光っている必要は無いの。そんな太陽みたいな人間、まぶしくてその人の真実が見えない。むしろね、色んな風に見えた方がミステリアス…様々な顔が見える方が、ス・テ・キ」
チアキ「(切なそうに)ああっ、耳元でささやかないで!吐息が、吐息が…」
相変わらずウイスパーなミーサ。
ミーサ「なあに、吐息が?」
チアキ「吐息が…お酒くさいです」

チアキは去り、再びミーサ一人。

ミーサ「はー、そそくさと帰っちゃったわね、メガネの子。チアキ・クリハラさん…だったっけ?ケインの言っていた要注意人物。でも可愛かったなー、黒髪が長くて、ツンツンしてて…でもああいう子ほど、愛でてあげたい…あらやだ、すっかり私も女子校の雰囲気に慣れてきちゃったみたいね。(妙に色っぽく)男ばっかりの海賊稼業に復帰出来るかしら?」

不意に現れる茉莉香。

茉莉香「ミーサさん!」
ミーサ「あらやだ、お約束は?こんこん、とかういーーん、とか?」
茉莉香「それどころじゃありません!あなた、マミに何言ったんですか?」
ミーサ「マミ?どのマミちゃん?」
茉莉香「私の!私の友達の遠藤マミです!」
ミーサ「ああ〜」
茉莉香「ああ〜、じゃなくて!いきなりあの子、私の言うこと話すことみんなにダメ出しするようになって!聞いたら『甘やかしてはダメ』って言われたとか何とか…」
ミーサ「ふーん、早速実践してるのね。感心感心♪」
茉莉香「感心しません!私がいつお笑いを目指すようになったって言うんですか?!」
ミーサ「知らないわよ。私はあくまでもあの子の話を聞いてちょっとしたサジェスチョンをしただけだもの」
茉莉香「サジェスチョンってばクエスチョン!あなた、海賊なんだからあの子が私とどういう関係で、私が何考えているかわかってるでしょ?!わかっててそんな意地悪するんですか?!」
ミーサ「私は今は校医さん。最近学園で噂の、美人な美人なお医者さん。それにね、海賊だからって全ての事が分かっているなんて事はないんだから」
茉莉香「だって!」
ミーサ「だって、私、あなたが海賊になりたいのかなりたくないのか、わからないもの」
茉莉香「う…」
ミーサ「わかっていたら、こんな風に学園に潜り込んだりしないわよ」
茉莉香「で、でも、悩んでいるのはわかるでしょ?それを茶化すなんて──」
ミーサ「どのくらい悩んでいるのなんてわからないわ。すっごく深刻なのか、或いは悩んでみせているポーズなのか…」
茉莉香「ポーズじゃありません!!」
ミーサ「ケインはあなたの身辺警護のためにそばにいる。私はあなたを見定めるためにおそばに──」
茉莉香「見定める…」
ミーサ「果たしてあなたは弁天丸の船長にふさわしい人材なのか、或いはそうではないのか。いくら海賊船の船長は直系の子供しか後が継げないっていってもね、ロクでもない人間の下で働くほど海賊はお人好しじゃないって事。いざとなったらよその船に移籍してもいいんだもの」
茉莉香「海賊の移籍?」
ミーサ「少なくともわかったのは、あなたには良い友達が大勢いるって事かしら」
茉莉香「良い友達…」
ミーサ「悩みなさい、答えはすぐに出す必要はないわ。高校生活を楽しみなさい──」

再びミーサ一人。

ミーサ「ふー、何とかいい話っぽい流れにして茉莉香ちゃんをごまかしたわ。んぐんぐんぐ…あー、ビールが美味しい。今日は何だか喋りすぎたわ。美人の校医さんはもうおしまい。じゃ、またね♪」

(おわり)

TVシリーズ「モーレツ宇宙海賊」Blu-ray BOX【LIMITED EDITION】(品番:KIXA-90542)に収録
(c)2011 笹本祐一/朝日新聞出版・モーレツ宇宙海賊製作委員会

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)