高円寺酔生夢死 第2.5回

 珍しくアニメの話をしようと思う。

 実在する場所を舞台にする場合、よくロケハン、ロケーションハンティングなるものを行う。実際に撮影する実写ならいざ知らず、何で絵で描くアニメにロケハンが必要なのかと聞かれるが、絵で描くからこそ必要なのである。更に言えば、シナリオハンティングもやれるならばやった方がいい。以前、河森正治さんと話をした時に「ロケハンは五回はやった方がいい」という結論になった。横で聞いていたプロデューサー氏は苦い顔をしていたが、あくまでも「やれるなら」である。実際問題、ロケハンなんて予算に組むのはなかなか難しい。とはいえせめて、三回はやった方がいいと思う。

 最初の一回は、触発されるため。ネットや本で見ただけではわからない、空気感みたいなものを実感するため。そんなものは無駄だ、俺はちゃんと描けると言う人がいるが、大抵は手癖で済ませているに過ぎない。その癖が『味』になっている場合はいいが、その辺りはプロデューサーの采配次第である。現地に立って何を思うか…この時点で詳細な取材は無駄である。役に立つものは何かいな、と歩き回るのではなく、ただ歩き、眺め、感じるだけでいい。そして残ったものが発想に繋がる。そこから何を描きたいか、何をやりたいかがおぼろげながらも見えてくる。
 次に行く二回目のロケハンは、確認のため。初めはただ漠然と眺めていた景色が、目的意識を持つことで俄然違うものに見えてくる。原作ものであるならば、より原作の理解が増す。だんだんにその作品における『土地カン』めいたものが生まれてくる筈だ。それらを面白おかしく、企画の立ち上げ時にプロデューサーや脚本家に話が出来ればしめたもの。ここで始めてスタッフを連れて正規のロケハンを致しましょうという事になる。
 三回目のロケハンは、案内のため。アニメーターや美術さん、メインのスタッフを連れ回す、もとい作品世界へご招待。そこで各スタッフが更に誘発されるものが出て来たら、しばし期間を置いて更に一回二回…だから五回は必要だね、という先程の結論だ。最初の二回は自腹で良いとして、実際にスタッフを連れて最低二回は行きたい。無論、可能ならば、である。当然、スケジュール的に不可能な場合も多々ある。ではどうするか?

 例えば『シゴフミ』。舞台のかもめ市は架空の街である。特定の街をまんま設定に使用してしまうと、こういう題材の場合、興ざめである。したがって様々な街をコラージュしてでっち上げることになる。5話でフミカとチアキが歓楽街を歩くシーンがある。どんな雰囲気がいいだろうかと飲みながら考えていたら、ふと思い立った。

「ここ(中通り)でいいじゃないか」

 知っている人はわかるだろうが、高円寺中通り商店街の入り口の強烈さといったらなかなか無い。道幅の狭さと両側の店々の派手な看板は大体知らない人はギョッとすること請け合いである。いつか高円寺を舞台にしたアニメを作って下さいと、常連達によく言われるが何処か気恥ずかしい。いつかは作るかもしれないが。

(2010年3月15日公開分)

※後述

いきなりアニメの話になっているのは2010年4月23日にバンダイビジュアルより『シゴフミ』DVD-BOXが発売されるからであり、当時バンビジュが運営していたYOMBANに連載を持つ『シゴフミ』監督としては宣伝に協力すべし、と担当編集氏から提案を受けての今回の内容であった。

今はGoogle Earthのおかげでロケハンする以前に何となく土地の見当がつけられるようになってしまった。とはいえ、余計に「見えてないところ」「もっとその先」を見たくなってしまう。この感覚は大事だと思うのでなるべく「ググって済ます」だけにはしないようにしたい。

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)