第7話『君の、えがお』

学園戦記ムリョウ

第七話『君の、えがお』(第二稿)

脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
統原瀬津名(スバル・セツナ)
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
成田ジロウ(ナリタ・ジロウ)
川森アツシ(カワモリ・アツシ)
三上トシオ(ミカミ・トシオ)
進藤アキミ(シンドウ・アキミ)
真弓ツカサ(マユミ・ツカサ)
稲垣ひかる(イナガキ・ヒカル)

村田双葉(ムラタ・フタバ)

真守モモエ(サネモリ・モモエ)
津守十全(ツモリ・ジュウゼン)
守山載(モリヤマ・サイ)
守口壌(モリグチ・ジョウ)
守機漠(モリハタ・バク)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
峯尾拳治(ミネオ・ケンジ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル

柔道部長
サッカー部長
その他の部長達
生徒達
はやぶさ判官
悪人

○天網市
夜。
国道を南に下る御輿坂周辺。
漁師町を連想させるたたずまいの中で、どこか浮いている鮮やかなマリンブルーのワンルーム形式の集合住宅。
その名は「ハイツ・ブルーハワイ」

○ブルーハワイ・ヴェルン星人の部屋
六畳間。部屋にはマンガやら雑誌が散乱している。ちゃぶ台を挟んで対座するザイグル星人とヴェルン星人。山本と磯崎は傍らに座っている。

ヴェルン星人「えーと、で、所属と名前は?」
ザイグル星人「ザイグル帝国宇宙軍太陽系方面調査部隊少尉、ウエンヌル」
ヴェルン星人「へえ」

オッという表情を浮かべるヴェルン星人。磯崎、それに構わず——

磯崎「ウエンヌル少尉、あなたの星はいつから二つに分かれて争っているの?」
ザイグル星人「知らない。そもそも我らの星が一つの統治機構によって治められていたという歴史はない」
ヴェルン星人「あったんだよォ、大昔に」
山本「見も知らない宇宙人にそんなこと言われて信じる奴はいないよ」
磯崎「歴史以前……地球の時間感覚でいうと、二千年も経てば事実も神話になります。まして、政治を治める者にとって、都合の悪い歴史は忘れられるように仕向けられるのが常です」
ヴェルン星人「さしずめ我々はおとぎ話を真剣に語るトンデモない連中だねえ」
山本「(ヴェルン星人を見て)特にお前さんは胡散臭そうだしな」
ヴェルン星人「ちぇっ」

厳しい表情のザイグル星人。

ザイグル星人「……私はまだ、あなた方のことを信用したわけではない」

苦笑いを浮かべるヴェルン星人と山本。

磯崎「そうね。当面は、情報収集に励むのが賢明ね。あなたにはいい機会でしょう。自分の生きる世界を外から見る事はザイグル
星ではなかなか出来ないことだから。(軽く微笑んで)お話を聞くのはもう少し後にしましょう」

満面の笑みではないがかえってそれが魅力的な磯崎。
それを見たヴェルン星人、反射的に口笛。山本、顔をしかめて

山本「あんた、彼にくれぐれもヘンなことを吹き込まんでくれよ」
ヴェルン星人「俺だって銀河連邦の一員だよ。信用ないなぁ。責任もって彼を保護するから安心してよ」
磯崎「でも……その前にたった今やらなければならないことがあるわ」
ヴェルン星人「何だい?」
磯崎「(吐き捨てるように)この部屋の掃除よ」

○オープニング

○天網市・街並み
昼。雨がシトシトと降っている。
紫陽花の花が垣根から覗く。

○御統中学・全景

(サブタイトル『君の、えがお』)

全校に響き渡る放送。声の主は瞬。
瞬「さぁ、もうすぐ始まるよ!」

○同・廊下
足早に駆けてゆく生徒達。
告知用のポスターがそこかしこに貼ってある。

『体育祭アンコール・アンコール』
あの名場面をもう一度!
司会・守機瞬、稲垣ひかる
本日昼休み 於・視聴覚ルーム
校内生中継!

○同・視聴覚ルーム
校内放送の公開放送が行われている。
立ち見も出ている盛況ぶり。
マルチスクリーンの前には司会の瞬とヒカリ、すでにノリまくっている。

瞬「どうも、どうも!守機瞬です!」
ひかる「稲垣ひかるでーす!静かにご飯食べたい人、ゴメンナサイ!でもでも今日だけはカンベン我慢して!これからお送りする
四〇分は先週行われた二〇七〇年度ミスチュウ体育祭アンコール・アンコール!」
瞬「数々の名場面、珍場面を見せます聞かせます泣かせます!」
ひかる「えーっ、泣いちゃうのォ?! 」
瞬「あまりの素晴らしさに泣くのか、あまりの情けなさに泣けるのか……それは見てのお楽しみ!」
ひかる「(観客席の生徒達に向かって)今年も面白かったね、体育祭!」
生徒達「面白かった~~!」
ひかる「はい、打ち合わせ通りご苦労さん!」

爆笑する場内。
マルチスクリーンでは各競技のスチールのスライドショー。時折観客側のリアクションも取り混ぜて放映している。

○同・職員室
ニコニコとモニターを見ている山本。

○同・二年C組
黒板のモニターを見ているハジメ達。

NR「激闘の体育祭から十日も過ぎ、梅雨に突入な今日この頃。前向きな僕達の関心は来月の期末試験とその後の夏休みに向いて
いる……とはいえ、楽しい過去をちょいと振り返ることもしたりして——」

妙に受けて見入っているジロウ。それなりに楽しそうなアツシにムリョウ。
トシオは淡々と箸を運んでいる。

モニターには次々と名珍場面がミュージッククリップ調に展開されている。
一〇〇メートル競走に百足リレー、飛び入り競争にバカ殿競争。その他応援風景や競技以外の生徒の風景なども色々と。

○同・各教室
楽しんでいる生徒達点景。

◯同・廊下
廊下のスピーカーから流れる番組音声。

瞬「以上、おおまかな体育祭の流れを超ダイジェスト!」
ひかる「まとめてわかりやすく、あ・な・た・の!脳味噌にギュッと押し込んでパーンとシェイクしちゃいました!」

受けている生徒達の声が教室より聞こえる。それを横目に廊下を足早に歩いていく那由多。手には弁当箱。

那由多「ふん」

足早に去っていく那由多。

○同・視聴覚ルーム
瞬「しかし、白組はホント残念でしたねえ」
ひかる「そうでしたねえ」

各所に置かれたカメラを自らのスイッチングで番組を進行させている二人。
背後のマルチスクリーンには最終的な紅白の得点が表示された得点板が映し出される。

瞬「ご存じない方はないかと思いますが念のため。体育祭の結果は二八〇対二七四!わずか六点の僅差で紅組が勝利しました」
ひかる「各競技互角の熱戦でしたが、明暗を分けたのは二点!応援合戦と騎馬戦!とりわけ、騎馬戦の意外な結末については未だ
に皆さん、語りぐさにしていますよね」
瞬「さぁ、それでは騎馬戦ダイジェスト!」

画面は騎馬戦。睨み合う紅白両軍。
涼しい顔の白組大将・ムリョウ。
コワい顔の紅組大将・京一。

○同・生徒会室
那由多「なアに?! 何で見てるのォ?! 」

扉を開けるなりすっとんきょうな声を上げる那由多。
部屋の中では八葉と京一(妙にきちんと座っている)がモニターを見ている。
画面に映る騎馬戦の模様。
打ち鳴らされるピストル。声を上げて互いに駆け寄っていく紅白の騎馬。

八葉「おう、どうした?お茶ならそこの机(スチール机)に……」
那由多「ここなら大丈夫だと思ったのに。ひどいわ、八葉さん」

ふくれっ面で椅子に座る那由多。

八葉「何だ、那由多は瞬の番組、見たくないのか?」
那由多「あ・り・ま・せ・ん!何よ、アレ。ばっかみたい!何であんなものみんな喜んで見てるんだかわかんない!(不意に京一の方を見て)だいたい京一、何であんたが見てるのよ」
京一「う、うるさい!」

やけにドギマギする京一。

八葉「まぁまぁ、落ち着けよ那由多」

ここでモニターは、ムリョウの馬と京一の馬が大将戦に挑む所を映し出す。

瞬「あー、ここが問題のシーンですね」

○同・視聴覚ルーム
マルチスクリーンでは正に戦わんとしている両者の図が静止画像。その前に座る瞬とひかる、評論家然とした深刻ぶった表情。

瞬「これは恐らくミスチュウ体育祭史上初めての出来事だと思います」
ひかる「はい」
瞬「今まさに大将の乗る騎馬が激突!かねてから因縁を持つ統原無量に守口京一!この両名によるすさまじい戦いが繰り広げられ
るであろうと考えた人は僕だけではない筈です。絶対そう!」

○同・二年C組
ジロウ「そうだよな」

思わず画面に言葉を返すジロウ。ハジメもうなずいている。焼きそばパンをパクつくムリョウは知らんぷり。

○同・視聴覚ルーム
瞬「何と両名の乗る騎馬が激突と同時にその形が崩れ、大将二人はそのまま落馬。競技は両大将敗北、引き分けという意外な結果
に……」

画面に映るその時の模様(俯瞰)。ムリョウと京一の騎馬、急に速度を上げて接近して激突。皆、はじけるように倒れるが、ムリョウと京一のみフワッと着地。

ひかる「決定的瞬間はこのアングルのカメラのみ!」
瞬「ひかるさんビデオ持ってウロウロしてたのに撮ってなかったの?」
ひかる「すいません、別の所撮ってました」
瞬「何がどうしてこうなったのか、当事者の方たちにインタビューしました」

画面は双方の騎馬を務めていた運動部長達。皆一様に神妙な顔をしている。
インタビュアーは瞬。

柔道部長「いや、何だか突然足が軽くなったなと思ったら一直線にムリョウ君の馬に向かって……後のことは憶えてません」
瞬「何でまた正面衝突なんかしたんですか?」
サッカー部長「わかりません。大将戦を挑もうと守口君の馬に向かっていったのは確かなんですけど」

○同・生徒会室
何だかんだ言って弁当を広げてモニターを見ている那由多。画面中では残りの部長達が弁解を繰り返している。

那由多「ホントバカよね。京一、何で正面衝突なんかしたの?騎馬戦で体当たりってどういうことよ」
京一「知らん!馬の連中が勝手に駆けてっただけだ!」
那由多「ハチマキ取るのが騎馬戦でしょ?ムリョウも京一も運動部の連中も興奮して訳わかんなくなっちゃったんだ。ハッ、普段
はスカシたお二人さんが実は熱血単純おバカさんって感じ?」

ギロッと京一、那由多をにらむ。

八葉「(京一を制して)まあまあ…(那由多に向かって)那由多お前、最近口が悪いぞ」
那由多「あ~ら、そうかしら」

知らんぷりの那由多、弁当をパクつく。

京一「……」

京一、怒りを堪えてお茶を飲む。

ひかる(画面中)「なお、紅白両大将の統原君、守口君はこの件に関してはノーコメントでした~♪」

○同・視聴覚ルーム
瞬「ま、世の中にはこういう珍しい事も起こりうる、というわけで」
ひかる「結局、騎馬戦は引き分け。となると紅白対抗の勝敗を決したのは、実はその前に行われた応援合戦でした」

マルチスクリーンに映し出される紅白応援合戦の名場面・珍場面。

○同・生徒会室
那由多「えーーっ、何よこの構成!何でこの流れで…」
京一「はっはっはっ、愉快痛快!」

画面には桃太郎姿の那由多、赤鬼に向かって大根な芝居。

那由多(画面中)「わたしは日本一の白組の桃太郎、お前達を成敗してくれる」
赤鬼達(画面中)「うおーー」

○同・二年C組
ジロウ「あっはっはっはっ!」

大笑いのジロウ。ハジメ達も笑っている。ムリョウも口元に笑み。

ジロウ「(笑いながら)あー、情けねー。守山もハジメもムリョウも…は、は、は、腹痛てー!痛すぎだーー」
ハジメ「こら、失礼だぞ。笑い過ぎ」

そう言いながら、ハジメも笑いが止まらない。

アツシ「しかし、みんなスゴイね。特に副会長の守山さん」

画面にはオチの那由多の見得を切るところが大写し。

那由多(画面中)「赤鬼倒してェ、白、ア、勝ったあァ~~!」

○同・視聴覚ルーム
大爆笑の観客達。

瞬「いやー、日頃からは想像のつかない守山那由多さん、迫真の演技でした」
ひかる「自分を捨ててまでの勝利への執念、これで白の勝利か、と誰もが思ったでありましょう。いやしかし」
瞬「紅は更に自分を捨ててまいりました!」

マルチスクリーンに映るチアガール姿
の京一達紅組応援団。皆男子生徒。
大爆笑の観客達。

○同・生徒会室
那由多「あっはっはっはっはっ!」

得意げに高笑いの那由多。

那由多「何あれ、はっずかしい!女子の憧れの京一様がボンボン持って幻滅う~」

しかし京一、今回は動じず口元に笑み。

京一「フッ、負けた人間に何を言われたって全然応えんね」
那由多「ム」
八葉「ははは、一本取られたな、那由多」

画面では紅組応援のクライマックス。グラウンド中央の京一達が入場門にいる晴美を迎え入れる。

京一(画面中)「さあ、私達の勝利の女神を迎えましょう!」
柔道部長(画面中)「女神様!」
一同(画面中)「女神さまあーーっ!! 」

入場門に置かれた卵から火の鳥をイメージしたコスチュームの晴美、登場。

○同・視聴覚ルーム
生徒達「おおお~~ッ!! 」

大きくどよめく観客席の生徒達。
スクリーン上の晴美、バック転でグラウンド中央までやってくると最後は大きく伸身宙返り。京一達の作ったピラミッドの上に着地する。
恥じらいながらもニッコリと笑顔。

晴美「紅組、優勝!」

○同・二年C組
ハジメ達「おお~~」

思わず拍手するハジメ達。

瞬(画面中)「白組も負けて悔いなしってところでしょうか」
ひかる(画面中)「男の子は大喜び、女の子も思わずキュンと感動、男共のチアガールの気持ち悪さはむしろこのための布石だっ
たわけですね」

爆笑する生徒達。

○同・生徒会室
ふくれっ面で弁当をパクつく那由多。
京一と八葉はモニターを見ている。
画面には大写しになった晴美の笑顔。

京一「……」

心なしか微笑んでいる京一。
そんな京一をチラと見る八葉

ひかる(画面)「さあ、それでは続いて取って置きの珍場面集、行ってみよう!」

早速、二人三脚の時の河童姿の那由多
大写しになる。爆笑の場内。

那由多「あーーっ!! 」

思わず立ち上がる那由多。

○同・二年C組
自習時間。
『自由課題でレポート』と黒板に書かれている。皆騒ぐでもなく静かでもなく適度ににぎやかにやっている。
ハジメはトシオと共同レポート。
前の席のアキミとツカサがパソコンに向かいながらも話しをしている。

ツカサ「やっぱ、スゴイね晴美ちゃん」
アキミ「普段がああだからイヤミにならないね」
ツカサ「でも勿体ない。あんなに体操とか出来るし、カワイイのに」
アキミ「晴美ちゃん跡継ぎだから……しょうがないんじゃない?」
ジロウ「(ツカサの声真似)ふっるーーい。それって何世紀前?」

突如のジロウの突っ込みに周辺大爆笑。

ツカサ「やっだー、やめてよジロウ!」
ジロウ「(声真似して)やめてよー」

周辺ややウケな笑い。それを聞きながらふと、物思いモードのハジメ(とはいえ、トシオとの作業は続けている)。

NR「生徒会会計の峯尾晴美さんは、天網市に本部を持つ古武道の道場主の一人娘だそうだ。武道の達人だからバック転や宙返り
が得意なのかは知らないけど、この街に住む人たちは色々特技を持っている。それはやっぱり……」

ハジメの脳裏に浮かぶ、かつてモモエに見せられた宇宙のイメージ。
窓の外は雨。

○アイキャッチ

○同・アプローチ
下校風景。傘を持って帰る生徒達。
雨上がり。花壇の草花が濡れている。

○同・国道沿い
ハジメ、切り通しから国道沿いを歩く。

ハジメ「あ」

目の前に那由多の後ろ姿。
何やら道端をじっと見つめている。

ハジメ「守山さーん」
那由多「ああ」

やけに他人行儀な那由多。

ハジメ「(歩み寄って)何やってるの?」
那由多「点検よ」
ハジメ「点検?」

道端には小さな御幣がささっている。

ハジメ「これの?」
那由多「ちょっと先急ぐから。じゃあ」

歩き出す那由多。歩き出すハジメ。
しばらく歩く二人。

那由多「……」
ハジメ「……」

再び御幣を点検する那由多。その様子を興味深く眺めるハジメ。
しばらく歩く二人。イラつく那由多。
我慢できなくなった那由多、キッと振り返るとハジメにまくし立てる。

那由多「あんた!人をつけ回して何が楽しいわけ!? 」
ハジメ「え?」
那由多「あんたも私をバカにする気ね!ええそうよ私はバカでお調子者ですよ!河童で桃太郎で白勝ったの女ですよ!晴美ちゃん
とは違います!」
ハジメ「はあ…」
那由多「ついてこないで!」

足早に立ち去る那由多。

   *   *   *

御幣を点検する那由多。その後ろに申し訳なさそうにたたずむハジメ。
那由多カッとなり再び食ってかかる。

那由多「あんたねえ!」
ハジメ「ああ、ゴメン。でもさあ」
那由多「でもさあって何さッ!」
ハジメ「この道、僕の帰り道なんだ」

○ブルーハワイ・ヴェルン星人の部屋
妙にすっきりした室内。
熱心にTVを見ているアロハなザイグル星人。その傍らには雑誌や新聞が山積みになったテーブル。サングラス越しの目がめまぐるしく明滅している。

ザイグル星人「……」
ヴェルン星人「どうだい、なかなか面白いだろう時代劇も」

台所で料理のヴェルン星人、背中越しに尋ねる。
画面では遠山の金さん風の時代劇『はやぶさ判官』放映中。奉行がお白州で悪人と対峙しているシーン――

判官「騙しきれると思ったかい?こいつぁとんだ間抜け共だ!」
悪人「あ、あのときの遊び人!? 」

回想で遊び人に扮装した奉行が見得を切るシーンがインサート。

判官「そうさァ!おいらは遊び人の…ア、はやぶさだよォ」
ザイグル星人「陳腐なファンタジーだ。法を以て裁く側にある人間が、警察力を以て捜査するのは公平さを欠く」
ヴェルン星人「まぁ、そう言いなさんな」

出来上がったソーメンチャンプルをテーブルに置くヴェルン星人。大皿一枚に山盛り。ザイグル星人はTVから見つ
めたままで目もくれない。

ヴェルン星人「丁度今の地球に対する銀河連邦の立場も似たようなモノだからね」

早速チャンプルをズルズルと食べ始めるヴェルン星人。チャンネルを変えるザイグル星人。ザッピングの後メニュー画面へ。

ヴェルン星人「食べなよ。結構イケるよ」
ザイグル星人「自らが法となり、自らが裁くことが出来るのは一人しかいない」
ヴェルン星人「ふーん」
ザイグル星人「……それは神だけだ」

○村田家・外
手入れされた庭。庭木に小鳥が留まっている。

○同・リビング
寝っ転がって雑誌を読んでいるハジメ。
どこか浮かない表情。

フタバ「よっ、少年。シケてるねえ」

庭側の開いた窓から声を掛けるフタバ。
写真屋の袋を抱えている。

ハジメ「何おっさんみたいな……あれ?」

そのかたわらにはムリョウ、フタバに腕を組まれて苦笑い。

ムリョウ「やあ」

   *   *   *

体育祭の写真の山をはさんで座るハジメとムリョウ。ニコニコとムリョウの隣に座っているフタバ。

ハジメ「どうしたの?」
ムリョウ「いやあ……ちょうど真守さん家で親族会議でね」
ハジメ「親族?」

○真守家・広間
車座になって行われている親族会議。
出席者は真守モモエ、守山載、守機漠、津守十全、守口壌といった各家の当主。
激しいやり取りの壌と載。

壌「今こそ我々の身分を明かし、ザイグル星人を叩くべきです!」
載「時期尚早だ!」
壌「あなたは御自分の子供を危険に遭わせて平気なのか?! 」
載「シングウは負けない!」

黙って話を聞いているモモエと十全。
漠はヘラヘラ笑っている。

○村田家・居間
ムリョウ「何かイヤなんだよね。近くで辛気くさいことやってるの」
ハジメ「ああ、それ何となくわかるよ」
ムリョウ「で、商店街をブラブラしてたらフタバちゃんに」
フタバ「写真屋さんを出たらバッタリ……運命の出会いですね」

うつむき、顔を赤らめるフタバ。そのわざとらしさに呆れるハジメ、すぐ気を取り直し、目の前の写真の山を見る。

ハジメ「しかし、すごい量だな…いくらかかった、お前?」
フタバ「今回は大丈夫。おかーさん援助金が出ていまーす♪」
ムリョウ「写真が好きなの?」
フタバ「ええ…キャッ、何かお見合いぽい」
ハジメ「(ため息)…」

げんなりなハジメ、相手にせずに写真を見る。ハジメのバカ殿、ムリョウの白学生服、クラスメート達に昼食風景など色々。

ハジメ「へえ」

ふと一枚の写真を取り上げるハジメ。ハジメと並んで歩く那由多。珍しく微笑んでいる。

セツナ「おーーっカワイイ。いい笑顔ねえ」

不意に耳元で聞こえるセツナの声。ギョッとするハジメ、かたわらを見るとブーツを抱えたセツナ、寄り添うように。

ハジメ「わっ、セツナさん?! 」

あわてて飛び退くハジメ。ヒラヒラと落ちる写真。

ムリョウ「(顔をしかめて)姉ちゃん、何しに来たんだよ」

セツナ、ブーツを持ったまま座り込むと軽くふくれ面。

セツナ「ご挨拶ねえ、真守さん家で辛気くさい会議やってるから遊びに来たの。あんただって同じでしょ」
フタバ「(妙に感心して)さすがご姉弟、気が合いますね」
セツナ「そうそう!お土産だって買ってきたのよ、北海道のバタークッキー!それに愉快なお友達も連れてきたしィ!」
ハジメ「?」

○同・玄関
ニコニコと入り口に立っている瞬、ビデオカメラを提げ、手にはお菓子の箱を持っている。

瞬「お土産とお友達でーす」

その隣にはブスッとしてうつむき加減な那由多、気まずそうに立っている。

那由多「どうも……」

○天網市・空
雲の切れ間に青空。

○天網流道場・風光館
天網市の西方にある道場。国道に近い
が周囲には畑が広がり、民家は少ない。
その構えは古く、どっしりとしている。

○同・道場内
バレーコートがまるまる一つ入りそうな広さ。板張りの床に正座する二人。
下座には晴美、上座には父の拳治。共に道着を来ている。

拳治「私の留守中、体育祭で大活躍だった、と守口様から聞いた」
晴美「……申し訳ありません」
拳治「お前のことだ、決しておごらずに上手くやったのであろう。事実、守口様は大層喜んでおられた」
晴美「……」
拳治「たまにはいいんだ。お前はまだ中学生なのだから……京一君を守れ。状況は日々彼らを戦いの場へと導いている」
晴美「……」

黙って頭を下げる晴美。

○天網市・国道沿い
松並木。買い物かごを下げて駅方向へと歩く晴美。行き交う車。

晴美「あ……」

目前に京一現れる。どこか落ち着かない様子。少し離れて向かい合う二人。

京一「よ、よう」
晴美「……」
京一「偶然だ。決して……」
真っ赤になってぐっと地面を睨む京一。
京一「……待ち伏せじゃない。じゃないぞ」
晴美「!」

キョトンとしていた晴美、次いでプッと吹き出すとクスクス笑い。

○村田家・居間
瞬の持ってきたビデオで昼間の番組を見ている一同。大ウケするセツナ。

セツナ「あーーははははは…かーわいい!」

画面はちょうど応援合戦の辺り。
にぎわう中にハジメと那由多がいない。

○天網市・国道沿い
信号待ちのハジメと那由多。
那由多「別に来たくて来たんじゃないのよ。たまたまあのお姉さんが前に立ちはだかって、『一緒に来い!』なんて言って引っ張って来られて…」
ハジメ「はいはい。ま、悪気はないんだからさ、セツナさんには」

信号が変わる。一歩踏み出すハジメ。
しかし那由多立ち止まったままうつむいている。

ハジメ「?」
那由多「……御免なさい」
ハジメ「え?」

   *   *   *

バス停のベンチに腰掛けている二人。
うつむいたままの那由多。

ハジメ「いいよ、気にしてないから」
那由多「私、最近変だ」
ハジメ「そう?」
那由多「何でもこなせて何でもわかってるつもりだった。でも……」
ハジメ「いいんじゃない?僕なんか最近わかんない事づくしだし。少なくともこの街で生まれ育った君の方が色々知ってると思う
んだけど?」
那由多「そういう事じゃなくて……」
ハジメ「?」
那由多「……晴美ちゃん、可愛いでしょ」
ハジメ「え?まぁ、そうだね」
那由多「(空を見上げて)あーあ、まあいいや。私はこれが地だもんね。私は私、晴美ちゃんは晴美ちゃんだし」

立ち上がって大きく伸びをする那由多。

那由多「よし!落ち込み終了!」
ハジメ「??」

全く訳がわからないハジメ、キョトン。
那由多「今日は色々ごめんね。おまけに愚痴に付き合わせちゃって」
ハジメ「別にいいよ。訳解ってないからさ」
那由多「フフ」

微笑む那由多。
突如響く鈴の音。
那由多「?! 」

○真守家・広間
ハッとするモモエ達。

○国道沿い・商店街入り口
ハッとする晴美と京一。

○国道沿い・バス停
ハジメ「なに?」

ハジメには鈴の音は聞こえていない。
那由多、近くの辻の御幣を見る。微かに震える御幣。

那由多「!」

走り出す那由多。

ハジメ「どこ行くの?! 」

突如北町方面(かなり遠い)で爆発。
火柱上がる。

ハジメ「うわ…」

あわてて後を追うハジメ。

○ブルーハワイ・外
燃えているブルーハワイ。人だかりの中に買い物袋抱えたヴェルン星人。

ヴェルン星人「うわー、燃えてる燃えてる」
磯崎「ちょっと、どういうこと?」

怖い顔で立っている磯崎。その隣には無表情な山本。

ヴェルン星人「火事でしょ誰が見ても」
山本「あのザイグル星人は?」
ヴェルン星人「さあね。あー、留守番頼むんじゃなかった」

聞いたか聞かないうちに駆け出す山本と磯崎。見送るヴェルン星人、ニヤリ。

○天網海岸
波打ち際を必死に走るザイグル星人。
アロハシャツにサンダル履き。

ザイグル星人「!! 」

砂浜の中より現れるシーカー2タイプが三体とシーカー3タイプが一体。
体当たりを受け、倒れ込むザイグル星人、すぐさま起き上がる。シーカー2 は独楽の形より人型に変形、戦闘態勢を取りながら星人に接近する。
取り囲まれるザイグル星人。

ザイグル星人「ク……」

戦闘指揮を執るシーカー3。その眼が明滅するとシーカー2、一斉に戦闘用の補助腕を構える。
身構えるザイグル星人。

八葉「セイサー、ウントコヨートヨイトォ、セイサー、ウントコヨートヨイトォ……」

突如聞こえる祭り歌。敵味方ギョッとして辺りを見渡す。
高架橋の橋桁の陰から現れる八葉。首にはタオルを巻いている。

八葉「宇宙人同士のいさかいは勝手にやっていただいても構いません……と言いたいところですが……」

海岸からも北町方面から黒煙が立ち上っているのが見える。

八葉「はっきり言って迷惑です」

一体のシーカー2、補助腕をビュンと伸ばして八葉を攻撃。しかしそれを見切りでかわす八葉。軽く手を振る。シーカー2、その体の半分をひしゃげさせて吹き飛ぶ。
機能停止。

八葉「ハァー祭りだ祭りだドッコイドッコイ御輿だ御輿だヨーイトナァ……」

八葉、両手を広げるとシーカー達持ち上がる。シーカー達ジタバタするも降りることは出来ない。

八葉「トウドヤトウドシングウノォ……ウントコヨイトォセイサーセイ!」

両手をパチンと叩くと鉢合わせするシーカー達。駆けつけた磯崎、フィールドでそれを包む。縮小爆発、消滅するシーカー2と3。

八葉「ご協力、感謝します」
磯崎「悪かったわね、迷惑で」
八葉「(苦笑い)先生はいいんですよ」
ザイグル星人「……」

波打ち際で呆然とたたずむザイグル星人。そこへ歩み寄る山本。

山本「ま、この街は変わった連中が多いってこったよ。おいおいわかるさ」
京一「八葉!」
八葉「いやー、祭りの歌の練習してたんだけどさァ——」

橋桁の方を見やる山本とザイグル星人。
八葉に駆け寄る京一と晴美が見える。

○天網市・街中
夕景。海岸方面の通りでへばっている那由多。それを介抱しているハジメ。

ハジメ「人間さぁ、全速力で何キロも走れるわけないんだからペース配分考えなよ。この間といい、無茶だよ君は」
那由多「(息荒く)不覚……不覚だわ……」
ハジメ「大丈夫?」

近くの御幣、微かに震える。鈴の音が(那由多に)聞こえる。

那由多「もう……終わったみたい。帰る」

ヨロヨロと起き上がる那由多。

ハジメ「え?じゃタクシー呼ぼうか?」
那由多「……おんぶ」

○村田家・居間
「バンバン紙相撲」で盛り上がるフタバとセツナ。その後ろで写真を見ている瞬とムリョウ。

ムリョウ「でさ、ホントなわけ?」
瞬「何がです?」
ムリョウ「騎馬戦の決定的瞬間。ホントに撮ってなかったの?」
瞬「ありませんよ。ホント、残念」
ムリョウ「京一さんも気が付かなかったみたいだし……生徒会長、結構使い手だよね」
瞬「フフフッ」
ムリョウ「ま、そのうち見せてよ」

二人の目の前には先程ハジメが見ていた那由多の写真。

○御統中学・放送室
モニターを見ているひかる。
画面には別アングルの騎馬戦の激突シーン(モロに横位置)。別モニターには八葉を追った絵が映っている。
すでに騎馬を解いた八葉がさりげなく手を振ると、チカラがそれぞれ大将馬を包み浮き上がる。そのまま鉢合わせするが、八葉チカラをセーブする動き。
弾かれるように倒れ込む両騎馬。

ひかる「フフン…わたし達ってチョット、情報操作って感じ~♪」

○国道沿い
那由多を背負って歩くハジメ、トホホな表情。子供のように寝ている那由多。

NR「人には見せないホントの自分。無理して押し隠して……守山君の抱えている使命はそれくらい重いらしい。そこいら辺の事情も何時かは知ることになるのかもしれない。まぁ、その時はその時だ」
ハジメ「どうでもいいけど…重いな」

実は起きていた那由多、激怒。

那由多「何ですって?! 」
NR「続きは次回——」

         (第七話・完)

☆二〇〇字詰八四枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)