高円寺酔生夢死 第05回

先日、『高円寺びっくり大道芸』というイベントが行われた。主催は高円寺の一〇ある商店街と高円寺フェス、そして座・高円寺。元々は八月の阿波踊りに参加していなかった商店街が、人が沢山押しかけているのに勿体ないと、路上パフォーマー達を呼んだのがきっかけである。当初は安直な企画だと思われていたが、意外にも大好評で普段人が少ないその商店街が人で溢れていたのを憶えている。せっかくだから高円寺じゅうでやろうじゃないかということで、座・高円寺の開館記念の一環として去年の五月二日、三日に行われた。基本は五月第一週の土日という事らしく、今年は一日、二日。街中に設けられた23の会場や座・高円寺ではパントマイムやジャグリング、空中ブランコなどが行われ、それ以外にも商店街を練り歩くウォーキングアクト達などなかなか楽しい『祭り』である。

パフォーマンスの開始時間は昼の12時から。去年の好評ぶりから、本来夕方から開店している飲食店も昼に開店する。何とかして客を確保しようと、店頭でハーブチキンを焼いたり、ゴーヤジュースを絞ったりとあれこれ工夫を凝らす。我らが博多やはというと、「昼からバッチリっスよ!」との事だったので、初日の12時を回った頃に早速顔を出す。店は開いていたが、案の定、準備中。おまけに店長のウト君がいない。取りあえずホッピーを頼んで、何がどうなってるのか仕込み中のナオト君に尋ねてみた。
「ウト君、サボリ?」
「カントク、ラーメンやりますよ、長浜ラーメン」
「はあ?」
 聞けば、開店準備中の店前をラーメン健太が通りかかって「せっかくだから店頭でラーメン売るかあ」とノリで決まったとの事。ウト君は健太君と一緒に、道具一式とスープを取りに行っているという。


「ノリで決めちゃったの?すごいね」
「ハハハ、祭りですから」

 そうこうしているうちに健太君の車がやって来た。大きな釜と五徳は麺茹で用。ラーメン丼や寸胴など、普段の博多やでは見慣れない道具が次々と運び込まれる。ちなみにラーメン健太とは、早稲田通り沿いにある、正式な名前は『中州屋台長浜ラーメン初代健太』(長っ)。あっさり豚骨の正しい長浜ラーメンは福岡出身者には嬉しい味だ。てきぱきと準備が始まったとはいえ、もうしばらく掛かりそうという事だったので、中座して中国雑伎団やら色々観て三時過ぎに再び博多やへ。何と店頭では、麺の湯切りをしている健太君の姿があった。

「うわ。路上で湯切りしてる!」


 道行く人も足を止めて健太君の妙技を見つめる。平ザルでの湯切りは難易度が高い。それはそれで見事な路上芸だった。客が次々と入ってきてはラーメンを注文する。軒先にビールケースで作った臨時の席では、ラーメンを作る健太君の撮影会のようになっていた。

 ほんの店先での会話からひょっこりとコラボ企画が生まれる…最近の高円寺ではよく見られる光景だ。実行力とノリ、この二つは商売勘があって初めて成功する。それはアニメ制作も同じで、じっくり作るのもいいが、こういう弾けた瞬間もあった方がいい。そんな事を思った五月初旬の夜だった。

(2010年6月1日公開分)

※後述

今ではずいぶん定着した『高円寺びっくり大道芸』だがかなり場当たり的な始まり方だった。阿波おどりに参加していなかったあづま通り商店街が「勿体無いから」と何故か大道芸を呼んだところ、阿波おどりの客が流れ込んで意外にも好評だったために高円寺全体のイベントとしてあらためて仕切り直された経緯がある。今では2月の演芸まつり、5月の大道芸、8月の阿波おどり、10月のフェスティバルと高円寺の四大イベントの一つとして大勢の人がにぎわうイベントになっている。

ラーメン健太は現在あづま通りに移転している。店内に博多の屋台を再現した、矢沢永吉が流れるいい感じの店である。

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)