第16話『おだやかに、突然に』

学園戦記ムリョウ

第一六話『おだやかに、突然に』(第一稿)
脚本・佐藤竜雄

登場人物
統原無量(スバル・ムリョウ)
村田 始(ムラタ・ハジメ) ※ナレーション
守山那由多(モリヤマ・ナユタ)
統原瀬津名(スバル・セツナ)

津守八葉(ツモリ・ハチヨウ)
守口京一(モリグチ・キョウイチ)
守機瞬(モリハタ・シュン)
峯尾晴美(ミネオ・ハルミ)
成田次郎(ナリタ・ジロウ)
川森 篤(カワモリ・アツシ)
三上利夫(ミカミ・トシオ)

村田和夫(ムラタ・カズオ)
村田今日子(ムラタ・キョウコ)
村田双葉(ムラタ・フタバ)
真守百恵(サネモリ・モモエ)
阿僧祇(アソウギ)

山本忠一(ヤマモト・タダカズ)
磯崎公美(イソザキ・ヒロミ)
ヴェルン星人ジルトーシュ
ザイグル星人ウエンヌル
ソパル星人
コンコル星人
ハイン星人

官房長官
部下A
記者
職員

センターの職員達
生徒達


○かくれ里・森
夜。飛ぶように走る男達の集団。
皆一様に黒ジャージ姿。
野球のボール飛んでくる。一人に命中、後方に吹っ飛ぶ。立ち止まる男達。
目前にはボールを持った阿僧祇とバットを持ったセツナ。共に野球帽を被っている。(側の木にはネットが張られ、バッティング練習中といった風情)

阿僧祇「ああ、悪かったのぉ。孫が下手くそなもので申し訳ない」
セツナ「ちょっと、おじいちゃん!下手くそはヒドイんじゃないのォ」

黒ジャージ達正体を現す。ハサミを逆さまにした形をした流体金属製ロボット(以降、『ゲーム』と呼称)。
長い腕を振り回して迫る様はカポエラの動きに似ている。

阿僧祇「ほい」
セツナ「たっ」

トスバッティング。阿僧祇が放るボールをセツナが打つ。一体に命中し、火を噴いて倒れる。散開するゲーム達。

阿僧祇「何と」
セツナ「やっと」
阿僧祇「どうした」
セツナ「こうした」

連打に次々と倒れるゲーム。
うち一体がジャンケンの“パー”の形になり、ボールを受け止める。

阿僧祇「ほぉ」
セツナ「ナイスキャッチ!」

すかさず残りが“チョキ”“グー”の形になって二人を急襲。
グローブで“グー”を受け止める阿僧祇、セツナにトス。セツナ、“グー” をヒッティング。“チョキ”に激突する“グー”、共に火を噴いて倒れる。
残りの“パー”も殺到。

セツナ「パーには——」
阿僧祇「チョキじゃ」

阿僧祇、右手を突き出し“チョキ”の指。チカラが働き、切断される“パー”。

   *   *   *

再び静寂な森。

阿僧祇「やれやれじゃな」
セツナ「最近、多いねぇ」
阿僧祇「何はともあれ、まずは掃除じゃ」
セツナ「えー!」
阿僧祇「いいかげん、持ち主を探すかの」

目の前のゲームの残骸を見てため息の二人。

○オープニング

○天網市・点景
朝の風景。通勤する人々、開店準備の商店。軒先の鉢植えには秋の花。

(サブタイトル『おだやかに、突然に』)

○同・国道沿い
ハジメとフタバ、仲良く並んで歩いている。

NR「九月になり、何事もなく平和な日々。いや、ホントは世界は宇宙人との交渉を結ぶとか何とか大騒ぎな筈なんだけど……何故か、平和だ――」

○同・切り通し
ムリョウと合流する二人。

ハジメ「やあ」
ムリョウ「おはよう」
フタバ「おはようございます!」
ムリョウ「おはよう、フタバちゃん」

三人並んで歩き出す。

ハジメ「(フタバに)今日は、ムリョウ君に用があるんだろ」
ムリョウ「え、何だい?」

妙に照れているフタバ。

フタバ「うふ、いや、大したことじゃないんですよォ……」

可愛らしいハンカチにくるんだ弁当箱を差し出すフタバ。

ムリョウ「?」
ハジメ「食べてくれって、愛妻弁当」
フタバ「いやだ、お兄さま!おからかいはおよしになって!」

赤面のフタバ、モジモジと。

ムリョウ「あいさい?」
ハジメ「母さんが、仕事の立ち上げモードに入ったんでね。今週はフタバが食事当番なもんでさぁ」
ムリョウ「え、じゃあこれってお兄さんの分なんじゃないの?」
フタバ「いいえ、バカ兄(あに)にはすでに持たせてありますので。一つ作るのも二つ作るのも同じですから、よろしければ……」
ムリョウ「はぁ」
フタバ「よかった!わたし、頑張ります!見てて下さい!期待して下さい!」

テレモードから一転、瞳を輝かせるフタバ、迫力。苦笑いのハジメ、ただただポカーンのムリョウ。

○御統中・二年C組
英語の授業中。ジロウ、気持ちよさ気に朗読中。クスクス笑う級友達だが悪意はない。和やかな風景。

NR「さて、気になるところは弁当の中身。とはいえ早々に昼休みのシーン……ではまるで勉強していないようなので念のため」

ハジメ、カメラ目線でヒソヒソと。

ハジメ「まぁ、僕らもマジメに中学生やってる、ということで」

授業終了のチャイムが鳴る。

○同・渡り廊下
クマのパン屋に群がる生徒達。
調理パン争奪戦。

○同・野外ホール
青空。
車座になって昼食中の女子生徒達。

○同・二年C組
弁当箱を開けるハジメとムリョウ。

ジロウ・アツシ「おお..ッ!! 」
ハジメ「はは……」

派手に彩られたハジメの弁当。ピーマンの赤と黄、ニガウリの緑(以上、野菜炒めの具)が田麩(でんぶ)の掛かったご飯に映える。その他とにかく派手な配色のおかずがてんこ盛り。
ジロウ「相変わらず、派手だな……」
ハジメ「(苦笑い)そうだな」
アツシ「……に、にぎやかなお弁当だね」
ジロウ「ムリョウの方は更にスゴイな」
ムリョウ「……」

腕組みして弁当を見つめるムリョウ。
基本的にはハジメの弁当と同じ構成だが、更にサービスとばかりに炒り卵のハートマークにタコさんウインナー。

ハジメ「でも、火が通ってるものばかりで良かったよ。何せ前は全部生(なま)だったからな」
ジロウ「おお、前と言えば、フタバちゃんの前の彼氏!」

ジロウ、トシオを見やる。トシオは我関せずで、一人パクパク食べている。

ジロウ「お前の時は、全部おかずが生野菜だったなァ~愛妻弁当!」
トシオ「……俺が、あの子に…サラダを食べたい、って言ったんだよ」
ジロウ「え~~?ご飯つきのサラダぁ?」
トシオ「……」

怒りにプルプルと震えるトシオ。すかさずアツシ、フォローな台詞。

アツシ「それにしてもさ、ハッちゃん所のお母さん、今度は何の本を起こしてるの?」
ハジメ「天網風土記……古文書だって。大和時代だっけな……マイクロフィルムにしてたのが最近、たまたま見つかったらしくて」
ジロウ「へー」
アツシ「古文書かあ」
ムリョウ「?」

一人けげんなムリョウ。それに気付いたハジメ、照れくさそうに(その間にトシオ、パソコンを立ち上げ) 。

ハジメ「ああ、ウチの母さんの仕事。昔の絶版になった本とか大昔の古文書とか……データに移し替えしてるんだ」
ムリョウ「移し?」
トシオ「これだよ」

ムリョウにパソコン画面を見せるトシオ。データブックの閲覧モード。古典古文書、明治昭和の流行本や企画本などのラインナップ。

トシオ「本って数が多くなると邪魔になるからね。テキストデータにして保存するとかさばらないじゃない」
ジロウ「人呼んで電子の移植人!」
ムリョウ「かっこいいなぁ」
ハジメ「ははは」

ちょっと恥ずかしいハジメ。

   *   *   *

居間でスクリーンモニターを広げてるキョウコ。映し出されているのは古文書の文章。右の指先にはセンサー。本をめくるアクションの度にページがめくれるように画面も次ページへ。コマンド入力してマルチ画面。比較対照しながら読み込んでいくキョウコ。

ハジメ(声)「最初にすることはまず、本の全体の内容を頭の中に叩き込んでおくこと。それから一言一句、コツコツとパソコンに打ち込んでいくのが大まかな仕事の流れなんだけど——」

ブツブツ言いながらひたすら読んでいるキョウコ。その後ろで掃除洗濯、食事の支度に勤しむハジメとフタバ。

   *   *   *

ムリョウ「へえ、そりゃエライなァ」
ハジメ「エライって……まぁ、仕方ないよ。とにかく頭に文字を入れ込んでる間は、母さんしばらく何も手がつかない感じだし」

あらためて特製の弁当を見る一同。派手。

ハジメ「……フタバも張り切ってるし」
アツシ「……大変だね」

○同・生徒会室
弁当を食べながら会議中の役員達(晴美の姿はない)。テーブルの上には新聞や週刊誌が沢山置かれている。

八葉「爺さん達も、何をして良いのやらという感じだ。とりあえず連日会議を開いているが、結論なんて出るわけがないよ」

パクパク食べながらも明るく瞬。

瞬「今まではヒミツに宇宙人と戦ってきたのにね。コワイ思いしてさ。いきなり大ぴらになって、おいしいところ持っていかれたって感じ?」

黙々と食べている京一と那由多。

京一「……」
那由多「……」
八葉「どうした、お二人さん。一応は会議なんだから発言しておくれよ」
京一「うむ……」

ようやく那由多がポツリ。

那由多「私達……どうすればいいの?もう、戦わなくていいのかしら」
八葉「そうだな。このまま、地球が銀河連邦に正式加入、ということになれば、監視者としての我々の任務は……」
那由多「任務は?」
八葉「お役ご免。天網の民は地球の監視者としての任務を解かれる。或いは――」
瞬「何です?」
八葉「或いは、国連からあらためて任命されたりしてね。シングウによる地球防衛任務」
瞬「おほっ、少年地球防衛軍!」

ギョッとする那由多。

那由多「…私達が軍人?」
八葉「ま、そりゃ極端な話だ。第一、シングウの正体を世間に発表するかどうかで、爺さん達は大もめ中だし——」
京一「……」

相変わらず深刻そうな顔の京一。

八葉「京一?」
瞬「ハミハミがいないから気になってるんだよ、きっと」

カッとなる京一、立ち上がる。

京一「そうじゃない!」

叫んだ後にハッとなる京一、赤面。

京一「あいつ、こんな時でも変な気を利かせやがって……あいつだって俺達の仲間……仲間だよな!おい!」
瞬「え?う、うん」

瞬に詰め寄る京一、打って変わってしょんぼりと。

京一「あいつだって、真守の家ではなくとも、仲間じゃないか……どうしてこういう大事な話の場にいないんだ」
瞬「……気になってるんじゃない、充分」
京一「そうじゃない!! 」

裏返った声で叫ぶ京一、赤面。

○同・屋上(三本柱)
真ん中の柱の上に座る晴美。黙々と弁当を食べている。

セツナ「あら、お一人?」
晴美「?」

見ると、隣の柱にセツナが立っている。
背中には風呂敷包み。

晴美「こんにちは。セツナ、さん?」
セツナ「あらためてご挨拶。ムリョウの姉のセツナでーす」
晴美「お姉さんだったんですか」
セツナ「何に見えた?年上の彼女とか?」
晴美「(微笑)」

セツナ、何気に腰を下ろす。

セツナ「大人も子どもも深刻そうね、天網の民は。あなたはいいの?みんなで会議なんじゃないの?」
晴美「私は、いいんです。私がいたら、みんな気兼ねして話せなくなります。だって、私は……」

弁当箱をハンカチにしまう晴美、あらためて膝の上に乗せる。不安定な柱の上で微動だにしない。

晴美「私は、スパイですから」

静かに微笑む晴美。

セツナ「お目付役も大変ね」

晴美「(微笑)」

風にそよぐ髪。目を細めて景色を見やる晴美。街並みが小さい。しばし黙ったままの二人。

晴美「……使命ではなくて……自分がどうして京一さんを守りたいと思ったのか…あの時それを考えたら肩の力が抜けたんです」
セツナ「肩の?」
晴美「それを教えてくれたのはあなたと村田君。それから……」
セツナ「それから?」
晴美「……」

静かに微笑む晴美。

○同・生徒会室
会議中の一同。

京一「ハーックション!」

大きなくしゃみをする京一。

八葉「どうした、京一?」
瞬「(いやらしげに)ハミハミ?」
京一「貴様ッ!! 」

○同・男子トイレ
連れションなハジメとムリョウ。

ムリョウ「ところでさ」
ハジメ「え?」
ムリョウ「ハジメ君のお父さんの方は、何やってるんだい?」
ハジメ「え?」

絶句するハジメ。

○種子島・宇宙開発センター
カズオの机の電話が鳴る。

カズオ「はい、村田です..やあ、君か。この間は、バタバタしてゴメン」

○村田家・居間
電話の主はキョウコ。

キョウコ「ううん、いいのよ。こっちこそ大しておもてなし出来なくて」
カズオ(声)「おもてなしって、そこは僕の家だぜ」
キョウコ「ふふ、そうね」
カズオ(声)「で、何の用だい?」
キョウコ「忘れ物」
カズオ(声)「え?」
キョウコ「携帯電話、忘れたでしょ」

手にしたカズオの端末をヒラヒラさせるキョウコ。

カズオ(声)「え?あ、ホントだ」
キョウコ「暢気ねえ。送ろうか?」

苦笑いのキョウコ。

○種子島・宇宙開発センター
カズオの机の前をせわしなく行き来する職員達。
カズオ「まぁ、いいや。ハジメにあげといてよ。ちょっと早いけど誕生プレゼントだ」
キョウコ(声)「ちょっと、いいの?仕事で使うんじゃないの?」

電話中だがジェスチャーで指示を部下に与えるカズオ。

カズオ「いや、もういいよ。それを使うこともそんなにないだろうし。新品じゃないけれど、物はいいよォ」
キョウコ(声)「また、めんどくさがって」

○村田家・居間
呆れながらもカズオの声を微笑んで聞いているキョウコ。

カズオ(声)「ホントホント。きっと役に立つよ」
キョウコ「じゃあ、ハジメに。後で返せってのはナシよ」
カズオ(声)「はいはい。それじゃあ、そっちも仕事ガンバレよ」
キョウコ「うん」

嬉しそうにうなずくキョウコ。

○種子島・宇宙開発センター
カズオ「じゃ、フタバとハジメによろしく。じゃあ……」

電話を切るカズオ。周囲の慌ただしさはあたかも証券取引所のよう。広大なホールに巨大モニターが数多く浮かんでいる。

○アイキャッチ

○天網市・点景
秋空に赤とんぼ。

○真守家・モモエの部屋
居眠りをしているモモエ。

モモエ「……」

ふと、気配を感じる。
縁側には阿僧祇。

阿僧祇「やあ」

静かに微笑む阿僧祇。

モモエ「……こんにちは」

静かに微笑み返すモモエ。
見つめ合う二人。

○御統中・アプローチ
下校風景。

○同・昇降口
ハジメとムリョウ、靴を履き替えている。

ハジメ「しかし、山忠、何急いでたんだろうね。ホームルーム終わったら速攻で帰ったみたいだし」
ムリョウ「さあ」
ハジメ「また何か起こる前触れとか?」
ムリョウ「ははは、どうだか」

○同・裏門前
昇降口を出るなりギョッとする二人。

フタバ「やっほー!ムリョウさーん!」

門の前で待ち構えていたフタバ、はしゃいで手を振る。

○だらだら坂・踊り場
フタバ「えー、みなさん。お忙しい中ご足労願いましてありがとうございます」ムリョウとハジメを前にクリップボードを手にしたフタバ、大張り切り。
ハジメ「能書きはいいよ」
フタバ「えー、ぶっちゃけた話、今後のお弁当の参考のために、アンケートを採りたいと思います。まず、クエスチョン・ワン! 今日のお弁当はおいしかったですかァ?」
ムリョウ「はい」
ハジメ「俺はも少し落ち着いたモノが食いたいぞ!」
フタバ「(無視して)はい、クエスチョン・ツー!この先のフタバちゃんのお弁当メニューにリクエストはありますか?」
ハジメ「うまいもの」
ムリョウ「そうだね、おいしいもの」
フタバ「はい、わかりました!おいしいものですね!アンケートは以上です。つきましては――」
ムリョウ「何だい?」
フタバ「フタバちゃん夕食会に招待します。いいえ、御遠慮なんてなさらないで」

ムリョウの手をつかむと、ぐいぐいと引っ張るフタバ。

ムリョウ「ははは、わかったよ」
フタバ「まぁ、お優しい♪」

後に残されたハジメ、呆れ返る。
ハジメ「やれやれ……」

○かもめハウス・外
かもめの模型に赤とんぼが留まっている。しなびたヒマワリには種。

○同・内
八畳間。
テーブルの上で風呂敷を広げるセツナ。
中から壊れた“ゲーム”の頭部ユニットがゴロリ。

山本「これは?」
磯崎「ロボットの頭部?」
ジルトーシュ「これが君ん家の周りにうろついてたっていうのかい?」

のぞきこむジルトーシュとウエンヌル、
磯崎と山本も緊迫した表情。

セツナ「そうよ。最初はほっといたんだけど……うるさいからこないだお仕置きを、ね」
ジルトーシュ「ぶっ壊しといてお仕置きはないだろう?ホント、相変わらずだなァ」
磯崎「これは……銀河連邦には無い形式の戦闘ロボットですね」

分析をする磯崎に構わず、話が弾むセツナとジルトーシュ。

セツナ「ジル、あなたなら知ってるんじゃないの?このロボットの黒幕」
ジルトーシュ「黒幕?」
セツナ「操ってる奴よ。ウチを荒そうっていうんだから、あんた同様ろくでもない奴よ」

二人の会話を聞いていた磯崎、少しイラついた感じで口を挟む。

磯崎「失礼ですが、あなたはこのヴェルン星人とどういう御関係なのですか?」
セツナ「どういうって、このロボットと関係ないでしょ。ま、昔からの知り合いなんだけど」

ギョッとする磯崎、軽く動揺。

磯崎「お知り合いはともかくとして……この件は銀河連邦にお任せ下さい。現在安全保障委員太陽系支局に問い合わせを……」
セツナ「それじゃあ遅いの!」
磯崎「!」

眉がピクリとなる磯崎。
思わずゴクリと息を飲む山本とウエンヌル。セツナ、構わずに。

セツナ「ねえ、ジルあなた知ってるんでしょ? 傍観者は構わないけど、あたしん家が毎晩襲われるってのも困るんですけど」
ジルトーシュ「えーと、そうだねえ……」

困った顔のジルトーシュ、チラリと磯崎を見る。

磯崎「……」

険しい目の磯崎。

ジルトーシュ「いや、知らないよ!銀河連邦の太陽系方面観察者、磯崎公美が知らないことを僕が知ってるわけがないじゃないの!」

あせって弁解のジルトーシュ。

セツナ「うそだぁ。あなた危ない橋何度も渡ったって昔自慢してたじゃない!反銀河連邦の知り合いも多いって——」
ジルトーシュ「うわッ!わッわーーッ!! 」

大声でセツナの声をさえぎるジルトーシュ、磯崎に訴える。

ジルトーシュ「違う!違うからね!僕は銀河連邦公認、第一級の外交官だ!誰がそんな反連邦的行動をしますかって言うんだ。この地球のお嬢さんは何か勘違いを……」
磯崎「……わかりました」
ジルトーシュ「さすが、先生♪」
磯崎「わかったのは、あなたが地球の女性を嘘八百で騙す最低の宇宙人であるということ——」
ジルトーシュ「違うよ!」
磯崎「或いは、地球で銀河連邦を裏切る行動をとっている女泣かせの宇宙人であるという、二つに一つ!」
ジルトーシュ「ええっ?! 」
磯崎「ジルトーシュ、見損なったわ」
セツナ「ちょっと、そんなことよりこのロボットのこと教えなさいよ!」
磯崎「そんなことではありません!」
セツナ「女泣かせよりロボット!あなたちょっと黙ってなさい」
磯崎「何ですって!」

セツナに突っかかる磯崎、冷静な口調ながら般若の形相。

ジルトーシュ「まぁまぁ……いや、参ったなぁ」

事の成り行きに呆然としている山本とウエンヌル。

山本「……」
ジルトーシュ「ねえねえ、黙ってないで助けてよ!」
山本「そんなこと言われても、なぁ」

山本に促されてウエンヌル、重い口を開く。

ウエンヌル「取りあえず……」
ジルトーシュ「取りあえず、何だい?」
ウエンヌル「お茶を、煎れましょう」

苦笑いの山本。

○真守家・モモエの部屋
向かい合って座るモモエと阿僧祇。

阿僧祇「そろそろ、セツナが敵の手がかりをつかんでいる頃だと思うよ」
モモエ「やはり、銀河連邦と敵対関係にある勢力が?」
阿僧祇「シングウのチカラ、ホシノチカラは連邦反連邦を問わず、手に入れたがっているだろうね」
モモエ「星同士の……戦争になるのですか?」
阿僧祇「それがイヤだから遠く離れたこの地球に隠したのだけれど……時間稼ぎにしかならなかったようだね」
モモエ「国連が手を組もうとしている宇宙人はどこの星なのでしょう?」
阿僧祇「さぁ。ただ、悪い話ではないんじゃないのかな。地球もそろそろ一人前扱いをされる頃かもしれない」
モモエ「そうかもしれませんね」

阿僧祇に微笑むモモエ。

モモエ「あの子達を見ているとそういう時代が来たのかなと思います……だからこそ、私達大人がしっかりしないと」
阿僧祇「僕が守るのは君の心、シングウの意志だ」
モモエ「!」

ハッとするモモエ。

阿僧祇「僕がついてる」

イタズラっぽく笑う阿僧祇。

モモエ「はい」

微笑み返すモモエ。

○御統中・生徒会室
晴美、書類の整理をしている。そこにやって来る那由多。

那由多「あれぇ、今日は何もないのに。帰らないの?」
晴美「明日、生徒総会だから。私、いつも質問する人に突っ込まれてばかりだから……予習してるの」
那由多「ふーん」

晴美の対面側に座る那由多。

那由多「私は、これ」

カバンから編み物を取り出す那由多、編み棒を動かし始める。

晴美「……」

目を丸くする晴美。

那由多「あ、今思ったでしょ。コイツ、似合わねーとかって」
晴美「ううん、そんなこと。驚いただけ」
那由多「それも失礼だなぁ」
晴美「ごめんなさい」

クスクス笑う晴美。それをしみじみながめて那由多。

那由多「今の晴美ちゃん、いいね」
晴美「え?」
那由多「今の晴美ちゃん、私好きだよ」
晴美「?」
那由多「あ、別に変な意味じゃないから。このまま……何もなければいいのにね」
晴美「うん……」
那由多「そんなことはないと思うけど」
晴美「……」

黙ってそれぞれの作業を続ける二人。
しばしの間。

晴美「……そうだね」

ポツリつぶやく晴美。

○種子島・宇宙開発センター
忙しく立ち働く職員達。それをデスクから見やって感心しきりのカズオ。

カズオ「しかし、今日はやけにみんな張り切ってないかい?」

側の席の部下A、あきれ顔で答える。

部下A「何言ってるんですか、今日は官房長官がお見えになる日じゃないですか」
カズオ「あ、そうだっけ」
部下A「視察ついでにここで声明発表ですよ。マスコミも取材で大挙来てるし、星のお客様も来るそうですし」
カズオ「忘れてたよ」
官房長官「忘れるなよ、村田」

いきなり横に立っている官房長官。なぜか釣りの格好をしている。

部下A「官房長官!」

思わず直立不動の部下。しかし、カズオは構わず気さくな態度。

カズオ「よぉ、何だよ、お忍びかい」
官房長官「いやあ、豪華専用機というのも芸がないからさ、つり船に乗ってきたよ。いや、いいねえこの辺の海は」

折からTVクルーが実況を開始する。

記者「間もなく、今回の宇宙外交関連の鍵を握る、伊藤官房長官が専用機で到着する模様です!関係者の言によれば、国連の方針をとりまとめるに際して、大きな役割を果たしてきたのは伊藤官房長官であるとのことです!」

それを遠目に見やるカズオと長官。

官房長官「盛り上がってるなァ」
カズオ「ここに本人がいるのにねえ」

突如、場内に警戒体勢を知らせる音が鳴り響く。

職員「警戒体勢、パターンB。防御障壁、展開します。来客の皆さんは、職員の指示に従って下さい。繰り返します..」
カズオ「んー?」
官房長官「魚が餌に食いついたな」
カズオ「?」

○種子島付近の上空
爆発する専用機。

○種子島・宇宙開発センター
モニターに映し出される爆発の惨状。
悲鳴や叫び声がそこかしこに。

カズオ「おいおい、これが餌かい?」
官房長官「さてと」

ふところからマイクを取り出す長官、声高らかに。

官房長官「えー、皆さん、ご安心下さい!あれはオトリの無人機です。私は無事です」

少し離れた所に立っていた職員、不意に変形、ゲームとなる。

カズオ「あ!」
官房長官「危ない!」

長官、カズオを突き飛ばす。カズオ、後ろの職員にぶつかると、二人倒れ込む。その間にゲーム、“チョキ”になると長官に殺到、両断する。

カズオ「伊藤!」
職員「大丈夫だよ」

下敷きになった職員、ポツリ。
カズオ「え?」

両断と見えた長官、分身。

官房長官「ロボットじゃしょうがないな」

長官、分身のままソパル星人に姿を変える。続けざまに攻撃するゲーム。ソパル星人、分身と合体を繰り返し攻撃をかわす。

ソパル星人「ほい!」

水流状に体を変えるソパル星人、そのまま体当たり。ゲームの体の中へ。

ソパル星人「君の情報、もらうよ!」

体中から煙を出して倒れるゲーム。体の節々から液が飛び出し一つになるとソパル星人の姿に変形する。

カズオ「ソーさん」

倒れ込んだまま呆然と見やるカズオ。

ソパル星人「やぁ」
職員「村田、どいてくれないか?」
カズオ「え?ああっ!」

ずり落ちるカツラ。職員、実は官房長官の変装だった。

官房長官「念には念を入れたんだけど、最後にこけたなァ」
カズオ「?どうした?」
官房長官「お前の尻の下……どうやら足をくじいちまったらしいや。イテテッ!」
カズオ「あっ、スマン!」

あわてて飛び退くカズオ。

官房長官「(大げさに)これじゃあ、会見は無理だな。イテテッ!」
カズオ「おいおい、そんなに重傷かァ?」
官房長官「責任取れよ、ムラタカズオ!」

両脇から黒服姿のSPがカズオに近づく。

カズオ「え、おい!ちょっと待て!」

   *   *   *

一方で動かなくなったゲームを調べているソパル星人と職員達。

ソパル星人「機体は天網市に運んでくれ。磯崎先生にも見せとかないとな。仲間はずれのままだとかわいそうだ」
コンコル星人「りょうかい」

職員の格好をしたコンコル星人とハイン星人、ニヤリと笑う。

○村田家・外
一番星。夕焼け空が美しく——

○同・居間
ハジメ・フタバ「ああーーッ!? 」

夕食中の一同。TVにはカズオが映っている。

カズオ「えー、伊藤の奴に……官房長官に頼まれまして、私が会見を致します。村田和夫、商社マンです」

驚愕のハジメとフタバ。キョウコもポカーンとしている。

ムリョウ「あれが、君のお父さんかい?」
ハジメ「え、う、うん」

TVではなおもカズオが会見中。

NR「おだやかな日々の流れの中で、色々なことが動いていた。何とはなしな今日この頃だったけど、一挙に波乱が起きそうな気分。どうでもいいけど父さん、あなたは一体何に関わっているのか?」

ひたすら呆然のハジメ。

NR「——続きは次回」

         (第一六話・完)

☆二〇〇字詰七五枚換算

読んで下さってありがとうございます。現在オリジナル新作の脚本をちょうど書いている最中なのでまた何か記事をアップするかもしれません。よろしく!(サポートも)