見出し画像

スタートアップ紹介②「Safely You」

本記事の概要

  • Safely Youは、米国の高齢者施設等を対象に、AIを活用したビデオ録画型の転倒を検知する製品を開発する会社

  • 高齢者の転倒を40%減少させ、転倒に関連するER受診を80%減少した実績を持つ。

  • Safely Youの製品を利用した高齢者施設では、転倒が減少したことにより、導入していない場合と比較して入居者の滞在期間が3か月延びたと報告されている。入居者の安全を守ることができるだけでなく、収益が確保できることも実証している。

  • 2021年12月にOmega Healthcare Investorsがリードし、シリーズBで$40Mの調達に成功

トップ画像はSafely YouのHP画像を参照
*こちらの記事は貼付のURLの記事や各社のウェブサイトを参考に作成しております。


Safely Youの企業概要

設立年:2015年
所在地:San Francisco, CA, USA
ファウンダー:George Netscher
事業概要:高齢者ケアのための転倒検知製品の開発
累計調達額:$71.3M
資金調達履歴(参考サイトは下記)

  • 2016:グラント(National Science Foundation)、$225K調達

  • 2018:グラント(National Science Foundation)、$1.6M調達

  • 2021:シリーズAで$19.5M調達

  • 2021:シリーズBで$40M調達

  • 2023:Debt Financingで$10M調達

Safely Youを取り巻く市場環境

高齢者人口の増加:米国における65歳以上の人口割合は2024年約18%から2040年約24%と増加、日本は65歳以上の人口割合は2024年約30%から2040年約38%と増加すると推定されている

高齢者の転倒リスクと影響:加齢による筋力の低下、運動不足、投薬による影響が原因で高齢者が日常生活の中で転倒しやすくなっている。骨折等による入院や寝たきりにつながるケースもある

  • 米国では、65歳以上の成人(高齢者)の4人に1人に当たる1,400万人以上が、毎年転倒していると報告された

  • すべての転倒が負傷につながるわけではないが、転倒した人の約37%が、治療を必要としたり、少なくとも1日は行動が制限されるような負傷をしたと報告しており、その結果、転倒による負傷者は900万人に上ると推定されている

  • 転倒は65歳以上の成人の傷害関連死亡の主な原因であり、転倒死亡率は増加している。転倒死亡率は、2012年の高齢者10万人当たり55.3人から、2021年には78.0人へと41%増加している

  • 65歳以上の成人の転倒は、非常にコストがかかるものであり、毎年、高齢者の転倒に関連する医療費に約$50Bが費やされており、致命的な負傷にかかる医療費は$754Mと推定されている

日本の高齢者における転倒事故

令和3年人口動態調査(厚生労働省)によると、 65歳以上の転倒・転落・墜落による死亡者数は9,509人で、交通事故の2,150人の4倍以上です。特にスリップやつまづき、よろめきによる同一平面上での転倒による死亡者数は8,085人で8割以上を占めています。

高齢者の不慮の事故 - 消費者庁:令和3年人口動態調査(厚生労働省)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_067/assets/consumer_safety_cms205_221227_05.pdf

製品概要

患者の部屋に設置されたカメラが転倒を検知して介護者に警告を発したり、AIを利用したパターン認識によって転倒の兆候を記録し、将来の転倒を防止する製品を開発している

SafelyYou Respond™

独自の転倒検知・防止技術。SafelyYou-Guardian™とSafelyYou-Discover™の機能を含む

  • SafelyYou-Guardian™:施設に設置されるAIハブ。施設周辺に設置されたカメラで受信した映像にAIアルゴリズムを適用する。また、転倒が検知されなかった映像は即座にシステムから削除される

  • SafelyYou-Discover™:転倒した瞬間の映像を確認するためのウェブポータル。センサーを必要とせず、転倒を検知可能で、転倒を検知すると数秒以内に現場の介護スタッフ等にアラートで通知する。また、転倒時の瞬間をビデオで確認することができ、将来の転倒予防に活用可能となっている

SafelyYou Aware™

  • 夜間まで起きていたり、活動したりする高齢者の安全を守るために開発された

  • 午後7時から午前7時まで、1時間ごとにビデオによる安全チェックを実施している

  • Safely Youチームが夜間に録画されたビデオを確認し、安全上の懸念を評価、問題を高齢者施設のスタッフに報告する

SafelyYou Insight™

  • 高齢者の転倒に関して、専門家のアドバイスを提供している

  • 72時間以内にSafely Youの専門家チームが転倒評価を行う。転倒事故を詳細に記録し、根本原因の分析や解決策を提示する

SafelyYou Clarity™

  • 高齢者施設の収益性向上や介護スタッフの雇用継続をサポートするツールを提供している

  • 介護スタッフが、入居者のケアに要した時間を自動的かつ正確に追跡し、提供されたケアレベルを料金に反映する

  • 介護スタッフの過負担や不足をリアルタイムで特定できることで、チームリソースを最大限に活用可能となる

ビジネス戦略(分析)

  • 科学的に実写された技術かつ顧客に導入によるメリットを訴求できたことで、保険会社や介護施設と提携に繋げてビジネスの拡大に成功した

技術:科学的に価値があると証明されたデータ

  • 2017-18年の約1年間に認知症を患っている高齢者を対象に検証したところ、Safely Youの導入により転倒したままで放置されている時間が約30分短縮されたことが証明された

導入メリットの訴求:保険会社と提携×大手の介護施設と提携

  • Safely YouはThe Church Mutual Insurance(保険会社)と提携。The Church Mutual Insuranceは、自社の保険商材を購入した高齢者施設に対して、Safely You製品を10%引きで提供している

  • 保険会社は自社の保険商材の販売を促進でき、高齢者施設はSafely You導入により転倒事故を減らせることで、保険料の上昇を抑えることが可能となる

  • 介護施設はSafely You導入により、転倒による賠償請求回避の可能性が示唆された(介護スタッフが転倒に気づかず、入居している高齢者のケガが発生した場合、1件当たり$296K賠償請求される可能性がある)

  • また、介護施設はSafely You導入により、介護ケアの質が向上し、家族の安心と入居者の生活の質の向上により入居者の滞在期間が延び、収益増加につながった(約3か月の滞在期間の延長効果あり)

価格

不明(もし情報が取得できれば追記予定)

競合企業例

Lively

https://www.lively.com/

所在地:San Diego, CA, USA
累計調達額:$81.7M (2018年に$800MでBestBuyに買収)
事業概要:高齢者向けの健康と安全に関する製品およびサービスを提供
対象顧客:一般家庭

  • Lively Mobile2:高齢者向けに転倒検知機能を備えた医療警報デバイスを開発している

  • Lively Mobile2は首にかけるデバイス。転倒を検知して、ユーザーがボタンを押せない状態でも、認定された緊急対応エージェントに自動的に接続して支援を受けられる

価格:本体価格は$79.99、転倒検知機能はオプションで$9.99/月、24時間の緊急対応サービス付きのプランは$24.99/月、看護師や医師からの医療相談サービスを含むプレミアムプランは$34.99/月

Safely Youとの相違点:常に高齢者の方が携帯必要がある。顧客対象が個人

CarePredict

所在地:Plantation, FL, USA
累計調達額:$48.7M
事業概要:AIベースの転倒、尿路結石、うつ病、栄養障害などの健康低下を予測するデジタルヘルスプラットフォームを開発
対象顧客:高齢者施設、一般家庭

CarePredictは「Tempo」と「Context Beacons」の2製品を提供。主な特徴は下記の通り

  • Tempo:手首につけるウェアラブルタイプ。食事、入浴、睡眠、調理など、人の活動や行動を検知する

  • Context Beacons:部屋に設置する小型のビーコン。ビーコンを設置している部屋の情報をTempoが受信し、その場所に適した行動をとっているか確認できる(例えば、入所者がバスルームにいるときは食事を検知しないが、その代わりに転倒検知アルゴリズムの感度をあげる)

  • 入院を39%減らし、転倒を69%減らし、介護施設の滞在期間を67%延ばすことが示されている

価格:「Tempo」$200.00,「Context Beacon」$50.00, サブスクリプション(データ処理等)$699.99/年(1人当たり)
Safely Youとの相違点:転倒を検知するためにはウェアラブルが必要

Lindera

所在地:Berlin, Germany
累計調達額:€6M
事業概要:高齢者の転倒予防のためにAIを活用したモバイルアプリを開発
対象顧客:一般家庭、医療機関、フィットネスおよびヘルスアプリ開発者

製品の主な特徴は下記の通り

  • LINDERA Mobility Analysis: 一般的なスマートフォンのカメラを使用して歩行動作を分析可能。短時間のビデオ録画とアンケートを分析することで、転倒リスクを判定し、運動能力を維持するための推奨事項を提案を受けることができる

  • LINDERA KlinikApp: 臨床現場で患者の動きを評価するためのアプリケーション。AI技術を用いて、単純なスマートフォンのビデオ録画から患者の全身の3D骨格をキャプチャし、ミリ単位で21の関節点を識別し、どの動きが痛みを引き起こすかを正確に分析可能。専門家の意思決定と患者のモニタリングをサポートする

  • Software Development Kit(SDK): 健康とフィットネスアプリの開発者向けに提供している。自社のアプリケーションに3Dモーショントラッキングや個別化されたトレーニングフィードバックを統合可能となっている

価格:特になし(現在はパイロット版のみ)
Safely Youとの相違点:転倒検知ではなく予防(提供製品もアプリ)。対象顧客も比較的動き回れるような健康な高齢者向け


所感

高齢者の転倒による事故は、高齢化社会が進んでいる現代では大きな課題となっている。SafelyYouのようなAIを活用した製品の発達により、装置を身に着けたりせずに転倒を検知したり予防策を立てられるようになった。SafelyYouのように資金を上手く調達しているスタートアップは顧客のニーズを理解した製品の開発だけでなく、保険会社と組んだりと販路拡大も上手い。現場で実績を積み、チャネルを多く持っているパートナーといかに早く組むか、が導入促進のカギになると考える

転倒から守る(転倒をしない、転倒してもケガをしない)ということが次のニーズとして今後出てくるのでは、と個人的には考えている。ロボット業界もAIとの組み合わせで質が向上していると思われるので、転倒を未然に防ぐ・守ってくれるアシスタントロボットまたは器具のような製品が新たに出てくると期待している


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?