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"歴史" 系 note まとめ

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#歴史

【ニッポンの世界史】#35 進む「世界史離れ」:文化圏学習・ナチカル・共通一次

 これからいよいよ「ニッポンの世界史」にとってきわめて重要な1980年代に足を踏み入れます。  この10年を通して、世界史にいかなる意味がつけ加わり「世界史必修化」に至るのか。  ”公式” 世界史と ”非公式”世界史の輻輳を追うことで、経緯を浮かび上がらせていきます。 「文化圏」学習の徹底:1978年度指導要領改訂  そのためにまずは "公式" 世界史の動向から確認していきましょう。  1970年度の学習指導要領改訂で導入された「文化圏学習」は、古代文化につづく時代を、

SDGsとは一体、何だったのか?【世界史でよむSDGs】はじめに

いまや日本のSDGsは、空虚な「記号」である  2015年に採択されたSDGs(国連持続可能な開発目標)は、スタートしてから早9年目を迎えようとしている。  SDGsの実施年限は2030年だから、まだあと6年ちょっと、残されていることになる。  にもかかわらず「SDGsとは一体、何だったのか?」などと問うのは、ちょっと時期尚早ではないかと思われるかもしれない。  最初に筆者の立場を明確にしておけば、日本におけるSDGsはすくなくとも本来の趣旨に沿った受容には失敗している

【現地リポート】日本史講師が”歴史フェス”に潜入!!

皆さん、こんにちは。 日本史講師のSatoです。 今回、私は2024年3月17日に名古屋大学東山キャンパスで開催された”歴史フェス”に潜入してきました。 その模様をお届けしたいと思います。 ”歴史フェス”とは・・・ 歴史フェスは、歴史に関心のある人が一つの場に集まって、ともに歴史を楽しむお祭りです。 (歴史フェス公式HPより) 歴史研究者や社会科(日本史・世界史)教員のみならず、歴史を楽しみたいすべての人が一緒に歴史(学)について考えたり、情報共有したりするという新しい

【ニッポンの世界史】#33 地政学化する世界史:キッシンジャー・『悪の論理』・高坂正堯

2010年代の世界史ブーム  連載の第1回で、2010年代以降の世界史の一般書のトレンドに、(1)データベースとしての世界史、(2)文理融合的な世界史、そして(3)世界史のなかの日本史があると書きましたね。  この連載をお読みの方ならば、「おすすめの世界史の本」ということで手にしたことがある人も少なくないのではないかと思いますが、ここでのわたしたちの目的は、これらの書籍の内容をレビューすることにあるのではありません。  2010年代以降の一般向け「世界史ブーム」という状況が

國學院大學ポッドキャスト番組「学問のNUMA」 歴史学から切り拓く、教科書には載らない戦国時代<後編>

その時歴史を動かした!? 矢部教授の論文に世間が注目 第3回のゲストは、文学部史学科の矢部健太郎教授。<前編>では、戦国時代に起こった数々のイノベーションや織田信長と豊臣秀吉の知られざる素顔に迫りました。 <後編>では、矢部教授の人となりがわかるエピソードも。なんと、歴史学のNUMAにハマったきっかけは、歴史シミュレーションゲームの名作「信長の野望」なのだとか。同じく「信長の野望」にハマっていたタツオさんも乗っかって、話題は思わぬ流れに。2人のゲーム愛に宮田さんもたじたじ

海路歴程 第八回<上>/花村萬月

.    *  太閤秀吉の時代、海商は武士や豪族が多かった。越前敦賀などは、とりわけ顕著だったようだ。  遠い智識として、それらを漠然と知っている貞親は、ひょっとしたら船頭は、本当に甲斐武田氏の出かもしれないと思うようになっていた。ただし貞親は甲州には海がないことを知らない。  甲斐武田氏の出かどうかはともかく、船頭には曰く言い難い鬱屈がある。酒を浴びるように呑むことや、理不尽な暴力の背後に、抑えようのない怒りと怨みがあるような気がするのだ。  半泣きの爨が声をあげる。

なぜ「モンゴル帝国=キリスト教国説」が流布したか

我々の感覚的にはあまりピンときませんが、モンゴル帝国が台頭し周辺各国を怒涛のように飲み込んでいく様を聞き、西欧人の多くは 「異教徒からエルサレルムを解放しに東方のキリスト教大国がついに動いた」 と歓喜の声を上げました。 後にそれは間違いだったと分かるのですが、それでも「実はモンゴル皇帝はキリスト教信者である」という話を教皇や国王を含む多くの人が信じていました。 それは 「絶対にいるはず」の東方のキリスト教大国の存在を多くの人が切望した結果でもありました。 1. プレスター

【ニッポンの世界史】#32 少女漫画がひろげた世界史の担い手:『ベルサイユのばら』を中心に

 はじめに結論から。  少女漫画『ベルサイユのばら』が、世界史をコンテンツとして楽しむことのできる広汎な読み手を育て、歴史の関わり手を男性だけでなく女性にひろげる役割を果たした。  今回ここで述べるのは、たったそれだけです。 *** 歴史を物語として楽しむカルチャー  歴史を物語として楽しむ行為自体には、口伝えの伝承や軍記物語など、それこそ長い長い歴史があるわけですが、日本ではとりわけ近世以降、商業的な出版や演劇、講談を主要なメディアとして、たとえば『三国志演義』の二

【世界史教科書比較】山川詳説vs新世界史

ながらく"定番"と目されていた山川出版社の詳説世界史と、のびのびとした ”攻める” 記述で知られる新世界史(採択数は少ない)の記述を、今回は索引の異同に注目して比較します。 参考にしたのは新世界史は見本(2022年検定済)と詳説世界史は2023年刊(2022年検定済)の索引。 「王の道」のように、索引にはないが本文には掲載されているものもあるが、すべてに目を通しているわけではないので、おおよその傾向として参考にしてください。 新世界史の特徴 初めに特徴を箇条書きにしておく

【2024年版】世界史教科書 消えた用語、増えた用語:山川出版社・帝国書院の比較編

この記事の要約この記事は長い(約40000字)のではじめに要約を書いておきます。 以前、山川出版社の新しい世界史教科書の用語がどのように変化したのか記事を書いたことがあった。しかし、必ずしも単純に「増えた」「減った」と言えないのではないかという事実がみえてきた。 そこで今回は帝国書院の世界史探究教科書の収録語と、山川の収録語を比較することで、山川が収録しなかった用語とは何かをあぶり出してみることとした。 これによって、世界史の教科書にも多様な編集方針があり、その背後には

【ニッポンの世界史】#31 学習参考書と世界史:なぜ世界史は「暗記地獄」化したのか?

 これまで私たちは、「ニッポンの世界史」は、アカデミズムや学習指導要領のような“公式”世界史と、それらと対抗関係にある“非公式” 世界史の綱引きによって形成されてきた経緯をみてきました。  “公式”の語りを、“非公式”の語りが突き崩すといっても、両者の間に厚い壁があったわけではありません。  ときに、ひとりの書き手が、両者を行ったり来たりすることもみられました。  歴史学者の土井正興(1924〜1993)がそれにあたります。 土井正興: スパルタクスの研究者から教科書執

公式に「存在しなかった」ことにされた人たち

歴史は「正史」 を元に作られます。 正史は時の権力者が自分たちを正当化するために書くので、いろいろ事実をねじ曲げて書いたり、曲解したり、都合の悪いことは削除したりしているものです。 その中で、正史からは名前が消されてしまった人たちも多くいたはずですが、「歴史から名前を消されたことでかえって有名になった人」もいたりします。 1. ニコライ・エジョフ (1895 - 1940)1937年に当中央委員会政治局員となったエジェフは、スターリンに対する絶対的な忠誠を示すべく、少

【ニッポンの世界史】#30 文化圏の罠:世界史に「アフリカ」は入っているか?

周縁の不在  1970年代の社会科教育に関する雑誌をみてみると、「好きな国」を聞くアンケートをとってみたり、何も見ずに地図を書かせてみたりして、「生徒たちの関心がヨーロッパにばかり向いている」という嘆き節が、よく掲載されています。  この地図くらい描ければ十分とも思えるのですが、たとえば職業系の高校において同じようなことをやらせてみても、全然描けない。  世界史の授業中に顔をあげさせるだけでも難しい。  そういった嘆きも聞かれるようになります。  国外に眼を向ければ、世界

【ニッポンの世界史】#29 「長い目」で世界史を見る:成長の限界・ノストラダムス・小松左京

終末論から生み出された新しい「世界史」観  「ニッポンの世界史」には、その時代の日本人のものの考え方や精神性のようなものが反映されているのではないか。  そのような観点に立ち、今あらためて1970年代をふりかえってみると、これまでみられなかった新しい種類の想像力が立ち上がり、それが日本人の歴史に対する考え方を変え、「世界史」の再定義に向かっていったのではないか、と思うのです。  まあ、1970年代のサブカルチャーや社会の変化については、すでにひととおり多くの人によって語り尽