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世界史のまとめ×SDGs 目標⑭海の豊かさを守ろう:1979年~現在

 SDGsとは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
 言い換えれば「2019年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
 17の目標の詳細はこちら。
 SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
 一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
 しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
 「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。

【1】広がる汚染

プラスチックによる汚染が広がっているっていうニュースを最近よく聞きます。

―そうそう。近年「マイクロプラスチック」という微細な粒子が海に流れ込み、生態系に悪影響を与えていることが問題になっているね。

 この時代にはコンテナ船、冷凍船、タンカー(注:石油を運ぶ船)などの普及によって、人類の海上移動がますます盛んになっていった。

 この時期の初めには全長なんと450メートル以上の巨大なタンカーもお目見えする。その後もタンカーは巨大化の一途をたどった(注:スーパータンカー)。

こんなの石油が漏れたら大変なことですね。

―そうそう、石油などの汚染物質が海に流れ込むことが問題になっているね。この時期にアメリカのタンカーの起こした事故(注:エクソンバルディーズ号原油流出事故)では、おびただしい数のラッコや水鳥が命を落としている。

 この事故以前にすでに、国際機関(注:国際海事機関)を中心に「船舶から生じる油、化学物質、容器に入った有害物質、汚水、廃棄物、排気ガスによる海洋環境汚染の防止」のための条約(注:マルポール条約)が結ばれているけれども、座礁や衝突による汚染物質の流出事故は絶えないね。


真っ先に被害を受けるのは海の動物ですね…。

―これまでも見てきたとおり、19世紀以降、おびただしい数の海や海辺に生息する動物が、人類によって個体数を激減させてきた。残念ながらそのペースはまだまだ衰えていない


工場からの排水も問題ですね。

―有害な物質をきちんと処理するとお金がかかるから、ケチってそのまま垂れ流そうとする会社があるわけだよね。会社にとってはスッキリするわけだけど、実はその会社も含めた社会・環境全体にとってはマイナスにしかならないわけだ(注:外部不経済)。

 国際的な条約が結ばれて規制が強化されている。
 すでに前の時代の終わりには特定の物質を捨てることを禁止する条約(注:ロンドン条約(「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」))が結ばれていたけど、これを強化した新しい議定書(注:「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書」(通称:ロンドン議定書))が締結されることになった。


厳しくなったんなら安心ですね。

―う~ん、管理・監視の行き届かない地域では未だに深刻な問題だよ。発展途上国では環境よりも経済が重視されがち。

世界各国のプラごみ排出量と管理できていないごみの量 丸の大きさがプラごみの排出量を示し、そのうち赤い部分が管理できていないプラごみの割合。中国と東南アジアで管理できていないごみ量が多いことが分かる。各国の色は沿岸域の人口を示し,色が濃いほど人口が多い(上記ウェブサイトより)


解決策はないんですか?

―テクノロジーによって汚染物質を「回収」しようとするプロジェクトもはじまり、注目をあつめている。

 地球レベルでゴミのたまりやすい場所を突き止め、それを大きなパイプで回収。プロジェクトの代表によると「回収したごみは、半年以内にいったんサンフランシスコに持ち帰って、大きさやどこからやってきたかなどを解析。その後はヨーロッパでリサイクルし、家具などさまざまな製品にして販売する計画」なのだという。



【2】減る水産資源

魚の取れ高が減っているっていうニュースも聞きます。

―水産資源の「獲りすぎ」の問題だね。

 日本の漁獲量は減っているけれど、周辺諸国では代わって中国やインドネシアの漁獲量は増えている。


周辺諸国が獲りすぎていることが問題なんでしょうか?

―しばしば指摘されているのは、日本の水産管理の”甘さ”だね。
 上の記事にあるようなノルウェーや、クロアチアをはじめとする地中海沿岸諸国では、科学的な個体数の管理によって漁獲量を厳しくチェックしていることが多い。それに比べると日本の漁獲量チェックはまだまだだ。

 それに、世界経済が複雑に結びついている現代。
 ある地域の販売戦略や消費行動の変化の「しわ寄せ」が、他の地域に影響をもたらし、資源のバランスを崩すことにつながってしまう(下のnoteを参照のこと)。

 魚好きの日本は、世界のいろんな地域、それも聞いたことのないようなところからも大量の魚介類を輸入している。


寿司が食べられなくなるのはイヤですね。

―魚好きの国民としても、水産資源に対して「食べる側」が意識を高めることができる仕組みも必要だろうね。


―海の中がどうなっているのかというのは、陸の上に比べると実感が湧きにくい。だからこそ、持続可能な水産資源の利用を考えるには、「ひとひねり」が必要だろうね。


【3】隔てる海から、つながる海へ

この時代には、海の資源をめぐる争いも起きていますね。

―うん。2度の石油危機の影響で石油の値段が高くなり、海底に眠る資源への注目が集まり、採掘することができる技術も開発されたことで、現実に合わせたルールづくりが必要になったんだ。


これまでは何もルールがなかったんですか?

―漁業や大陸棚(陸地の周りに広がる浅い海底)の資源がどの国のものなのかを定める条約はあったけれど、とくに水産資源に関しては「この海域は自分の国のもの!」って一方的に宣言して取締合戦する状況になっちゃうことが多かった。

 その最たる例が前の時代に起きたイギリスとアイスランド間の争い。その名もタラ戦争だ(1958~1976年)。


すごい執念ですね…。

―そこでこの時代になると、水産資源と大陸棚の資源に関するルールを再規定し「排他的経済水域」という概念が考案された。

 でも、その条文についても自分の国に都合のいいように読み替え、一方的な宣言によって水域を広げようとして争いが起きる例は後を絶たない。また、単なる「岩」に過ぎないものを埋立てて「島」にする戦略が、各国によって進められ、ややこしいことになる例も起きている。


中国が南に進出しているニュースをよく見ます。

―ユーラシア大陸沿岸のインド洋をめぐるアメリカ合衆国と中国との「覇権争い」という見方もできるね。


海をめぐる陣取り合戦ですか…。

―これまでの歴史を振り返ってみると、現代世界に近づけば近づくほど、陸を支配する国の海の世界に対する支配はどんどん強まっていった。

 ほら、1500年~1650年の世界のところで見たように、かつて世界経済の中心はインド洋をとりまくアジアだったよね。

 この頃、ポルトガル人やスペイン人がわざわざアジアの海にやってきたのは、手に入れたい商品がそこに山のようにあったからだ。でも、実際に沿岸の広大な地域を支配していたのはアジア各地の国家だった。
 国家によっては(特に東アジアでは)海への支配権を強めようとしていくけど、それでも海の世界をしっかりコントロールすることは難しかった(それに比べると南アジアの国、たとえばムガル帝国は港町の直接支配には無頓着だった(下掲書、p.68))。

名著である。ぜひ一読を薦めたい。


海は陸とは勝手が違いますもんね。

―基本的に海は陸の世界を結ぶ自由な場として、エリアをまたぐさまざまなグループが商業・漁業に携わってきた。海に暮らす人々(注:海民)の生活空間はしだいに奪われていったけど、「国によるコントロールが及びにくいエリア」では、海洋で暮らす人々もまだいらっしゃるね。


 でも、そこに武力を持ち込んで、海域と港町のコントロールを強めていったのがポルトガル王国だったわけだ。
 その傾向はエスカレートし、現在に至る。

 で、この時期になると海をめぐる国の争いはついに「遠洋の海底」にまで及ぶことになる。
 ただ、「特定の海域は特定の国に属する」という考え方が行き過ぎると、地球レベルで「海の問題」を解決しようとする動きにとってもマイナスだよね。

 21世紀に入ってインド洋沿岸を襲った大津波や、墜落航空機の捜索など、国を超えて協力する必要がある問題も少なくない。



気候変動にともなう海面上昇の問題(⇒目標⑬もそうでしたね。

―一国だけで解決できる問題ではないからね。

 気候変動といえば、その影響を受けて北極海の氷が薄くなり、氷を砕いて進むことが年々容易になっている。


つまり、北極海を自由に通ることができるようになるってことですか?

―現在はロシアの許可がないと自由に通ることはできないんだけど、技術の進歩と氷の融け具合によっては、現実味のある話だ。

すでに中国も動き出している(注:北極シルクロード


海ってまだまだ未知数な部分が大きいんですね。

―この時代の観測技術の発達によって、ようやく海底の精密な地形がわかるようになってきた。それでも”海底の95パーセントは未知”といわれるほど、まだまだわからないところは大きいね。

 生命は深海にある熱水噴出孔(ねっすいふんしゅつこう)で生まれたのではないかという仮説がある。
 つまり、深海を調べることはわれわれ人類のルーツを知ることにもつながるかもしれないわけだ。

―また、地球レベルの海流のダイナミックな流れに関する研究も進んでいる。海流の流れの変化が、目標⑬でみた気候変動ともリンクしている可能性も指摘されるようになっているんだ。

とってもスケールの大きな話ですね…。

―また、気候変動の要因とされる「二酸化炭素濃度の上昇」が、海の酸性化(酸性になるわけではなく、アルカリ性から中性に傾くこと)につながり、海に暮らす生き物の暮らしに大きな影響を与えるおそれも指摘されているんだ。


二酸化炭素は大気だけでなく、海にも影響を与えているんですね。

―絶妙なバランスによって奇跡的に成り立ってきた「海の豊かさ」が、今まさに「人間の社会」によって計り知れない影響を受けている。その認識を出発点に、アクションを起こしていくことが大切だ。



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