時代劇レヴュー③:白虎隊(1986年)

放送時期:1986年12月30日、31日

放送局など:日本テレビ

主演(役名):森繁久彌(井上丘隅)、里見浩太朗(西郷頼母)?

脚本:杉山義法


日テレの年末時代劇スペシャルの第二弾にして、シリーズ中で最も評価の高い作品と言うべき時代劇である。

タイトルが示すように、幕末維新期の戊辰戦争における会津藩の悲劇を描いた作品で、二部構成の前半は京都守護職時代、後半は会津戦争の話になっている。

個人的な印象を言えば、本作はなかなか評価が難しい作品である。

ドラマの内容自体は至ってシンプルなのだが、私の中でこれをどう評価するかが、私の幕末史の知識が乏しいせいもあってなかなか定まらない作品である。

もう結構な回数見ているのであるが、最初に見た時は評価が低く、後で見た時は随分印象が変わって、見る度に評価が高くなっていく感があって、今はこの作品をシリーズ中のナンバーワンに推す意見もわからなくはない(もっとも、私自身は一番ではないと思うが)。

何だかんだで、世の中に数ある白虎隊を題材にしたドラマの中では一番出来が良いと思う。

私の評価が定まらないのは、多分に私の知識による所が大きく、これを最初に見た時は戊辰戦争のことを全然知らず、会津藩の悲劇だけがやたらとオーバーに描かれるだけで、ドラマとしてはあまり面白みがないと思ったのであるが、ある程度の知識がついた後で見ると(もっとも、今でも幕末はある種の苦手意識があり、お世辞にも詳しいとは言えないが)、結構細部に至るまでよく出来ている気がする。

このドラマの特徴は、何と言っても全体を通じて「泣かせる」展開で通している所にある。

ただでさえ戊辰戦争における会津藩のエピソードは、悲劇としか言いようのない物語のオンパレードなのであるが、このドラマでは台詞回しも含めてさらにそれがリリカルに描かれ、リリカルな作品が多い杉山義法のドラマの中でも一際情感のこもった作品になっている(そこが人気の理由なのだろうけど)。

とは言え、単に会津藩の悲劇を羅列するだけでは終わらず、幕末史の大きな流れの中に会津藩を位置づけようしている点は、他の作品にはない特徴である。

民法の単発のスペシャルドラマで、この作品以降に会津藩を描いた作品は二つあるが(2007年放送のテレビ朝日の「白虎隊」と、2013年放送のテレ東の「白虎隊」)、この二作品はいづれも会津目線に終始していて、会津藩のホームドラマみたいになってしまっており、幕末の政局そのものの描写は弱い。

製作意図の違いがあるので、別にどちらが良い悪いと言う問題ではないが、要するにこの日テレの「白虎隊」は数ある白虎隊作品の中でも、歴史ドラマの色合いが強いのである。

その証拠にと言うか何と言うか、タイトルこそ「白虎隊」であるが、これはあくまで会津の悲劇のシンボル的な意味としてのタイトルであって、全体に占める白虎隊エピソードの割合は意外にもさほど多くなく(前半はほとんど白虎隊は出てこないし、後半のクライマックスの一つである飯盛山での隊士の自刃の後も物語はしばらく続く)、主人公は会津藩そのものであると言える。

実は「会津藩そのもの」が主人公と言うのが、最初に私が見た時の評価が低かった大きな理由である。

このドラマは、配役クレジットでこそ森繁久彌演じる会津藩士・井上丘隅がトップに表記されるものの、主人公はその場面ごとに変わり(前半の実質的主人公は、どちらかと言えば鳥羽・伏見の戦いの責任をとって悲劇的な最後を遂げる丘隅の娘婿の神保修理であるし、全編を通じて満遍なく登場する会津藩側の人物は藩主の松平容保くらいである)、要するに幕末の歴史にある程度理解がないとドラマとしてメリハリがなくて退屈な印象が否めない(加えて、私自身がこう言う泣ける悲劇が苦手と言うのもある)。

ちなみに、この点は評価が変わった今でもやはりどこかに引っかかっていて、形式的とは言え主役は井上丘隅ではなくて、家老の西郷頼母をセレクトした方が無難だったのではないかと言う気が個人的にはする。

これはまったくの憶測であるけれど、市販されているDVDソフトのパッケージでは、本編に反して西郷頼母演じる里見浩太朗があたかも主役であるのかのようにトップでクレジットされているので、あるいは日テレも後になってそう思ったのかも知れない(笑)。

内容の感想を言えば、ドキュメンタリーチックに作っている割には、実は結構史実と違う描写も多かったりする(そもそも、人口に膾炙している白虎隊自刃の理由自体が実は誤りらしいが)。

ただ、民放のドラマにありがちな無意味な創作はなくて、所謂「演出上の都合」とでも言うのか、ぎりぎりのラインを保っている感はうまい。

西郷頼母の追放などは、タイミングも理由もうまいこと処理していると思う(ただし、これを始めとする杉山義法の創作が、このドラマが著名になってしまったためにあたかも史実であるかのように誤解されてしまっていると言う弊害もある)。

野村左兵衛を病死ではなく戦死にしているのはやや乱暴な感はあるが、あれは尺の関係なのかも知れない(死の複線を作る必要がなくて楽だろうし)。

先ほどの「主役」の話に戻るようであるが、個人的に一番釈然としなかった史実との相違は、井上丘隅(及びその家族)が最後まで死なずに斗南まで行くことである。

ここだけは何度見ても、例えば西郷頼母を主人公にして、彼の追放を事実上のクライマックスにしてその直後に降伏開城でエンディングの方が良いように思ってしまう(あくまで個人の感想です)。

と言うのも、世羅修蔵の殺害事件の描写はあったものの(ちなみに、史実ではあの場で惨殺したのではなく、後日斬首)、奥羽列藩同盟は特に言及されることもなくいつの間にか成立していたし、会津の主力が国境に出ている隙を突かれて城下に攻め込まれたと言う話も、何となく重臣達の会話の中で語られているだけなので、そのあたりをもう少し掘り下げた方が歴史ドラマとしては深みが出たのではないかと思うし、そうなると丘隅に関する創作のシーンを少しカットして、そちらに尺を回せば良かったのではないかなと(繰り返すがあくまでも個人の感想)。

キャストについても、概ね手堅い陣容で、ほんの少ししか出てこない脇役にも名のある俳優を当てていると言う点では、同シリーズ中最も贅沢なキャスティングだと思う。

個人的には同シリーズの「忠臣蔵」の浅野内匠頭とキャラは被り気味であるが、風間杜夫の松平容保は実にはまり役だと思った。

前半でフェードアウトしてしまうが、秋月悌次郎役の露口茂もいい味を出している。

最後に、重箱の隅をつつくような指摘であるが、配役と言うかテロップで一つ不思議に思ったのは、有川博演じる会津藩家老の梶原平馬が、何故か重臣で唯一作中で紹介のテロップが出ないこと。

エンディングのクレジットではちゃんと表記されているし、それなりに出番のある役なのに何でなんだろうと見るたびに思う。

単なるミス言うか、つけ忘れかも知れないが。

なお、この作品も同シリーズの他の作品と同様、DVDソフトがレンタル店などに普及しているので、三十年以上前の作品であるが視聴は容易である。


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