修理屋

深夜 少女がリビングをのぞくと

仕事から帰ったばかりの母が

眼鏡をかけて何かを読んでいた


どこの折り込みチラシやら

そこには手書きの太文字で

広告の文句が謳われていた


  
             
 当店はこころの修理屋です

 やぶれたハートの張り替えから

 はがれた想いの塗装なおしまで

 風合いをそこなわず補修いたします


 割れてしまった 欠けてしまった

 そんなとき あきらめていませんか

 壊れたら買い替える 傷ついたら捨てる

 その発想自体を捨ててください


 穴アキ 底ぬけ 点灯不良

 扉を開けるとキィキィ鳴る

 閉めるとコツンと枠に当たる

 どんな修理もおまかせあれ


 研ぎなおし 染めなおし 破れなおし

 修理法はひとつではありません

 お客様に合った方法を

 独自の技術でご提案いたします


 長年使った愛着あるハート

 よみがえらせてみませんか

 ふたたび命を吹きこんでみれば

 新たな価値が生まれます


 ご相談お見積もりは無料です

 さらに 今回は開店記念に伴い

 先着一名様に限り

 修理代も無料とさせていただきます


 もう悩まなくていいんですよ

 どんなご注文も承りますので

 ぜひお気軽にご相談ください

 わたしはあなた専門の修理屋です



どこのチラシ? 少女が尋ねると

母は眼鏡をはずして言った

これ まだ結婚する前にね


わたしが落ち込んでいたとき

死んだパパが書いてくれた

お手紙なのよ


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関根裕治

詩2

2016年7月以降の作品
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