三分咲き

過去の或る出来事のせいであなたは

男の人がこわいのだと言った

事情を知っているぼくは

それでもぼくに会ってくれるあなたが

いとおしくてたまらなかった


ぼくが手を差しだすと

びくっと肩をすくめることもあれば

小指だけそっとつかむこともある

おそらくそこには

波のようなものがあるのだった


夜の公園で

ぼくらは桜の木々を見あげる

やせた枝にほつほつと

まびかれたように花はともり

「三分咲きくらいでしょうか」と

あなたは桜に目をやったまま

ちいさくほほえんだ


駅へと帰る道

ぼくが手を伸ばさずにいると

今日はだいじょうぶですと言って

あなたはゆっくり手をにぎる

ぼくは壊さないように

そっとにぎりかえす


やさしいにんげんになりたい

世界中の男がこわく見えても

ぼくはおそれなくていいのだと

わかってもらえる日がくるまで


あの桜の木のように

今は三分咲きくらいの愛で

あなたのとなりを

歩いてゆこう