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第9章「ウルトラマンセブン凛のスマイルビームに救われたゼミ生たち」


メロサティ島でのネパール―日本大学生ジェクトは徐々に交流ムードから真剣SDGsモードに移行しつつあった。


ネパール学生の煌びやかなパフォーマンスや流暢な英語での発表が圧倒されつつも、来たる国際学生サミットに向けて準備を着々と進めていた。関ゼミ生は努力は人一倍であるが、全体的に自己肯定感が低めで焦燥に駆られる人が多い。ネパール学生の口から雪崩のように放出される情報量に飲み込まれそうなる。

あの「IQ未知数男」の異名を取るあつとしでさえ押され気味だ。亮、さわね、トウエのリーダーも止めどなく流れる意見や質問を必死に理解しようと努める。


話し合いの内容はSDGsの深い部分に入ってきた。専門知識や基礎知識が求められる中、それを英語で理解しなければならない。ネパール学生とのディスカッションに必死に食いつこうと歩みを進めるゼミ生だが、難解な英語や専門用語が吹雪のようにゼミ生たちに降り掛かってくる。

しかも、この時ゼミ生は大学の期末試験と両立していた。

初めてのオンライン授業下での期末試験には不安要素が多い。異常な量のレポート課題が氷山のようにゼミ生の前に高く聳える。皆、必死の思いでその「オンラインレポート」という名の「氷山」に果敢挑んだ。しかし、もはや彼らに余力は残っていなかった。


「これはさすがにまずい。『凍結』してしまう」


ゼミ生たちの足は「氷山」の冷たい雪に埋もれ始め、徐々に凍り付いてきた。メロサティ島が雪で覆い尽くされゼミ生たちはまったく身動きが取れなくなってしまった。留学生ジュンは、「お願いだから台湾に返してくれ」と泣き叫ぶが、その涙が凍って氷柱となった。ミャンマー人ゼミ長トウエは、4000キロの彼方の母親に向かって「ママ―」と大声で叫んだ。



そんな中、物静かなゼミ生「凜(リン)」が密かに動き出した。他の関ゼミ生は自分のことだけに必死で彼女の行動に気づいていない。自称「人に迷惑かけず、地味に生きている」というくらい控えめな性格である。人のことを観察し尽くした上で誰にも悟られないように動けるのだ。

まるで忍者のように忍び足で関先生の元へササっと近づき、先生の耳元で囁いた。

「関先生!私、、、こう見えて、関ゼミへの愛の塊なんです。ゼミ生たちを凍らせるわけにはいかないんです!関ゼミは私のすべてなんです。」声は小さいが涙目で訴えた。

関先生はすがるような声で返した。「何かいい方法はあるのか。」


「次のプロジェクトではクイズ大会を開催するのはどうでしょう!」

「その手があったか、さすが凜!」先生は思わず手を叩いた。


実は皆の知らぬところで、凜は先生と電話を繰り返し、日本のアニメネタで盛り上がっていたのだ。1970年代~現在に至る日本のアニメ事情を夜な夜な語り尽くしたらしい。電話口での彼女は超アクティブだったそうだ。大学教授と女子学生の夜の暗闇の中でのオンラインアニメトーク。やや不気味だが、凛と先生の心の距離は確実に縮まっていた。



凛はさらに何かを決意したような真剣な表情で関先生に耳打ちをした。

「関先生、、、誰にも言わないでくださいね。これはいざとなった時に使う手段だと思っています。実は私・・・?????????なんです。」

その瞬間、先生はまるで凍り付いたに見えた。その後10秒間、先生の世界は止まった。ネパールプログラムリーダー亮と上智生さわねが、あわてて助けに向かう。

しかし、先生は凍り付いてはいなかった。ただただ感動していたのだ。再び動きを取り戻した先生、凛の両肩に手を当てて目に涙を浮かべながらいった。「もう彼らを救えるのは君しかいない。頼んだぞ!」


こうして2人の話し合いは終わり、凜は急いでクイズ大会の準備にとりかかった。



クイズ大会を機に凜は内向き志向から見事脱皮に成功した。クイズを行うことで自分を覆う殻を打ち破ったのだ。今までの自分を凌駕した瞬間だった。

もちろんクイズ大会も大成功を収めた。プロジェクト一同、スタンディングオベーションだ。


しかし!何故か氷が溶けない。クイズ大会ごときで溶けるような氷山ではなかった。

「まずい。このままでは皆凍ってしまう!もう時間が残されていない。」先生は凛に目で合図を送った。彼女は静かに頷き、次の瞬間、


「シュワッチ!」


身長40メートルのウルトラマンセブン凛に変身した。

そしてウルトラマンセブン凛の発したスマイルビームが地響きと共に一直線にメロサティ島を駆け抜けた。地平線の先まで光が矢の如く放たれ、後から轟音が鳴り響く。凜のビームは音を置き去りにした。プロジェクトメンバーは呆気に取られ、声も出ない。


ゼミ生を冷たい深淵に閉ざした氷が次々と砕かれていく。ダイヤモンドダストのように粉砕された氷がキラキラとメンバーの頭上を舞う。


ゼミ生は何かが吹っ切れたかのようにスマイルで走り抜けていった。



次回に続く…。

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