若手の国際機関就職:あなたの価値は、あなたにはないかもしれない。

先日、某国際機関の空席ポスト(公募)に応募する、30代前半の方のCVを添削しました。管理職ではないオフィサーレベルの職。一般公募になっているけど、まず内部候補者は両手で数えきれないほどいるんだろうなあと思うほど、修士を持っていて、開発援助や緊急援助などで5年以上の経験を積んだ程度の若手、30~35歳ぐらいまでが対象のポストです。組織のネームバリューにもよるけれど、国連や準国連の国際機関であれば、正職員でこのぐらいの若手レベルのポストが希少なので、軽く300~500人ぐらいが世界中から応募してくるようなポスト。なぜか前職では人事と関係ない職種だったのに、こういう履歴書スクリーニングに駆り出されることが多かったので、私の得意分野です。(本当はなぜかわかっているんですけどね、、、実は日本人が採用される可能性が非常に低い国際機関だったので、利益相反の可能性が最も少ないのが私だったのです。ある意味、とほほ。)

さて。添削をすることになったCVを見て、3秒で、これじゃ多分、この人はロングリストにさえ入れてもらえないな、と思いました。 
 一つ、若手のCVなのに5ページもある。何百人も応募者があったら、カバーページとCV最初の2ページぐらいしか読んでいられないのに。 
 二つ、Reference(推薦人)が書かれていない。 もうこれだけで300人の応募者の中から、筆記テストに呼ばれる10人には絶対に入りません。

なぜか。

誤解を恐れないで言うと、この若手ポストの重要性は限られているために、誰を採ってもそう差がでないから。 しかもToRに対し超適材な人と言っても、たかが数年の職歴しかないので、その差が出にくいから。 なので、必然的に上司がこのポストを埋める若手に求めるのは、
 1.自分の知っている使える人(=組織内部にいる契約社員やインターン、或いは仕事相手方などで、その能力を既に知っている人)
 2.その事業に追加予算を取ってこれる人(=スポンサー国・機関に強いパイプがある人)
 3.自分の信頼する人、またはその業務に直結する「先方の偉い人」が推薦する人
 4.その分野で世界レベルで活躍する著名人につながっている人
のこの4パターンぐらいしかありえません。

そうなると、CVで真っ先に確認するのは、その人のReferenceです。 誰がこの若い人の能力や人格を評価し、かっているのか。誰がこの人が行う仕事の質にお墨付きを与えてくれるのか。 どの組織でもHiring manager(後にその人の上司となる管理職)は、自分が知らない応募者を選ぶことになったら、間違いなく自分が信頼できるRefereesを持っている人しか採りません。国際リクルートであれば、採用して着任させるだけで何百万円もコストがかかるのに、採ってみたら問題児だった、なんて危険は冒せませんからね。

つまり、かけだしの国際協力・開発ワーカーであればあるほど、その人の価値は本人には無く、その人のRefereesにあるのです。 それも理解しておらず、Refereesを明記していない、或いはその仕事に直結するRefereesを持っていないと言うのは、試験や面接に呼ぶに値する人材ではないのです。 もちろん、どんなRefereesがそのポストに対して有効かも考えなくてはなりません。

私の国連機関での最初の上司でメンターでもある方に教えこまれたBest refereesの選び方は、a. 応募先の組織で管理職以上の人を1人、b. 出身母体(国や業界団体や学会)の関係者で応募先組織に影響力のある人を1人、そしてc. これまで働いてきた途上国の政府・NGO等から偉い人を1人、計3人を明記すること。3人の出身国とジェンダーが違う方が国際機関では評価は高いし、b. c. にその組織の理事会メンバーやドナー側窓口の人がいると追加ポイントが入るでしょう。

ここまでで絶望的になった若手の方、そういう人たちのためにJPO制度があるのです。 こういう国際的な超難関な競争を乗り越えるために、日本政府があなたの身元保証人かつスポンサーになってくれるのがJPO。そのJPOをしている間に、上記の1.と2.に当てはまる人材となれば良いのです。Refereesのa. とc.もJPOをやったら手に入れやすい。 そうでなければ、誰にも知られていない若手のあなたを、CVだけで見そめてくれるシンデレラストーリーはほぼ皆無なのです。(特殊言語や、複数言語の能力を必須とする、応募者の少ないポストは別として。)

こういう訳で、一般公募で国際機関の仕事を得るなどというのは絶望的な状況ですが(苦笑)、最後に一つ、裏の手とまではいかないけれど、若手のあなたにもReferees のc.を手に入れやすい方法を伝授しましょう。それは、開発業界のサブセクターで有力な大学院(保健ならLSHTMやJohns Hopkins U、ジェンダーならSussexなど)に留学すること。 大学院の先生たちはReferee b.になりやすいし、そして公費留学で途上国から来る学生は、本国で偉くなる Referee c. 候補です。近年はオンラインでも学位は取れますが、Refereeになってくれるような人との密度の高い関係構築のためには、やはり留学することの意義は大きいと実感します。

最後にまとめ。 Refereesは慎重に選び、長い期間にわたって関係構築・維持しましょう! 偉い人に可愛がられるための努力も、あなたのCVの強さの一つになります。 ここまでこんな長いnoteを読んでくれるほど真剣なあなた、ありがとう&Bon courage!