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夕方のロバ #4

ロバは雨宿りの木の下で、
カエルがいなくなった紫陽花の葉のあたりを
長いこと見つめていた。

カエルの顔を思い出そうとするほど、
その像は失われ
そもそも本当にカエルと出会ったかさえ
自信がなくなってしまうのだった。

「鳴き止まないセミ。顔のないカエル。」

永遠に存在しないような
永遠に存在し続けるような

ロバは少し眠くなり、木の根元にそっと横になった。
そして、行ったこともない南国の海の夢を見た。

どれくらい眠っただろう。
雨はもうすっかりやんでいた。

雲の隙間からは、時折仕立ての良いシルク生地のような日が山々に差していた。

初夏の草原は一面に緑が美しく
所々に咲く花は、波に揺られる小舟を思わせた。

その時、遠くに見える山頂に、
キラリと光る物が見えた。
それは、それ自体が光を発しているようにも見えたし、陽光を反射しているだけのようにも見えた。

光は時間が経つにつれ、だんだんと弱くなり、
最後には灰色の山肌に溶けて見えなくなった。

ロバは光の見えた方をまたしばらく見つめていたが、諦めて再び目を閉じた。

(何かを見つめ続けることは、想像以上に疲れるものだ。)

「セミにとって鳴き続けることと、私にとって見つめ続けることは、同じ意味を持っている。」

(ここで意味の有無が問題として表出する)

「次に目を開けた時、もし光がまた輝いているならば、その光のもとを確かめなければならないだろう。」

しかしロバが目を恐る恐る開けた時、
先程の場所には光はなく、ただ雨に洗われた山肌が、ヌルりと日を浴びているだけだった。

しかし、それとは別にロバの心を動かすものがあった。

目の前の土の上には、山の方角を向いたアオガエルが座り、
ちょうど今、さっきのロバと同じように、
小さな目を開けんとしているところだったのだ。

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