イスラエルに対する国際的なカルチュラル・ボイコットのPACBIによるガイドライン(2014年7月版)[仮訳]

http://www.pacbi.org/etemplate.php?id=1047

パレスチナBDSナショナル・コミッティ (Palestinian BDS National Committee: BNC) の一員として、BDS運動に学術や文化の領域でのボイコットに関する状況を俯瞰し、PACBI (Palestinian Campaign for the Academic & Cultural Boycott of Israel) は2004年から学術的なまた文化的な機関のボイコットを主張してきた (注1)。これはこうした機関が、パレスチナ人の国際法で保証されている基本的な権利を否定ないしはその権利行使を妨げている、イスラエルによる抑圧システムと深く共犯関係にある事実に基づく。こうした基本的な権利には、移動の自由や表現の自由が含まれている。

文化的な機関は、占領や入植者による植民地主義、パレスチナの人びとに対するアパルトヘイトといった、イスラエルの体制を支える、イデオロギー的な、また制度的な屋台骨に不可欠なものである (注1) 。イスラエルの文化的な機関は(舞台芸術の集団や、音楽団体、映画組織、作家組織やフェスティバルを含む)、支配的なシオニストの体制とその運命を共にしてきた。ごく一部の道徳的な信念を持ったアーティストや作家や映画制作者たちをのぞき、こうした機関はイスラエルによる占領とパレスチナ(人) の権利についてイスラエルによる徹底的な一貫しての否認への支援と正当化と体裁のいいごまかしについて明らかに密接に関係してきた。

アパルトヘイト下の南アフリカに対するカルチュラル・ボイコット運動は、パレスチナのボイコットの呼びかけやその基準を作るうえで、いくつかの決定的な違いにもかかわらず、主要なインスピレーションの源であった。具体的にパレスチナのボイコットが南アフリカのボイコットと異なるのは、それが //制度的な// ものであり、個人を対象とするものではない点である。

表現の自由について

下記のPACBIガイドラインを通して、BNCは検閲を拒絶し、表現の自由についての普遍的な権利を支持している。その上で、パレスチナの市民社会による、制度的ボイコットの求めは、この自由を侵害しない。PACBIは、国連の「市民的及び政治的権利に関する国際規約 (自由権規約:ICCPR)」に書かれた、国際的に認められた表現の自由の定義に賛同している。(注2)

国際法と普遍的な人権に根差し、PACBIを含めたBDS運動は、個人をその (市民権や人種、性別、宗教といった) アイデンティティーやその人の意見によってボイコットすることを道徳的見地から受け入れない。//よって、単にイスラエル人の文化的な活動に携わる者がイスラエルの文化的機関に所属しているという点のみでは、当ボイコットの対象となる理由にはならない。// しかしながら、もしある個人がイスラエル国家やイスラエルと共犯関係にある機関を代表する場合、あるいはイスラエルの「イメージ刷新」戦略に関与するための任務を請け負っていたり、そうした活動の勧誘を受けたりしている場合には、その個人もBDS運動が呼びかけるこの制度的ボイコットの対象となる。

個人の表現の自由は完全にまた一貫してカルチュラル・ボイコットの文脈で尊重されるべきであるが、個々のアーティストや作家が、イスラエル人であってもそうではなくても、次のような場合には (PACBIの制度的ボイコットについての基準の範囲外で)「常識的な」ボイコットの対象から免除されない。つまり世界のどこかで良心的な市民が、ある個人が甚だしく国際法違反について共犯関係にあるなり責任なり擁護(たとえば戦争犯罪の遂行や他の重大な人権侵害) に関わったり、人種差別的な暴力を扇動したり、人種差別的な中傷をしていると広く認め、抗議を呼びかけることはありうる。このレベルにおいて、イスラエル人の文化的な活動に携わる者は批判や、ボイコットを含めた、合法的な形態の抗議から、免除されるべきではない。彼らは、同じカテゴリーにある罪を犯した者たちすべてと同様に扱われるべきである。これは、BDS運動がその方針の基礎とする、世界人権宣言に則っており、同宣言は次のように述べている。 

すべて人は、自己の権利及び自由を行使するに当たっては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって定められた制限にのみ服する。(注3*)

国際的なカルチュラル・ボイコットのガイドライン

この何年か、いくつかの国のパートナーたちとイスラエルに対するカルチュラル・ボイコットを進めるために集中して取り組み、そういった活動は圧倒的大多数のパレスチナ人のアーティストや作家、映画制作者や文化的な機関により支えられてきたが(注4)(注5)、PACBIは多くの文化的なプロジェクトやイベントを詳細に調査し、そうしたプロジェクトや活動についてボイコット基準適用可否を検証し、その結果に沿って、そうしたプロジェクトや活動について公開書簡や文書や勧告としての意見を表明してきた。そしてこの点において3つの重要な結論に至った:(a)こうしたイベントやプロジェクトの多くは、不確かで、グレイゾーンにあり、評価をするのが難しい。(b) 重要なことは、ボイコットは共犯的な機関に対するものに限らず、そうした機関に備わっている有機的なつながりに対してのものでもある。そうしたつながりというのは植民地主義的な統治とアパルトヘイトを再生産するものである。(c)戦略的には、すべてのボイコット可能なプロジェクトが、積極的なボイコットのキャンペーンの対象とならなければならないわけではない。アクティビストたちは、彼女ら/彼らのエネルギーをその都度最も優先すべきキャンペーンに注ぐ必要がある。

こうした経験と、この国際的なカルチュラル・ボイコットを、映画から文芸フェスティバル、アートの展示、音楽やダンス・パフォーマンス、さらには会議といった、幅広いプロジェクトに対して適用する際のPACBIの具体的なガイドラインを求める声の急速な高まりに応えるため、PACBIは下記のように、あいまいでない、矛盾なく首尾一貫した基準とガイドラインを、対象となる文化の領域でのニュアンスや個別性に特に配慮した上で提示する。

これらのガイドラインは、世界各地の良心的なアーティストやライター、文化的な活動に携わる人たちはもちろん、文化的な組織や団体も、パレスチナからのボイコットの呼びかけに協力し、国際法を順守するために、また自由と正義と平等のためのたたかいを進めることを目的とし、それに貢献する際の助けとなることを主に意図している (注6) 。

イスラエル国外の文化活動従事者が、ボイコットの呼びかけに留意せず、BDSの「ピケ」を破り、その上で「バランス」を取るためにパレスチナの機関や団体を訪れることは、植民側の抑圧者と被植民者の間の対称性という誤った見解に与する。

国外からの支援者やパレスチナ(人)の権利の支持者によるパレスチナ占領地への訪問は励ましやサポートの源として常に歓迎されるが、パレスチナの人びとは、[パレスチナとの] 連帯とは、ボイコットの呼びかけは被抑圧者からの信頼できるものでありそれを尊重することを必然的に引き連れており、パレスチナの機関やグループへの訪問とボイコット対象となりうるイスラエルの機関との活動が伴うものではないと信じている。国外からの訪問者が、イスラエルの文化的な機関との活動を日程にどうしても組み入れる場合には、そうした形での「体裁の悪いものを隠蔽する」(注7)態度は、パレスチナの文化的機関から歓迎されることがありえないことを知っておくべきである。

通例として、PACBIは、世界中の文化的な活動に携わる人たち(たとえばアーティストや作家や映画制作者)や労働組合や業界団体を含めた文化関連の組織は、他の領域と同様に、それが可能で適切である場合に、イスラエルの学術機関[訳者註:おそらく「学術」は「文化」の間違い] が関わるイベントや活動、協定やプロジェクトをボイコットと/もしくは取消あるいは廃止をすることを強く求める。そうしたことがなされないとは、つまりグローバルな文化的領域において、イスラエルの現状を正常なものとする営みを促進し、イスラエルによる国際法違反やパレスチナ(人) に対する人権侵害を取り繕い、あるいはBDSガイドラインに違反することである。

以下において、「作品」とは、文化的な制作物のことであり、たとえば様々なアートの形態の中で、映画やアート作品、演劇作品といったものである。「イベント」とは、他の活動の中で、映画祭や会議、芸術作品の展示、アート作品の上演(音楽やダンスを含む)、アーティストや作家によるツアーといったものである。

特に、これらは、イベントや作品がイスラエルに対する、パレスチナのカルチュラル・ボイコットの違反となるBDSのガイドラインである:

(1) //全体を通して優先されるルールとして、イスラエルの文化的機関は、それに対する反証がない限り、イスラエルによる占領の維持と共犯関係にあり、パレスチナ (人) の基本的な権利を否定してきた。そうした関与は、沈黙であったり、そうしたことを正当化したり、覆い隠してごまかしたり、そうでなければ故意にイスラエルの国際法違反や人権侵害から注目を逸らしたりといったことに直接関与するものであったり、あるいは国際法に違反しパレスチナ(人)の権利を侵害するプロジェクトの計画や実行について政府機関と直接協力することを通じて行われてきた。 //

それゆえに、こうした機関と、それらの機関によるすべての作品、またこうした機関がスポンサーとなったり支援をしたりする活動は、世界中の文化的組織と文化的活動に携わる人々によってボイコットされなければならない。南アフリカのアパルトヘイトに対するカルチュラル・ボイコットがそうであったのと同様に、国際的なアーティストと文化的な活動に携わる人たちは、イスラエルの文化的な組織について、いかなる方式であっても承認してはならない。彼女ら彼らの(映画やインスタレーションや文芸作品などの)作品の展示や提示や紹介によって、あるいはイスラエルと共犯関係にある文化的機関やイベントと共同での講義や上演によって、あるいはこうした作品のそうした機関による出版や展示、上映に対して許可を与えることによって。同様に、個々人がかかわる活動やプロジェクトがこうした共犯関係にある機関を //明確に代表している場合// もボイコットされなければならない。

//次の点は強調されなければならない。すなわち、文化的な作品の内容やアートとしての価値は、それがボイコット可能であるかを判断するには不適切な要素である。//

(2) もしある作品が公的なイスラエル団体に委託されていたり、あるいはブランド・イスラエルもしくはこれに類したプロパガンダの目的に供している非イスラエルの団体によって委託されている場合、その文化的な作品はボイコット対象となりうる。 (注8)

イスラエルの文化的な作品は(公的なイベントとは逆に)、公的なイスラエルの団体によって資金援助を受けており、それ以外他の政治的な縛りがなければ、それ自体としてボイコットの対象にはならない。ここでの「政治的な縛り」とは、イスラエル政府の、あるいは共犯関係にある組織のイメージ刷新やプロパガンダの試みに、直接的あるいは間接的に供することが、資金の受け取り手に課されているという条件がある場合を特に指している。イスラエルの文化的な作品は、その文化的活動従事者が納税している市民としての権利の一部として公的な資金を受け取り制作した場合、政府の政治的なまたプロパガンダ的な利益に供することが縛りになっていないのなら、ボイコット対象ではない。逆にいうと、こうした政治的な縛りを受け入れることは、イスラエルによる植民やアパルトヘイトの現実を体裁のいいごまかしや曖昧にしようとするイスラエルの試みに加担することによって、当の文化的な作品を共犯の一形態に明確に変え、結果としてそれをボイコット対象となりうるものにしてしまう。//このロジックにより、私たちはすべての非イスラエルの(たとえば、国外の作家による、あるいはパレスチナ人の)文化的な作品が公的なイスラエルの団体からの資金提供を受けている場合、もしくは委託を受け政治的な動機付けのされた国際的な「ブランド・イスラエル」を目的にした組織からの資金提供を受けている場合、ボイコットの対象と考える。//

最も明確な例は、多くのイスラエル人のアーティストや作家やその他の文化活動従事者が、イスラエルの公的なプロパガンダの目的に貢献することが義務付けられている国際的なイベントに彼女たち自身、あるいは彼女たちの作品が、参加するための費用を工面するために政府の助成金に応募しているということである。この際最後に、文化活動従事者はイスラエルの外務省との契約を結び、彼女または彼が「心から、責任を持って、不断に、同省に対し、専門家としての最高のサービスを提供することを請け負う」。この契約は次のようにも述べている。「サービス提供者は、彼からのサービスの注文の目的が、イスラエルのポジティブなイメージを創造することに貢献することを含めた、文化やアートを通したイスラエル政府の政策目的を推進するものであることを認識している。」(注9) 

すべての文化的な作品は、イスラエル人のものであれ国外の作家によるものであれ、イスラエルの政府関係機関(たとえば、政府省庁、地方自治体、大使館、領事館、政府系もしくは他の公的な映画制作のための基金)もしくはイスラエルのイメージ刷新プロジェクトや組織から委託されている場合、その制度的理由により、ボイコットされるに値する。こうした作品は、特に同国のプロパガンダや「イメージ刷新」の活動を助けるためにイスラエル政府やイスラエル政府と結託している機関によって委託されているのである。

(3) もしあるイベントや活動が公的なイスラエル団体もしくは共犯関係にある組織に部分的にあるいは全面的に資金提供を受けている場合、その文化的なイベント/活動はボイコット対象となりうる。

上記のガイドラインにあるように、全体を通しての原則は、公のイベントや活動が、公的なイスラエルの団体かもしくは共犯関係にある組織にスポンサーシップ/支援を受けてもしくはそうした団体や組織と提携して行われる場合は、そのイベントや活動はイスラエルに加担しており、ボイコットをされるに値する。同じことが、イスラエルのブランディングやプロパガンダを目的として活動している、非イスラエルの機関からの支援やスポンサーシップを受けた場合にも適用されうる。

(4) 正常化プロジェクトはボイコット対象となりうる。パレスチナ人と/もしくはアラブ人が一方にいて、イスラエル人がもう一方にいる、 (2つもしくは3つ以上のグループが関わるか否かに関わらず) 、抑圧者と被抑圧者間の虚偽の対称性や等価性の前提に基づいた、言い換えると植民者と被植民者が、この「紛争」について同等に責任を負っているという、知的に不誠実で道徳的に非難されるべき正常化の形式に沿った、文化的な活動やプロジェクト、イベント、作品はボイコットされるべきである(注10)。不正義な現状に挑戦することとは程遠い、こうしたプロジェクトは、その現状の持続に加担するものである。こうしたイベントやプロジェクト、出版や映画、展示といった例においては、パレスチナ人/アラブ人とイスラエル人をあからさまに連れてきて、彼らが互いを尊重した語りや視点を提供したり、和解を目指したり、「障壁を乗り越え」たりするが、不正義の根本的な原因や正義が要求されていることには立ち入らない設計になっている。PACBIがこうした活動やプロジェクトについて[ボイコットの可否を]判断する際には、資金源や作品やイベントの設計、支援組織 (複数かもしれない) の目的、参加者、その他同様の問題とされる要素について考慮する。 

支配側コミュニティの人びとと、被支配側コミュニティの人びとの間における、正常な、そしてまさに歓迎される、唯一の関係は、国際法に基づいた被抑圧者の基本的権利を認めるものであり、抑圧に対して共通のたたかいにかかわることである。これを受けて、共同プロジェクトは次の2つの条件を満たす場合、正常化の形態とはみなさず、ボイコットの対象から除外される:

(a)  当該のプロジェクトにおいてイスラエル側は、国際法に掲げられているように(2005年のBDSの呼びかけに書かれた3つの権利を含め)、パレスチナの人びとの奪うことのできない権利を認めること(注11);そして

(b)  当該の作品もしくはイベントが、「共に抵抗すること」“co-resistance” であり「共存する」co-existenceのではないこと。(注12) 

パレスチナ人/アラブ人と、イスラエル人との間での、公での議論は、イスラエル政府やそのロビー団体あるいは共犯関係にある組織なしに企画運営されるのであれば、ボイコットから除外される。 

(5) イスラエルやイスラエルと共犯関係にある機関あるいはその国際的なロビー団体からの資金提供を受けた、調査目的の訪問やスタディー・ツアーは、ボイコットの対象となる。

逆に、不偏的な、独立の不偏的な、独立した調査訪問は、イスラエルと協力関与している学術機関とのミーティングが含まれていたとしても、ボイコット対象とはならない。この場合、政府と協力関係にあるイスラエルの機関との組織的なつながり (例えばセミナーやワークショップ、企画展など)がどんな形であれ形成されないことが条件となる。

イスラエルに対するこのカルチュラル・ボイコットは、2005年のBDS呼びかけに書かれている3つの基本的な要求を満たすまで、継続されなければならない。

イスラエルの占領と入植者による植民地主義とアパルトヘイトの体制への共謀を終わらせ、ボイコット対象でなくなるために、イスラエルの文化的な機関は次の2つの基本的な条件を満たさなければならない。

a. 国際法に掲げられているように(2005年のBDSの呼びかけに書かれた3つの権利を含め)、公にパレスチナの人びとの奪うことのできない権利を認めること;そして

b. 国際法に明記された、パレスチナ(人) の権利を侵害することへのいかなる形式での関与もそれを止めること。

この関与には、イスラエルによる人権の蹂躙と侵害を計画し、実行し、さらに/あるいは正当化する際の幅広い役割だけでなく、差別的な政策や行為を含める。


References:

[1] http://pacbi.org/etemplate.php?id=869

[2] http://www.ohchr.org/en/professionalinterest/pages/ccpr.aspx

[3] http://www.un.org/en/documents/udhr/

[4]http://www.pacbi.org/etemplate.php?id=315

[5] http://www.pacbi.org/etemplate.php?id=2475

[6] http://www.pacbi.org/etemplate.php?id=1108

[7] http://www.pacbi.org/etemplate.php?id=1645

[8] One such organization is the America-Israel CulturalFoundation, whose mission includes depicting the State of Israel “as a thrivingcultural environment that stimulates creativity and artistic life.”Seehttp://www.aicf.org/about/mission. The organization takes credit for having supported and promoted allmajor cultural institutions in Israel, such as the Israel PhilharmonicOrchestra and the Israel Museum. See:http://www.aicf.org/about/impact/institutions

[9] http://www.haaretz.com/putting-out-a-contract-on-art-1.250388

[10] http://www.pacbi.org/etemplate.php?id=1749

[11] http://www.bdsmovement.net/call

[12] http://www.maannews.net/eng/ViewDetails.aspx?ID=405314


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