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『DIVE!! 上・下 (森絵都)』【読書ログ#10】

森絵都さんの作品は読んだことがなく、『DIVE!!』も書店で見かけてはいたけど、どんな話なのか全くわかっていなかった。

表紙を見ると、プール、ダイブ、海パン男子、エクスクラメーションマークがふたつ。私、泳げない。私、スポーツしない。私、勢いもないし、若くもない。よし、私には関わりのない世界の話だ! と無意識に処理してスルーしていたに違いない。

読書会の課題なので読み始めたのだけど、思ったとおり、超爽やかスポ根小説だった。それも、とびきり面白いスポ根小説だった。

『DIVE!!』は、水泳の飛込競技に青春を捧げまくる中学生と高校生の男子3人が主人公となる。

水泳の飛込競技とは10メートルの飛込台から飛翔し入水するまでの1.4秒に行わえる演技で競いあう競技で、おそらく、すごくマイナーなスポーツだ。

私は泳げもしないし、高いところは大嫌い。当たり前のように競技の知識はまったくない。一体どうやって楽しめば良いのかと心配だったが、競技のマイナー性故の配慮か、とても丁寧に競技の説明が差し込まれるので、知識ゼロでも楽しむことが出来た。

読んでいると、あれ? あなただれ? みたいな感じで、唐突に競技の説明が始まって違和感ものすごいし面白おかしいのだけど、それがないと全く話の内容が理解出来ないのでとても助かる。

そんなマイナー競技に人生をささげる主人公の3名は、実に個性的でまっすぐでイケメンだ。天性の素質を持ちながら、なかなか燃え上がらないイケメン天然おっとり君。両親がともに元オリンピック出場選手で自身も全てを競技にかけるイケメンエリート高校生。津軽の断崖絶壁で海に飛び込んでいたイケメン野生児。

彼らは互いにライバル関係であり、多くを語らずとも理解しあえる友人でもある。健全で眩しい関係だ。30年後に3人で集まってビールとか飲みながら子供自慢をしあっている姿が浮かぶくらいに健全で眩しい3人だ。

そんな3人が、競技を、友人や家族を、そして自分の人生を真剣に考え、自分なりの答えを見つけるために、もがいたり、苦しんだりもしながら、それでもやっぱり明るく前向きに進んでいく。

彼らをとりまく人々もまた爽やかで眩しい。アメリカ帰りの猪突猛進な美人コーチ、息子との関係を上手に築けない元オリンピック代表選手でありコーチであり主人公の一人の父、ママさん教室を執拗に眺める同級生、ピンクのパンツしか履かないライバル、伸び悩んでもうまく行かなくても諦めない仲間、高校生男子におしっこ競争をしかける老人。

およそ、私なんかが思いつく限りの「爽やかな青春」をまっすぐに生きる人がバンバン出てくる。眩しい。とにかく眩しい。

爽やかで眩しい3人は、それぞれ葛藤や挫折、失敗や成功を積み重ね、やがて、とてつもなく大きな目標に向けたチャレンジに突き進む。生活のすべて、人生のすべてをかけ競技にうちこみ、途方もない夢を掴むための舞台にむけて突き進む。

物語の最後の最後、最終選考のシーンは鳥肌の連続だ。それぞれが全力を出し切り競技に挑む姿には心を打たれるし、それぞれに与えられた結果には、心から拍手を贈りたくなる。

文句なしの青春譚、文句なしのスポ根ドラマ、文句なしの面白さ。

『DIVE!!』は、登場人物の名前に癖がある。私は人の名前を覚えるのが人一倍苦手なので、ずっと『夏陽子』を(かよこ)と読むのに苦労して、何度も(なよこ)と読んでしまった。鬼コーチがとたんにフニャフニャに。

主人公の一人である野生児の『飛沫』は、(しぶき)と読むのが正解なのだが、なぜか(ひまつ)で記憶が固定されてしまい苦労した。ちょっとばっちい。

飛沫の祖父は『白波』なのだが、いま読み方を調べたら、なんと(しらは)だった。(しらなみ)じゃないのかい。

でも、おすすめ!

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