星につれゆく/翔×直人

 七月七日は大抵雨。東京の中心で満点の星空は見れない。
 ならば空に近い場所に行けば、鮮明に見えるんじゃないか。と思い立ったのが先々月。
 考えれば考えるほど、どうしても行きたくなってしまって。
「あのさ、星、観に行かない?」
 なんて、まるで中学生みたいなお誘いをしたのが先週。
 そして今日、二人で八方ヶ原へとやってきた。

 仕事と仕事の合間を縫っての小旅行。夕方から車で移動を開始して、翌日の16時には旅館を出なければいけない強行っぷりだ。そんなとんでもないスケジュールにも快く付き合ってくれる直人が、翔にとって何よりも有り難く心強かった。
 星を観に行こうと誘ったら、二つ返事で「いいですね」と返ってくる。冗談だと笑いもせず、笑顔で手帳を開いて「せっかくなら七夕に行くのはどうですか?」なんて――……俺を喜ばせるために、あえて言ってくれてる、とすら思わないのは、直人が本気で嬉しそうだからに他ならなかった。
 一緒に住んでいても、生活時間帯が被らなければ会話すらまともに出来ない。なかなかどうして翔の仕事はシーズン毎に繁忙期がある為、ここ最近もゆっくり過ごす時間が取れずにいたのだ。
 小旅行は確かに強行だけれど、それでも二人で半日以上、ゆっくり過ごせることに違いない。直人もそれを、素直に喜んでくれていた。
 荷物も最小限で、目的地に着いたのは夜。それだけで、なんだかワクワクしてしまう。温泉付きの旅館を選んだものの、帰る頃には内湯しかやっていないだろう。それでも良かった。明日の昼にだって温泉は入れる。
 ひとまず大間々駐車場に車を停め、道なりに歩くことにした。外の空気は標高の高さからかひんやりとしていて心地いい。めいっぱい吸い込んで、吐き出す。
「はー……マイナスイオンって感じだねえ」
「そうですね。凄く気持ちいいです」
「もう既に来てよかったって感じ!」
「はい!」
 二人してはしゃいだ声が漏れて、童心に返るようだった。この辺りには軽く座れるような場所もなく、名物であるレンゲツツジの群生も、夜では暗くてあまり見えない。
 けれど、その代わりに、満点の星空が約束されている。
 同じタイミングで空を見上げた。「わぁ……」直人が感嘆の声を漏らしたのも頷けるほど、頭上には美しい星空が広がっている。何万という星々がきらきらと輝いていて、少しの間息をするのを忘れてしまった。
「…………す、ごいね」
「…………はい……」
「えー……ほんとに来てよかった……」
 車に背中を預けるようにして、しばらく会話もなくぼんやりと星を見つめる。
 ああ、俺ちょっと疲れてたんだな。自分の限界値は理解しているつもりだけど、でもやっぱり、こういう時間が欲しかった。都会の喧騒から離れて、好きな人と、ただ何もしない時間が。
 ちゃんとした旅行となればしっかり計画を立てて目一杯楽しむ方だけど、今回はあえてそうはせず、ただただガス抜きだけをしたい。その身勝手な要望を、直人は言わずとも汲んでくれていた。
「直ちゃんありがとね。俺が疲れてるの分かってて、来週って言ってくれたんでしょ?」
「あは。やっぱりバレてましたか?」
「そりゃね」
 照れながら、直人が翔の手をぎゅっと握る。大きな手はあたたかく、冷たい空気に心地良かった。
「……いつもお疲れ様です。次はゆっくり、箱根に行きましょうね」
「うん。そうだね! グランピングとかもしたくない?」
「わっ、いいですね! 俺も興味あったんです」
 ゆっくり、存在を確かめるように手を握り返す。誰にも邪魔をされず、何にも侵されず、ただ触れ合える時間の素晴らしさ。
「旅館で内湯入ったら、お酒飲もう」
「じゃあおつまみも買っていかないと」
「朝まで酒盛りコースかなあ」
「いいですね。受けて立ちます」
「うーん、全然勝てる気がしない!」

 幸せです。
 君が隣に居てくれる。それだけで、こんなにも。

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Twitterリクエストよりサルベージ。
星空と翔直、個人的に凄く合うな〜と思います。優しくて穏やかな空気が似合うイメージ。

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