ofuton dangi/真田×鹿嶋

「『亮司に新しい布団買っといたから』だって」
 この三連休、両親は小旅行で不在。真田家の台所は長男である亮司が任せられ、妹の茉莉は食器の用意だけして、今は優雅に兄特製チャーハンを口に運んでいる。両親が不在時は壊滅的に料理が出来ない茉莉にかわって、「まだマシ」な亮司が用意するのが常だった。あの謎の黒塊を食べて死ぬぐらいなら、自分が作った方がよっぽど良い。
 リビングの中央、ダイニングテーブルに向かい合うように座り、夕食を食べている最中のこと。唐突に茉莉が読み上げたのは、スマホに届いた母からのメッセージらしかった。
「はあ。旅行中に何してんだ……」
「アウトレット行くって言ったからね〜そこで見つけたんじゃない?」
「ああ、そういう……って、俺の去年買い換えたばっかだったと思うけど。全然傷んでねーよ?」
「そなの?」
 なんでだろうねー、と茉莉が言うより早く、ポコンともう1メッセージ届いた音がする。フォークを口に運んだままスマホを見る茉莉に「行儀悪いぞ」と注意をするが全然聞かない。両親の言うことはちゃんと聞くくせに、兄のことはナメっぱなしの小生意気な妹。こんな子に育てた覚えはありませんと改めて指摘しようとしたところで、スマホ画面をずいと見せられた。
「…………あ?」
 母娘らしい絵文字散乱状態のメッセージ内に浮きまくる――『鹿嶋』という二文字。
「……『鹿嶋くん用に買っておいたの。敷布団とセットで!』」
「ってことらしいよ〜。よかったね」
「いや意味わかんねーから。要らないって言っといて」
「だからもう買っちゃってるんだってば」
(…………なんで鹿嶋限定なんだ?)
 いやそりゃそうか家に連れてきたことあるの鹿嶋だけだわ。来る頻度もやたら高いし、親友と勘違いされていても仕方ない。きっと母は、亮司が昔使っていた敷布団を鹿嶋に提供していると思い込んでいる。
「てか今まで敷布団なかったの? 鹿嶋くんかわいそー」
 茉莉は茉莉で、床に直に寝かせていると思っているらしい。そんな無慈悲な兄に見えるか? と問いたい。見えるのかもしれない。
「いや、まあ……うん、平気だろ丈夫だし」
「ひっど!!」
 ドン引きだ。とはいえ「古い布団使ってます」という嘘をつくのもなんだか微妙で、肯定するしかない。茉莉の中で、亮司のランクがぐんと下がったのが手に取るように分かる。辛い。
 実際はそんな布団一度も使ったことなどなく(というか存在を忘れていた)、同じベッドの中で寝ているのだけれど――そんなこと、母妹は知る由もない。
 つーか知られてたらビビる。
 しかし鹿嶋に新品を用意したところで、一蹴されて変わらずベッドに潜り込んでくるだろう。差し出すことを強要された亮司の腕を枕にして、体を丸めて寝るのが好きな男。それに何より寒がりなのだ。一人用布団なんて使ってないで、隣で寝ろよと亮司すら思う。
「……うーん……」

 今度細貝や東を呼んで、強制的に新しい布団で寝かせるイベントを開くべきだろうか。
 母の気遣いに心を痛めつつ、妹からの信用を取り戻す為にあとでコンビニに行こうと決める。ハーゲンダッツの人気フレーバーを、頭の中で思い浮かべつつ。

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Twitterよりサルベージ。
>一人用布団なんて使ってないで、隣で寝ろよと亮司すら思う。
真田ってこういうこと思うよね、と改めて思いました。笑!

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