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山本康人『僕 BOKU』


丸々1巻をキャラ説明に費やして、ジワジワと盛り上げていき、3-4巻で火をつける。描きたいものを描いて、潔く10巻ほどで終わらせる。

久しぶりにそんな漫画を読んだ。山本康人『僕 BOKU』だ。

表紙で、読みたいと思わされた。

正面から見つめてくる大きな目。滴る汗は、その状況に緊迫感を与える。決然としつつ、臆病な一面が垣間見える。もしかしたら、彼は何かに立ち向かうことが苦手なのかもしれない。逃げ出したいけれど、目を見開いてみなくちゃいけない……そんな状況に立たされている瞬間を切り取っている。

Kindle Unlimitedで読める漫画としては随一だから、時間があったら読んで欲しい。

彼が立ち向かっているのは、自分の普通さだ。何かを成し遂げたい……! という思いから目を背けて、ただ日々をこなしている。

思春期の青年には、胸の底から衝動が湧き上がってくる。

ーーこのままじゃダメだ。何かをしたい!

彼は自分が檻に囚われていることを自覚していた。親からの目線、教師からの目線、友達からの目線。普通のいい子を演じている自分。ぶち破りたいけれど、一方で、それらを無視するのは怖い。

しかし彼の目の前には、自立している女性がいた。学校を抜け出し、子供がいる噂もあり、教師に面と向かってものを言える女性。なぜ彼女はそんなに魅力を持っているのか……彼は彼女を尾行し、ばったり出会った際に殴られる。顔面にパンチを入る。顔が歪む。鼻から血が出る。シャツに赤いシミがつく……

その日から、彼の人生は変わっていく。

その子は何を抱えているのか。その子の目を奪うには、何をしたらいいのか。強い男にならなければいけない。彼はボクシングを始める。

どこまでも平凡な彼は、貧弱な体しか持たない。「やめろ」と言われる。でも彼女の目を惹きたいから続ける。なぜか勝ち始める。「俺は強いのか? 強いとは何だ?」。

普通だったはずの人生が、いつの間にかボクサーとしての人生に変わっていく。打ち倒したい相手が出来る。心底嫌いな人間も出来る。もっともっと彼女のことを救いたいと思う。自分はまだそれに足りないと思う。迷う。

でも勝つ。強さとは、最後の段階で自分に向き合えることだ。最後の勝負には負けるが、彼は自分の中に強さを見出す。

そして死ぬ。

稲中以降の古谷実作品や、『百円の恋』のような設計だ。非常に好きだ。生きている、という感じがビンビン伝わってくる。

サポート金額よりも、サポートメッセージがありがたいんだと気づきました。 読んでいただいて、ありがとうございました。