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天体望遠鏡か、双眼鏡か。

自分が、あるいは子供が天体を見たいとき、天体望遠鏡を買うべきか、それとも双眼鏡を買うべきか。既に良く議論されているテーマではありますが、改めて私の考え・経験をまとめておきます。結論から言うと、先に双眼鏡を手に入れるべきだというのが私の意見です。


望遠鏡と双眼鏡の違い

望遠鏡も双眼鏡も、遠くのものを拡大して見るための装置です。一般的には、三脚に据え付けて片目で覗くのが望遠鏡、手に持って両目で覗くのが双眼鏡だと考えればいいでしょう。主な違いを表にまとめておきます。

一般的な入門機を想定したおよその数字です。三脚に据えて使う前提の大型双眼鏡やフィールドスコープ、単眼鏡、双眼望遠鏡といったものもありますが今回は一般論に止めます。

片目か両目か、これは分かりやすいですね。光学系を二組揃えるためにはコストが2倍+αかかりますが、きちんと作られていれば両目で見る方がより自然に、よりよく見えます。

望遠鏡と双眼鏡の倍率の違いは、固定方法の違いに繋がります。手に持って使う双眼鏡では実用的な重さの上限が1kg程度になり、手ブレによって実用的な倍率の上限が10倍程度になります。望遠鏡は三脚に固定して使うので、10kg、100倍程度のものがごく一般的に使われます。

三脚によって高倍率が可能になった天体望遠鏡は、大きく拡大できる代わりに空の一部しか見えません。そのため、目標の天体を狭い視野に収める(これを「導入する」と言います)には慣れが必要になります。月や木星のように見間違えようのない明るい天体なら振り回しているとそのうち視野に入ってくるのですが、肉眼で見えないような暗い天体を望遠鏡の狭い視野に導入するのは一筋縄ではいきません。双眼鏡ならば、大体の方向に向ければ目標の天体が導入できることがほとんどです。

望遠鏡は、その大きさから、天体観測を目的とした旅行以外には持ち出す機会が無いでしょう。一方の双眼鏡は、気軽に持ち出せます。近場のキャンプに、スキーや温泉で山間部に行くときに、島嶼部や南半球への旅行に。

双眼鏡は収納に関しても有利ですので、一度良い双眼鏡を手に入れたら何年も持ち続けられると思います。天体観測を趣味にするなら、良質な双眼鏡は絶対に無駄になりません。

双眼鏡で何を見るか

双眼鏡で見て面白いものは夜空に沢山あります。

月はその満ち欠けや表面の構造を詳細に見ることも面白いですが、力強い満月をただ浴びるように眺めるのも乙です。

木星に向ければ、ガリレオ衛星を分解して、その運動を見ることができます。

プレアデスのような大きな散開星団や、星列(星座より小型の、特徴的な星の並び)は望遠鏡の視野には収まりませんが、双眼鏡で見るとそれを構成する星々が一度に見え壮観です。

銀河や球状星団を詳細に見るには、確かに双眼鏡は力不足です。しかし、周辺の星の並びと星図を頼りに広い空からそれらを探し出すプロセスは、一見ただ面倒なように見えて、実は天体観測の醍醐味だと思います。

そしてなにより、何か特定の天体を狙うというよりも、広い視野を活かして、夜空を散歩する感覚でただぼうっと眺めながら自分で面白いものを探していくのが双眼鏡の楽しみです。

夏の天の川付近

例えば、上の写真は広角レンズで数分露光して撮影して星座線を描き加えたものですが、空の暗い場所で適切な双眼鏡を使うとこれくらいの星の数、色の違いを見分けることができます。

白い丸が概ね双眼鏡の実視野に対応していて、その中央にあるのはCoathanger(コートハンガー)星団と呼ばれる星列です。意味ありげに直線に並んだ6つの星と、その下にフックのように並んだ星があり、ひっくり返すとハンガーのように見えることからこの名前が付いています。こういった星の並びを見つけると、夜空と親しくなった気分になれます。

双眼鏡の選び方

では、天体観測のために、どんな双眼鏡を手に入れるべきでしょうか。双眼鏡の主要なスペックは倍率と、対物レンズの口径です。

倍率が高くなれば手ブレの影響が大きくなり、視野が狭くなり、像が暗くなってしまいます。1台目は6-8倍のものを選ぶのがオススメです。対物レンズの口径は大きければ大きいほど明るく見えますが、重くなります。気軽な天体観測に向いているのは30〜50mmのものでしょう。

よって、中学生以上なら8×40(8倍で口径40mm)前後が見え方と取り回しのバランスが取れていて、第一候補として適切です。小学生ならより軽く、手ブレの影響が小さい6×30くらいを薦めます。特にKowa社やヒノデ社の6×30は、眼幅調整範囲の下限が50mmと小さめになっており、顔の小さな小学生でも難なく合わせられるのが嬉しいポイントです。

倍率と口径以外には、

  • 視野角(実視界/見かけ視界)

  • ポロプリズムかダハプリズムか

  • 防水性

  • コーティングの品質

  • 異常低分散(ED)レンズの有無

  • フィールドフラットナーの有無

などのスペックがあります。しかし、実際の見え方はカタログスペックでは分かりませんので、実際に店舗で覗いてみることが望ましいところです。それができなければ、レビューの悪くない機種を買うのが良いと思います。残念ながら見え方は価格に比例しますので、個人的には1万円以上のものを買っておいた方が後悔が少ないように思います。

ちなみに、私が大人になってから初めて購入した本格的な双眼鏡は、8倍42mmでポロプリズム型の、2万円台のもの(賞月観星 プリンスED 8×42 WP、トップ画)でした。良い買い物だったと思います。

望遠鏡を買うべき時

ここまで、天体観測のために双眼鏡をオススメしてきました。では、どんな人が天体望遠鏡を買うべきでしょうか。

未経験者が望遠鏡を買うと、月と、運が良ければ木星と土星を見て、以後お蔵入りになるリスクが非常に高いため、ある程度経験値を積んでからの購入が適切です。具体例として、以下の質問に答えられれば望遠鏡を使いこなす準備が出来ていると考えられます(The Backyard Astronomer’s Guideによる)。

  • 各惑星が今どこにあって、どの時間帯に見えるか分かりますか?

  • いつ、空のどこで、どんな形の月が見えるか分かりますか?

  • 各季節で、明るい恒星(オリオン座や夏の大三角)を識別出来ますか?

  • プレセペ星団、干潟星雲、アンドロメダ銀河、オリオン大星雲(春夏秋冬の、北半球から見える人気の天体)を指し示すことができますか?

この4つの質問は、私の感覚ともマッチしています。全問クリアできなくとも、7〜8割答えられる程度まで、裸眼&双眼鏡で夜空に慣れ親しんでから天体望遠鏡を購入するのが賢明です。上手く使いこなせるようになれば、望遠鏡は双眼鏡では見えない天体や、同じ天体のより詳細な部分まで見せてくれます。

望遠鏡の選び方、使い方は本稿の範囲を超えますので、今回はこれ以上深入りしないことにします。

まとめ

このnoteでは、天体観測初心者が、望遠鏡より先に双眼鏡を買うべき理由をお伝えしました。双眼鏡は決して天体望遠鏡の下位互換ではなく、幅広く使える魅力的な光学機器です。1万円くらいから手に入れられて、邪魔にもなりませんので、興味のある方にはオススメします。

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