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知的生産のための山根式袋ファイル

山根式袋ファイル

 今でも本棚の一角に学生時代にシステムを構築した「山根式袋ファイル」が残っています。山根さんの本を読んで、すぐ構築してみたものです。
参考図書:【スーパー書斎の仕事術】山根一眞著/文春文庫

封筒の例と封筒にラインを引く自作した型

 このシステムの概要は、封筒に関連する資料を入れ、それを表すタイトルを付けます。その初めの3文字を封筒の上の方に書き、封筒をその文字で「あいうえお順」に並べるというもの。
 この時代は、インターネットはなく、主に保管するのは紙の資料です。例えば、これは「北海道 函館」の封筒の中を取り出したものですが、旅の予定表、現地の観光地図、写真、チケット、現地の博物館などで集めた資料が入っています。これらを一つの封筒に入れることで「規格化する」というアイディアが画期的だったわけです。 

「北海道 函館」の封筒の中身

 現在であれば、インターネットで上記のほとんどのデータを手に入れることができます。写真もデジカメになっているので、全部パソコン上で完結できるわけです。しかし、その当時は、インターネットはなく、これらは容易に手に入りませんでした。

B5統一で、角4封筒を使用する袋ファイル

 私の構築したシステムはB5統一で、角4封筒を使用していましたが、本家である山根式は、A4統一で、角2封筒(略して“カクニ”)を使用しています。
 これは、使用環境が異なるためで、山根氏はA4の入る事務用品を使用していたでしょうし、中古封筒はたくさんあったはずです。今でこそ書類はPDFが主流ですが、その当時は、書類は封筒で郵送されており、中古封筒は手に入りやすかった時代です。ただ、角2封筒を使用した場合、本箱によっては高さが足りず、封筒を少し切る必要がありました。
その当時、私は学生であり、中古封筒はほとんどありません。また、事務用品はなく、カラーボックスです。当時のカラーボックスは、B5を基準としており、A4は入らない仕様でした。現在のカラーボックスが、「A4対応」と謳っているのは、昔A4が入らなかったからです。山根式(本家)と私が構築したシステムを比較すると以下の表になります。

山根式袋ファイルと私が構築したシステムの比較

余談
カラーボックスのサイズは日本家屋に対応している
日本の家屋は1尺=180cmを基本にしています。それに合わせてカラーボックスは、15cmを基本にしています。カラーボックスが2段の場合、幅45cm弱×奥行き30 cm×高さ60 cm。3段の場合、幅、奥行きは変わりませんが、高さが90cmになります。「弱」と書いてあるのは、家具などの間に入るようにしているためで、正確にはそれより細くなります。高さが60cmで、2段ですから、60/2=30cmであり、A4タテ(29.7 cm)が入るように思えますが、実際は棚板に厚みがあるため、30 cmより小さくなり、A4タテが入らないのです。

「アクセス時間順ソート」への変更

 就職してからは、A4統一で角2封筒を使用するシステムに組み直しました。中古封筒はたやすく手に入りますし、文書ロッカーがあるので、角2封筒が入るように高さを調節できました。これで300点近くを管理していました。
 さらに、システムを組み直したときに、並べ方を「あいうえお順」でなく、「アクセス時間順ソート」に変更しました。これは、山根式袋ファイルから、野口式袋ファイル(ただし、一般的には、「押し出しファイリング」または「超整理法」と呼ばれています)に切り替えたことになります。これらは本質的に同じことが多く、移行に問題点はありませんでした。袋ファイルの本質は以下の様になります。

袋ファイルの本質

同じ大きさの封筒に入れて規格化
新聞の切り抜き、写真、パンフレットなどの大きさの異なる紙類の資料を整理するのに適する。
分類しない
体系的な分類を作らない。資料を入れた封筒をルールに従い並べるだけ。また、分類しないため封筒の位置が固定化されない。新しいテーマを追加する場合、封筒の位置は、山根式では、「あいうえお順」に加え、野口式では、一番端に加える。
ポケット一つの原則
資料は袋のどこかに入っているので、端から順に探せば、どこかで見つかるという安心感がある。

 これらに関しては、【「超」整理法―情報検索と発想の新システム】野口悠紀雄著/中公新書に詳しく書かれています。

「あいうえお順」と「アクセス時間順ソート」の違い

 山根式と野口式の違いは、封筒の並べ方です。山根式は、「あいうえお順」、野口式は「アクセス時間順ソート」となっています。「あいうえお順」は、説明不要と思います。「アクセス時間順ソート」の具体的なやり方は、袋ファイルを取り出して使用したら、もとの場所に返さず、端に置くという方法です。
 見出しを思い出せない場合、資料を探す平均的な時間について検討すると、山根式では、すべての封筒の見出しを探すことになります。一方、野口式では、使用した順に並んでいますので、封筒の以前取り出した時期を予想し、そのあたりから探すことになります。このため、この場合では野口式の方が、資料を探す平均的な時間が短いと考えられています。
 さらに、野口式では「アクセス時間順ソート」を行うことで、使用頻度の高い封筒が端に集まるという別の効果が生まれました。
感覚的には、「アクセス時間順ソート」では、封筒を元の位置に戻さないと整理できないのではないかと不安を感じます。しかし、実際に運用してみると問題はありませんでした。この不安こそが導入のハードルというべきでしょう。

袋ファイルを本棚で例えると

 袋ファイルは、資料を保管する固定化されたシステムを構築するのではなく、資料を見つけるための柔軟なシステムを構築することに主眼が置かれています。
 これを本棚にどの様に本を置くかという例え話で考えてみます。図書館では、内容によって、記号をつけ整理し、分類が固定化された不特定多数のための管理システムです。これに対し、袋ファイルは、分類を固定化しない個人的な管理システムです。山根式は、個人が所有する本を「あいうえお順」によって管理している本棚となります。一方、野口式は、個人が所有する本を買った順に並べて管理している本棚となります。さらに閲覧した本を端に移動するので、最近、読まれた本が端に集まっています。

袋ファイルを実際に運用してみた時の疑問点など

1)1枚の封筒に入りきれないときはどうするか?
 1枚の封筒に入りきれない場合は、別の封筒を使い、分けて次の封筒を作り、タイトルに1、2と加えるだけ。それでも足りなくなれば、3枚目を作成します。
 
2)1枚の資料でも封筒に入れるのか?
 集めたいと思ったテーマを決めてから封筒をつくるので、ほとんどの場合は複数枚の資料になります。

3)封筒の中身を組み替えることはあるのか?
 探すテーマがあれば、端から封筒を見ていき、関係のありそうな封筒をすべて取り出し、改めて詳しくみます。つまり、何かを探すときに関係ありそうな自分の手持ちの資料を簡単に全部集めることができるシステムです。このときに封筒の中身の入れ替えや、封筒自身の見出しが変わることもありえます。
 スクラップブックを用いて、資料を貼って整理すると、入れ替えができません。一つの資料について、仕事の内容が変化したり、見方が変化したりしても、別のテーマにスクラップしなおすことは困難です。しかし、この袋ファイルでは、資料を封筒に入れ替えるだけです。
 また、クリアファイル(複数の透明なポケットをとじた小冊子)に資料を差し込んでいく方法では、資料の入れ替えは可能ですが、実際に運用する場合、入れ替えは結構な手間がかかります。

4)見出しを思いだすのか?
 自分で選んだ言葉なので、かなりの確率で思い出せると思います。また、思い出せない場合は、すべての封筒のタイトルを見ることになりますが、システムを組んだ本箱等だけを探せば見つかるはずなので、精神的に楽です。

5)システムの管理の方法は?
 年に1回程度、封筒のタイトルをみて、必要でないと判断した場合は、封筒ごと破棄します。また、関係のありそうな封筒をすべて取り出し、使用する中で、封筒の中身を統合・分離・破棄することもあります。つまり、使用しながら管理する方法になります。

6)クリアホルダーで代わりにならないか?
 封筒の代わりにクリアホルダー(透明な素材でできた書類を指し込むファイル。差し込むところは1か所。クリアファイルとは異なる。)に資料を入れ、見出しを書き、袋ファイルの様に使用する方法も聞いています。ただ、資料の量が多い場合は、袋の方が資料を入れやすいと思います。

7)野口式「アクセス時間順ソート」で封筒を戻すのは、右か左か?
 私は右にしています。この場合、封筒の左にタイトルを付けます。左右は個人の環境でやりやすい方にします。具体的には、袋を入れる棚と作業する机の位置関係によります。

現在の知的生産システムは?

 現在、袋ファイルがあまり使われないのは、このシステムが大きさの異なる紙の資料の保存に適しているからです。現在は、保存ずべき資料のほとんどがPDFやJEGの形式で電子化され、パソコンの中に記録されています。そのため、袋ファイルの代わりに、PCの中で資料を検索するシステムの構築が必要です。例えばフォルダの階層の組み方とかデータの検索ソフトなどを構築することになります。個人的には以下の様な状態です。
エバーノート→なかなか使いこなせず。グーグルデスクトップ→現在はなし。探三郎→現役で使用中。

インターネットで調べた方が速い現在では?

 さらに、PC中の検索よりも、インターネットの検索の方が速い時代になってきました。例えば、PDF形式のマニュアルをPCの中に保存・記録し、必要なときに検索するよりも、インターネットで検索した方が速いのです。加えて、マニュアル以外の情報、例えば、使ってみたときのコツも表示されるので、インターネットから情報を得た方が良くなっています。
 以前、パソコンでのTIPSをパソコン情報誌等からコピーして、2穴ファイルに綴じていましたが、今はしていません。そのたびに、インターネットで調べた方が速い時代なのです。
 一方で、インターネットでの検索の問題点は、情報が正しいかどうか容易に区別ができない点にあります。引用文献であっても、正確に書き写したかどうかは不明です。袋ファイルであれば、書籍からコピーしているので、書き写しの点では問題ないでしょう。内容についても、書籍では編集者がいるので、ある程度の正確さは担保できます。
 また、「◯◯の写真」とインターネットに表示されていたとしても、本当に正しいかどうかはわかりません。袋ファイルでは、自分で撮影した写真、もしくは、人からもらった写真ですからその素性はわかっています。
 これらの点をどう考えるか、どの様な知的生産の方法があるかは手探りです。知的生産の方法について今回は、袋ファイルを振り返ってみました。現在のインターネットによる検索の問題点が浮き出てきたと思います。

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