Twitterで断片的に書いてきた、大怪獣のあとしまつの感想をまとめてみた

Twitterで断片的に書いてきた、大怪獣のあとしまつの感想をまとめてみた。

第一印象

悪評を聴いてたけど意外にちゃんと作られた映画だなというのが第一印象。
キスシーンの意味も伝わったし、ギャグや下ネタも「こんな上司、どこにでもいるよなぁ。。」と思い、さほど気になりませんでした。
いろんな作品のパロディや政治風刺にニヤリとする部分も多々あり、楽しめました。
回想シーンで雨音とユキノがギクシャクしてる理由もわかりましたし、雨音がアラタを快く思ってないのも伝わりました。
ダム作戦のプロジェクションマッピングや、最終作戦のミサイルランチャーも凄いと思いました。
ラストの変身シーンも影が分身するのは斬新で良かったです。
ただ、ラストのユキノのセリフ「ご武運を」には違和感を感じました。
「え?これで終わり??」と思ったのも事実です。

疑問

観終わって、この作品は何を伝えたかったんだろう?という疑問が残りました。
単にウルトラマンが変身して地球を救う話に、さほど意味があるとは思えません。既に他の作品で繰り返され、描きつくされています。
でも、松竹東映初の合作作品で、大金をかけて、わざわざそんな無意味は映画を作るだろうか?

最初に思ったのは、これはブラック企業の風刺ではないか?
現場がいくら有能で頑張っても、幹部が無能なら、結局無駄な努力に終わり、有能な社員は去っていく。

次に思い付いたのは、ウルトラマンは地球を救ったんじゃなくて、人類を見捨てて去っていったんじゃないか?
地球を守るはずのヒーローが、人類を裏切る話なんて、前代未聞です。
そう考えると確かに「誰も見たことがない」面白い作品です。

タイトル詐欺?

「大怪獣のあとしまつ」というタイトルですが、「希望」は劇中では一度も「大怪獣」とは呼ばれていません。もしかしたら劇中で「大怪獣」として描かれているのは、別のものかもしれません。
主人公アラタの仕事の足を引っ張る政府や、図面すり替えやミサイルで邪魔をする雨音正彦。あるいは人妻でありながらアラタを誘惑しようとするユキノ等が、ストーリー上の「大怪獣」に該当するのではないかと思いました。
もしかしたらアラタ自体が、ウルトラマンの姿をしているけれど、実はメフィラスのような外星人で、人間の姿に化けて地球侵略を狙っていて、雨音に阻止され証拠隠滅のために「希望」を宇宙に持ち去った可能性もあります。
「あとしまつ」がひらがななのも、「後死待つ」とのダブルミーニングの可能性もあります。
この作品は、単純な話に見えて、実は様々な解釈が可能な、奥の深い作品ではないかと思います。

予告編詐欺?

予告編から受けた印象は、シン・ゴジラのように有能な政府がてきぱきと死体処理をする物語でしたが、実際には政府は無能で頼りなく、処理は一向に進まず、結局失敗してウルトラマンに助けてもらいました。
でもその認識は正しいのか?検証してみたいと思います。

まず、「死体処理」に対する劇中と観客の認識のずれがあります。
観客は、死体を解体し、廃棄または再利用することを期待していたと思います。でも劇中では、死体は現状のまま保存し、観光資源として収益化し、復興財源に充てることを目指していました。
劇中では、保存の初期段階で障害になる「悪臭を放つ腐敗ガスの処理」しか行っていません。(ダム作戦で目指していたのも、海洋投棄ではなく、海水を薬液に置き換えて「ホルマリン漬け」による保存でした。)そして、雨音の妨害を受けて、ことごとく失敗してしまいました。

ラストでアラタが行ったのは、「保存」ではなく「廃棄」です。
本来は、職務放棄であり、人類に対する裏切り行為です。
ところが、キノコ菌糸の存在が明るみに出て、保存が難しいとわかった途端、政府は隣国同様手のひら返しで廃棄を望むようになり、アラタの裏切りと合致してしまったのは皮肉です。ただ政府は、貴重な復興財源を失ったことに、まだ気づいていません。
人類の未来は「あと」「し」「まつ」という、バッドエンド。

無能な政府?

政府は無能なのか?という点も検証してみたいと思います。
怪獣が10日前に突然死んで、緊張が解けた状態から映画が始まるので、緊迫感が無いのは当然だと思います。外部に公開されているわけではないので、口調はざっくばらんな感じで、本音で語り合える、風通しのいい内閣のような気がします。首相は頼りない印象ですが、締めるべきところはきちんと締めてます。
会話の内容も、理路整然と責任の所在や進むべき方向を決定しています。
「希望」のネーミングは国民の意向を先取りしていますし、環境大臣の失言に端を発した「ウンコゲロ問題」も、速やかに「銀杏のにおい」という落としどころを国民に示しています。
最終的にリークされてしまいましたが、「キノコの菌糸」についても、「国民の知らなくてもいい権利」を守るために、いたずらに不安を煽らないよう配慮していました。
一部の不法侵入者やマスコミを除いて、避難指示にも素直に従っていたので、多くの国民から信頼されていたと思います。
下ネタを含む意味不明なたとえ話で場を凍り付かせていた国防大臣も、裏で手を回して特務隊から指揮権を奪う実力の持ち主です。
この政府、実は有能なんじゃないかと思います。

時系列

雨音が執拗にアラタの邪魔をする理由もきちんと描かれていると思います。
その前に、時系列を整理すると、
3年前、アラタとユキノが婚約。
アラタ・ユキノ・雨音の3人が謎の光を追いかけ、アラタが失踪、ユキノの運転する車が事故を起こし雨音が片足を切断する大怪我を負う。
2年前、ユキノと雨音が結婚。
1年前、アラタが突然帰還。
その後、怪獣が出現。特務隊の存在が明るみに出て、国防軍も民間からの徴兵も行い、とともに怪獣退治行うが成果が上がらず。
10日前、怪獣が謎の光(変身したアラタ)により、突然死亡する。
物語冒頭、同窓会?でユキノがアラタと久しぶり(おそらく帰還時に一度会ったきり)に再会。
雨音がアラタを怪獣の死体処理の責任者に任命する。
以後、具体的な経過日数は不明。
特務隊が死体を調査。腐敗隆起が確認される。悪臭はあるが、人体に有害な物質は検出されず。
国防軍が指揮権を奪い、凍結作戦を実施。→氷が解けて失敗。腐敗隆起が膨らみ、爆発。
八見雲よりガス抜き方法の提案を受けるが採用されず。
ブルースの協力を得て、ダム爆破作戦を実施。→雨音の妨害(図面すり替え)により、十分な水量が得られず失敗。腐敗隆起の縮小にある程度の効果はあった。ブルースは瀕死。アラタは解任。
雨音主導で国防軍に協力させ、ミサイルにより八見雲作戦を実行。一方アラタはブルースの残したミサイルランチャーを使用し、単独で八見雲作戦を実行。ユキノに雨音の阻止を依頼。→雨音のミサイル2本は椚の狙撃により阻止。アラタは3本のミサイルランチャーを打ち込み排気に成功する。が、直後雨音の3本目のミサイルにより転落。
通常の人間なら死亡する高さだが、アラタは立ち上がり、追いかけてきたユキノの前で変身。「希望」を宇宙に持ち去った。
ユキノは飛び去るアラタに敬礼し、「ご武運を」。

雨音の行動原理

雨音は帰還したアラタの正体に疑問を抱いており、ユキノがアラタと会うことを快く思っていなかった。ユキノも雨音に配慮して、帰還後はほとんど会っていなかったと思われる。
冒頭の同窓会?は久しぶりの再会だが、雨音に対しては曖昧な返事をしている。
アラタの存在がこの夫婦に影を落としているのは、唐突で一方的なキスシーンでわかる。
雨音はアラタを監視下に置くために特務隊に復帰させ、死体処理の責任者に任命した。
ところがユキノは死体処理に積極的な環境大臣の秘書官であり、仕事上でアラタと接する機会が増えてきた。

何としてもユキノをアラタから引き離したい雨音は、ユキノに菌糸の存在を隠したデータを渡し、アラタには設計変更前のダムの図面を渡し、作戦を失敗に導いた。
それでも離れない2人であったが、アラタの正体を確信した雨音は、ユキノの目の前でアラタの正体を暴くことで、ユキノに諦めさせることができると考え、ミサイルによる八見雲作戦を実行する。そうすれば、必ずアラタも対抗手段に出てくると思ったからだ。

案の定、アラタは単独で八見雲作戦を実行するべく現れた。雨音はそれを阻止すべくアラタにミサイルを浴びせる。「選ばれし者」となったアラタは、ミサイル程度では死なないはずだ!
頭ではわかっていても、かつての同僚を攻撃する雨音の目には、一筋の涙が流れた。

雨音の思惑通り、アラタはユキノの目の前で変身し、怪獣の死体とともに宇宙に去っていった。さすがのユキノもこの現実を目にすれば、アラタがもう手の届かない存在になってしまったことに気付き、追いかけるのを諦めてくれるだろう。
こうして、ユキノを誘惑し雨音の家庭を存亡の危機に陥れた大怪獣アラタのあとしまつは完了した。
めでたしめでたし。(笑)

結論

個人的には、国の利益と家庭の維持を天秤にかけて、後者を優先した点が斬新で面白いと感じました。国防大臣の「国益のためには多少の犠牲はやむを得ない」とは真逆の考え方です。

映画というものは、空想世界の絵空事であっても、実生活に何らかのヒントを与えてくれるものだと思います。
大怪獣のあとしまつは、普段何も考えずに日々を過ごしている私に、様々なことを考える機会を与えてくれました、私にとって大切な映画のひとつです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?