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境界があるようでないような茶室

写真の『透明茶房』は原美術館で開催中の、『THE NATURE RULES 自然国家:Dreaming of Earth Project』のために製作された、李禹煥の作品です。

この展覧会は朝鮮戦争休戦後、65年余りの歳月を経て、停戦ラインの北緯38度線から南北2kmずつの帯状のエリア、「非武装地帯(DMZ/Demilitarized Zone)」に生まれた豊かな生態系を守り、生きとし生けるもの全ての共生を願って崔在銀(チェ ジェウン)が2014年に立ち上げた「Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト)」の構想を可視化する展覧会。題名となっている「自然国家」とは、人間ではなく自然が治める国、崔の理想とする国のことです。

このプロジェクトの実現は未定ですし、解説がないとちょっと難しく、展示室内の撮影も禁止のため、口コミやSNSで広がるのか勝手に心配している展覧会なのですが、今見ておくべきおすすめの展覧会なので、好きな作品3つをご紹介させてください。

1. 崔在銀(チェ ジェウン)「hetred melts like snow」
https://www.instagram.com/p/Bw3HcPJnKNf/?utm_source=ig_web_copy_link
南北を隔てた有刺鉄線を融かし、鉄板にした作品です。人が通れないためのものの上を、誰もが歩けるような鉄板にするなんて、アーティストの発想に感心してしまった作品。

2. スタジオ ムンバイ「Tazia」
「Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト)」には、坂茂による東西南北合わせ全長20kmにおよぶ空中庭園をつくる構想があります。それは、人を地雷から守り、自然を人間から守る「竹のパサージュ」からなり、その空中庭園に点在する12棟の東屋のうちの1つがスタジオ ムンバイのTaziaです。
作家の思いとは別にかなり見た目の話なのですが、竹と糸でできたシンプルな東屋は、外からみると鳥かごのようで、中にいる人(生命)がとても貴重なもののように感じられ、中に入ってみると、護られているような穏やかな気持ちになるので、ぜひ中に入ることができる時間帯に、この空間を体験していただきたいです。
彼女が中に入っているのをほれぼれ眺めている彼氏に遭遇すると、心の中で「見られてよかったね。」と呟いてしまいます。

美術手帖の展覧会レポートで一部部分だけ写真が見られます。
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/19659

3. 李禹煥「透明茶房」
はじめの写真の作品です。煎茶のお茶室は、開かれた自然を感じつつお茶を飲むのが理想。この茶房を見た時に、ぜひここで茶道だけではなくて、煎茶道のお茶会も開いていただきたいと思いました。
ただし、この展覧会では自然に還るような素材を使っている作品が多いのに対して、ステンレススチールの枠が自然とは完全には交われない人間を示しているようで、「わーい、お茶淹れたーい!」と気軽にいえる作品ではないような気もしています…。

この展覧会は、日曜日の学芸員によるギャラリーガイドに参加するのがとてもおすすめです(2:30 pmより、30分程度)。日程的に無理な方は、ぜひエントランスか1階奥のザ・ホールで観られる展覧会の解説ビデオを通しでご覧になってみてください。

アジアの歴史や社会情勢、生物の多様性に興味のある方は、ぜひ原美術館に足を運んでみてください。私も理解できたのか全く自信がないのですが、半分でも理解できた気持ちになれば「来てよかったー」と思うはずです。


The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project
会期:2019年4月13日[土]─7月28日[日]
https://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/exhibition/433/


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