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祝! 倉谷滋先生に朝日賞!!!

元旦早々、嬉しいニュースが飛び込んだ。古くからの研究者仲間である理化学研究所の倉谷滋先生が朝日賞受賞とのこと(画像は倉谷先生ではなくて、法学者の戒能民江先生)。

下記は業績の紹介ページ。

これまた友人かつ高校後輩である朝日新聞社の瀬川茂子さんが業績をまとめておられたので引用。

■新たな形獲得、進化プロセス迫る 理化学研究所主任研究員・倉谷滋さん(65)
ヒトの顔、カメの甲羅……。多様な動物の形は、卵から始まる発生の過程で形づくられる。遺伝情報のプログラムに従って器官のひな型が現れ、できかけの体(胚〈はい〉)が成長する仕組みをつぶさに探り、新しい形を獲得する進化のプロセスに迫ってきた。
 たとえば、脊椎(せきつい)動物の頭。祖先の鼻の穴は一つで丸い口、ヤツメウナギの仲間に似た顔だった。胚の中で鼻になる部分が二つに分かれると、その間の細胞から軟骨ができ、口の位置がずれ、あごを獲得し顔つきが変化してきたという。
 トリの胚との比較で、カメの甲羅は肋骨(ろっこつ)からできたと突き止めた。
 伝統的な形態学に没頭していた学生時代、体の形づくりに決定的な役割を果たす遺伝子の発見を知る。見つかるまで2世紀かかると思っていたが、時代の変化を衝撃とともに受け止めた。
 遺伝子や細胞の技術を身につけ、進化、発生、形態を結びつける「進化発生学」という新分野に飛びこんだ。
 形の進化は、科学の歴史に名を残す人たちの長年の問いだ。
 実験の傍ら、古い文献を何度も読みこみ時代背景や考え方を分析してきた。「科学の発見と同じようにぞくぞくする」(瀬川茂子

上記の朝日デジタルサイトより

1990年代、遺伝子発現を空間的に明らかにする技術や、遺伝子機能を人為的に改変したマウスが作れるようになり、発生生物学に「ボティプラン」という概念が持ち込まれた。種を超えた遺伝プログラムの共通性に興味が集中して、当時、進化について、化石や動物の成体の比較からだけでなく、生きた発生途中の胚から推測するという手法を提唱して、さらに部分的ではあり、進化そのものを"証明”することは理論的に困難であるものの、ニワトリ胚などを用いて"実験的に"証明してみせたのが倉谷さんだった。

その頃、顔を作る細胞として哺乳類の「神経堤細胞(しんけいていさいぼう)」に関する研究を行っていた私は、倉谷さんにお声がけいただき、1996年に共著として『神経堤細胞―脊椎動物のボディプランを支えるもの (UP BIOLOGY)』という書籍を東大出版会より刊行させていただいた(現在は絶版、というかUP BIOLOGY自体のシリーズが本書を最後に中止)。

当時、倉谷さんは本記事のサムネイル画像にした書籍『動物進化形態学』(オリジナルは2004年刊行、その後2017年に改訂版出版、東大出版会)の草稿をまとめた分厚いファイル(確か、紐で閉じてあった)を送ってこられて、あぁ、この人は「学者」なんだなと感じたことを思い出す。「研究者」は、"インパクト"のある論文を出すことに血道を上げるのかもしれないが、(もちろん倉谷先生もカメの肋骨の論文など、"ブランドジャーナル”の論文もお持ちだが)、論文や総説の枠には収まりきらない知の体系を書き表すことができる「学者」は、世界を見渡しても決して多くはない。

新版はさらにページ数が増加。超絶鈍器本。

最新の書籍は、『分節幻想――動物のボディプランの起源をめぐる科学思想史』(2016年、工作舎)と対をなす『反復幻想—進化と発生とゲノムの階層性』。ちょうど1年余前に刊行され、これまた600ページ超えの超大作。工作舎さんも度胸がある。

この他、実は倉谷さんは大のゴジラファンでもあり、真面目な考察をした書籍や論考も出しておられ、進化発生学研究の専門家以外にも倉谷さんのことを知る方は多い。

蝶のコレクションもされていて、しばらく前には、美術ライターの橋本麻里さんとのこんなコラボの記事もあった。

たくさん売れる本だけが素晴らしい訳ではない。知の体系を積み上げるのには、多様なパーツが必須である。そしてオリジナリティも大切。この際、一言希望を言わせていただければ、電子書籍も出していただけると有り難いのだけど……。

最後に、昨年7月末に仙台で開催された日本発生生物学会の折に撮ったツーショットを載せておきます。おめでとうございました!!!

仙台国際センターにて倉谷さんと

※この記事を書いている間に、能登半島を震源とする大地震のニュースが飛び込んできて、お正月気分は一気に吹き飛びました。被災された方々の無事と回復を祈ります。

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