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希望にくべる

ぼんやり見ていたドキュメンタリーバラエティ番組で、内戦下の2014年、シリアで地下に秘密図書館を作った若者達の実話が紹介された。

気づくと、ボロッと涙がこぼれている。
そして、止まらなくなっている。
落ちる涙の理由を上手く説明できないし、わたしは正義感が強いタイプでもない。

それでも、同じ地球上に爆弾が落とされている現実に、当たり前に胸が痛む。
失われる必要のない命が人の手によって奪われていくさまに、悔しさも感じる。

ただ、この時のわたしの涙は、そうした極限の時にあって本を求める人たちのその感情を想像してのものだった。
思い出すのは2011年3月のこと。

当時会社員だったわたしは、あの震災の後、自分の仕事について思い悩んだ。
毛布でもない、食料でもない。本は、人の何の役に立っているのか。
生きるか死ぬかの事態で、本など何になるのか。
そう考えると、震災後、何度も仕事の手が止まった。

センジュ出版は、この震災と、翌年の息子の誕生とが大きなきっかけとなって生まれている。
本など何になるのか、の問いに、自分なりの答えを出すために。
息子が大人になった頃に、この世界が今より少しだけでも、心地よいものになっているように。

この問いに答えることは難しい。
自分が死んで初めて何かのカケラを見つけるほどの、壮大な問い。
途方もない道をとぼとぼと歩く自分に、
秘密図書館を作った彼らから、声をかけられた気がした。

「本は、希望じゃないか。君だってそう知ってるんだろう?」


降るほどの星の下で感嘆の声を上げる夜。
爆弾が降る空に恐怖の声を上げる朝。


わたしができることは、ただ、本を作ること。
もうどこにも爆弾が降らない朝のために、
本を信じること。
あなたと対話すること。
あなたの声を聞くこと。

消えてしまいそうな小さな光ながら、
この日の涙を希望にくべて、
これまでも、これからも。

#今日の (正確に言うと昨日の)一冊
#シリアの秘密図書館
#デルフィーヌミヌーイ
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