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詩|とある曇りの日

今日も天気はくもり
空はもう何日も見ていない
汗を吸った布団
クリーニングに行かなきゃ
お気に入りの動画も頭に入らない

忘れていく記憶
遠のいていく風船
薄れていく指の感触
そして迫りくる壁
感じる命の消費期限
だけど歩を早めたりしない
走る気力がない
だから立ち止まってみる
つかの間すり抜けていく風
体の芯は微動だにしない
誰も連れ去ってくれない
ただの勘違いだった
壁なんてどこにもない
目指す場所がない
立ち尽くした凪の夕暮れ
仕事に、行かなきゃ

積み木が崩れ落ちるのが怖い
だから自ら壊した
せめて怖がりたい
立ち向かえる課題
そうやって掘り起こした穴
焦土と化した街
乾パンだけはある
生きてはいける焼け野原
ボーリング場だってある
水族館だってある
でも全部焼け切ってしまった
果てのないモノクロ世界
泣き叫ぶ子どももいない
君と呼べる人もいない
最初で最後の生き残り

波止場を行き交う船
力がないと後を追えない
だから別れ際に手を振った
視力が悪くてよく見えない
想像力の欠如
全部自分が悪い
ぶつけようのない不安
隣には誰かいる
それでも埋まらない不安
喉の奥に蓋をする
涙の道に蓋をする
今日も天気はくもり

左の山には鳥が舞っている
手持ちの図鑑を広げる
名前を目に焼き付ける
本当は心に刻みたい
けれど長いこと見ていない
ぱたっと図鑑を閉じる
覚えた名前はもう忘れている
鳥たちは一向に鳴いてくれない

右の公園で子どもたちが遊んでいる
仲間には入れてもらえない
ぶらんこはもう楽しめない
その指に止まれない
薄れていく思い出
小さなころの夢
偉人になれると思っていた
それとはかけ離れたゴミの山

背後から忍び寄る足音
早く連れ去ってほしい
だから振り返らない
六文銭すら手にできない
医者は信じられない
何気ない散歩の途中
横断歩道に寝そべっている
誰かに連れて行って欲しい
嵐の前の静けさ
聞こえる遠くの地響き
ふたつの光が横目を照らす
一瞬命に火花が散る

はっと我に返る
椅子に座っている
純白の小一時間
仕事に行かなきゃ
玄関のドアを開ける
いつの間にか道路はしっとり濡れている
なまくらも青く光れるだろうか
重い湿気がピリリと辛い秋の入り初め


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