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10軒目:オオゼキ下北沢店

下北沢駅東口を出ると、工事中の駅前広場の右向こうに見えるのが、ブラックがメインのシックでポップな建物。階を貫く大きな窓に「OZEKI」の看板が掲げられていることで、そこがスーパーマーケットであることがわかる。2020年3月に改装された、オオゼキ下北沢店である。

ほうぼうから老若男女が集まる街であり、乗り換え駅であり、古くからの住宅街でもある下北沢にはいくつかのスーパーがあるが、ここオオゼキは1日中買い物客でごった返す、すっかり地元に根付いた“シモキタの台所”。夕方から夜にかけては、付近の飲食店から足りなくなった食材を買いに走るスタッフの姿を見かけることもある。

オオゼキ自体は東京を中心に1都2県で41店舗を展開するチェーン店だが、特に「シモキタのオオゼキ」には熱いファンが多く、SNS上でその熱い愛が語られたり、メディアで特集されたり、小説に登場したことも。そんなお店を取り仕切る店長、小野塚喜次さんと広報担当の内田信也さんにお話を伺った。

広報担当の内田信也さん(左)と、下北沢店店長の小野塚喜次さん(右)

”個店主義”だからできる、この街ならではのカオスな品揃え

「以前は板橋区のときわ台店にいたのですが、あちらはお客さんの年齢層が比較的高めで、落ち着いた雰囲気でした。対して下北沢店はまず1日の来客数が平均5~6千人と全店舗の中でトップ。主婦層はもちろん若い方も多く、客層としては相当カオスですし、その分1日中活気に満ち溢れています。異動してきた当初は、店が放つパワーの大きさを率直に感じましたね」(小野塚さん)

客層がカオスだと品揃えもカオスになるのは必然。定番商品に加え、夥しい種類を誇る野菜や果物、特価品から高級品まで幅広く手に入る肉類に魚類、グロッサリーの棚にはデパ地下にも引けを取らない数多くのローカル調味料が並び、人気寿司店〈寿司の美登利〉の出張店舗も展開。オオゼキでおいしそうな総菜とお酒を購入し、すぐ向かいのヴィレッジヴァンガードで買った店員イチオシのマンガを読みふけりながら夜を過ごす。そんな楽しみ方ができるのは下北沢ならではだ。

「オオゼキはチェーン店ではありますが、基本的に運営は各店舗に委ねる“地域密着主義・個店主義”を経営理念に掲げています。だからお店によって品揃えが異なるんです。特に下北沢店はお客様に料理人の方も多く、皆さん期待を持ってご来店頂いているため、普通の品揃えではご満足いただけない。そこでこんな店構えになりました」(内田さん)

めんつゆだけでも何種類、みりんだけでも何種類、と数えたくなる調味料売り場。

「青果や鮮魚の仕入れ担当は毎朝市場で買い付けしていて、その日に仕入れた物をすぐさま並べる。だから必ず目新しいものが見つかるし、“今日は何があるかな?”とお店に通うのが楽しくなるような品揃えにしています。

特に青果類については、お客さんから“あの野菜を置いてほしい”という声が多いためかなり力を入れていて、2021年の改装の際も売り場を拡充し、他店舗にない物も並べるようにしています。通常なら1つの野菜を3列程度並べるところ、あえて1列にしてその分多くの種類を並べることも。市場っぽい雰囲気が出てワクワクしますし、実際に多くの種類を並べてもそれぞれちゃんと買ってくれるお客さんがいるんですよ。

飲食店さんでも、チェーン店だと直接市場に食材を買いに行かれると思いますが、下北沢の飲み屋さんのように小さな店舗だとそこまで大量には買われませんよね? ありがたいことに、そうしたお店の皆さんがオオゼキを冷蔵庫代わりに使って頂いている部分はあると思うし、そこに答えられるのは下北沢店の強みでもあるんです」(小野塚さん)

お客さんとの信頼関係が、新しいお店の”売り”を育てる

店舗ごとの裁量が大きく、顧客の小さな声にも素早く対応できるため、「とりあえず少し仕入れてみよう」と並べられる商品はかなり多い、と小野塚店長。そこから定番商品に昇格するケースもあるのだとか。

「私たち店員としても、ただ物を売るだけではなく、下北沢店だからこれが売れる、といった感じで、新しい商品を自分たちで見つけ、売れ筋に育んでいけるのは喜びのひとつなんです。最近で言うとトリュフ入りのドレッシングがそんな商品になってくれました。

あと、オオゼキはどのスタッフに問い合わせても疑問に即座に答えてくれたり、正直におすすめ商品を教えてくれる。そんなスタイルを目指しているので、お客さんとの信頼関係が作りやすいのも支持されている理由でしょうね。これらのことは、店舗スタッフの正社員比率が6~7割と、他のスーパーと比べてかなり高いのも大きいと思うんです」(小野塚さん)

もうひとつ、下北沢のオオゼキが熱く支持されるのは、100円ごとに1ポイントが貯まり、次の買い物で使えるのはもちろん、月1回の換金日に100ポイントごとに現金100円と交換できる現金キャッシュバックカードや、ワイン500円セールといった魅力的なセールイベントの存在だろう。

「月1回の換金日は普段以上に活気に溢れますね。特に12月はずっと貯めていただいたポイントを換金される方が多くて、それで年末年始用に高価なマグロを買われたり、中には“孫のお年玉用に換金するんだ”という方もいらっしゃいます」(小野塚さん)

回遊性の高まった街で、引き続きお客さんと”密”なコミュニケーションを

すっかり街のランドマーク的存在となり、階上には本社事務所も置かれるほどオオゼキの中でも象徴的な存在となっている下北沢店。しかしオープンは2005年12月と意外にもそこまで前ではない。ここには元々銀行があったこと、そして店のすぐ横を走っていた小田急線の線路に開かずの踏切があったことをセットで覚えている人も多いはずだ。

「開店当初は昔からある他のスーパーの勢力が強く、売り上げ的にはかなり苦戦したようです。何より当時は踏切で街が南北に分断されており、特に来客数が見込める夕方の時間帯に電車の本数が多いことから踏切の開いている時間が極めて短く、なかなか北口側のお客さんにご来店頂けない状況が続いていました。

現在のように1日中混雑するようになったのは、2013年の小田急線の地下化で踏切が撤去され、街の回遊性が増してからと、既存のスーパーのひとつが建て替えのために一時閉店してから。そんな実感がありますね」(内田さん)

オオゼキが“喜客”と表現する「とにかくお客さんに喜んでもらおう」という姿勢も大きい。

「昔の話ですが、雨が降ってくると店の前に並んでいるお客さんの自転車のサドルひとつひとつにビニール袋を被せて、買い物帰りにせめてお尻が濡れないよう配慮していたことがあったそうなんです。

そういう精神は今のオオゼキにも息づいていて、小さなお子さん連れの方がいたら清算後の袋詰めをお手伝いするといったことは普通にやっていますし、お客さんとの密なコミュニケーションは特に重視している部分。一人一人が求めているものや声に真摯に耳を傾けていきたいという思いは、これからも変わらないと思います」(小野塚さん)

昨今、SNSを通じてお店が熱い支持を得ていることには「ありがたい話です」と口を揃える2人。食の街でもある下北沢で、今後オオゼキの存在感はますます大きくなっていくに違いない。


小野塚喜次さん(写真左)

オオゼキ下北沢店店長。2020年2月より現職。「僕自身はサブカルチャーに詳しくないのですが(笑)、これからも皆さんの声に耳を傾け、下北沢の皆さんに愛されるお店にしていきたいと考えています」

内田信也さん(写真右)

コミュニケーション統括本部部長。広報部門を担当する。「小野塚店長はマイクを使っての商品アピールが得意。下北沢の皆さん、これからもどうぞよろしくお願いいたします」

【オオゼキ下北沢店】
東京都世田谷区北沢2-9-5
TEL 03-6407-2551
営業時間 10:00~21:00 
www.ozeki-net.co.jp


写真/石原敦志 取材・文/黒田創 編集/木村俊介(散歩社)


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