その銭湯に行った気持ちになってほしい。『銭湯図解』ができるまで。

こんにちは、高円寺の銭湯・小杉湯の番頭イラストレーターの塩谷歩波(@enyahonami)です。

「銭湯図解ってどうやって描いているのですか?」

銭湯図解について、一番よく聞かれるのがこの質問です。そこで、今回は私の大好きな鶯谷の萩の湯の銭湯図解を例に、「銭湯図解のできるまで」を紹介したいと思います。

銭湯図解の制作は大まかに取材、下書き、ペン入れ、着彩の4工程に分かれます。各工程の所要時間はこれぐらいです。

(1)取材 2.5時間
(2)下書き 10時間
(3)ペン入れ 3時間
(4)着彩 6時間

これに着彩後の文字入れも含めるとだいたい24時間。銭湯図解1枚を描くのに丸一日かかる計算ですが、仕事の合間や番台の最中に少しずつ進めているので、実際は2週間以上かかってしまいます。

(1)取材

取材は開店の1~2時間前に伺います。開店前に測量、写真撮影、動画撮影を行い、開店後にインタビューをするのが基本的な流れです。

△測量セット(レーザー測定器、メジャー、ノート)

銭湯の図面の写しをいただけることもありますが、たいていの場合は3Mメジャー(左下)とレーザー測定器(左上)で測量します。レーザー測定器はレーザーを照射するだけで20mまで測ることができる超優れモノ。浴槽の高さやタイルの幅などの小物類はメジャー、浴室の高さや全体の奥行きなどはレーザー測定器を使います。測量結果はノートの中に簡単にメモ。このメモを細かく書かないと後で苦労することに……。

△レーザーで測量中

△どの銭湯も浴槽の高さはだいたい42cm

写真はできるだけ多く撮ります。一軒あたり300枚ぐらいですが、興奮して700枚撮ってしまうこともあります。「萩の湯」の場合は、5月中旬のリニューアルオープンセレモニーと、ねとらぼでの記事の撮影で2回撮影に行きました。

△男湯浴室

△女湯炭酸泉

△外観

△浴槽上から撮影することも多いので、足首でカットしたタイツをよく履いてます

測量、撮影後はご主人にインタビュー。銭湯の歴史やご主人の銭湯への思いを伺います。たくさんの銭湯でお話を聞いてきましたが、今までで一番濃厚な取材だったのは、銭湯マニアが恋する銭湯・三重県の「一乃湯」さんです。たっぷりとインタビューさせていただいた後に夕飯もご一緒させていただき、さらに翌日には車で伊賀と伊勢神宮の案内もしてくださいました。

△案内してくださった一乃湯ご主人、中森さん

(2)下書き

△下書きセット(ルーズリーフ、シャープペンシル、練り消し、三角スケール、五寸法師、勾配定規)

図面、測量結果を元に下書きを始めます。紙は普通のA4ルーズリーフやコピー紙。萩の湯を描いた時は消しカスが出ない練り消しと、0.9mm・2Bのシャープペンシルを使っていましたが、トレースする時に線が少し見えにくかったので、最近では4色のフリクションを使っています。

実は、銭湯図解は全部縮尺を決めて描いています。例えば、萩の湯は1/90。女性の身長は165cm、男性は175cm前後で揃えています。縮尺をちゃんと合わせて正確に描くところが一番燃えるポイントなので、極力リアルに作っていきます。

正確な縮尺を描くのに大助かりするのが三角スケール(中央の白い棒)。1/30、1/50、1/100などの縮尺に分かれた定規です。そして直線を描くのに便利なのが、好きな角度に設定できる勾配定規(右下の三角定規)と、垂直の線が引きやすい五寸法師(右上のL字定規)。下書きは定規で直線をどんどん引いていきます。

描き始めてから4〜5時間後。右下に寸法のメモがあります。これは新宿のスーパー銭湯「テルマー湯」で作業中の時の写真。休日に一気に進めたいけれどもお風呂でゆっくりしたいという欲求からスーパー銭湯に朝からこもって、お風呂→図解作業→お風呂→図解作業というように過ごしています。

施設が広く色々な設備があるので、萩の湯図解はいつもよりも時間がかかりました。仕事の合間や番台にいる間、さらには高円寺阿波踊り観覧の場所取り中などにも書き進めます。

(3)ペン入れ

△ペン入れセット(水彩紙、耐水性ペン、トレース台)

次の工程はペン入れ。ちょっと手間はかかるけど、水彩紙に耐水ペンでトレースしていきます。写真の白い台はLEDのトレース台。パネル全体が光り、その光でトレースすることができます。

△水彩紙の下に下書きを置いて(イラストは湯どんぶり栄湯)

△重ねるとぼんやり下の絵が見えます。

水彩紙はぶ厚いのでちょっと見にくいですが、背面に敷かれた下書きを確認しつつ、せっせと進めていきます。以前は水彩紙に直で下書きをしていましたが、消しゴムを何度もかけて紙が痛んでしまうので、途中からトレース台でペン入れをするようにしました。

△水彩紙に直接下書きをして色を塗っていた頃の銭湯図解

△トレース台でペン入れ後に水彩を始めた頃の銭湯図解

紙が痛まないので、トレース台で仕上げた方が鮮明な色味を表現できます。

下書きの時は大まかな形しか取らないので、ペン入れの段階で細かいタイルや人の表情を描き加えていきます。細かく描き加えれば描き加えるほど、どんどん絵がリアリティを帯びていくので興奮を覚えます。

△トレース台は電源が必要になるので、大抵自宅で作業を進めます。

△自宅。アニメを見ながらダラダラ作業するのがお気に入り。

△完成!出来上がりはいつも達成感でいっぱいです。

(4)着彩

△水彩セット(透明水彩絵の具、絵筆、パレット)

最後は着彩作業! 色が鮮やかに出るのでウィンザー&ニュートンの絵の具をいつも使っています。水彩は淡さや滲みを作るのが得意なので、お湯の表現にはうってつけです。

水彩の前には紙がデコボコにならないように、水貼り(水彩紙に水を染み込ませた状態で木パネルなどに固定すること)を行います。どういう訳か水貼りでたいてい失敗するので、原画を見ると端のところが破けていたりします。

番台中や仕事の合間にちょっとずつ色を乗せていきます。番台中に作業をしていると、常連のおばあちゃんからよく美味しいものを貰います。この日はミルクキャラメル。

タイルの色一つひとつにこだわって色を再現していくのが楽しいです。あとは影を描くところ。影や、細かい部分まで色を乗せることでリアリティが生まれる。“そこに実在するように感じる”絵を描く瞬間が楽しくてしょうがないです。

△番台での作業中。絵を見て話しかけてくれる人も多くて嬉しいです。

着彩が終わると、スキャナーで取り込みます。ゴミ取りや若干の色身の調整をして、別の紙に書いた文字を重ねます。

△着彩まで終了。あと一息です。

そして、文字を重ねれば、完成!

萩の湯は特に描く部分が多かったので描き始めてから3週間はかかりました。

銭湯図解は、昔の自分のように頑張りすぎている人に、銭湯という場所があることを伝えたい、という思いで描いています。細かいし手間もかかる作業ではありますが、よりリアルさを求めることで“そこに行った気持ちになれる”ように感じて欲しい、と思っています。

なお、私のツイッターでも、銭湯図解の作業風景を載せているので、見ていただければ嬉しいです。


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銭湯図解日記

『銭湯図解』の著書化決定(2019年2月の出版予定)!! 出版にむけて、取材・制作・考えていること等をお届けします。
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