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いかなる花の咲くやらん 第1章第2話 プロローグ 七夕の白昼夢②            



「そうだね。間違えたらどうしようって、怖い気もするけど、大丈夫、楽しもう。」
「そう、怖いと思えば怖い。楽しいと思えば楽しい。」
「永遠ちゃんって、おとなしそうだけど、へんに度胸が据わっているよね。頼りにしてます。ウフフ。さあ、出発だね。」
緊張はしていたが、いつも踊りの音楽が流れ始めると、体が勝手に動いていく。永遠はこの時の体とともに心も踊る感覚が大好きだ。
「あー、緊張するー」
友だちの和香は何やらきょろきょろとしている。
「どうしたの?和香ちゃん」
「んー、あっ、これで良いや」
「?」
「もう一個、同じような石ない?」
「石?これは?」
ベンチの上にあった、おはぎのような黒い石を永遠は、和香に渡した。
「あっ、良いね。何処にあった?」
「ベンチにあったよ」
「おかしいなあ。さっき見た時は無かったけどなあ。まあ、良いか」
和香は二つの石を火打石のようにカチカチと合わせた。
「時代劇でやっていた。これから何かをするときにうまくいきますようにって、こうするんだって」
もう一度和香が、カチカチと石を合わせた。「しゅっぱーつ」

先頭が動き始める。踊りが始まった。その時、大きな風が吹いた。ざわざわと竹飾りが揺れる。永遠は少しくらくらとして、町も仲間も薄れていく感じがした。
ぶんぶんと頭を振って、しっかりしなきゃと踊り続けた。気が付くと、そこはいつもの商店街ではなかった。どこか田舎の村のお祭り広場のようだった。
「えっ、何?」
村の人々が突然お祭り広場の舞台に現れた娘の、今まで見たこともないような、激しい踊りとその美しさに見とれていた。
その村人の中にとても目を引く青年と永遠の目が合った。
(どこかで会ったような気がする。遠い昔)
和香の声がして、我に返った。
「永遠、永遠、楽しかったね」
「えっ?」
「終わっちゃたね。喉乾いた」
気が付けば、パレードのゴールに仲間とともに立っていた。
「あー、なんか一瞬意識飛んだような気がした。急に田舎のお祭り広場にいたの。そこにすごい素敵な男の人がいて、こっちを見ていた」
「なにー、それ。永遠、危ない。熱中症じゃない。早く、なんか飲もう」

(何だったんだろう。前にもこんなことがあった。
幼い時、日舞の発表会の後で、曽我の梅林に家族で寄ったときのことだ。)

次回 第1章第2話 プロローグ 七夕の白昼夢 ③ に続く


よさこいイメージ(この写真は疾風乱舞様ではありません)


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