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【2017年、いますぐ棚で埃を被っているsnoozerを暖炉に焚べ、BGMzineを手に取らなければならない理由】

#BGMzine issue3 ……断言する。マチズモの申し子たる俺的に言えば、これは2017年におけるsnoozerであり、甲本ヒロトであり、ドリフターズだ。……と、いきなり荒唐無稽なことを言ってみる。しかも別の物に例えるって最低。まず、何がsnoozerなんだ、死ね、という罵声を煙に巻くために、zineの表紙をめくり、冒頭にひっそりとある、しかしながら圧倒的に力強いマニフェストを少し紹介しよう。

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I'm a magazine for shy girls by shy girls.

私が支持したいのは、いつだってシャイガール。それは私自身でもある。

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貴女に伝えたいこと、共有したいこと、たくさんある。

貴女の内なる魅力を、I know. それらを引き出すために私は作り続けます。

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もうこれだけで最高。外見のスタイリッシュさを追い求めることだけに目が眩んで、魂の抜けた仕事をしている馬鹿野郎にも、そうでない人にも、声に出して100万回は読んでほしい宣言だ。

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かつて、タナソウこと田中宗一郎(※著名人枠のため敬称略)が作り続けた音楽雑誌『snoozer』はいつでも最高だった。その理由は、創刊から一貫して、表紙題字の真下に据えられていたマニフェスト≪MAGAZINE FOR GIRLS & BOYS TANGLED UP IN BLUE≫に示されている――そう、全てのブルーにこんがらがったベッドにいるGIRS & BOYSのために”僕”=田中宗一郎は作り続けていたということだ。snoozerを介して、その”僕”の言葉は、いつだってこんがらがったブルーのベッドルームに呼びかけていた。

甲本ヒロトはどうだろうか。彼の活動を語る上で、彼が「ドリフターズを目指している」という話を無視することはできない。(と言いつつ、このエピソードは眉唾だけど) なぜドリフターズかと言うと、彼らのライブのオーディエンスが常にKIDSであったということだ。そのKIDSが大人になって彼らの前から去って行っても、彼らは常に目の前にいる今のKIDSに向けてやり続けていた。

しかし、それら旧媒体(思い切って"旧媒体"と切り捨ててしまおう) には、致命的な欠点があることも指摘しなければいけない。それは、for Girls & Boys ”by オッサン”――ものすごく乱暴に言うと、オッサンの老婆心とお節介だということだ。こう言うと、オッサンの何が悪い、甲本ヒロトはオッサンじゃねえ、という声が聞こえてきそうだが、それにはひとこと「うるせえ」とだけ言っておく。

話が逸れたが、BGMzineが旧媒体の歴史的意志を受け継ぎつつも、それらを超越しているのは、≪Not only ”FOR” but also ”BY”≫であること――つまりシャイガールである”貴女”に対して、同じシャイガールである”私”が呼びかけているからだ。というわけで、これはsnoozerだね、とか、甲本ヒロトやドリフターズだね、とかいう指摘は全くもって見当外れ。誰が何と言おうと、She/her is BGMzineなのだ。

(強いて言うならばSEALDsが近いよね……と、また余計な例え)

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くだらない事ばかり言っているけど、気にせずページをめくっていこう。

すべてのシャイガール、つまり”私”が生きていく上で、悩みは尽きない。「観たいけど映画って何を観たらいいの?」「クラブに興味はあるんだけど……」 そこでこんなことを言う奴がいる――何でもいいんだよ、とか、気になるものを、とか。……控えめに言って、馬鹿野郎! 筋金入りのシャイガールたる”私”の人生を、そんな無責任な言葉で浪費させようとしないで。「何でもいい」なんて言葉、控えめに言って、 ゴミ。怠慢と切り捨てざるをえない。”私”が観たり聴いたりするものは絶対的に正しいものでなければならない のだ。そんな”私”にとってBGMzineは、色々と教えてくれる、シャイな質問にもいちいち答えてくれる、最高にクールな友達だ。BGMzineという名のシャイな”私”が、シャイな”私”に必死に語り掛けてくる。だから、BGMzineは、”This is…”ではなく、”I am a magazine”なのだ。


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楽しいおしゃべりのシーンから舞台が暗転、カメラは徐々に”私”の内面に潜り込んでいく――Interview FOCUS ON SAKURA。LGBTQ-セクシュアル・マイノリティ-特集だが、いわゆる「知識」が羅列されているわけではない。テーマはBGMに一貫してある「”私”が”私らしく”生きるために」。ここで注目したいのが、対話形式のインタビューの文字起こしではなくて、SAKURAさんの話をひとことも聞きもらすまいと必死に耳を傾けた”私”が、”私の言葉で語りなおしている”こと。SAKURAさんの声に”私”の声を重ねる……ともすれば大惨事になってしまう手法。だが、その境界線の曖昧さによって、≪憧れの”私”の声が、シャイな”私”自身の声に徐々になりつつある過程≫が、≪その言葉で、シャイな”私”が一歩踏み出したいという意志≫が、見事に表現されている。

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”私”が”私らしく”生きていくには、政治の問題も避けて通れない。私だって言いたい、「政治を持ち込むな」って。だって、”私”の”私らしい”生き方を縛り付けようとしているのが政治だから。……なんてことは言っていないが、「BGMでフェミニズムについて取り上げるのは必須だと思った」と、ここでも”私”が、”私の言葉”で、今の社会への真っすぐな思いを語っている。「所詮20代」「青い情熱」と侮るなかれ、”私”の思いを裏付けている、”私の言葉”を補足するために紹介している、フェミニスト&本がどれも最高にクール。そして、最後に「GIRLS be ambitious」と、ここでまたシャイな”私”をチアアップしている。

(フェミニズムに関して、今年の国際女性デーの日の小島慶子さんのエッセイがとても良かったのでリンクを貼っておきます→ https://news.yahoo.co.jp/byline/kojimakeiko/20170308-00068469/)

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とにかく一度手に取って読んでみてほしいが、最後に改めて、BGMzineが最強たる所以をMusic Voiceに掲載された柳樂光隆さん(最新型のジャズをまとめたムック本が『Jazz The New Chapter(JTNC)』を監修した音楽評論家)のインタビューを引用しつつ、まとめたい。

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(『JTNC』を作って、) 一番良かったのは新しい物を売りたいけど、どうすれば良いか、本当に推して良いのかわからなかった売り場の方の後ろ盾になれた事ではないですかね。CDショップのスタッフから「売りやすくなった」という反応が多かったです。

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元レコード屋なのでわかるんですけど。メディアが何かを仕掛けた時にそれで物が動く、って感動的な事なんですよ。そういう事がやりたいというのが凄くあって。自分の名前で本を1冊書くという事よりも、何かが動くきっかけになる事をこれからもやりたいですね。

http://www.musicvoice.jp/news/20170507063409/

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ひとつは、シャイガールの後ろ盾であろうとしていること。

ひとつは、”私”=世界と、”私”という個が集まった世界が動く=カルチャーのきっかけになる事をやろうとしていること。

そして、誰かに言わされているのではなく、”私”が”私の言葉”で発信していること。


さあ、今は2017年。クソ重いsnoozerなんか、ベッドルームの片隅に放り投げてしまえ。”私”たちにはBGMzineがある。カバンに入れて、街に出よう。GIRLS be ambitious!

https://www.youtube.com/watch?v=9kPQiAJv4fo

(……と言いつつ、いまだに夜な夜な部屋でネットしながら、駿河屋やAMAZONで未所持のsnoozerのバックナンバーを見つけてはポチポチしている俺はダメ)

BGMzine販売サイト→ https://silentmidnightuk.stores.jp/

……いよいよ購入というところで890円+送料140円か……とクリックの手が止まった人もいるかもしれない。一般的に考えて、このヴォリュームで890円が安くはないことは事実だ。それなら、ディスカウントするべきかというと、それはまったく間違っている。それで成り立たないことは、snoozerが廃刊をもって証明したわけだし。(そもそもBGMzineには広告がない) 何でもかんでもFREE=労働力の搾取がスタンダードになっている時代に、紙媒体で、意志と自信をもって890円で発行していることを支持したいし、内容に比して890円が決して高くないことも言っておく。issue1なんかはSOLD OUTしてるし、こういうZineは発行部数を考えると、早く買わないと入手不可能になる。

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〈本棚でどこに置くか〉

BGMzine issue3は基本的にカバンに入れて持ち歩くものだと思っているし、装丁もクールだから飾ったり、あるいは部屋に落ちていてもバシッと決まると思う。が、本棚に並べるのも楽しみがあってもいい。

夜中にごそごそと本棚を漁りながら、最初に目についたのが松田青子さんの『ロマンティックあげない』、これをzineの右側に配置。その右横にもうひとつ小山田咲子『えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛している』。次は左側に、ミランダ・ジュライ/岸本佐知子訳の『いちばんここに似合う人』。さらに左に角川文庫の『SNOOPY COMIC SELECTION』を50s~90sまで五冊。右側に戻って、『えいやっ!~』の隣にチママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ訳『アメリカにいる、きみ』。同じアディーチェで『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』も。あとはブレイディみかこ『花の命はノー・フューチャー』。サンドラ・シスネロスの『サンアントニオの青い月』。あ、左側にはいしいしんじ『麦ふみクーツェ』…………