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◇特集「もう知っていますか? 相続の新ルール」

*トラブルを未然に防ぐ予備知識

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起きやすい相続のトラブル。
これまで起きた相続の3大トラブルに焦点を当て、未然に防ぐ方法を探ります。

相続の3大トラブル(1)
「意思の疎通不足」を補うための予備知識

 一般的には「コミュニケーション不足」と言われていることです。この外来語交じりのことばは、意味を正しく理解する上で、日本人の性質にそぐわないものです。相続人になる年配の人にとっては、なお理解し難いことではないかと思います。そこで「意思の疎通不足」として、それを未然に防ぐ方法について触れることにします。

 相続人は大抵の場合、家族です。同じ屋根の下で暮らす親と子といっても、普段から意思の疎通が良いとは限りません。また、 意思の疎通不足は、親子の間だから起きることではありません。一般的には、相手の話を聞かない、聞くことが苦手、視線を合わせない、プライドが高いという性質を持ち合わせている人に起こりやすいことです。

 相続人になっても、自分の性質を知らないまま、あれこれ理屈を並べ、自分の考え、行動を正当化すれば共通の理解、認識はできないことになります。そのような相続人が複数いると、まとまる話もまとまりません。

 それではということで、相続手続き開始と同時に、意思の疎通不足を招く性質を変えようとしても、相手の話を聞かない性質であれば、馬の耳に念仏で、言えば言うほど反発心は高くなるものです。

 意志の疎通不足は、未然に防ぐ方法となれば、相手の性質を認め、意志の疎通不足が起きるのはやむを得ないと思い、
〇相手に自分の想いを押し付けすぎない
〇相手にこうしてほしいと求めすぎない
ことを忘れないで対処することでしょう。

 これは、意志の疎通不足を防ぐというより、意志の疎通不足で起きる事態を防ぐと思い、聞き分けがないからといって、感情を高ぶらせた言動は、親子、親族間に感情的なしこりを残す場合があるので、努めて控えたいことです。

 相続とは、本来被相続人(亡くなった人)の思いを汲んで遺産などを分割することで、家族が法的に争うことではありません。しかし、共通の理解と認識が得られない場合でも相手を責めたり、事を荒立てたりせず、相続手続きをお願いした専門家から助言を得て対処したものです。

相続の3大トラブル(2)
「遺産分割は平等ではない」ことに関する予備知識

 相続人が相続する遺産は、次のようになります。土地、家屋、借地権、株式、預貯金、現金、貴金属、宝石、自動車、書画、骨董(こっとう)、電話加入権、立木、金銭債権です。

 仮に相続人が3名いれば、右の遺産は遺産分割手続きによって分けることになります。株式、預貯金、現金は等分に分割できますが、ことに不動産の分割は、不平等感が発生しやすく、揉(も)める要因となっていることを、予備知識として知っておきたいことです。

 被相続人(亡くなった人)が死後に自分の意向を反映するため遺言書を作成する人がいます。割合としては9人に1人と言われ、多くはありません。日本には、遺言書を残すという習慣がありません。日本人の気質として、契約書を交わす、あるいは法に訴えて物事を処理することは、心情的に抵抗感があるからかも知れません。

 被相続人が「一緒に住んで世話をしてくれた人に遺産を多く相続させたい」と考え、それを遺言書に残した場合、内容が特定の相続人に偏ったものになり、他の相続人から不満が出る場合があります。

 民法では、保証されている他の相続人の権利(遺留分)を侵害することはできないことになっていることでもあり、遺言書は無いより有ったほうがよいのですが、遺言書の内容が絶対ということではありません。

 遺産分割は、拗(こじ)れると相続人にとって大きな負担になることが分かっています。あとの細かな事は相続手続きをお願いした専門家に任せて処理することになります。

 遺産分割で拗れやすいことは、次の3点です。

〇子供たちのみが相続人の場合
 子供といっても、いい年齢の大人であっても、それぞれに勝手なことを言えば話がまとまりません。この揉め事が最も多いのです。

〇遺産が実家不動産のみの場合
 遺産を巡る揉め事は、多額の遺産がある、富裕層である場合に起きると思われています。実際には、7割以上が遺産の評価額が5000万円以下の場合です。

〇不動産の評価が変わる場合

 不動産は、預貯金や現金のように、価値が明らかにならず、しかも様々な評価方法があって、不動産業者によって金額が異なることで、揉め事になることがあり、早い段階で弁護士に相談することは賢明な方法です。

相続の3大トラブル(3)
「相続人が複雑」で起きることの予備知識

 家族の形が様々になった現代です。子はいなくて夫婦だけで暮らしている、離婚した前妻との間に子供がいる、再婚した女性に連れ子がいることから、思いがけない人に相続の権利が有る、無いということで起きる揉め事があります。

 財産を所有する人が亡くなった時点の家族構成で、遺産相続の権利を持つ人を「法定相続人」と言い、分割は法律で定められていますが、それでも次のような事情で揉め事が発生します。

〇子供がいない夫婦は、夫の兄弟に相続権が発生するため
〇離婚した前妻との間に子供がいる場合に相続権が発生するため
〇再婚した妻に連れ子がいても、養子縁組しないと相続権が無いため
〇内縁の女性は、遺言で指名してなければ相続権が無いため

 その他、被相続人から生前に受けた学費などの支援、援助がある場合、相続人同士が不公平感をもたないよう「特別受益」の制度もありますが、法的に認められないこともあって、揉め事になることもあります。

 相続手続き代行業者は、揉め事の原因についてよく知っています。事前調査などを十分に行ない、手続きを進めますが、まったく想定外のことから揉め事が起きる場合があります。

 相続人同士で事を穏便に運ぼうとすればするほど、拗れが複雑になることがあることを知っておきたいことです。揉め事の原因は、不平等感による軋轢(あつれき)です。親子や親族が、親しいことが逆に作用し、無遠慮に言いたいことを主張すると、納めようがなくなります。

 相続については、揉め事が起きないように法的に整備されていることです。しかし、相続人全体の20パーセントが家庭裁判所で調停・審査を求めています。このようなことも予備知識として持っていると、精神的にゆとりを持って相続手続きに臨むことができると思います。
                          (本誌・特集班)

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