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内田徹(漆琳堂代表取締役社長 / 伝統工芸士) - 顧客との接点を増やすことが、産地にもたらす価値

editor's note
『RENEW』出展事業者の代表格であり、漆塗りの伝統工芸士である漆琳堂8代目内田徹さんからは、つくり手同士の関係から生まれる経済循環、使い手への関わりの作り方を話していただきました。
「RENEW」は初年度の2015年に漆器産業にフォーカスするところから始まりました。内田さんは中心的なメンバーとして携わり続け、見学者への説明の仕方も他の工房の手本になるような立ち位置にいます。単に観光客として土産屋に来て帰っていくような関わり方ではなく、文化としての工芸を理解し応援するファンが増えていくことが文化観光のあるべき姿で、それを体現しているあり方です。

これからの時代はつくり手もただ物をつくるだけではなくて、工夫している点などを伝えられないとだめだと思うんです。自分のやっている仕事をきちんと伝えられる人は仕事が多い気がします。RENEWに参加している工房は意識が高いから段々アピールができるようになってきて、それも回数を重ねるどうまくなっていきます。出展者同士で感化しあうこともあります。

©shitsurindo

鯖江の町中でファクトリーショップ(工房併設の直営店)が増えてきていることで、産地としての相乗効果があることも感じています。たとえばうちには重箱やとそ器はありませんから、接客していて売れないときにはうちにないものが必要だからだと思って、べつのあの店にはあるかもしれませんとお伝えすることがあります。紹介したお客さんがその店に足を運んで20万円ぐらいのものを買っていったことがありまして、紹介した先の漆器店さんとは関係がいいので、うちから紹介がなければその20万円は売れなかったから1割戻す、といって2万円を置いていってくれたこともありました。

卸は卸の業者さんが頑張らないと売れませんが、頑張ったら頑張っただけ数字が見えるのが直営店です。卸だと流通に流す商品は40%が平均です。直営店ではそのまま販売利益につながるため、利益率を計算すると約3~4倍の違いが生じてきます。仮に4倍として計算すると、卸への流通で100個を売るのと、直営店で20~30個を売るのとでは利益率が変わらないことになります。

直営店で販売する工夫としては、たとえばInstagramでは商品と使用シーンの撮影や紹介のテキスト、その先の販売ページなどすべて自社内でやっています。毎月一回は撮影日を設けて、その準備のための打ち合わせ、テキスト、考案、商品に載せるための食材の用意など、大変ですが頑張っています。SNSでファクトリーショップが認知されることで、お客さんが直接店舗に買いに来てくれたり、直営のECサイトで買うという手段を見出してくれたりすることが大きいです。お客さんとのタッチポイントが増えることが大事なんだと感じています。長い目でみたときに、工房見学をしに来たお客さんはたとえそのとき買わなくても、漆器についての知識を得ているので「漆ってこういうものだよ」と、どこかで他の人にも伝えてくれるとも思っています。

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内田徹(株式会社漆琳堂代表取締役社長)
1976年福井県鯖江市出身。大学卒業後、塗師屋家業に就き、祖父、父に漆器づくりの下地と塗りを習う。2012年産地最年少で伝統工芸士となる。2019年漆琳堂8代目代表就任。2020年自社ブランド「RIN&CO.」を発表。漆塗りの技術を継承しながら、若手職人の育成や地域の産業観光にも取り組んでいる。

第五章 地域の活動熱量・関わり人口 - 考察
地域の活動熱量 
地域内に地域の魅力を向上させる主体的な活動を起こすリーダーやコミュニティがあること

関わり人口 能動的に地域を行き来する訪問者と、地域住民の双方向に良好な関係があること

第五章 地域の活動熱量・関わり人口 - インタビュー
地域の資源を見つけ、磨いて、価値化することで、創造的な産地をつくる
新山直広(TSUGI代表 / RENEWディレクター)

行政は黒子に徹し、「めがねのまちさばえ」をプロデュース/発信していく
髙崎則章(鯖江市役所)

産地の未来が「持続可能な地域産業」となる世界を思い描いて
谷口康彦(RENEW実行委員長 / 谷口眼鏡代表取締役)

ものをつくるだけではなく広める/売るまで担う新時代の職人
戸谷祐次(タケフナイフビレッジ / 伝統工芸士)

顧客との接点を増やすことが、産地にもたらす価値
内田徹(漆琳堂代表取締役社長 / 伝統工芸士)

暮らしの良さを体感する中長期滞在
近江雅子(HÏSOM / WATOWAオーナー)

私たちがいなくなっても、地域文化を守ってくれる人がここにいてほしい
臼井泉 / 臼井ふみ(島根県大田市温泉津町日祖在住)

地域の方々が輝けるようにサポートをする行政の役割
松村和典(大田市役所)

使い手を想像し対話から生まれる作品と、新しい関係性
荒尾浩之(温泉津焼 椿窯)

里山再生と後継者育成を結ぶ
小林新也(シーラカンス食堂 / MUJUN / 里山インストール代表社員)

「デザイン」を通じた外部の目線/声によって、地元に自信を持てる環境をつくる
北村志帆(佐賀県職員)

継続的な組織運営と関係性の蓄積が、経済循環を生み出す
山出淳也(BEPPU PROJECT代表理事 / アーティスト)

価値観で共鳴したコミュニティが熱量を高めていく
坂口修一郎(BAGN Inc.代表 / リバーバンク代表理事)

文化庁ホームページ「文化観光 文化資源の高付加価値化」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/93694501.html

レポート「令和3年度 文化観光高付加価値化リサーチ 文化・観光・まちづくりの関係性について」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/bunkakanko/pdf/93705701_01.pdf(PDFへの直通リンク)
これからの文化観光施策が目指す「高付加価値化」のあり方について、大切にしたい5つの視点を導きだしての考察、その視点の元となった37名の方々のインタビューが掲載されたレポートです。

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