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妖刀猫丸 2 🐾異形の獣🐾

 その日も朝から雨が降り続いていた。かれこれ2週間程、ジメジメと降り続く雨に、猫丸の毛艶も少し鈍くなってくるのかと思いきや、湿気を含んだ毛皮はこれまでに無いほどに光沢を増し、もはや刀は生きものではないかと錯覚してしまう程の妖しい生命感を帯びていた。
 そんな折に南の地より文は届いた。

『かれこれこの数週間ばかり、この地に異形の獣あり。姿は古く大きな黒鼠のような姿。夜な夜な不気味な読経を聞くが、今のところ害はなし。様子を見に来られたし。悪臭甚だし。』

 最近猫の刀を手に入れたという噂が伝わったのか、選ばれてこの文は早夜の所にやって来た。
 早速、早夜は旅支度をし、その南の地まで赴くのであった。

 旅路はまる1日、平野の集落を抜け山あいに分け入り、竹藪の多い山を二つ程超えた先にその地はあった。

 中央に川の流れる落ち着いた佇まいの盆地に、少しばかり集落が集まる村はずれに、文の主は住んでおり、その家に泊り早夜は異界の化け物と対峙する事となった。
 「ここからまた少し山に入った場所にある寺に、その妖は潜んでおります。ここ数年程、寺に人が居なくなったのを見込んでか、その妖は寺に住み着いてしまっているようです。」
 文の主である老人はそう教えてくれた。大きな屋敷に住んでいるところを見ると、それなりに地位のある人物であると早夜は感じていた。
 「それでは早速、明日の朝にも寺に行って様子を見て参ります。」
 そう老人に告げると、早夜は食事を終えると早いうちに床に入り眠ってしまった。猫丸を抱き眠る姿は、少しまだあどけなく少女の面影を幾分か残していた。
 翌朝早く、早夜は目覚めたのであるが、その日も出発の日の前より続く雨は降り続いていた。小雨ではあるのだが一向に止まない、少しいつもとは違う長雨であった。
 3日程そんな状態が続き、さすがに早夜も痺れを切らし、4日目には小雨の中、蓑を纏いその荒寺へ赴くのであった。

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