フラクタル 3

 少し時間は経過したはずであるが、私はまだ夢の中のようである。再びあのシーンである。
 銀色の髪のあちらの世界では男性と識別される存在は私を見つける。ダメだ。避けきれない。ならば先制攻撃しかない。私は彼らと同じ武器を手にしている。引き金を引くと銃器は作動した。けれど銀色の髪の標的は消えている。アラームが鳴り警告音。続けて衝撃が全身に走る。
 負けである。再び目覚めた時は、またしても同じシチュエーションであった。引き金を引き、身を隠す。走る。身を隠す。相手より先に敵を見つけた方が勝ちである。
 舐め切ったゲームだ。私を誰だと思っているのか。私がシューティングシュミレーションゲームの界隈では少し有名なユーザーだとはおそらく敵は知らないであろうし、2度も倒しているので油断しているに違いない。案の定、敵をこちらが先に見つける。照準を合わせる…。逃げられる。
 警告音はもちろん相手にも流れている。これでは勝負はつかないはずだ。
 決まって最後は後ろから警告音が鳴る。ゲームオーバー。
 再び初めのシチュエーションからのやり取り。敵を見つけられない。後ろから警告音。
 この流れを何度繰り返したであろう。私はすっかり銃器の扱いには慣れていたが永遠に勝てない。
 これは降伏せよとの意味なのか。徹底的に自尊心を打ち砕くやり方なのか。敵ながら天晴れである。
 私は銃を下ろし降伏の姿勢をとった。
『拘束した。連行する。』
 ゴーグルに表示されたのは文字だけであり、銀色の髪の女から言葉は発せられなかった。
 敵ながら美形のアバターだ。彼らの識別方法からすると中身はオジサンなのであろうか。ならば私のアバターの中身は女性なのか。
 ふと疑問に感じた瞬間に私はようやく夢から醒めることができた。酷く気分の悪い悪夢であった。寝汗は今までで1番最高ランクの不快指数だ。
 この先私は囚われの身として、この夢の続きから参加するのであろう。囚われでもいい。とにかく一度あの標的を撃ち抜いてやりたい。そのためにはどんな屈辱をも甘んじてやろう。そう決心している間に再びあの夢の続きへ繋がることはなかった。
 夏というひとつの季節は過ぎ去っていた。

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