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SETAGAYAOHAKO COLUMN

ワシとフクロウは時間をずらすことで共存している。どちらも同じ虫や小動物が好物なので、活動時間まで一緒だとケンカになってしまう。いや、ケンカどころの騒ぎではないだろう。「猛禽類としてどちらが最強か」ということで駆逐競争がはじまり、やがてどちらかが淘汰される運命。生物学用語の「ニッチ」で説明される事例だが、活動の時間や場所、狙うエサなどを変えたりずらしたりすることで生態系内の均衡が保たれるという。ワシとフクロウが顔を合わせることはない◆僕たちもずらしながら生活することで自然とバランスを取っている。小田急の満員電車なら、何本か遅らせたり車両を変えたりすることで乗り切れる。ラジオ体操やゲートボールなら、早朝に実施時間をずらすことでサッカー少年たちのスペースを奪わないことに貢献しているのだ◆世田谷区は面積が広い(23区で2位)とはいえ人も多く、23区でぶっちぎり1位の人口を誇る。その90万以上にも及ぶ人たちがそれぞれに何かをずらしながら生活していることを考えると、一つの区が滞りなく運営されていることに驚かされる。ましてや同じ時間に、同じ場所で、同じ顔見知りと出くわすなんて奇跡的な縁ではないだろうか◆夕方の砧公園にて、うちのメンバーである山田とアレッサンドロはしばしば出くわすそうだ。犬と散歩をする山田に、家族と遊ぶアレッサンドロ。互いに余暇を満喫している最中である。とはいえ生物が教えてくれるのは、同じ目的をもつ者同士が顔を合わせたらケンカになるということ。縁起でもない話だが、世田谷十八番存続のためにも、二人が砧公園で出くわさないことを願う。

No.03 
2022年7月28日発行
文 髙橋サフラン
絵 ビオレッティ・アレッサンドロ


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